第71話 エミーちゃんとルクス
結局、シェフィールドの領都アルタイルの外壁門に着くまで3時間もかかった。
あの森って遠かったんだな。
俺が外壁門で貴族証を見せたら、門番の一人が急いで馬で駆けて行った。
これはちょっとまずったかな。
城に着くと、俺が帰って来たと言って大騒ぎになった。
参ったな。子供じゃないんだけど・・・。
玄関先には、ケイトさんがオロオロしながら待っていた。
そしてシルビアちゃんと双子ちゃんが駆けてきて、ルクスを見てびっくりしている。
「ユーキお兄様!この馬は?」
「ああ、魔獣にやられて怪我してたんで助けたんだ」
「綺麗・・・」
エミーちゃんがうっとりして見ている。
俺がルクスから下りるとケイトさんが駆け寄ってきた。
「申し訳ございません、私が上手く説明できなくて騒ぎに・・・」
「うん、大丈夫だよ。ケイトさんのせいじゃないし」
精霊が呼んでるんで出かけるなんて誰も信じないよね。
エミーちゃんが目をキラキラさせて近づいてきた。
「ユーキお兄様!触ってもいいですか?」
「ああ、この馬ルクスっていうんだ。ルクス、この子が触っても大丈夫かな?」
ルクスが頷いた。やっぱりめちゃ利口だ。
俺がエミーちゃんにいいよと言うと、エミーちゃんがそっと手を伸ばして、ルクスの顔を優しく撫でた。エミーちゃん、蕩けそうな顔だ。
あ、エリカお姉様のお出ましだ。
「どうしたのかしら?勝手に外泊した上に、中々入って来ないわね」
「はい、すぐに参ります」
「あら?その馬は?」
「それも説明します。とりあえず、厩舎に預けてきますので」
「誰かにやらせればいいじゃない」
「いえ、初めて人間に接するみたいなので、私が連れて行きます」
俺はルクスを連れて厩舎に向かう。
あれ?エミーちゃんがついて来ちゃった。そんなにルクスが気に入ったのか。
「ルクス、この子エミーちゃんていうんだけど、乗せてくれるかな?」
ルクスから、いいよという感情が伝わる。
エミーちゃんに乗ってみるか聞いたら大喜びだ。
エミーちゃんを抱えて、横座り、いわゆる貴婦人乗りで乗せてあげる。
全然怖がらないんだな。
ルクスも自分のことを気に入ってくれたのがわかるのか、とても嬉しそうだ。
厩舎に着いて、厩務員さんにルクスの世話をお願いする。
エミーちゃんは残ってルクスとお話しするそうだ。
本当に気に入ったんだね。
厩務員さんにエミーちゃんのこともお願いして、城に戻った。
応接室で、家族全員集合だ。
ケイトさんが入口の側でしょげている。
さてどう説明するかな。
俺は、トーダのことだけ隠して、昨日の夕方、精霊が騒がしかったこと、何か一緒に来て欲しいという感情が伝わってきたこと、精霊に導かれてここから3時間くらいの森に行ったこと、森に入ると魔獣にやられたあの馬がいたこと、馬を治療して、体力の回復を待って今日帰ってきたこと、概ねこんなストーリーで報告をした。
精霊の声が聞こえるということに、皆が驚いている。
いや聞けないし・・・。どうしよう。ま、トーダがいれば大丈夫か。
そして、俺が行った森は、多分『精霊の森』だろうということだった。
魔獣がいなかったのなら間違いないそうだ。
精霊の森は、入ってもいつの間にか外に出てしまい、森の奥まで行けないらしい。
そうなんだね。
結界のことは黙っていよう。
結局、今度からはちゃんと事前に報告してから出かけるように、ということでお咎めなしになった。
そして、全員でルクスを見に行った。
「これは・・・、見事な白馬だな・・・」
皆がルクスの美しさに絶句している。
ほらルクス、皆がびっくりするくらい君は素晴らしい馬なんだよ!
エミーちゃんはルクス撫でながらずっとおしゃべりをしていたらしい。
俺はルクスの側に行き、撫でながら皆んなに紹介する。
「名前はルクスです。こちらにお世話になることをお許し下さい。ルクス、皆さんにご挨拶」
ルクスは、ブヒヒンと軽く鳴いて、頭を下げるように何度か振った。
「言葉がわかるのか?」
「多分。ここに連れてくるときも、言葉だけで通じましたので」
「なんて利口な」
「それで、こちらに置かせてもらっても?」
「当たり前だろう。ユーキの馬なんだから」
「ありがとうございます」
良かったな、ルクス。一緒にいられるよ。
皆が城に戻るとき、ザックさんが近寄ってきて小声で話しかけてきた。
「おいユーキ、アレ普通の馬じゃねえだろう」
「やっぱりわかりますよね。多分天馬、いやペガサスの奇形だと思います」
「ペガサスだと!本当か!それに奇形ってなんだ?」
「羽根がありません。それで群れから追い出されたところを魔獣に襲われたようです」
「何でそんなことがわかる!?」
「精霊から聞きました」
「お前、本当に精霊と話せるのか!?」
「話せませんよ。何となく断片的に伝わってくるんです」
「そうか・・・。まあ賢明な判断だ。ペガサスってことは誰にも言うな。狙われる」
そう言ってザックさんは去って行った。
エミーちゃんはまだルクスとお話し中だ。
さて、ルクスのお世話でもするか。
エミーちゃんに聞くと、一緒にお世話をすると言う。
厩務員さんから道具を借りて、エミーちゃんと二人でルクスを洗い、ブラッシングをした。
さてルクスの食事はどうしよう。
肉食べる馬なんておかしいよね。
(トーダ、ルクスの食事って干し草でも大丈夫かな?)
