第8話 魔装
「組み技もいけるのか。武器は?」
銃はだめだよね。
ククリ刀、あれも剣でいいのか?もちろん日本刀なら使えるけど。
「ちょっと特殊な形状の剣とナイフを。ただ、私の剣は騎士のような綺麗な剣ではありませんが」
「構わん。うちが相手にするのは人間だけでなく、魔獣もいる。むしろ魔獣の方が多いくらいだ。大きさも様々だから綺麗な剣技は邪魔になることもある。ちょっと剣の方も見せてくれるかな。模擬戦用の木剣だ」
「承知しました」
久しぶりで楽しいな。
「武器はあちらだ。好きなエモノを選んでくれ。全員武器をとれ!」
騎士団長の号令で皆が武器庫前に出してあった模擬戦用武器を取りに駆け出した。
「おい、ユーキ。すごいな」
エドが驚いたように声をかけてきた。
「いや、見たところまだ上がいそうだよね」
「それでも兵士の隊長クラスは余裕で超えてるね」
「ああ、今までの人たちは兵士か」
「今度は騎士が相手かな?」
「そうかもね」
エドと会話をしながら手頃な重さの木製の片手剣を選ぶ。やはり、筋力が落ちている。
「よし、次はジェフ!」
同じ片手剣の相手だ。
剣筋は綺麗で、速さはまあまあ。
数合剣を合わせるが、速さが違い過ぎるのでフェイントもいらない。
下段から相手の剣を跳ね上げ、縮地で近づき剣を相手の首筋に当てて終了。
「やはり新人では相手にならんか」
その後も槍、大剣、バトルアックスなど、剣以外の若手と手合わせしたが全勝した。
「よし、休憩に入る!」
用意されていた水を飲む。美味い!やはり久しぶりの訓練は楽しいね。
「ユーキ殿」と、フレッドさんが声をかけてきた。
「かなり鍛えてるな。文官ではなかったのか?」
「いえ、文官です。ただ戦闘訓練は武官と同じメニューをこなしています」
「そうか。では、この後は、この世界の戦い方を体験してもらおう。魔装については聞いたか?」
「魔装?いえ、初めて聞きました」
「文字通り魔力を纏って戦う。皆訓練しているが、完全に扱えるのは中堅以上の者だ」
「魔力を纏って戦う。興味深いですね」
「まあ、じっくり味わってくれ」
フレッドさんは悪そうな顔でニヤリと笑った。
「よし、休憩終了!これより魔装訓練に入る!始めは格闘から!」
俺は再び円陣の中央に連れて来られる。
「カーク!ユーキ殿に魔装の戦闘を味わってもらえ!」
「はっ!」
カークさんと対峙する。
え?カークさんが、何やら薄い緑の膜で覆われているような・・・。
「始め!」
ヤバっ!咄嗟にしゃがんだ俺の頭の上をカークさんの蹴りが通過する。
「ほう、躱したか」
何のん気に言ってんの、騎士団長!
これやばすぎでしょう。速いなんてもんじゃない!
気配と勘だけで、攻撃を避け、腕で防御する!拳や蹴りが容赦なく俺に襲いかかる!
決定打を避けるのが精一杯で反撃できない!サンドバッグだ!
どうする?
俺は必死で防御しながら、視線を足元に落とす。
左側から蹴りの気配を感じた瞬間、身体を沈め、相手の軸足ふくらはぎ目掛けカーフキックを放った!
初めての反撃!手応えあり!カークさんにカーフキック!
相手ががくりと膝をつく。が、同時に俺も倒れ込む。限界だ・・・。
「そこまで!両者相打ち!」
騎士団長のフレッドさんが宣言するが、
「いや、俺の負けでしょう。もう、動けません」
俺は潔く負けを認める。完敗だ。
「そうか、まあ勝敗はどうでも良い。どうだ、魔装の戦闘は?」
「いや、ヤバすぎでしょ!手も足もでませんでした。速すぎて見えません」
「初めて見てここまで対応出来るのは大したもんだ。基本的に魔装には魔装でなければ対処できん」
「えっ、じゃあ俺だめじゃないすか。魔力使えんし。ショック!」
「それが素の話し方か。その方が良いな。俺にはこれからそれでしゃべってくれ」
ガハハ、と笑う騎士団長のフレッドさん。
まあ、いいすけど、それより自信喪失だ。この世界でやっていけるのだろうか?
