第7話 騎士団訓練場
「来たか。カムラ殿、彼がエドワードだ」
育ちも性格も良さそうな青年がにこやかにこちらを見ている。
俺もにこやかに立ち上がる。
「ユーキ・カムラと申します。エドワード卿、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。カムラ様。私のことはエドとお呼び下さい」
「それでは私のこともユーキと。皆様も、これからは私のことはユーキでお願いします」
「承知した。これからはユーキ君と呼ぼう。私のことも閣下はやめて、名前で呼んでくれ」
「では失礼ながら公式の場以外ではジェームス様と呼ばせていただきます」
家令さんと騎士団長も名前呼びになった。少しは気楽になったかな。
「ではエド、ユーキ君のことはよろしく頼む。それとユーキ君。我々はあと二週間ほどで領地に戻る予定だ。君も領地に来てもらうつもりだ」
「そこまでお世話になってよろしいのでしょうか?」
「もちろんだ。さっきも言ったが、君は安心してうちにいてくれていい」
「ありがとうございます」
エド君と二人で部屋に戻った。
部屋にはケイトさんが控えている。
二人でソファに座ると、すかさずコーヒーがサーブされる。ケイトさん有能。
「ユーキ様。今後は私がユーキ様付きとなりますので気軽に何でも言って下さい」
エド君が、丁寧に挨拶してくれる。よし、ここで関係改善しておこう。
「それなんですがエドワード様。もしよろしければ、お互い敬語はやめて友達付き合いできませんか?」
エド君がニッコリ笑う。
「よろしいのですか?ユーキ様は、本来は28歳と伺っておりますし、大事なお客様とも言われておりますが」
「いや、見かけがこれですし、私は貴族でもありませんから、むしろエドワード様に失礼にならないかと思っております」
「いえ、私の方は大歓迎です。堅苦しいのは苦手ですし」
よし!
「じゃあここからはタメ口で。エド、でいいか?」
「了解!俺もユーキでいい?」
お互い笑い合い、握手を交わす。
やっと気楽に話せる関係が一人できた。
「ところでエドは何歳なんだ?成人したばかりと聞いたけど」
「19歳。こちらでは18で成人だけどユーキの国は?」
「同じく18歳で成人。ただ、酒を飲めるのは20歳からなんだよね」
「そうなんだ。こちらでは何歳からでも酒は飲めるよ。ユーキは結構飲むの?」
「普通に飲むよ」
「そうか。じゃあ夕食から、何か酒を出すように言っておくよ」
「ありがたい!よろしく頼む」
よし、アルコールゲットだ!15、6歳の見た目だと酒は無理かと不安だった。
その後、エドと一緒に昼食をとり、騎士団の午後の訓練に行ってみることになった。
エドも最近は鍛錬を怠けていたので、俺とともに参加するらしい。悪いね、エド君。
エドの案内で訓練場に行く。
訓練場は学校の体育館くらいの広さがある。
王都のタウンハウスにこの広さの訓練場。さすが侯爵家というべきか。
敷地の手前側に3階建ての兵舎があり、そこからぱらぱらと兵士と思われる人たちが出てきて、思い思いに身体を動かしている。
「俺たちも訓練着に着替えよう」
エドに促されて兵舎の中の更衣室に入る。
「ここにある訓練着からサイズの合うやつ適当に選んで。靴はそっち」
なんの素材かわからないが、やや厚めながら柔らかい訓練着に着替え、手入れされた靴を履く。これも革製だが軽い。思いの外動きやすそうだ。
訓練場に出て軽くストレッチを行なっていると、騎士団長のフレッドさんが現れた。
「おっ、来たなユーキ殿!エドも久しぶりだな!」
「はい、よろしくお願いします」
「しばらく寝たきりだったんだ。無理はするなよ。エドは怠けすぎだ。気合い入れていけ!」
なんか、こういう雰囲気いいね。
集合の笛がなった。
全部で50人くらいか。
整列の様子を見てもよく訓練されている。
騎士団長のフレッドさんから呼び出される。
「今日は当家の客人のユーキ・カムラ殿が訓練に参加する。今後ときどき参加すると思うので皆よろしく頼む」
「ユーキ・カムラです。よろしくお願いします」
へえ、子供の見かけなのに侮った様子はまったくない。侯爵家、練度高そうだな。
訓練場のランニングから始まった。
30周で終わる。うん、問題ないな。
エド、息上がってないか?
