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第6話 適正魔術とチョコレート

「それから、もう一つ。実は、元の世界には魔術がありませんし、魔石というものもありませんでした。それで、魔術というものがどういうものか教えていただきたいのと、魔石というのが私ではまったく使えないので、これが何とかならないかと」

「魔石が使えない?ただ魔力を流すだけだが」

「その魔力を流すというのが正直わかりません。私には魔力がないのではないかと」

「え?いや、見たところカムラ殿はかなりの魔力を持っているようだが・・・」

「そうですな。私もそう感じます」


 騎士団長のフレッドさんも同意する。


 え?そうなの?

 まったくわからん。地球で魔力なんてなかったしね。


「そうか。カムラ殿の世界では魔術がないと言っていたな。それでは、適性魔術も知らないか」

「適性魔術?」

「こちらの世界では、量の多寡は別として、誰でも魔力を持っている。そして、魔術は訓練次第である程度使えるが、適性のある魔術は上達が早かったり、レベルの高いものが使えたりする。その適性は、だいたい子供のうちに調べている」

「そうなんですね。適性はどこで調べればよろしいのでしょうか?」

「通常は神殿や教会で調べるが、うちでも調べられるよ。上級貴族は大半がお抱えの上級魔術師がいて、他に知られないように自分のところで調べているんだ」

「私も調べていただけますか?」

「もちろんだ。早速先生を呼ぼう」


 先生というとあの婆さんか。

 家令のアダムさんが部屋を出てメイドさんに先生を呼ぶように指示した。


「先生は、当家の医師、薬師と騎士団の魔術部隊の指南役で、私の子供のころの家庭教師なんだよ。だから、まったく頭が上がらない。君の治療もしてくれた」

「私も一緒に家庭教師をしていただきました」


 おお、アダムさんも。


 おっ、気配が!来たな冥土さん!

 メイドさんの案内もノックもなく、ガチャリとドアが開き冥土さんが登場する。相変わらず怪しい!

 すると、あっという間に俺の側にきて頭をはたかれた。なんだ、この動き?


「また失礼なこと思っとるね!」


 これは読心術?これも魔術か?

 バシッ!2発目がきた。


「魔術じゃないよ。あんたの顔を見れば誰でもわかる」


 どうやら失礼な顔をしていたらしい。

 一応礼を尽くそう。


「ユーキ・カムラと申します。この度は私の治療にご尽力いただきありがとうございました」

「フン、あまり心がこもっとらんがまあ良い」


 なんか、この婆さんとは相性が良さそうな気がする。


「身体は治ったようだね。それで、こいつの適性を見るのかい?」

「はい先生。カムラ殿の魔力量と適性を見ていただければと」


 冥土の婆さんは俺の隣に座ると、何もないところからいきなり円盤と水晶のような球を取り出した。


「うわっ!」

「何を驚いとる。ただのストレージじゃ。あんたも持っておると聞いたが?ほれ、この円盤の真ん中に手をおきなさい」


 テーブルに置かれた円盤の真ん中に、言われたように右を置く。

 おっ、何かが手のひらから入ってきたような感触が。

 すると円盤の周囲が色とりどりに光りだした。なんじゃ?


「こりゃあ驚いた!全部の属性に適性があるね。しかも、治癒系は相当高いね」

「なんと!やはり勇者様か!」

「いや、違いますから!勇者とか勘弁して下さい!」


 侯爵始め家令のアダムさんも騎士団長のフレッドさんも興奮気味だ。やめてくれ!


