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第5話 モーニングコーヒー

 翌朝、元の世界の習慣に沿っていれば午前5時と思われる時間に目が覚めた。

 昨日のベッドだ。

 期待していたわけではないが、目覚めたら元の世界、というわけにはいかなかったようだ。

 こちらの時間がわからないが、とりあえず腕時計を5時に合わせる。


 ベッドから出て身体を動かす。身体の中の引き攣るような感覚は残っているが、なぜか動作には支障はない。痛みは完全に消えた。そのうち慣れるかな?


 1時間ほど身体を動かして、軽く汗をかいたところで、昨日のコーヒーの残りをカップに入れてみる。よし、熱いままだ。魔道具も家電に負けてないね。


 コーヒーを飲みながらソファでくつろいでいると、メイドさんの気配が近づき、ノックの音がする。そうだ、鍵をかけてたんだっけ。

 返事をしてドアを開けると、昨日の金髪の美人のメイドさんだった。


「おはようございます。お目覚めでしょうか。新しいコーヒーと紅茶をお持ちしました」

「ありがとうございます」

「コーヒーか紅茶どちらになさいますか?」

「コーヒーでお願いします」


 メイドさんが新しいコーヒーを淹れてくれる。


「カムラ様。お身体の方はもう大丈夫でしょうか?大丈夫のようでしたらすぐにお着替えと朝食をお持ちいたしますが」


 俺の着替えはサイズが合わなくなっていたな。それに、異世界の服はまずいよね。


「身体はもう大丈夫です。ご迷惑おかけしますがお願いします」

「承知しました」

「それと、お名前を伺っても?」

「あ、はい。ケイトと申します」

「ケイトさん。それではしばらくお世話になると思いますがよろしくお願いします」

「とんでもございません。こちらこそよろしくお願いいたします」


 ニッコリ笑ってケイトさんが部屋を出て行った。可愛いね。


 しばらくすると、ケイトさんと昨日のメイドさん二人が朝食のワゴンと服を持ってきた。


「お着替えをお手伝いいたします」


 メイドさんが脱がそうとするのを制して、素早く自分でスウェットを脱ぐ。

 メイドさんが持ってきたのは、案の定貴族風の服だ。


「もう少し庶民的な服でよいのですが」

「とんでもございません。旦那様より、大事なお客様と申しつかっております。さ、こちらにお着替えを」

「すみません。着かたがわからなので今日のところはよろしくお願いします」


 着せ替え人形のようにメイドさんたちに貴族服を着せられる。

 よし、着かたは覚えた。明日からは自分で着る!などと、密かに幼児のような決意をする自分が悲しい。


「体調がよろしいようであれば、朝食のあと、旦那様がお話ししたいとのことですが、いかがでしょうか?」

「はい。大丈夫です」

「それでは1時間ほど後にお迎えにあがります」


 そう言うと、ケイトさんたちは去って行った。


 あれ?この世界も1時間と言うのか、と考えながら自分の服を見る。

 お貴族様の服だよな。

 髪も何やらメイドさんが整えてくれた。髭も剃ってくれた。ナイフみたいな髭剃りは少し怖い。

 明日からはシェーバーにしよう。


 誰も見てないので、サーコートのような上着を脱ぎ朝食を食べる。窮屈すぎる。

 パン、サラダ、目玉焼き、ハム、ソーセージ、コーヒーと、まるで元の世界と変わらない。

 味も十分美味い。異世界であることを忘れそうだ。

 魔石だけ何とかしてくれ!


