第76話 ボルテックスパニッシュ!!!!
直径約100メートル、高さ数百メートルの大竜巻がゴブリンの群に襲いかかり、一気に周囲を巻き上げながら進んで行く!大量のゴブリンが渦に巻き込まれて、あるいは吹き飛ばされている。
ここまで風圧が届き、俺も飛ばされそうだ。
竜巻の移動は高速なので逃げることもできない。
ただし、移動は直進だけ、込めた魔力が尽きると自然消滅する。
ゴブリンどもはパニックで、こちらに襲いかかって来ることもなかった。
10分もしないうちに、俺の竜巻は消滅した。
どうやら最後尾まで到達したようで、ゴブリンの大群の中央部には幅100メートルの道がぽっかりと開き、大群は2分されていた。倒れているゴブリンもかなり多いね。
なんかモーゼの海割りみたいだな。
一旦戻ろう。
今回の大竜巻は、ダンジョンのときの強化版だ。自然界の竜巻は直径1キロメートルに及ぶものもある。俺の魔術の練度ではまだそこまでできない。今回の直径100メートルが今の限界だ。
一応、聞かれたときのために『ボルテックスパニッシュ』という魔術名にしたが、恥ずかしいので聞かないでほしい。
振り返ると、ザックさんがあきれたような顔で俺を見ていた。
「またえげつない魔術だな。俺も飛ばされそうになったぞ。あと何発撃てる?」
「感覚的にはあと2発でしょうか」
「そうか、連発できればお前一人で済んだのにな」
「冷たいこと言わないで下さい!」
「それでこの後はどうすんだ?」
「もう少し数を減らして行きましょう。エド、あれできるよね?」
エドは当然と答える。
「じゃあ俺たちは適当に荒らしてきますんで、ザック兄さんも適当にやっちゃて下さい!」
俺たちはまたゴブリンの群れに駆け寄ると、エアウォークを使い空中に駆け上がった。
そして群れの上空から適当な場所に次々と火炎竜巻を放り込んで行った。
これは直径数メートルのものなので、俺としては気楽に撃てる。
それぞれ10発ずつ火炎竜巻を撃ち込むと、急いでゴブリンの群れを離れる。
エドは魔力切れが近いので、これ以上無理はできない。
下を見るとザックさんが大暴れしていた。
なんだよ、あれ!
ザックさんが剣を一閃すると、斬撃が飛んで100匹くらいのゴブリンが真っ二つになった!
怖っ!
あれソードスラッシュなんだよね?
ちょっと威力が違いすぎるんですけど・・・。
エドと二人でその様を呆然と見ている。
「エド、あの人と争うのやめよう…」
「当然だ…」
ザックさんは、嬉々として剣を振り続けている。
大丈夫か?笑ってるんだけど・・・。
変な薬とか飲んでないよね?
しばらく待っていると、剣を肩に担いで、意気揚々とザックさんが帰ってきた。
「いやぁ、スッキリしたぜ!」
楽しそうでなにより。
ザックさんが前列のゴブリンを片っ端から両断するので、ゴブリンたちは中々前進できずにいた。その上、俺とエドが放り込んできた火炎竜巻が、ゴブリンを追い回しているので、ゴブリンどもは大混乱だった。
ダンジョンの予習が役に立ったね。
「そんで、どうすんだ?」
「魔力も回復させたいんで、一旦戻りましょう」
「わかった。腹も減ったな」
「了解。戻ったらなんか食いましょう」
置き土産にゴブリンの群に火球を何発か打ち込んで、俺たちは外壁に走って戻った。
途中の砦には、すでに遠距離攻撃部隊が配置されていた。
外壁に着くと跳ね橋を下ろしてくれた。
俺とエドはエアウォークで外壁の上に上がったが、エアウォークのできないザックさんは跳ね橋を渡り、階段で上がってきた。
お前ら汚いぞ、とか喚いていたが、できない方が悪い。
「ザック君、エド、ユーキ、ご苦労だったね」
外壁の上ではジェームス様が笑顔で迎えてくれた。
「双眼鏡で見ていたが、あれは竜巻かい?」
「はい、直径100メートルくらいの竜巻です。かなり威力は強くしていますし、直進速度もそこそこです。あの密集具合では逃げられませんし、巻き込まれれば命はないと思います」
「それは怖いね。真ん中がぽっかり開いたから驚いたよ」
「まだ未完成ですが、今のところあれで精一杯です」
「あれで未完成か。十分強力だと思うよ」
「師匠に比べるとまだまだです」
「比べる人は選んだ方がいいよ。それと、何本か火柱が立っているようだが」