「ほれ、次はこっちの球に魔力を流してごらん」


 良かった。婆さんは平常運転だ。

 球に右手を乗せるが・・・


「すみません、魔力の流し方がわかりません」

「はあ、何言ってる。幼児だって自然にできるよ」

「いや、それがさっぱり。今も手から流れるように意識してるんですが」


 婆さんは俺を見て、視線を俺の右手に移した。

 しばらく様子を見てこう言った。


「確かに魔力が出てないね」


 やっぱりね。まったく魔力とやらを感じないからね。


「見た感じでは魔力量は相当ありそうじゃな。ただ、何が原因か、魔力が体内で留まって、外に出ておらんようじゃ。何か身体に違和感はないかい?」

「そう言えば、目覚めてから身体の中に引き攣ったような痛みがありました。今は痛みは無くなったのですが、引き攣ったような感覚は残ったままです」

「そうか。多分それじゃな。魔力が放出できずに身体の中に留まっておる」


「それは治りますか?」と、侯爵が尋ねる。

「わからん。なんせ初めて見る症状じゃ。ちょっと調べてみよう」

「是非お願いします!なにせ、トイレは流せないし、お風呂でもお湯が出せなくて困ってるんです!」


 婆さんは呆れたような目で俺を見た。


「そのくらいメイドにやらせい!それよりも、こんだけの適性じゃ。治癒だけでも使えんのは大損失じゃ!」


 あ、そうなのね。しかし俺にとっては、トイレとお風呂の方が問題だ。

 婆さんは調べて連絡すると言って部屋を出て行った。


「カムラ殿。これはいよいよ君のことを第二王子殿下に知られるわけにはいかなくなった。君の適性が知られたら、無理矢理にでも君を拘束して利用するだろう」

「神殿も欲しがりそうですね」


 アダムさんも追い打ちをかける。


「まあ、でも今のところ使えないみたいですし」

「そうなのだが、身体の問題が解消すれば貴重な能力だ。何とか君を守れる立場を考えなくてはいけない」

「いや、これ以上ご迷惑をおかけするわけにはいきません。できるだけ早くこちらの世界を学んで、早々に自活できる道を探したいと思います」

「何を言っている。うちは侯爵家だよ。君一人くらい、いつまでいてもらっても問題ない。うちの中で仕事を見つけてもらっても構わないよ。むしろ、我々が願ってうちにいてもらうことになるかもしれないね」と侯爵が笑う。

「ありがとうございます。とりあえず、先のことはこの世界を良く知ってから考えます」

「そうだね。では、今日のところは話しは終わりだ。メイドを入れてくれ」


 メイドさんが二人入ってきて、入り口辺りで控える。このメイドさんたちも美人だね。偏差値高い。


「エドを呼んできてくれ。それと、コーヒーを持ってきてくれ」


 あ、そう言えばチョコレートがあった。

 ストレージからお土産用のチョコレートを1箱取り出す。


「閣下、これは元の世界のお菓子でチョコレートというものですが、こちらにはありますでしょうか?」

「チョコレート?いや、初めて聞くな」

「私がこちらに召喚されたのは、ちょうど海外赴任から日本に帰国したときだったのです。それで、これは職場の同僚にお土産として買ってきたものです。もはや同僚には渡せませんので、失礼でなければご賞味いただければと」

「カムラ殿の世界の菓子か。それは貴重な。是非食べさせてくれ」


 ベルギー産のチョコレートだ。包装を解く。


「おお、実に綺麗な箱だな」


 蓋を開き中の紙を取ると艶のあるチョコレートが並んでいる。


「これはカカオという豆が原料のお菓子です」

「カカオというと、あの薬のカカオか?あれは苦いぞ」

「多分そのカカオです。でも、これは美味しいと思いますよ。コーヒーにも合うと思います。毒味代わりに私がまず一つ」


 うん、美味い。高級チョコレートだ。

 侯爵も一つ摘む。


「・・・。なんと美味い!これは絶品だ!確かにコーヒーにも合いそうだ。お前たちも食べてみろ」


 侯爵は大興奮だ。


「美味い!」

「これは!」


 家令のアダムさんも騎士団長のフレッドさんも気に入ったようだ。

 立て続けに食べている。

 24個あったチョコレートが、あっという間に無くなった。


「しまった!妻と娘にも食べさせるんだった!」

「大丈夫です。よろしかったらもう1箱あります」

「おお、ありがとう。助かった!」


 侯爵のホッとした表情に、この世界でも女性が強そうなことがわかった。心しておこう。

 そんなやりとりをしていると、メイドさんが一人の青年を連れてきた。



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