(多分なんでも食うで。マナあげるんが一番喜ぶんちゃうか?)
ピカピカに磨き上げてますます美しくなったルクスに聞くと、干し草でも大丈夫だって。
俺は、ルクスに手を添えて、マナを流してやる。
今度はうっすらと光った。ルクスは嬉しそうだ。
「ユーキお兄様、何したの?」
「僕の魔力を少し流してあげたんだよ。こうするとルクスも喜ぶんだ」
「私もやってみていい?」
ルクスを見ると頷いた。
「じゃあちょっとやってみようか」
エミーちゃんの両手を取って、ルクスに軽く添える。
「両手から、ルクスにお友達になってね、って思いながら魔力を流してみようか。ゆっくりね」
エミーちゃんは小声で、ルクスお友達になってね、と言いながら真剣な顔で魔力を流す。
あ、うっすら光った。
ルクスも嬉しそうだ。鼻先を優しくエミーちゃんに擦り付けている。
それにしてもエミーちゃん、魔力量多いな。
「ルクス!今日からお友達!」
と、エミーちゃんがぴょんぴょん飛び跳ねている。可愛いな。妹ってこんな感じなのかな。
明日からは、ルクスの調教やらなきゃね。
それに馬具も揃えなきゃ。
街に買い物に行こう。
次の日の朝、しばらくは騎士団の訓練には参加せず、ルクスの調教をしようと思い厩舎に行ったら、なんとエミーちゃんがもう来ており、ルクスに干し草を食べさせていた。しかも乗馬服を着て。
「おはようエミーちゃん」
「あ、おはようございます、ユーキお兄様!」
満面の笑顔だ。
「ルクスのお世話ありがとうね。エミーちゃんは乗馬が好きなの?」
「乗馬じゃなくて、ルクスが好きなの!」
ルクス〜、と言いながら顔に抱きついている。
ルクスも嬉しそうだ。
これまで群に受け入れてもらえず、ずっと辛かっただろうルクス。
連れてきて良かったな。こんなに好きになってくれる存在がいて。
もちろん俺も君の家族だよ。
さて、ルクス用の馬具を買いに行くのは午後にするとして、少し騎乗に慣れさせたかったんだけど、エミーちゃんがいるなら裸馬では難しいな。
厩務員さんに頼んで余っている馬具を貸してもらう。
しかしここで問題が。
ルクスは、鞍は大丈夫なのだが、頭絡をつけるのも馬銜を咥えるのも嫌がった。
やっぱり野生の馬だしな。
馬銜の材質を変えれば大丈夫だろうか?
専門店でいいの売ってないかな。
仕方ないので、とりあえずは鞍だけつけて、エミーちゃんを乗せて調練場をゆっくり歩かせる。
うん、まったく問題ないな。
試しにエミーちゃんに、止まれや、進め、左右に曲がれなどの指示を出してもらったら、驚くことにルクスは全部間違えることなくこなして見せた。
これは完全に言葉を理解しているね。
なんかこれなら馬銜いらなくね?
通常乗馬の際、馬銜に繋いだ手綱を引いて馬に乗り手の意思を伝えて操作する。
だが、ルクスは言葉を理解して動いてくれる。
どうしても馬銜を嫌がるようなら、ハーネスのような物を作って、そこに手綱を付けることも考えよう。
エミーちゃんはすでに家庭教師から乗馬訓練は受けていた。なので、ルクスで走りたかったようだが、さすがに手綱なしでは危ない。ちゃんと手綱をつけてからにしようねと言うと、わかってくれた。
おっと、メイドさんがエミーちゃんを迎えに来た。
エミーちゃん、お勉強の時間のようだ。
午後にルクスの馬具を買いに行くとき、一緒に行くことを約束させられた。
エミーちゃんが去った後は、ルクスにたっぷり走らせた。
俺は手綱がなくとも鬣を持てば大丈夫だ。
ルクスはさすが天馬と言うべきか、普通の馬とは比較にならないくらい能力が高そうだ。
全力を出したらどれほどの速度になるのだろう?楽しみだな。




