第79話 ルーカス兄上戦闘態勢
そろそろ攻撃再開だ。早々にけりをつけないと日が暮れてしまう。
夜間にゴブリンがどう動くかわからないが、いずれにしても夜間戦闘は難しい。
もっとも、俺はお役御免だそうだ。
戦闘に治癒にと大活躍だったね、とお褒めの言葉付きで。
そのとき、またもや驚愕の情報が飛び込んできた!
「シェフィールドからの早馬です!シェフィールドにてスタンピード発生!ランカスターに救援を願うとのことです!」
連絡兵の言葉に一瞬で血の気が引いた!
どういうことだ!?
シェフィールドの使者がジェームス様のまえに連れて来られた。
息も絶え絶えだ。
報告によると、本日午前10時ころ、どこから現れたのかわからないゴブリン数万の大群が、シェフィールド領北部に突然出現。耕作地を荒らしながら領都方面に進行。大群の中にオーガ数匹と地龍一頭を確認。シェフィールドでは対応困難なため、ランカスターに救援を求むとのことだった。
「オーガに地龍だと!」
話しを聞いた全員が驚愕の表情を浮かべる。
「今午後3時半か。ゴブリン共はもう領都に着くころか・・・」
ジェームス様がうめくように言う。
「これから援軍を出しても、シェフィールドに着くのは明日の早朝です」
「それに、こちらの対処もあります。どれだけ援軍を出すか」
クソッ、どうする!
優しかった父上やお母様、兄上たちの顔が浮かぶ。
親切な使用人たち、収穫祭で囃し立てていた気のいい領民たち。
どうすればいい?
ルクスの全力で、どのくらいかかる?
そのとき左肩がすごい力で握られた。
見るとザックさんが恐ろしい顔で立っていた。
「ザックさん・・・」
ザックさんは無言だ。
(ユーキ、ワイが連れてくで!ワイやったらすぐや)
(え?どうやって?)
(ワイの背中に乗りいや。飛んで連れてったる)
(トーダの背中?)
(トカゲやない!元の姿や!龍の背中や!大きさなんぞナンボでも変えられるけん!)
(皆んなには見えないの?)
(見えへん。なんなら見せてもええで)
(わかった。お願いするよ!)
話しは決まった。
「ジェームス様!私に先行させて下さい!」
「ユーキか。もちろん君が行くのは当然だけど、一人で行くつもりかい?」
「はい!私には範囲魔術もありますので」
「わかった、先行して、何としても我々が着くまで保たせてくれ!」
「はい!」
「待て!俺も行く!」
ザックさんだ。当然だけどどうしよう。
「お前、何か移動手段があるな?」
このゴリラは勘がいい。
「本当かい、ユーキ」
ジェームス様の追い討ちだ。
「・・・はい、ちょっと言えない方法ですが、かなり早く行けると思います」
「それは他にも連れて行けるのかい?」
(トーダ、どうなの?)
(何人でもいけるで)
どうしよう…。ここにも人は必要だし…。
少し考えてから答える。
「数人であれば」
「よし!俺を連れて行け!」
ザックさんは連れて行きますよ!当たり前だ!
ジェームス様は少し考えて、「フレッド!エド!」と、二人を呼んだ。
「ユーキに同行してくれ。オーガと地龍だ、戦力があった方がいい」
団長がこの場を離れても大丈夫なのか?
でも、フレッドさんが来てくれるのは心強い。
(で、どうやって背中に乗るの?)
(壁の上から飛び乗りいや。その前にルクス連れてきい、下で騒いどるで)
慌てて下に降りて、ルクスを連れてくる。置いていかれると思ったのか悲しそうだった。
どうやってわかるんだろう?
不思議そうな先行組を外壁の縁に集める。
トーダが俺の頭から飛び降り、外壁の外で本来の姿になった!
なんじゃ、こりゃぁ!
全長数十メートル、胴回りも、何メートルあるんだ?とにかく巨大で美しい緋色の龍が現れた。
西洋のドラゴンではない。日本や中国の龍だ!
なんて美しい!
