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第86話 馬鹿王子

 学院入学から1か月が過ぎた。

 今のところ順調に経過している。

 Aクラスは歓迎会以降皆んなの距離が縮まり、良い雰囲気だ。

 俺は、選択科目が重なっていることもあり、ケビンと一緒にいることが多い。

 それにもう一人仲良くなったのがイアン・フィンチ。

 王宮の総務部門を代々統括するフィンチ伯爵家の二男。

 フィンチ伯爵家は領地を持たない法衣貴族の名門で、イアンは王都生まれの王都育ち。バリバリの都会っ子で、王宮や貴族界隈の情報にやたら詳しい。

 見た目も濃いブラウンの髪に青い目、甘いマスクで洗練された雰囲気を持っている。俺たちと同じ金袖の一人だ。

 ケビンもイケメン、イアンもイケメンとくると、俺の立場がなさそうに思えるが、俺もそこそこ女子人気が高いらしい。

 元の世界では、同年代の女子たちと青春するなんて機会はまったくなく、女性といえばハニトラの訓練で関わったくらいだったので、自分が女性にどう見られるかなんて考えたこともなかった。それとも、この世界では聖女様のおかげで黒髪黒目が人気なのだろうか?

 それはともかく、女子人気の高い男三人が揃っていると、どの世界にも腐女子が湧いてくるようで、何やらBLの妄想対象にされているらしい。ユーキ×ケビン、ケビン×イアン、イアン×ユーキとか、最初は何のことかと思ったが、イアンに教えられて初めて知った。イアンは王宮の女官やメイドで慣れているらしく、「彼女たちはそれで喜んでるんだから、楽しませてあげなよ」と言っていた。まあいいけどね。


 今日はこの3人に加えて、シルビアちゃんたち女子三人とカフェのテラス席で昼食を食べていた。話題はクラブ活動のことだ。学院生は、少なくとも一つのクラブに参加しなければならない。入学から1か月が経過したことで、学院にも慣れたこの時期に各自何に参加するかを決める。


「ユーキお兄様はもうクラブは決められましたか?」


 シルビアちゃんの『お兄様』呼びは、クラスですっかり定着してしまい、他の女子までふざけてお兄様呼びすることもあるくらいだ。


「まだ迷ってる。錬金術か考古学か。それに乗馬ならルクスを学院に置いとけるかと思ったけど、そうするとエミーちゃんが悲しむしね。シルビアちゃんは?」

「私たちは三人で一緒に音楽クラブにしようと思ってます」

「ケビンとイアンは?」

「まだ決めてない」

「僕もまだだね。ユーキは剣術クラブとかに入るのかと思ってたよ」

「ああ、そっちは自分でやるからいいや」


 そのとき、怒気をはらんだ声が響いた。


「シルビア!」


 声の方を見ると、馬鹿王子が取り巻きを引き連れてこちらを睨んでいた。

 剣術の授業でケビンに絡んできた連中もいる。

 そして、聖女ちゃんも後ろの方に。両手を合わせてこっちに謝っているよ。


 俺たちは素早く立ち上がり軽く頭を下げる。


「学院に入学して1か月も経つのに、未だ私に挨拶なしか!」

「申し訳ございません。まだ学院に慣れるので精一杯で」

「その割には男どもと楽しくやっているようだが」

「クラスメイトでございます」


 馬鹿殿下が俺たちに視線を動かす。

 こら!女子が怖がって震えてるじゃないか!


「ふん、スタンリーの出来損ないに、兄上の腰巾着か!」


 おお、初めて接したが本物の馬鹿のようだ。

 ケビンもイアンも冷静だね。さすがだ。


「お前は誰だ?金袖・・・?見たことがないな。顔を上げろ!」


 俺はゆっくりと顔を上げるが、視線は合わせない。


「黒目、黒髪だと?何者だ名乗れ!直答を許す!」

「シェフィールド伯爵家四男、ユーキ・シェフィールドと申します」

「シェフィールド?こんなやついたか?」


 俺が黙っていると、腰巾着の一人が説明する。


「シェフィールドの養子です。寮の歓迎会で大道芸をやった・・あっ」


 馬鹿王子は勝手に帰ったから見ていなかったことに気づいたようだ。


「養子か。それに大道芸だと?面白い、ここでやって見せよ!」


 何言ってんだこの馬鹿は。こんなところでやるわけないだろう。


「いえ、このような場所ではいささか問題があるかと。それに殿下のお目に入れるようなものではございません」

「私がやれと言っている!」


 面倒くせぇなコイツ。周りに人が集まってきてるじゃないか。

 よし、あれを試してみるか。

 最近トーダと練習している威圧。

 シェフィールドのスタンピードのとき、トーダがオーガにやったやつだ。

 俺は一切表情を変えず、視線も上げないままで、馬鹿王子の群れに向かって静かに威圧を放った。


「うっ」


 小さな呻き声のあと、馬鹿王子の群れは息を飲み、身動きが取れなくなった。

 気絶されても困るので、数秒で威圧を解いた。


 馬鹿王子は一瞬呆然とした後、我に返った。


「くっ、もういい!行くぞ!」


 逃げるよう立ち去る馬鹿王子。取り巻き君たちも我に返って慌てて後を追う。

 一番後ろで聖女ちゃんが片手で拝みながらぺこぺこ謝って去って行く。

 おい、それは淑女らしくないぞ!

