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第78話 天使降臨

 下で待機していた全員に、外壁に上がるよう指示が出た。

 出陣前に、戦場の確認だ。

 騎馬隊が暴れ回って、ゴブリンはかなり分散させられていた。

 各部隊長には副団長から直接作戦が言い渡される。

 俺とエドは遊撃だ。

 間もなく出陣だ。

 接近戦だが緊張はない。ダンジョンの経験が活きている。

 俺は、ルクスとノクスに、全身を覆うように魔装を張った。


 バーン!バーン!バーン!


 歩兵出撃の信号弾が上がった!

 外壁門が開き、跳ね橋が降ろされる。

 歩兵たちが一斉に鬨の声を上げ跳ね橋を渡って行く。

 延々と続く歩兵の出撃。

 俺たちは後方で静かに待った。

 やがて最後の部隊が門をくぐった。


 さあ行こうか。

 エドと顔を見合わせ頷き合う。


 (ルクス、初陣だ。頑張ろうね。でも無理しちゃだめだぞ)


 ルクスからわかった、という感情が伝わってくる。

 でも、少し緊張気味かな?ルクスの鼓動が早い。


 (トーダ、頼んだよ)

 (あいよ!)


 エドと並んで跳ね橋を渡り終える。


「行くぞ!」

「おう!」


 エドの掛け声に俺が応えて、俺たちは二手に分かれて一気に駆け出した。

 まずは外壁に近づいてきたゴブリンを駆逐する。

 ルクスが疾走する!速い!普通の馬とは段違いのスピードだ!

 見つけたゴブリンには容赦なく魔弾をお見舞いする。サーチアンドデストロイ。


 ルクスは更に加速する!

 まるで風だ!

 そして俺のちょっとした動きだけで、俺の望む方向に進んで行く。

 すごい!これこそ人馬一体だ!


 ルクスの速さのおかげで、周辺のゴブリンは全て倒した。

 エドはまだやってるな。


「ルクス!すごいぞ!君は最高の家族だ!」


 ルクスが喜んでいる。

 エミーちゃん見てるかな?

 殺戮シーンがトラウマにならなきゃいいけど、ルクスは大活躍だよ!


 さて、騎馬で実戦をやるのは初めてだったけど、ククリ刀では戦いにくいな。

 短すぎて届かないから、魔刃で伸ばすしかないけど、武器を使うなら槍の方が扱いやすいかもしれない。今度練習しよう。

 実際、騎馬隊はほとんどが槍か大剣だ。


 戦場を見回す。

 あちらこちらで激戦が繰り広げられている。

 相手がゴブリンとはいえ、何せ数が多い。

 それにゴブリンの上位種もいる。こいつは1匹でも相当強そうだ。

 兵士たちが複数で当たっている。

 よし、上位種倒しながら奥に進もう。


 ルクスを再び走らせる。

 目視で目についた上位種の方向に走り、近づき様、頭に魔弾をぶち込む。

 上位種に使う魔弾は20ミリ口径弾をイメージしたものだ。

 よし、一撃で倒せた!

 戦っていた兵士たちが驚いているが、そのまま走り去る。


 その後も上位種を探しては魔弾で倒し続け、戦場の中央部まで来た。

 ふと見ると、ゴブリンが群れているのに、兵士が全然いないところがある。

 ならばと近づこうとした瞬間、10匹ほどのゴブリンの頭が落ち、こちらに向かってスラッシュが飛んで来た!

 危なっ!

 咄嗟に俺もスラッシュを放って撃ち落とした。


 前を見ると、ゴブリンの群れに囲まれたザックさんがいた。

 犯人はアイツだ!


