第75話 まずは一撃
「フレッド!」
「はッ!」
フレッド団長が駆け出して行った。
レグルス防衛の訓練は何度も行っているので、この先の動きはスムーズだ。
「俺たちも戻る!冒険者はどこに配備する?」
「ひとまず城門前で頼む!その後フレッドから指示させる!」
「了解した!ザックどうする?」
「俺はここで手伝うよ」
「わかった、パーティの連中には言っといてやる」
そう言うと、ギルマスたちも急いで出て行った。
「ジェームス様、私たちはどうしましょう?」
「ユーキ、エド、それにザック君、悪いが君たちには主力になってもらう」
「承知しました」
「10分後に装備を整えて城門前に集合してくれ」
俺たちは会議室を出ると、一旦俺の部屋に戻った。
「ザック兄さん、装備はどうするんですか?」
呼び方は、これで折り合いをつけた。兄上よりは呼びやすい。
「これから装備する」
そう言うと、ザックさんは腰につけていた布袋から次々と防具や武器を取り出した。
え?何それ?
エドも驚いている。
「ザック兄さん、それ・・・」
「驚いたか。『神々のハンドバッグ』というヤツだ」
そう言って、ザックさんは布のまま袋から小型の茶色の古びたハンドバッグを取り出して見せた。
「お前のストレージほどじゃないが、結構入るぞ」
『神々のハンドバッグ』って、元の世界だとシュメールとか、世界中のあちこちの古代遺跡の壁画で、何者かがよく手に持っているやつなんだが。
え?あれってストレージ代わりのバッグだったの?
いや、元の世界とこちらの世界が同じとは限らんが…。
「それはどうやって?」
「ダンジョンだ。王国にもほとんどないぞ。王室が二つ持っているらしいが、貴族でもまず持ってない。どうだ、羨ましいか!」
「いや、俺ストレージあるんで」
「くそ、つまらんヤツめ!」
「なんで『神々のハンドバッグ』って言うんですか?」
「遺跡の壁画で神様みたいなのが持ってるかららしいぞ」
元の世界と同じだ!思わぬ所で共通点が見つかった。
「これも遺跡ダンジョンで見つけたからな」
遺跡ダンジョン!いつか行ってみたい魅惑の響き!
などと言っている場合ではない。今はゴブリンの対処だ。
ザックさんの装備が終わると、俺たちは城門前へと急いだ。
城門前は既に騎士団が整列しており、冒険者たちもほとんど集まっていた。
皆、今のところ怯えた気配はない。むしろ滅多にないスタンピードにやや興奮気味だ。
ただ、数万という数を目の当たりにしたらどうだろう?
まあ、相手は所詮ゴブリン。俺にとっては経験済みの相手だ。
ジェームス様が完全武装の姿で現れた。
階段の踊り場に立ち、整列した俺たちを睥睨する。
「ランカスターの勇士たちよ!今、ゴブリンの大群がランカスターに現れた!ゴブリンどもが何をしに来たのか知らん!観光に来たのか、ランカスターの美味い飯でも求めて来たのか!しかし!残念ながらここにはゴブリンに食わす飯はない!遠路はるばるご苦労なことだが、とっととくたばってもらおうではないか!敵の数は数十万!しかし!ここに数に臆する臆病者は一人もおらん!ゴブリンどもにランカスターを相手にする恐怖を教えてやれ!剣を掲げろ!ここは我らが愛するランカスター!愛する家族のため、友のため、恋人のため、愛するすべての者のために戦え!出陣!!」
「ウオー!!」
鬨の声が地鳴りのように響く。
これがロード・プロテクター!
過去数百年にわたりこの地を護り続けてきたランカスター家の当主。
ジェームス様の迫力がここに集った1万数千の戦士たちの士気を一気に高めた!
作戦は、基本的に籠城戦だ。
最も激戦が予想される北門に、ジェームス様、フレッド団長、騎士団7,000人、そしてAランク、Bランクの冒険者の多くが配備された。
俺たちもここにいる。
北門に到着し、外壁に登って外を見て唖然とした。
数キロ先に広がる黒い帯。
これ全部ゴブリンか!?
縦横に長大に拡がった黒い帯がうねうねと蠢きながらこちらに向かって動いている。
一体何匹いるんだ!?