 俺は苦笑しながら聖女ちゃんに手を振っておいた。


「おいユーキ、今の何だ?」

「さあ?飽きたんでお帰りになったんじゃないか?」

「とぼけるなよ」


 ケビンの問いをはぐらかしたが、イアンは知っていたようだ。


「今の威圧だろう。以前王宮騎士団長が訓練で騎士たちを気絶させてたのを見たことがある」

「へえ、そんな訓練があるんだ」

「君、その歳ですごいな。さすがシェフィールドの英雄だね」


 シェフィールドの英雄?何だそれ?

 ケビンも引っかかったようだ。


「シェフィールドの英雄って何のこと?」

「去年の12月にランカスターとシェフィールドで同時に大規模なスタンピードが発生した」

「ああ、それは僕も噂で聞いたよ」

「ランカスターはともかくシェフィールドの戦力は多くない」

「規模が小さかったんじゃないの?」

「いや、スタンピードの規模は10万以上。オーガや地龍もいたそうだ」

「嘘だろう!」

「本当だ。絶体絶命のピンチにランカスターから駆けつけた者が四人。その四人でスタンピードを鎮圧した」

「四人でスタンピードを鎮圧?御伽話か!」

「一人目はランカスター騎士団長フレッド・バトル、二人目はシェフィールド伯爵家三男、Aランク冒険者ザック・シェフィールド、三人目はランカスターの代々の家令を務めるプライス子爵家の二男エドワード・プライス」

「まさか・・・」

「そう、四人目がここでのんびりしているユーキ・シェフィールドだよ」


 ケビンは恐る恐る俺の方を振り向いた。

 シルビアちゃん以外の女子も口を開けてポカンとしている。


「この話しは公表されていないけど、王宮の上層部は皆んな知ってる。シェフィールドの四人の英雄ってね。半信半疑だけど何せランカスターとシェフィールド連名の報告だからね。信じざるを得ない。俺も父上から同級生にすごいのが来るぞって聞かされてさ。どんな化け物が来るかと思ってたら、歓迎会でいきなり大道芸だろう。別の意味でびっくりだよ」


 そう言えばイアンは王宮の情報に詳しかったんだよね。そんな話しになってたのか。


「ユーキ、本当なのかい?」

「さあ、どうだろうね」


 するとシルビアちゃんがダメを押す。


「本当です。ユーキお兄様は、シェフィールドに向かう前に、ランカスターでも大戦果を挙げられました」

「・・・」


 いやいや、この空気どうすんだよ。


「もういいじゃん、この話。どうせ公表されてないんだから。皆んなもここだけの話しにしといてね。それに強いのは団長とザック兄さん。俺とエドはまだ大したことないから。ザック兄さんなんて地龍の尻尾持って振り回してたし、団長はスイカ切るみたいに地龍の首をチョンて落としてたんだから」


 俺が身振り手振りで説明すると、ようやく笑いが戻ってきた。

 さて、思わぬところで馬鹿王子と遭遇したもんだ。

 シルビアちゃんが、自分のせいでごめんなさいと謝っていたが問題ない。どうせいつかは対峙する相手だ。馬鹿っぷりがよくわかったよ。

 それよりも聖女ちゃんは大丈夫かな。あんなのと一緒じゃ浮いちゃうよね。


 そう思っていたが聖女ちゃんは元気だった。

 午後の料理の授業に行くと聖女ちゃんが真っ先に声をかけてきた。


「あ!ユーちん、ビンちゃん、さっきはごめんね!」


 ユーちんは俺で、ビンちゃんはケビンだ。日本の女子高生にかかると王家の血を引く公爵家の子息もこんなもんだ。


「平気だよ。それより君は大丈夫なの?」

「うん、私には今のところ優しくしてくれてるから」

「今のところ?」


 聖女ちゃんが声をひそめる。


「私ってさ、絶対聖女様なんかじゃないと思うんだよね。頭悪いし、魔術もそんな得意じゃないし。それで、聖女様じゃないって確定したら、ね、手のひら裏返しだっけ?」

「手のひら返しね」

「そう、それ!やばくね?」


 聖女ちゃんは決して馬鹿ではないようだった。


「とりあえず学院来てホッとしてるんだぁ、クラスに平民の子もいるし。寮のルームシェアの子とも仲いいし」

「王宮では大変だったの?」

「息詰まりそう!最初はお姫様みたいに扱ってくれてちょっと嬉しかったけど、マナーだとか言葉遣いだとか、助監督がうるさくてさ。」

「助監督?」

「いるんだよ、怖そうな女の人が」

「ああ、女官かな?」

「あ、こっちでも省略するんだ」


 ちょっと違うと思う。


「私、しがないリーマンの娘だよ。無理だっちゅうの!」

「そうか、大変だったんだね」

「メイドさんたちとは仲良くやってたから少しはマシだったけど」

「メイドさんたちと?」

「そうそう、メイド服貸してもらってメイド喫茶ごっこやってた。知ってる?メイド喫茶」

「いや知らない」

「知らないかぁ。ま、そんなわけで今は天国。あとは学院終わるまでにどうやって逃走するかだね!ハンター追っかけてくるかな?あ、先生来た!じゃあまたね!」


 聖女ちゃんは元気に友達のところに駆けて行った。


「ねえユーキ、よくあの子と会話続くね」

「すごいだろう。褒めていいよ」


 逃走か。無茶しなきゃいいけど。見かけよりずっと賢そうだから大丈夫だとは思うが。

 ところで、この世界のハンターもサングラスをかけているのだろうか?





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