 1時間後、ケイトさんが迎えに来て、2階の応接室に案内された。俺のいた客室は3階のようだ。中には、侯爵と、昨日の二人が既に待っていた。先に挨拶しよう。好感度アップ作戦だ。


「おはようございます。色々と心配りいただきありがとうございます。ゆっくりと休めました。おかげさまで体調も戻ったようです」

「それは良かった。まずはおかけ下さい」


 今日は執事さんと軍服さんも一緒にソファに座った。

 メイドさんが紅茶をセットして部屋を出ていくとお話しの開始だ。


「さて、カムラ殿。今日は、貴殿のことをもう少し教えていただき、今後のことについて話し合いたいと思っておりますが、よろしいでしょうか」

「はい。もちろん結構です。それと、閣下。私に対して敬語は不要です。私は貴族でもありませんし、勇者とやらでもありません。会話を聞いた者が、訝しむかもしれませんので」

「そうですか。その服も良くお似合いで、上級貴族にしか見えませんが。ああ、その服は息子が着ていたモノで申し訳ありません。しかし、確かに私が敬語を使っていると、カムラ殿の出自を詮索されかねませんね。わかりました。敬語はやめておきましょう」

「ありがとうございます。そうしていただければ」

「それではまずこの二人を紹介しよう。こちらがうちの家令のアダム・プライスで、子爵だ。そしてこちらがうちの騎士団長のフレッド・バトルで、同じく子爵だ」


 二人が会釈をする。家令さんと騎士団長さんか。侯爵家のトップ3かな?


「改めましてユーキ・カムラです。よろしくお願いいたします。それと、お二人も私には敬語はなしでお願いします」


 と先手を打つが、家令のアダムさんからは即座に否定される。


「カムラ様は当家のお客様ですので、私の立場ではそれはできません」


 騎士団長のフレッドさんの方は、


「俺は無骨者で、堅苦しいのは苦手だ。なので遠慮なく普通に話させてもらおう。よろしくな、カムラ殿」

 と、ニカっと笑ってくれた。


「さてカムラ殿。カムラ殿が召喚者だということは、メイドを含めある程度の者が知っている。なにしろ、状況が状況だっただけに大騒ぎになったからね。一応、箝口令は敷いたのでそうそう漏れることはないと思う。カムラ殿は、当面は当家の客人として扱いたい」

「ありがとうございます」

「それでカムラ殿は28歳と聞いたが、ニホンではどのような仕事を?」

「はい。国に仕える文官で、外交関係の仕事をしていました」


 詳細はやめておく。この世界では意味ないし。


「外交官であったか。それで振る舞いも洗練されているのか」

「下っ端ですが、外国要人との会合やご挨拶などは多少の経験がございます」

「カムラ殿の世界の話しも色々聞きたいが、それは今後機会もあるだろうから、当面の話しを進めよう。カムラ殿の方で、これからのことで何か希望は?」

「私はこちらの世界のことをまったく知りません。なので、できましたら、こちらの世界のことを教えて下さる方を誰かつけていただきたく。それと、地理、歴史、政治、経済、文化など、色々な分野に関する書籍を読ませていただければ」

「それはこちらでも考えていた。王立学園を優秀な成績で卒業して当家で家令の見習いをしている者がいる。アダムの息子でエドワードという。成人したばかりなので話しも合うだろう。彼を当面カムラ殿付きとするので、何でも頼るといい。後ほど、こちらに呼んで紹介しよう」

「そのような貴重な人材を私のために申し訳ありません」

「なに、彼もカムラ殿に興味津々でね。他に希望は?」

「あとは騎士団の訓練があれば、隅っこの方で結構ですので参加させていただきたいのと、この世界を見たことがありませんので外出の許可をいただければと思います」

「外出はエドワードに王都を案内させればいい。騎士団の訓練に参加するのは良いが、カムラ殿は文官では?」

「元の世界でも多少の訓練は受けております。なにしろ身体が若返ったせいで、筋力が落ちておりますので、鍛え直す必要がありそうです」


 すると騎士団長のフレッドさんが嬉しそうに言う。


「それは良い!体調に問題なければ早速今日の午後の訓練から参加するといい!」

「ご迷惑でなければ是非お願いします」


 午後からの訓練参加が決まった。ありがたい。こちらの武力のレベルも見てみたい。

 そして肝心なお願いがある。



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