第77話 ジャッジメントですの!
ジェームス様が外壁の先端に立ち魔力を練り上げる。
これはすごい魔力量だ!
一撃に込める量としては俺より上かもしれない。
何をやるんだ?
ゴブリンの大群が第二砦のラインを越えてきた。
まだ引き寄せるのか?
ゴブリン共のギャアギャア吠える声がよく響く。
外壁の上はジェームス様の魔術を待って、誰も一言も発しない。
ゴブリンが外壁まで200メートルくらいに来たところでに上空に異変が生じた。
バチバチと電気が弾ける音と光が。
雷か!
ジェームス様の右手が振り下ろされた!
ズガガガーン!
とてつもない轟音が響き渡り、ゴブリンの大群に雷が降り注いだ!
なんじゃこれ!
直径1キロほどに渡って、ゴブリンの大群がもれなく焼き尽くされていた・・・。
一瞬の静寂の後、大歓声が上がった!
「どうだったユーキ?ジャッジメントサンダーっていう魔術なんだけどね」
「どうもこうも、・・・凄すぎて・・・」
「この魔術の欠点はね、1発しか撃てないんだよ。回復するのに半日かかるんだ」
いやいや、こんな魔術、1発撃てればお役御免でしょう。
多分一撃で10万は倒したよね。
そうか、魔術の練度を上げるとここまでいけるんだな。勉強になった。
魔術名は参考にならん。やはりちょっと恥ずかしい名前なんだ・・・。
前方を見ると、黒焦げになったゴブリンの死体の絨毯のはるか先に、またこちらに向かって進むゴブリンの群が小さく見える。かなり減らしたとは言え、依然として大群だ。
こいつら撤退するって考えはまったくないようだ。
仮面の男の姿が頭によぎる。今回もあいつが関与してるんだろうか?
だとしたら目的はなんだ?
そんなことを考えているうちに、再びゴブリンの大群が現れた。
さっきまでの大群が多すぎたので、終わりが見える今度は少なく見えるが、まだ数万匹はいそうだ。
大規模魔術の欠点は、数が撃てないことだな。
こちらの手持ちも俺があと1発撃てるくらいか。
やはり熟練度をあげて、もっと効率よく撃てるようにならなければ。
人間の軍隊なら、これまでの戦況ですでに撤退しているだろうが、魔獣相手ではそうはいかないからね。
さあここからは壁外での肉弾戦だ。
信号弾が上がる。
跳ね橋が降ろされる。
鬨の声を上げながら、2,000の騎馬隊が列をなして走っていく!
壮観な光景。こんな騎馬の大軍、映画でしか見たことないよ!
再び跳ね橋が上げられた。
門の前には、次に備えて数千の歩兵隊が待機していた。
俺たちは、外壁の上で戦況を見ていた。
騎馬隊がゴブリンの群れに突っ込んで、蹴散らしながら疾走している。
それでも群全体はじわじわとこちらに近づいて来る。
横を見るとザックさんが、行きたくてたまらないといった様子で、うずうずしていた。
これは歩兵と一緒に出るな。
戦士系の冒険者の出番もこれからだ。
よし、俺も歩兵と一緒に出よう!
そう思っていたら、連絡係の騎士が俺のところにやってきた。
「おいユーキ!君にお客様だ」と、ニコリと笑う。
お客様?誰だろう?
案内されてついて行くと、何とそこにはルクスを連れたエミーちゃんがいた!
「エミーちゃん!どうしたのこんなところに!」
「ルクスがユーキお兄様のところに行くって言って聞かないの!」
「ルクスが?」
「いつもはちゃんとお利口なのに、今日はダメって言っても聞いてくれなくて暴れるから」
あらら、エミーちゃん泣き出しちゃったよ。
「そうだったのか。エミーちゃん、ルクス連れてきてくれてありがとね」
俺が優しく頭を撫でると、エミーちゃんは泣きながら俺にしがみついてきた。
ルクスは心配そうな表情をしながらも、しきりに俺に鼻先を擦り付けてくる。
「ルクス、一体どうしたの?」
え?俺と一緒に戦う?俺を護るって?
そうか、ルクスは俺が危険な目に遭ってると思って助けにきてくれたのか。
「エミーちゃん、ルクスはね、僕が戦ってると知ってて、僕を助けにきてくれたんだって」
「そうなの、ルクス?」
エミーちゃんがルクスを見上げると、ルクスは頷くような仕草でエミーちゃんにそっと鼻を擦り付けた。
「偉いね、ルクス!」
エミーちゃんが俺から離れてルクスの抱きつく。
泣き止んだエミーちゃんに、ルクスもホッとしたようだ。
「ありがとう、ルクス。でも君はまだ子供だから戦いはまだ早いかな」
ルクスは激しく顔を振り、訴えかけてくる。
ユーキを護る!ユーキを護る!ユーキと戦う!