「では治癒してもらって少し休め」
フレッドさんは俺を残して訓練に戻って行った。
ぼんやりと訓練を眺める。
あちこちで模擬戦をやっているが、魔装同士の戦闘は目がついていかない。
これでも動体視力には自信があったんだけどな・・・。
魔力の使えない俺が魔装に対抗するにはどうすればいい?
慣れるまで、目がついていくまで愚直にやられ続けるしかないか・・・。
長い道のりになりそうだ。
治癒魔術をかけてもらった後も、俺はショックで座り込んでいた。
しかし治癒魔術すごいな。切り傷も打撲も数秒で治った。
せっかくの異世界。俺も使ってみたかったな、魔術・・・。
冥土の婆さんが調べてみると言ってたな。
何となくだめな気がするが頑張ってくれ、婆さん!
その後、魔装同士の剣の戦闘も見せてもらった。
やはり速い。速すぎる。
その上に、剣から斬撃が飛んでいた。
漫画かよ!
斬撃は魔力を飛ばしているそうだが、見えないので気配や風を感じる訓練が欠かせないとフレッドさんが言っていた。
あれ?俺、緑色の小さいブーメランみたいなのが飛んでるの見えるんだけど。気のせい?
とりあえず、俺は打ちひしがれたまま、今日の訓練を終えた。
兵舎で水を浴びて汗を流してから、エドと二人でよろよろと部屋に戻った。
「エドは魔装はできるの?」
「一応は出来るけど、元の戦闘力がそこまで高くないし魔装の練度も低いから、カークさんたちみたいな戦いは無理だよ。学院時代の学生相手なら問題なかったけどね。そもそも、ランカスター侯爵家は国境防衛の最前線で、魔獣討伐もやってるから、戦闘力で言ったら王国で最上位だよ。その騎士団なんだから、あの人たち強すぎるって」
「そうなんだ。まあ、嘆いてもしょうがない。少し頑張ってみるかな」
「それよりもユーキの戦闘力高すぎ!これで魔装覚えたら相当すごいよ」
「あれ、エドは知らなかったかな。俺、魔力が身体の中から外に出ないみたいなんだよ」
「えっ、何それ。そんな人いるの?」
「ここにいるのだ!驚け!」
「嘘だろ」
「いや、ホント。冥土の婆さんに調べてもらった」
「冥土の婆さんて誰?」
「みんなが先生と呼んでる婆さん」
「ああ、メイデン先生か」
「あの人メイデンさんていうんだ」
惜しい!冥土じゃなくてメイデンの婆さんだった。
「そのメイデン先生が調べてくれるけど、これまで見たことないらしいから期待薄だな」
「そうか、そんなことが」
「それより聞いてくれ、友よ。俺は、魔力が出ないせいで魔石が反応しない。だから、風呂でお湯も出せないし、トイレも流せない」
「なんと、それは深刻だな。昨日はどうした?」
「トイレは水瓶を置いてもらって、それで流した。風呂は、恥ずかしながらメイドさんたちの世話になった。なあ、この世界、風呂ではメイドさんに洗ってもらうもんなの?」
「ああ、子供のころはそうだったな。学院で寮に入って以降は断固拒否している」
「そうだよな。そうだ、エド!一緒に風呂入ってくれ。そうすれば、君にお湯を出してもらえるじゃないか」
「断る!俺は男とは風呂に入らん!いいじゃないか、メイドさんに洗ってもらえ」
エドがニヤニヤしている。
「なんて冷たい奴だ!短い友情だったな」
「風呂ぐらいで大袈裟な。俺たちもよその貴族の家に招かれたら、そんなときもあるんだぞ」
「そうなのか?」
「そうだ。そのときは甘んじて受ける。君ももてなしだと思って我慢しろ」
「俺が変な気を起こしたらどうするんだ」
「起こすのか?」
「いや起こさん」
「じゃあ問題ない。この話しは終わりだ」
「くそっ。よし、あきらめた。それじゃあ、夕食までこの世界の常識を教えてくれ」




