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第81話 アオハルが始まる

 4月7日。

 この世界に来てほぼ1年が経った。

 俺の誕生日は4月2日だ。赤ん坊のときに児童養護施設前に捨てられていた俺は、名前も正確な誕生日もわからない。

 日本の戸籍法で、発見地の自治体の長が名付けを行い、推定で生年月日決める。

 俺の場合は、施設の院長先生と市長が相談して決めたらしい。

 この世界では15歳で通してきたので、俺も16歳になったということになる。

 この1年で身長も伸び、175センチくらいにはなった。早く元の世界での体格を取り戻したいが、さすがに1年も経てばこの子供の身体にも慣れた。

 それに魔法のある世界だ。すべてがかつての世界とは違う。

 この世界に来た当初、トイレやお風呂でさえ難儀していたことが懐かしい。


 さて、俺は今、朝の自主トレを終え、寮の自室で制服に着替えたところだ。

 王立ロマリア学院。通称学院。

 アルタイル王国の王都ロマリアにある学校で、アルタイル王国の貴族の子供は、15歳を超えると3年以内に必ず入学しなければならない。

 平民でも高倍率の入学試験を突破すれば入学できる。なので、平民にとって学院出身というのは大きな看板になる。

 無条件入学の貴族と試験突破組の平民だと、平民の方が優秀かと思うが、実はそうでもないそうだ。

 貴族の子供は幼い頃から家庭教師について勉強させられており、学院入学前の教育環境が圧倒的に違う。なので平民が学力や武力で貴族に勝つのは中々難しいらしい。

 それでも平民にとって、学院で得た知識、経験、人脈は将来にとっての得難い財産になるということで、学院入学は憧れのキャリアなのだとか。

 しかも学院は、学費、教科書、寮費、学食がすべて無料。自前で用意するのは制服と生活用品くらいなので、裕福でない平民にもチャンスがある。


 そして俺は養子に入ったシェフィールド伯爵家の四男として、これから入学式に臨むというわけだ。

 寮には一昨日入り、校内および寮周辺を大雑把に観察しておいた。元の世界で身についた習性だ。お母様は、そんなに急がないで、入学式が終わってから入寮すればいいじゃないと言っていたがけどね。


 王都は、年末から新年、そして春のこの時期にかけて社交シーズンとなる。ほとんどの貴族が12月から王都入りし、新年の王城でのパーティに参加して、4月までの社交シーズンを王都で過ごす。

 学院の入学もそれに合わせているのだ。


 しかし俺とシェフィールド家は、昨年のスタンピードによる被害からの復興作業のため、今年の社交界は参加せず、3月の後半になってから王都入りした。

 3月の末に、入学前学力判定なる試験を俺が受けなければならなかったので、その日程に合わせたものだ。

 シェフィールドのタウンハウスにも俺の部屋は用意されており、俺付きのメイドさんとして領地からアニカさんが来てくれた。それに、なぜかランカスター家から派遣されてケイトさんまで来てくれた。養子の四男に二人の美人メイドさんは贅沢すぎだろう。


 ランカスター家のタウンハウスでは、以前俺が滞在した客室が俺専用の部屋になった。

 エドも王都に同行してきており、このまま王都に滞在する予定だ。

 ルクスは、ランカスター家の厩舎の方が大きく、厩務員さんも充実しているので、ランカスター家で預かってもらうことになった。エドの馬のノクスもいるしね。

 そして、ルクスがいるということは、当然のようにエミーちゃんも王都に滞在する。

 建前はシルビアちゃんの学院入学に合わせて王都で勉強するということらしいが、絶対ルクスと離れたくないからだよね。


 俺は真新しい真っ白の制服に身を包んで正門前の馬車ロータリーに向かった。

 ここで父上とお母様、そしてランカスター家と待ち合わせている。

 制服の上着は、立襟で前は蛇腹のホック止めになっている。海軍の軍服にこんなのあったような気がするな。下は普通のスラックスに黒のショートブーツ。 

 そして上着の両袖には、袖口から3センチほど上にぐるりと金の袖章が縫われている。これは、成績優秀者上位5名の証で、金袖と呼ばれている。1年生は入学前学力判定試験の結果で選ばれた。数日前に学院からシェフィールド家のタウンハウスに届けられ、必ず縫い付けてくるようお達しがあった。