「危ないじゃないですか!」

「なんだユーキか。騎士団の連中には俺の周りに近づくなって言っといたんだけどよお。お前も危ないからどっか行け!」

「はあまったく。一応聞きますけど手伝いは?」

「いるか、こんなもん!」

「そうですよね。じゃあ俺行きますね」

「おう、またな!」


 ザックさんはやっぱりザックさんだった。

 壁外戦に入ってから1時間ほどが経過したころ、撤収の信号弾が打ち上げられた。

 これは作戦どおりだ。

 魔術部隊がポーションや時間経過で魔力を回復し、再び遠距離攻撃ができるようになっているころだ。

 ゴブリンの大群もだいぶ数を減らした。

 騎馬隊や歩兵の継戦時間を考えると、一旦撤収して怪我の治療をしたり、休憩をとることも必要だ。

 そして次の攻撃は、他の門に配備されていたフレッシュな戦力と交代する。


 俺は、サーチを発動して周辺に取り残された兵士がいないかを確認しながら外壁へ戻った。

 残ったゴブリンの群れは数キロメートル奥まで押し返した。

 しばらくは時間の猶予があるだろう。


 門をくぐるとすぐに連絡兵から、ジェームス様の元に行くように言われた。

 階段を登り外壁の上に行くと、いきなりエミーちゃんが飛びついてきた。

 俺にしがみついて必死で泣くのを堪えている。

 怖かったんだろうな。

 大好きなルクスもあの場にいたんだし。

 俺がそっと頭を撫でていると、ジェームス様から声がかかった。


「ユーキ、ご苦労様。本当に良くやってくれて感謝している」

「いえ、皆と一緒にここを護るだけです」

「君にばかり負担をかけて悪いけど、治療所を手伝ってくれないだろうか?」

「もちろんです」

「先生がいないせいで、重症者の治療が上手く行っていないんだ」

「すぐに行きます!」


 そうだった。いつもはおそらく師匠が治癒の指揮をとっていたのだろう。

 師匠はまだ行方不明のままだ。

 俺は急いで仮設の治療所に向かった。


 警備の衛兵に手伝いに来た旨を伝えると、すぐに治癒師を呼んで来てくれた。


「ユーキ殿!来てくれたんですね!」

「はい!重傷者は!?」

「あちらのテントです!」

 トリアージはできているようだ。ちゃんと受傷程度でテントが分けられている。

 ところで後ろからエミーちゃんがついて来てるけど、どうしよう。

 案内された大型テントをくぐると、血塗れの騎士、兵士たちが数十人、シートを敷いた地面に横たわって呻いている。その周りで治癒師たちが必死で治癒を続けていた。

 皆とりあえず出血は止まっているようだ。


 テントの入口で、「ヒッ!」という小さな悲鳴が聞こえた。

 俺は構わず一番重傷の者を聞き、急ぎ足でそこに向かう。

 すぐに状態を見る。

 腹部が血塗れだが表面上は目立った傷がない。しかし虫の息だ。


「彼は腹を抉られて内臓がズタズタになっていました。とりあえず、表面だけは・・・

「わかりました」


 俺は目に魔力を込めて確認する。

 内臓のあちこちが欠損。ぎりぎりで生きている。

 急いで除菌、そして欠損修復を施す。

 いつも通りの不快感と淡い光。

 よし!兵士の呼吸が戻ってきた。


「次!」


 右肩が食いちぎられてほとんど腕が取れかかっている。

 同じ手順を繰り返す。


「次!」


 次々と患者を治癒していく。

 とりあえず重大な傷だけを治し、軽い部分は後回しだ。

 命を繋ぎ止めれば、あとはゆっくりやればいい。


「ユーキ殿!最初の患者の呼吸が!」


 急いで戻る。

 また虫の息だ。何か見落としたか?

 魔力を込めた目で観察するが異常がわからない。


 (ユーキ、血が足りてないで)


 しまった!ここは輸血がない!

 数を捌くことばかりに気がいって、肝心なことを忘れていた。


 (トーダありがとう!)


 俺は急いで造血の治癒魔術を施す。

 顔色が戻って来た!呼吸も安定した!

 これで大丈夫だろう。


「すみません!俺のミスです。大量に出血していた人は状態が急変する恐れがありますので、すぐ報告して下さい。残りの応急処置が済んだら、もう一度全員を周ります!」


 1時間ほどでようやく全員の治癒を終えた。

 安心でどっと疲れが出る。

 人の命を預かっているんだ。戦闘よりも緊張した。

 そして反省。重傷者は大量出血しているに決まっている。輸血のない世界だ。元の世界との違いを見落とすな!今回は大事に至らなくて良かった。


 ところでエミーちゃん、何してるのかな?

 いつの間にかエミーちゃんは、腕まくりをして濡れタオルを持ち、受傷者を周って血や汗や汚れを拭き取ってお世話をしている。あぁあ、綺麗な服が血塗れじゃないか!


 気がついた患者たちは「姫様!」と驚いたり、「畏れ多い」とか「手が汚れます」とか言っていたのに、やがて・・・。


「天使だ!」

「天使様の降臨だ!」

「ここは天国か?」

「やっぱり俺死んだのか?」

「尊死か?これが尊死か?」

「いい匂い・・・」

「クンクン」


 と、天使祭になっていった。

 最後の二人はジェームス様に報告する!


 ジェームス様のところに戻ると、ジェームス様とチャールズ様が、服を血だらけにしたエミーちゃんを見て驚いていた。

 治癒所で彼女が手伝ってくれてことを報告した。二人は穏やかな表情でエミーちゃんを見ていた。


「ユーキお兄様!私に治癒魔術を教えて下さい!私は戦えないかもしれない。でも治癒魔術が使えれば戦った人を助けることができます!私もランカスターの女として、皆を護れる力を身につけたいんです!」


 突然のエミーちゃん宣言!

 ジェームス様の顔を見る。


「エミーちゃんに治癒魔術の適性は?」

「うん、あるよ」

「いかがしましょうか?」

「君に時間があるときでいい。教えてやってくれるかな?」

「私の治癒はもしかしたらかなり特殊かもしれません。真っ当な治癒師の教えの方が良いのではないでしょうか?」

「君の教えで駄目だったら考えよう」

「そうですか。わかりました。でも、私は来年には学園が」

「それも考えよう」


 結局エミーちゃんの先生を引き受けることになった。

 こんなペーペー魔術師が先生なんてやっていいのだろうか?

 ジェームス様は、エミーに見せた甲斐があったね、なんてご満悦だ。




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