第84話 水芸再び
1階の大広間に行くと、もうかなりの学生が集まっていた。
丸テーブルが並べられて、豪華な料理が山盛りだ。
お、シルビアちゃんが手を振っている。
シルビアちゃんのところに行くと、周りにいたのはランカスター出身の学生たちだった。
残念ながらA組は一人もいない。
シルビアちゃんはさすが上位貴族らしく、色んな人に挨拶されている。
なんだか、どんどん人の輪が拡がってる気がするんだけど。
シルビアちゃんて人気あるんだね。性格いいし。
A組で見かけたような子たちも集まってきた。
それで、いちいち俺のこと紹介しなくていいから。まったく覚えられないし。
「やあユーキ」
声をかけられ振り向くとケビン君だった。
「よおケビン。今来たの?」
俺のタメ口に周囲がギョッとしたような気配がした。
え?やっぱり公爵家にタメ口はまずかった?
「おいケビン。周り微妙な空気になってるけど、本当にタメ口でいいんだよね?」
「もちろん!学院の同級生なんだ。敬語は勘弁してよ」
よし、この機会に周りを巻き込もう!
俺は近くにいた男子学生の肩に無理矢理腕を回して引き寄せる。
「だってさ。ほら、君もケビンとタメ口で行こうぜ!」
被害者の男子はオロオロしている。
「クラスメイトなんだから敬語はなしで頼むよ」
ケビンもにこやかに話しかける。
「・・・本当にいいの?」
「当然!」
「わかったよ。じゃあケビン君、これからよろしくね」
おお、やった。
ケビンも嬉しそうだ。
よし、ついでだ!
「おい、この辺A組だよな!今の聞いたよね。A組はこれから皆んなタメ口ね。敬語はなし!ケビンの次に偉いのは・・・シルビアちゃんだな。シルビアちゃんもそれでいいよね?」
「もちろんいいですよ!」
わっと歓声が上がる。
良かった。なんか堅苦しかったり、恐る恐る接するなんて面倒くさい。
最初の学生が思い切ってくれたおかげだ。
俺はその学生の顔を見る。
「で、君誰だっけ?」
「知らないのかよ!」
周りも爆笑だ。
ひでぇとか、かわいそうとかの笑い声も混じる。
まあいいじゃん。これで1年楽しくやろう!
「ユーキ、ありがとう」とケビンが囁く。
「普通だろ?僕も気楽にやりたかったからね」
こんなことで俺に借りを感じる必要はないからね。
元々皆んな顔見知りだ。俺以外。
まだ少しぎこちないけど、皆んなが楽しく話していた。
間もなく歓迎会が始まろうかというとき、監督生たちが揃っている辺りで騒ぎが起こった。
何事?
賑やかだった会場がしんとなる。
金髪の背の高いイケメン君が、監督生に怒鳴っている。
「ねえ、あれ誰だろう?」
「君、本気で言ってるの?」
ケビンが驚くが、この世界に1年しかいない俺が貴族なんて知ってるわけない。
「アルフレッド殿下だよ」
ああ、あれが馬鹿王子か!
文武両道とは聞いたが、確かに知的である程度鍛えてもいるようだ。ただ、若干陰険で神経質そうだな。
で、何揉めてんだ?
「規則、規則とうるさい!レーナは聖女様だ!実質王家と同格だ!4階に入るのが当然だろう!」
「神殿が聖女様と認定したとは聞いておりませんが」
「認定が遅れているだけだ!」
「では認定が下りたら検討します」
「黙れ!命令だ!俺の言うとおりにしろ!」
「学院では殿下に命令する権限はありません」
どうやら、聖女様が4階の上位貴族の部屋に入れなかったので文句を言っているようだ。
これは聞きしに勝る我儘王子だね。
それにしても監督生の3年生はすごいね。王子の要求を毅然としてはねのけてる。
あれ?あの王子の横にいる黒髪の女子学生が聖女様か?
なんかオロオロして、泣きそうなんだけど。
黒髪になると随分印象が違うな。
元々顔ははっきりとは見てなかったんだけど、小柄で素直そうな可愛い子だ。
「不愉快だ!貴様のことは記憶したぞ!後悔するがいい!」
なんだかチンピラみたいなセリフが飛び出した。
「レーナ!帰ろう!明日学院長と話をつける!」
え?聖女様連れて行っちゃうの?
新入生の歓迎会だよ。可哀想じゃないか!
あ、聖女様、周りにぺこぺこしながら馬鹿王子を追いかけて行った。
結構良い子そうだ。これは、馬鹿王子に振り回されて気の毒なパターンか。
会場は静まり返っている。
監督生たちは何か話し合っている。
もう馬鹿王子なんて放っておこうよ。
仕方ない、一肌脱ごう!