実際に数十万という数を目にすることがないためピンとこない。
なんだったら100万匹と言われても納得する。
それほどの光景だった。
こんなときなのに、頭の中で、東京ドーム何個分、というフレーズが浮かんだのは日本人の性なのか?東京ドームの大きさ知らんし。
周囲を見回すと、やはり皆愕然としていたが、徐々に自分を取り戻し始めた。
さすがに強者揃い。恐怖でパニックになる者はいなかった。
しかし、この数に囲まれて攻められたらまずい。
外壁の周囲に堀があるとはいえ、この数のゴブリンが攻めてくれば、その死体であっという間に堀は埋まってしまう。
籠城戦もこれだけの数を集められると厳しいかもしれない。
特に相手はゴブリンだ。前回の経験では、死を恐れたり仲間を気遣って進行を止めるという行動は期待できない。
数を減らしつつ、敵を混乱させて壁外で戦うか。
「ユーキ!エド!」
ジェームス様に呼ばれた。
「さすがに数が多い。少し減らせるか?」
「やってみます。どのくらい減らせるかわかりませんが」
「できる限りでよい」
「わかりました。それと、1キロ先くらいに土魔術でいくつか砦を作ってもよいでしょうか?」
「外で戦うつもりか?」
「いえ、数減らしのためです。これから数を減らして来ますが、それでもあの数です。相当程度生き残ります。それを砦からの遠距離攻撃で更に減らします。近づかれたら撤退して、外壁の上から遠距離攻撃を行い、できるだけ外壁に到達するゴブリンを減らしたいと思います」
「なるほど。わかった、土魔術の得意な者を何人か出そう」
「いえ、エドと二人で大丈夫です。なんなら、私たちが作った砦の後方に二段構え作ってもらえれば」
「そうか、ならば頼む!」
「はい!!」
作戦が決まれば直ちに実行。
ゴブリンはまだ3キロくらい先にいる。
俺とエドはエアウォークを使って、外壁の外へ飛び出し、堀を越えて着地した。
すると、俺たちの横でズンという音がした。
見るとザックさんがニヤリと笑って俺を見ている。
うわぁ、この人ジャンプだけで堀を越えて来やがった!
「付き合うぞ」
なぜかこういうセリフが似合うのが憎たらしい。
俺の見かけが子供なのが悔しいよ。
とにかく、ここでうだうだ言っても時間の無駄。
俺はザックさんに頷くと全速力で駆け出した。
外壁からおよそ1キロ地点で止まると、早速作業開始だ。
エドと別れて、それぞれ200メートルくらい間を開けて、高さ5、6メートル、幅20メートル、厚さ1メートルくらいの石の壁を作る。そして、内側に階段と待機場所作って完成だ。
簡易砦なのでサイズは適当だし、撤退前提なので強度もそこそこだ。とにかくスピード優先。
これを3回繰り返し、1キロメートルほどに亘って6個の簡易砦が完成した。
後ろを見ると、土魔術使いたちが、外壁との中間地点に同じような砦を作っていた。
「お前ら随分いい腕だな」
ザックさんが感心したように俺たちを見ていた。
「ダンジョンで、セーフティエリア以外で野営してたんです。命掛けだったんであっという間に上達しました」
お前ら馬鹿なのか、とザックさんが呟いていた。
地図を見せてもらえなかったんだから仕方ないよね。
さて、お次は数減らしだ。
三人でゴブリンの大群の中央部へと走って行く。
1キロメートルに近づくと、サーチは真っ黒だ。とても数を数えることなど不可能だった。
500メートルまで接近したところで一旦停止する。
いや、ゴブリンの大行進。すごい迫力だね!
砂煙を上げながら近づいて来る。
横幅はどのくらいあるんだ?
「まずは一撃喰らわします」
「何をやるつもりだ?」
「まあ見てて下さい」
俺は魔力を練り上げる。
大規模魔術は、まださすがに一瞬では発動できない。
更に魔力を練り上げる!
ゴブリンどものギャアギャア騒ぐ声がうるさい。
俺を見つけて武器を振り上げている。
好きに騒げ。
あと400メートル。
まだ魔力は込められる。
300メートル。
もう少しいける!
200メートル。
そろそろ限界か。
限界まで練り上げた魔力を一気に解放し、200メートル先のゴブリンの群れに向かって魔術を放った!