ルクスの強い感情が伝わってくる。
困ったな、どうしようか。
仕方ない、俺が護りながら戦うかな。
野生動物であれば、今ごろ生き抜く力を得るために様々な試練に遭遇しているはずだ。
甘やかすだけではルクスにとっても良くないよね。
幸い相手はゴブリンだ。経験としてはちょうど良いかもしれない。
俺と呼吸を合わせる訓練にもなるだろう。
「わかったよ、ルクス。連れて行くけど絶対俺の言うことは聞くんだよ」
ブルル、と鼻を鳴らして俺に擦り寄って来るルクス。
親や仲間に追い出されてというんで、過剰に甘やかしたかもしれない。
大丈夫、もう信頼関係はできている。
「ユーキお兄様。ルクスを戦いに連れて行くの?」
「うん、でも心配しなくても大丈夫。絶対に怪我なんてさせないから」
「絶対?」
「うん絶対」
エミーちゃんはまた泣き出しそうだ。
「だから、お城で待っててね。ルクスと一緒に元気で帰ってくるから」
エミーちゃんは俯いたまま顔を上げないが、涙がぽとぽとと地面に落ちる。
しかし困ったな、エミーちゃん、どうやら一人でここまで来たようだ。
送り届けるにしても、安全上誰でも良いというわけにはいかない。
仕方ないので、ルクスを預けて、エミーちゃんを連れて外壁を登る。
戦闘状況が直接目に入らない辺りで止まり、ジェームス様を呼んでもらった。
「おや、エミー、どうしてこんなところに来ちゃったのかな?」
ジェームス様はどうやら報告を受けていたみたいだね。
エミーちゃんは返事ができず俯いている。
「困ったね、返事をしてくれないかな」
「ごめんなさい・・・」
「うん、事情は聞いたよ。ルクスのためだったんだね。でも勝手に来たのはいけないね」
「ごめんなさい」
「さて、来てしまったものは仕方がない。少し早いが、君もここで見ていきなさい」
え?何言ってんだ、この人!
「君もランカスター侯爵家の人間だ。騎士や冒険者、そして私たちが、領や領民を護るためにどんな覚悟を持って戦っているか、それをしっかりと見て行くんだ。君は女性だから、私たちとは違うかもしれない。でも、領や領民を護るという覚悟は同じだ。とても残酷で、目を背けたくなる光景だ。君はそれを見て行くかい?」
「ユーキお兄様やルクスも戦うの?」
「そうだよ」
「わかりました、見て行きます!」
ジェームス様は優しく頭を撫でて頷いた。
「チャールズ!」
長男のチャールズ様が呼ばれる。ここにいるエミーちゃんを見て、仕様がないなという顔で苦笑すると、エミーちゃんを預かって行った。
「ユーキ、迷惑をかけたね」
「いえ、それよりも貴族の覚悟、貴族教育の厳しさを見せてもらいました」
「エミーにはちょっと早いかもしれないけどね。でも贅沢三昧の貴族令嬢にはなってほしくないからね。エリカなんて10歳のころには魔獣討伐に参加してたんだからまだましさ」
エリカお姉様!
まったく何やってんだか。
「では、私は下に行きます。歩兵と同じタイミングで私も出ます」
「うん、よろしく頼んだよ」
ルクスを引き取り、俺の鞍に付け替える。
ルクスにプリンを食べさせるついでに、陰に隠れてトーダにもプリンを渡す。
(トーダ、ルクスも戦場に出るから、危ないときは護ってやってね)
(任せんかい。やけど、ルクスにもマナの使い方教えた方がええな)
(ルクスってマナ使えるの?)
(当たり前や、天馬やで!)
(そうか、だったらトーダ教えてやってくれる?俺じゃ、どう教えればいいのかわからないよ)
(しゃあないなぁ、おいルクス、ワイがマナの使い方教えたるからちゃんと勉強せえよ)
ブヒン!
何となくルクスも嬉しそうだね。本当は親とかが教えるのかな?
まあいいよね。俺たちは家族だ!トーダ兄ちゃんから教われば最高だよね!
お!エドがノクスを引いてやって来た。
エドはノクスの乗って来てたからね。
「ユーキ、ルクスで出るんだろう。じゃあ俺もノクスで行くよ。ルクスに遅れをとるわけにはいかないからね」
「ああ、ルクスとノクスの初陣だね」
お互いに拳を合わせる。
なんと、ルクスとノクスも鼻先を合わせている。