(こら、早よ乗らんかい!)
そうだった、あまりの美しさに呆然としていた。
俺は、ルクスと共にトーダの背中に跳び乗った。
傍目には俺が空中に飛び出して、浮いているように見えただろう。
「皆さんも、俺の辺りに跳び乗って下さい!」
さすがに全員思い切りがいい。半信半疑だろうに、俺を信じて見えない背中に次々と飛び移った。
(よし、トーダ、お願い!)
(任しとき!)
その瞬間、周りの景色が消えた!
後ろを振り向くとランカスターがはるか後方に見える。
風圧も振動もGも感じない。
(すごいよトーダ!これが君の本当の姿なんだ!)
(カッコええやろ!一人やったらもっと速いで)
下を見ると、広大な大地や森林が広がっている。
この世界を初めて上空から見たよ!
「おいユーキ!俺たちはなんかの背中に乗ってるか?」
「まあいいじゃないですか」
やはりこのゴリラは勘がいい。
わずか数分でシェフィールドが見えてきた。
「まずいぞ!囲まれてる!」
珍しくザックさんが焦った声を上げた。
クソッ!領都の外壁は数万のゴブリンの群れに囲まれて、今にも突破されそうだ!
(トーダ!)
トーダが急降下して外壁の魔獣の群れに突っ込んで行く。
俺は魔力を練り上げてタイミングを測る。
今だ!
外壁に群がっていた魔獣に向けて突風をぶつける!
大量のゴブリンが壁際から剥がされて吹き飛んだ!
もう一度!
また吹き飛ばす!
数回繰り返すと、ゴキブリの群れのように外壁に群がっていたゴブリンが一掃された。
これで少し余裕ができた。
サーチで探すと、いた!父上や兄上たちが見つかった!
トーダに言って、近づいてもらう。
おお、いるいる!
全員に声をかけて父上たちの近くに飛び降りた。
「待たせたなオヤジ!」
「遅くなりました父上!」
父上たちは驚きのあまり声も出ない。
しかし、俺たちに気づいた周りから歓声が上がり始めた。
「ザックさんだ!」
「ザックだ!」
「猛牛が来てくれた!」
「ユーキもいるぞ!」
「芸人が帰ってきた!」
「水芸見せてくれ!」
うおー、と大歓声が拡がっていく。
ところで俺の評価、なんとかならんか?
今ゴブリン吹き飛ばしたの俺なんだけど。
ようやく我に返った父上たちが歩み寄ってきた。
「ザック、ユーキ、良く来てくれた。しかしこんなに早くどうやって」
「コイツがわけのわからん手段を隠してんだよ」
イテッ!いちいち殴るなよ!
「今魔獣を吹き飛ばしたのもお前たちか」
「それもコイツだよ」
イテッ!だから殴んなよ!それより紹介だろう。
「父上、フレッド騎士団長とエドも来てくれました!」
「おお、フレッド、それにエドも、良く来てくれた!」
「ご無沙汰しております閣下。侯爵様の命により先駆けとして参上しました。援軍は追って参ります」
「まさかフレッドを寄越してくれるとは。これ以上ない援軍だ!」
兄上たちも嬉しそうにやってきた。
「ザック、ユーキ、助かった。もう突破されるかと思ったよ」
「ユーキ助かった、ザック、遅い・・・」
「なんだと!」
まあまあ、でルーカス兄上・・・。
その頭に被っているのは、錬金術に使うお鍋では?
「これしか持ってない・・・」
手に持っているのは、もしかして錬金釜を掻き回す錬金棒では?
「これ結構硬い・・・」
そうか、結構硬いのか、って、そうじゃなくて!
周り誰も何も言ってあげないのかよ!伯爵家だろ!予備の防具や武器くらいあんだろ!
そしてふと気づいた。
なんか、言いづらい・・・。
・・・。
よし!ルーカス兄上はあれでいい!
もしかしたらあの錬金棒から特大魔術が飛び出すかもしれないしね!
「何も出ない。硬いだけ」
エスパーがいた・・・。