「あれも竜巻です。火と風で炎の竜巻を作りました。あれは直径5メートルくらいで小さいんですが、ゴブリンを追いかけます」
「追いかける?」
「はい、魔獣の多い方に動くように作ってますんで、今、ゴブリンは逃げ回ってパニック中だと思います」
「どのくらい続くんだ?」
「魔力が切れるまでなので、もうしばらくしたら消滅すると思います」
「そうか、それでどのくらい減らせたかな?」
「正確にはわかりませんが、三人で三分の一は減らせたかと」
「うん、よくやってくれた。しばらく休んでくれ。君たちが作ってくれた砦でもある程度数は減らせるだろう。連中が外壁につくのはもう少しかかる。そのときまた頼む」
俺たちは外壁を降りて、待機エリアで休むことにした。
魔力は半分くらい残っているが、満タンまで回復しておきたい。空いているテーブルに座ると、ストレージから皿を取り出し、そこに串肉を大量に乗せた。
三人で肉に食らいついていると、ザックさんがエールを出せと言い出した。
戦闘中だけど、エールは酒に入らないらしい。
結局エドもエールを飲んでいたが、俺は身体が未成年なので、以前ルミナスの泉から持ってきた水を飲むことにした。この水、魔力が回復するんだよね。
「ユーキ、あれ出せ、あれ。プルプルした甘いヤツ」
「プリンですか?」
「そうそれ、プリン、プリン!」
ザックさんまでプリン好きかよ。まあ、いいけど。
それにしても俺はあんたの母ちゃんか!
最初会ったときは渋くてカッコいいと思ったけど、最近はダメオヤジ感が漂ってきたぞ。
1時間ほど休憩して外壁に上がると、すでに第一砦からは撤退して、第二砦から遠距離攻撃を行っていた。
そして砦を抜けて外壁に近づいて来るゴブリンも現れ始めていた。
第二砦もそろそろ撤退の時期だ。
間もなく始まる壁外戦のために、門の前には騎馬隊が待機している。
俺の魔力は完全に回復していた。
壁外の草原には大量のゴブリンの死体が転がっているが、押し寄せて来るゴブリンの群れはまだまだ多い。
「ジェームス様、もう一度出て良いでしょうか?」
「何をするんだい?」
「さっきの竜巻を叩き込んできます」
「わかった。そろそろ壁外戦も始まるから、炎の竜巻はやめといてくれ。味方が戦いにくくなるからね」
ジェームス様の言葉を受けて、俺はエアウォークを使って壁外に飛び出す。
走りながら魔力を練り上げる。
外壁の上から確認した最も長く密集しているゴブリンの集団に向かって走ると、ボルテックスパニッシュを放つ!あ、やっぱり言ってて恥ずい・・・。
恥ずいが効果は抜群だ。
一気に万を超えるゴブリンの群れが一掃された!
外壁から大歓声が上がった!
今度は全員に良く見えたのだろう。
もう1発行っとくか。
俺はエアウォークで空中に駆け上がると、密集しているところを探す。
だいぶバラけ始めたな。
よし、あそこだ!
地上に降りると、また魔力を練り上げながら密集地帯に向かって走る。
エアウォークを使いながらだと、まだこの魔術は使えない。集中力が不足する。
よし、ここだ!
2発目のボルテックスパニッシュ!
一瞬くらっときた。魔力がだいぶ減ったせいか?
大丈夫、戻った。
大竜巻がゴブリンの群を巻き上げながら進むのが見える。
再び起こる大歓声!
少しふらつきながら外壁上に戻ると、歓声が俺を迎えてくれた。
ゴールを決めたサッカー選手の気分だ。ゴールパフォーマンス考えようかな?
「ユーキ!無理をしちゃいかん!」
ジェームス様に怒られた。
強制休憩になった・・・。
今度は外壁の上で戦況を見守る。
信号弾が打ち上げられ、第二砦の撤退が始まった。
第二砦の人たちは、堀のところまで走ると、全員がエアウォークで外壁に上がってきた。
「なんだよ、騎士団は全員空中散歩が使えんのか!ユーキ、今度教えろ!」
いつの間にか隣にいたザックさんに小突かれた。
痛えな、それに空中散歩じゃないし!
かなり減らしたとは言え、まだまだ多いゴブリンの大群が外壁に近づいて来る。
そろそろ壁外戦かと思ったら、ジェームス様が立ち上がる。
「さて、私も少しは働こうか。私の魔術は味方がいると撃てないんでね」
ニコリと笑って俺にウインクをするジェームス様。これはエリカ様が惚れるわけだ。
ザック兄さん、見習ってくれ。




