第72話 ルクスのハーネス
午後2時半にエミーちゃんのお勉強が終わった。
お買い物にはエリカお姉様も来ることになった。やっぱり心配だよね。
エミーちゃんはルクスに乗って行きたかったようだが、母親には逆らえないようで、エリカお姉様とメイドさんと一緒に馬車に乗っていた。お忍びの護衛さんもちゃんといるようだ。
エドも付き合ってくれる。
俺は手綱なしでルクスに騎乗だ。
教えてもらった馬具の専門店は、馬喰の隣にあった。経営は同じのようだ。
伯爵家御用達の店だ。
ここで色々な種類の馬銜を試してみたが、やはり駄目だった。
口の中に物を入れるのに違和感があるのかな?
通じるかわからないが、ルクスに聞いてみた。
すると、とんでもない返事が返ってきたような気がした。
(ねえトーダ、ルクスなんだけど、今さあ、戦いづらいから馬銜を咥えたくないって言ったような気がするんだけど)
(ああ、ワイもそう聞こえたで)
(どういうこと?)
(どうて、そのまんまやろ)
(天馬って戦うの?)
(当たり前やん!強いで!噛みつきは結構強力やし、口から火吐くやつもおったで。あと蹴りとか蹄も武器や)
マジか!天馬って戦闘するんだ。
ルクスに心話通じるかな?
(ねえルクス、聞こえる?)
お、聞こえるようだ。本当に戦いの邪魔になるから馬銜を付けるのが嫌なのか聞いてみた。
え!?俺やエミーちゃんを護りたいんだって?
俺は思わずルクスに顔を寄せた。
ありがとうね、ルクス。そんなことを思ってたんだね。
君はまだ子供なんだから、そんなこと考えなくてもいいんだよ。
君が強くなくても大丈夫、俺が護るから!俺が強くなって君を護るから。
絶対に俺とトーダとエミーちゃんを護るって?
わかったよ、馬銜はやめよう。
うん、ありがとう。もしものときは護ってもらうね。
結局、鞍とゼッケン、ゼッケンは鞍の下に敷く布だ、それと手綱を買った。
エミーちゃん用にも同じセットを買ってあげた。
最近はお金持ちだし、ルクスと仲良くしてくれるお礼だ。
選んだのはもちろんエミーちゃん。
俺用には黒の鞍、エミーちゃん用には赤の鞍を選んでくれた。
手綱の装着は工夫してハーネスを考えよう。
そのために、革や金具もいくつか買っておいた。
城に戻ったら早速ハーネス作りだ。
多分明日はエミーちゃんが絶対ルクスで走りたがる。だって新しい自分用の鞍が手に入ったんだ。早く使いたいのは子供だけじゃないだろう。
ルクスのサイズを測った後、ルーカス兄上の研究室を訪ねる。
あれ、ルクスとルーカス、名前似てたかな?まあいいや。
ルーカス兄上の研究室には色々道具が揃っているから、革の加工もできる。
「ユーキ、何作る?」
「ルクス用のハーネスです」
一瞬で興味を失ったようだ。
「道具お借りします。あと鉄のインゴットも一つ下さい。錬金釜も使っていいですか?」
「好きにいていい」
ルーカス兄上は自分の研究に戻ってしまった。
俺は買ってきた革を使って、まずハーネスを作る。
イメージは、俺たちの仲間柴犬のシャトルが着けていたハーネスだ。
そう言えばシャトルも最初は首輪を嫌がって、ハーネスにしたんだったな。なんだか可笑しくなる。
成長してからはハルに買ってもらった赤い首輪が一番のお気に入りになったけど。
次に錬金釜を使って、鉄を別の金属に変える。
変えたいのはジュラルミン。
軽くて硬い。
バーディング(馬鎧)ほど本格的ではないが、ハーネスの胸部分に取り付ければ胸部を護ってくれる防具になる。ジュラルミンなら軽くて、ルクスの邪魔にもならないだろう。
あれ、なんか上手くいかない。
イメージが足りないのか?合金だからか?
ジュラルミンの成分てなんだったっけ?
確かアルミと銅と、あとは何だ?
そうだ、と気づきタブレットを出して調べる。
うへぇ、ジュラルミンにも色んな種類がある。
アルミ、亜鉛、マグネシウム、銅、これで行くか。
まずは錬金釜で、アルミ、亜鉛、マグネシウム、銅を順番に作っていく。
そして、それを全部錬金釜に入れてジュラルミンをイメージして錬金する。
成分適当、配合適当、錬金未熟、こんなんでできるんだろうか?
「ユーキ、何やってる?」
「ジュラルミンという合金を作ってるんです」
「ジュラルミン?知らない」
「元の世界にあった合金です。前に言った飛行機、空飛ぶ乗り物のボディにも使われるくらい軽くて強度がある金属です」
「興味深い。手伝う」
それから、ルーカス兄上が手伝ってくれて、正確な分量を測りながら試行錯誤した。
ルーカス兄上は、一回一回の実験を記録しながら成分の分量を変えていく。
やはりこの人はちゃんとした科学者だ。
途中でケイトさんが食事の時間だと言いに来てくれたが、ここで中断はありえない。
俺の食事もここに持ってきてもらうことにした。
そして、試行錯誤を重ねること4時間。
ようやくそれらしきインゴットが完成した。
これが正解かどうかわからないが、とにかく硬くて軽い。これだという感触がある。
「一度できれば大丈夫。錬金釜が認識した。次は直接できる」
錬金釜って記憶装置がついてるのか?
ともかく、俺たちはハイタッチをして、二人で冷めた夕食でジュラルミン完成を祝った。
食事が終わると、俺はジュラルミンもどきを使って、錬金台の上でハーネスに取り付ける胸当て部分を作成した。けど、俺、これなら錬金台なくてもできそうだ。金属性あるし。
こうして、深夜12時を回るころ、ルクス用のジュラルミン胸当て付きハーネスが完成した!
モノづくり楽しい!
そしてふと思い出した。
俺のスーツケースってジュラルミン製だったよな。あれ、ちょっと削って錬金釜に覚えさせればよくないか?
いや、モノづくりは過程こそ楽しんだ!きっとそうだ!
ルクスの胸当て付きハーネスはピッタリで、白馬に白金に輝く胸当てはよく似合っていた。
ルクスもハーネスは嫌がらずに着けてくれた。
白馬に赤い鞍を載せて誇らしげに走らせるエミーちゃんの姿は皆を微笑ませた。
エミーちゃんはルクスのお世話もよくやってくれた。
もうすっかり仲良しだ。
会話が成立しているようにしか見えない。
ルクスは馬銜がなくともこちらの思い通りに動いてくれる。
そして、能力も極めて高い。街の外に遠乗りに出たときに走らせたら、普通の馬の数倍の速度は出せそうだった。
一方でエミーちゃんを乗せたときは、絶対にエミーちゃんを落馬させないよう慎重に動いている。本当に頭の良い馬だった。
これで戦いになったらどんな動きを見せるんだろうね。
戦わせるつもりはないけど。
そんな平和な日々を過ごし、そろそろランカスターへ戻ろうかというころ、家族で午後のティータイムを楽しんでいたときに、お母様から爆弾発言が飛び出した。