 両親は大変喜んでくれ、アニカさんが張り切って縫ってくれた。なんでも大変名誉なことで、モテ要素の一つらしい。エドも3年間金袖だったとか。

 2年生、3年生になると、腕章の数が2本、3本と増えるそうだ。


 ロータリー近くの停車場で待っていると、シェフィールド伯爵家とランカスター侯爵家の馬車が一緒にやって来た。

 馬車を降りたお母様が俺を見てニッコリ微笑む。


「まあ、制服がとても似合ってるわ。パトリックとルーカスも金袖だったのよ」


 ザックさんは聞かないでおこう…。


「ユーキお兄様!」


 シルビアちゃんとエミーちゃん、トム君が駆け寄ってくる。

 シルビアちゃんは、下が白のスカートで、黒のストッキングに白のショートブーツだ。うん、可愛いね。おっ、シルビアちゃんも金袖だ。


「やはりユーキも金袖だったか。こっちに来て1年だというのにさすがだね」


 ジェームス様とエリカお姉様もにこやかだ。しかし、イケメンと美女のカップルで、目立つこと半端ない。


「ユーキお兄様!同じクラスです!よろしくお願いします!」


 クラス分けは成績順で、昨日のうちに学内の掲示板に掲載されていた。

 ほとんどの貴族は使用人が昨日確認しに来ている。俺は自分で確認したけど。


「そうだね。僕はわからないことが多いと思うから頼りにしてるよ」

「任せて下さい!代わりにお勉強は教えて下さいね」


 俺が学院に入った目的の一つはシルビアちゃんのガードだから、同じクラスなのはありがたい。

 ジェームス様が手招きをする。何かあったか?


「ユーキ、やはり殿下はごり押しで聖女様を貴族枠で入学させたらしい。何があるかわからないから、私たちも当面は王都に滞在することにした。シルビアのメイドには諜報の者をつけるが、君も気をつけてやってくれないか」

「やはりそうなりましたか。承知しました。できる限り注意しておきます」

「悪いね、君の学院生活なのに」


 貴族は寮に同性のメイドないし従者を一人連れてくることができる。

 個室の貴族は同室できるが、相部屋の貴族のメイドは、寮のメイド部屋に滞在する。

 俺は個室だが、もちろん従者は連れてきていない。シェフィールド家で用意すると言われたが、一人で何でもできると断った。

 それはともかくとして、やはり聖女様も学院入学か。こちらに転移する直前にチラッと見ただけだったが、かなり若そうな女の子だったな。金髪に染めたいわゆるギャルっぽい子だったが、高校生くらいだろうか。年齢的には問題ないとしても、こちらの学校でやっていけるのかな?余計な心配か。

 問題は第二王子とその母親の側妃の実家、スタンリー公爵家がどう出てくるか。

 シルビアちゃんを婚約者候補から追い落とすために無茶な行動をとらなければよいが。神託もないのに強引に聖女召喚をやるような馬鹿連中だからな。何かあって後悔はしたくない。十分に注意しておこう。


 その後俺たちは揃って入学式典が行われる大講堂に移動した。

 前方にステージがある大きな劇場のような造りだ。

 新入生は在校生の案内でクラス別に1階席に座る。造り付けの座席も金がかかっているね。2年生、3年生は既に1階席に座っていた。

 保護者は2階席だ。ロイヤルボックスもあるが、今は誰もいなかった。


 新入生は約200名。

 1クラス約30名の7クラス編成。成績順でクラスが決まる。

 俺とシルビアちゃんはA組だ。そして、聖女様とやらはおそらくG組。

 レーナ・サエキ。

 昨日念のために掲示を確認したが、入学したとなるとこの子がそうだろう。

 高校生くらいの年齢でいきなり訳の分からない世界に召喚され、学院入学のために勉強しろと言われても普通は無理だろう。家族も友人もいない世界だ。辛い思いをしていなければいいけどね。

 それに聖女を狙っていた仮面の男。ダンジョンに現れて以降は目にしていないが、まだ聖女を探しているのだろうか?聖女には第二王子派の護衛がついているだろうが、仮面の男はかなり強かった。しっかり護ってやれよ。


 入学式は元の世界と似たような段取りで進んだ。

 ただ学院長の品の良いお婆様。ぱっと見は普通のお婆さんなんだが、なぜか見ていると姿が揺らぐというか、ぼやけるというか・・・。

 それに魔力の質がなんだか普通の人間と違うような気がする。しかもかなり強い。

 師匠ほどじゃないと思うけど。

 学院長の挨拶の際、目が合ったような気がしたが気のせいだろうか。


 来賓は第一王子殿下だった。

 成人したてで金髪にブルーの瞳、かなり鍛えていることを窺わせる長身で、爽やかなイケメン。隣国の王女様との婚約が噂されているが、今のところ独身。絵に描いたような王子様で、女子学生の熱量が一気に上昇した。不平等はこの世界にも存在した。


 在校生代表の祝辞は学生会長だったが、こいつ本当に学院生かよ!

 完全にゴツいおっさんだ。30歳は超えてるだろう。

 名前からすると、南西の国境を統治する侯爵家かな。やはり常備軍を持つ、ランカスターと並び称される武闘派貴族だ。

 でもちゃんと金袖だ。勉強もできるのか。


 そして新入生代表の答辞はスタンリー公爵家の四男。

 ちなみに試験の首席は俺。金袖が届けられたときにそう告げられた。そして、申し訳ないが新入生代表はスタンリー公爵家の息子になるとも。

 そう、この世界では学力は家柄に勝てないのだ。構わんけど。

 ところでこのスタンリー公爵家の四男、すごくいいヤツっぽいんだけど・・・。

 スタンリー公爵家という名前だけで勝手に陰険なヤツを想像してたら、なんかまったく違う感じのヤツが現れた。もしかして演技派か?

 どうせ同じクラスだ。そのうちわかるだろう。


 最後は校歌と国歌斉唱で入学式典は終了した。




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