「そろそろ歓迎会始めませんか!」
大声で叫ぶと皆が我に返った。
「美味しそうな料理並んでるんで、さっきからお腹がなって大変なんです!せっかくの料理が冷めちゃいますよ!」
笑い声が起こり、会場の空気が緩んだ。
監督生の一人が前方に設置されたステージに上がった。
「すまん!ちょっとアクシデントがあったが、新入生歓迎会を始めよう!」
俺が思い切り拍手すると、ケビンたちも同調してくれて、やがて会場中に大きな拍手が響き渡った。
そこからは調子を取り戻した監督生たちの仕切りで、賑やかに歓迎会が始まった。
新入生を歓迎する言葉、乾杯、食事に入ると監督生が順番に寮生活のあれこれを面白おかしく紹介してくれる。
皆がさっきのことは忘れたように、歓迎会を楽しんでいた。
しばらく歓談の時間が続いた後、ステージに上がった監督生からとんでも発言が飛び出した。
「さて、恒例により、今年の新入生の首席には、ステージで何か芸を披露してもらう。挨拶は入学式でやっているからね」
首席?いや、新入生代表はケビンだよな。
よし、ケビン!行け!
「ケビン・スタンリー君!ステージに来てくれるかい?」
おいケビン!何ニヤニヤしてる!
「すいません。僕は首席じゃないんです」
何を言い出すのかな、君は?
「え?君が新入生代表で挨拶してたよね」
「はい、僕は2番だったんですが、どうも家柄で選ばれたようです」
何で君はそんなに笑顔なの?
「じゃあ首席は誰なんだ?」
「ここにいるユーキ・シェフィールド君です!」
「裏切り者!」
思わず叫んでしまった。
周りはわっと囃し立てる。シルビアちゃんまで何喜んでるですか!
監督生が俺の方を見て何やら頷いてる。
「なるほど。わかった。それなら異例ではあるが、今年は二人に何か芸を披露してもらおう」
会場は大拍手だ。
これじゃあ引っ込みつかないじゃないか。
拍手の中をケビンと二人で渋々ステージに上がる。
まずは新入生代表のケビンから。
何をやるかと思ったら、コイツピアノを弾きやがった。
どうやら歓迎会の定番らしい。
しかも上手い!上手すぎませんか、ケビンさん!プロかよ!
この後じゃ俺のピアノなんて聞けたもんじゃない。
演奏が終わると、会場は割れんばかりの大拍手だ。
ヤバッ!どうしよう・・・。
もうあれしかない!
俺は会場の給仕さんにサラダ用のガラスのボウルを10個用意してもらい、ステージの空中にマギシールドを張ると、そこにボウルを乗せていく。
俺はステージの中央に立つ。
「ユーキ・シェフィールド!行きます!」
披露するのはシェフィールドの収穫祭でやった日本の伝統芸能の水芸だ。
闇魔術でステージのバックを黒くして客席から見やすいように工夫する。
右手から、左手から、両手からと次々に細い水が放物線を描いてボウルに注ぎ込んで行く。
そして俺の水芸は進化しているのだ!
今度は足から、頭からと、身体のあちこちから水を出す。
更には、光魔術を利用して水に様々な色をつけていく。
おお、我ながら美しい!
会場は見たことのない水芸に大喜びだ。
よし!乗ってきた!
お次は空中に火の輪を出す。
そして、水で作ったウサギを空中でぴょんぴょん跳ねさせながら、火の輪潜りをやらせる。
今度は大きな火の輪を作り、水でボアを作る。
助走をつけて走るボアが、火の輪の直前で転んでしまう。
会場は大爆笑だ!
もう一度助走をつけて今度は成功。大拍手!
最後は、空中のあちこちに火の輪を配置して、水で作った鳥数羽に色んな軌道で潜らせる。
クライマックスは数羽の鳥が俺の頭上に集合して合体すると、真っ赤なフェニックスに変身し、ひとしきり飛び回ったのち、パンと弾けて七色の噴水になった!
おお、大拍手に大歓声!
どうもどうも!
実はこれは次の収穫祭のために密かに特訓していたのだ。
こんなところで披露する羽目になるとは。
ヤベッ、ステージが水浸しだ!
慌てて使用人さんにモップを持ってきてもらい、ステージの拭き掃除。
うん、ベタだけど大笑いをいただきました。
クラスの連中のところに戻ると大拍手で迎えられた。
「君、どこであんなことやってるの?」
「領の収穫祭で酔っ払いにやらされた」
「領主の息子が?」
「おう、おひねりも結構もらえたよ」
また爆笑だ。
シルビアちゃんは、技が進化してましたね、と言って喜んでいる。
わかってもらえて嬉しいよ。
「ユーキ、楽しませてもらったよ。しかし、すごい魔力制御だね」
「まあね。魔力制御は死ぬほどやらされたからね。おかげで芸に磨きがかかったよ。それよりケビン、君のピアノは反則だろう。あんなの聞かされたら、ウケ狙いに行くしかないじゃないか」
「君のせいで僕のピアノは皆んなの記憶から消えたね」
「そんなことあるか!」
うん、ケビンとは上手くやっていけそうだね。
こうして、馬鹿王子の事件は忘れるくらいの盛り上がりで歓迎会は幕を閉じた。
それにしても聖女ちゃんは気になるな。
あれでは馬鹿王子のせいで孤立しかねない。
少し注意して見ておこうかな。