「ユーキはすごいな。全然平気そうだ」と、エドはぜいぜい言いながら膝に手をつく。
「ほう、ユーキ殿はまったく問題なさそうだな。かなりやりそうだとは思っていたが。少し実力を見ておきたい。こっちに来てくれ」
騎士団長に連れ出された。
「注目!これから格闘訓練を行うが、ユーキ殿の実力を見ておきたい。円陣!」
おお、あっという間にフレッドさんと俺を中心に全員が円形に広がった。
「ユーキ殿、素手の格闘の模擬戦だ。治癒師は控えているので、どこでも当てて構わん。ユーキ殿のやり方でよいのでやってくれるか?」
おっといきなりか。まあ、初見の対戦は嫌いではない。
「承知しました。やり方も加減もわかりませんので、自分流になりますが」
「それで構わない。よし、最初はキース!」
最初は?
何戦かやるのか。
20歳くらいの精悍な青年が出てきた。
5メートルくらい離れて対峙する。
キース君は両手を下で交差させ、開きながら礼をしてきた。
おお、空手みたいだ。俺もそれに倣う。
審判は騎士団長のフレッドさんだ。
「よし、始め!」
とりあえず半身で構える。
相手は様子見か?どうしようこれ。いけちゃうよね。いっていいのか?
まあいいか。
俺は少し体勢を低くすると、縮地を使って一瞬でキース君の懐に潜り込み、顎に掌底をかました!
キース君は吹っ飛んだ!
そうなるよね。
しーん。空気が重い。
少しして、フレッドさんから「勝者、ユーキ!」と声がかかり、遅れて拍手が沸く。
治療班と思われる人が二人キース君に駆け寄る。気絶してると思うよ。
「いや、凄いな。ある程度強いとは思っていたが・・・。まだいけるか?」
「はい大丈夫です。今のやり方でよろしいですか?」
「問題ない。よし、次、ターナー!」
「おい、もう副隊長か?」などと騒つく声。
ターナーさん、でかいね。190センチ超えてる?筋肉もすごい。
対峙して礼をする。
ターナーさんは様子見なしでフットワークを使いジャブを打ってきた。ボクシング風の構えだ。
少しデフェンスも見せておくか。
俺は摺り足の運足で、スウェイバックを混じえながらパンチを躱す。
どう?当たらないでしょう。そろそろいいかな。
俺は、相手の正面に移動すると、上半身を沈めると同時にほぼ真上に後ろ蹴りを放つ。躰道という武術でいう海老蹴りだ。相手は俺が消えたように感じる。俺の蹴りはターナーさんの顎を捉え、また吹き飛ばした。
しーん。
またかよ。
「勝者、ユーキ!」
ウオー、と今度は大歓声になった。
「これは予想以上の強さだな。となると、次はビリー!」
まだやるのか。楽しいからいいけどね。
ビリー君は180センチくらいの筋肉質。
体勢を低く構えている。
組み技系だな。
右手を軽く俺に伸ばす。フェイントだ。
一瞬で地面すれすれからタックルをかけてきた。早い、が、がぶってタックルを潰す。そして、相手の右手を取る振りをして反対側から周りバックをとり、腕を首に回してチョークスリーパーを決めた。
ビリー君、必死で俺の腕をはがそうとするが、完全に決まってるからはずれないよ。
タップはないのか?
「どうしましょう?このままでは気絶しますが」
と、フレッドさんに聞いてみる。
「そ、そうか。よし、そこまで!勝者ユーキ!」
また大歓声だ。




