第70話 飛べない天馬
光が収まると天馬が立ち上がった。
うわぁ、本当に綺麗な馬だな。大きさは普通の馬と変わらないな。
とりあえず、やっと離してくれた。これで帰れる。腹減ったし。
「もう大丈夫みたいだね。じゃあ俺たち帰るから。君も元気でね」
あれ?今度はは襟元を咥えられた。
「なあ、離してくれよ。本当に帰らなきゃいけないんだ」
顔を撫でて、そっと咥えた口を引き離す。
天馬はしきりに顔を擦り付けてくる。いや可愛いけどさ。
何となく一緒にいたいという天馬の感情が伝わってきた。
「トーダ、この馬まだ子供だって言ってたよね」
「ほんまに天馬やったら子供や。大人はもっとデカくて羽根があるねん」
「天馬じゃないかもしれないの?」
「知らんわ。せやけど多分天馬やと思うで」
普通の馬でないことは確かだ。だって、身体の中を魔素がガンガン流れている。
なんなら上位の魔獣に近いくらいだ。
しかし、背中に羽根ないな。
「何かに襲われたみたいだから、一人になるのが怖いのかな?」
「わからん。とりあえず一緒におりたいみたいやけど」
困ったが、少しこの子の気持ちが落ち着くまで待つか。
どうせ帰りは遅くなるし。
「トーダ、ここで飯にしようか?」
「プリン食えるんならどこでもええで」
俺は腰を下ろしてストレージからプリンを出してトーダに渡した。
それから調理済みの串焼きの肉やスープを出して食べ始める。
天馬は俺が帰らないとわかって安心したのか、脚を折って俺の側にしゃがみ込んだ。
そして、顔を伸ばすと俺が持っている串肉の匂いを嗅ぎ始めた。
あ!食いやがった!
俺のメシだぞ!ていうか、馬のくせに肉食うのかよ!
「トーダァ、肉食われた」
「腹減ってたんとちゃうか。それよりプリンもう一個くれ」
「プリンはいいけど、馬が肉食うのか?普通草食だろう」
「天馬やから何でも食うやろ」
そうなのか?
試しに皿に肉を出して天馬の前に置いてみた。
おお、食べてる!お腹空いてたのかもね。
それならと、大量の肉を串から外して、皿に山盛りに置いてやる。
バクバク食ってるよ。
喉渇かないか?
そういえば、ここの泉の水も綺麗だったな。
俺はストレージから馬用の水桶を取り出して立ち上がる。
天馬がビクッとして俺の方を振り返る。俺がいなくなると思ったのかな?
大丈夫だよと顔を撫でて、泉に水を汲みに行く。
水桶を天馬の前に置き、トーダにもう一つプリンを渡して寝転がる。
どうしよう。困ったな。
「この馬どこから来たんだろうな?親とか群はどこにいるんだろう?」
「さあな」
「できれば親のところに帰してあげたいけど」
「せやな」
うん。トーダはプリンに夢中だ。
そのときトーダがピクリと顔を上げた。ん?どうした?
トーダはじっと動かない。
俺は慌ててサーチを発動するが何も気配は感じない。
「ユーキ。この天馬、群から追い出されたんや」
「え?」
「羽根なくて飛ばれへんから、仲間はずれやて。ほんで魔獣に襲われて逃げとったとこを、精霊たちが助けたみたいや」
「精霊が言ってるの?」
「ちょっとマシな精霊がいくつかおって、そいつらが言うとる。途切れ途切れでわかりづらいわ」
「なんて言ってる?」
「コノコトベナイ、ハネナイ、イジメ、ナカマハズレ、ナイテタ、サビシイ、マジュウカム、ニゲタ、タスケタ、ヤサシイコ、カワイソウ、タスケテ、オナカスイタ、プリン」
最後はお前だろう。え?精霊が言ってるの?
しかしマジかよ!
ここでもか。
無性に腹が立つ。
周りと違うことの何がいけないんだ!
なぜ自分たちと同じでなければ排除する!
「オナカスイタ、プリン」
うるさい!やっぱお前だろう!
ストレージからプリンを3個出して、一つはトーダに、もう一つは精霊用に、そして最後の一つを天馬に差し出す。
天馬は匂いを嗅いでちょっと舐める。美味しかったのか一口で食べて、俺に鼻を擦り付けてきた。
そうだったのか。
お前は、俺がいなくなるとまた一人ぼっちになるのが嫌だったんだね。
「お前、親に捨てられたのか。気にするな、俺もだ」
俺は天馬を撫でながら話しかける。
「お前が捨てられたんじゃない。お前がろくでなしの親を捨てたんだ」
ハルに言われた言葉だ。屁理屈だけどね、と付け加えて。
「お前の親が捨ててくれたおかげで俺たちは出会えたんだ」
親が捨ててくれたからボクたちは出会えた、ラッキーだね、と言うハルの笑顔が浮かぶ。
「お前俺と一緒に来いよ。俺さ、新しい家族ができたんだ。とってもいい人たちでさ。お前も俺と家族になろう!」
天馬が嬉しそうに鼻を押しつけてくる。
喜んでいる。俺の言葉がわかるのかな?天馬の感情も俺に流れ込んでくる。
「トーダ、今日からこいつも俺たちの家族だ!」
「ええな!仲間ハズレはワイも好かん!」
「そうなると名前がいるな。何がいいかな」
「ワイ、名前考えるの苦手や」
そういえば、ハルが拾ってきた柴犬、俺たちの大事な仲間にシャトルって名付けたのは俺だった。
どうしよう。
この子の特徴は?さっきすごく光ってたな。よし!
「お前の名前はルクスだ!」
俺が天馬の顔を両手で挟んでそう言うと、天馬は再び眩く光った。
嬉しい!という感情が伝わってくる。
「ルクスてどういう意味なん?」
「ラテン語っていう言語で光」
「そうか、ええ響きや。ルクス、よろしゅうな。ワイはトーダや」
「俺はユーキ。今日から俺たちは家族だ!」
ルクスがヒヒンと鳴いた。嬉しそうだ。鳴き方は馬と同じなんだね。
ルクスにもトーダが見えているようだ。
また新しい家族ができたよ。俺も嬉しい。
そうと決まれば帰りたいところだけど、もう夜も遅い。
外壁の門は閉まってるな。俺の貴族証なら開けてもらえると思うけど、城に帰っても厩舎の人たちにも迷惑をかける。
幸いここは穏やかで、魔獣の気配もない。結界のおかげかな?
俺たちは、一晩ここで過ごして、明日の朝帰ることにした。
ところで精霊用に置いていたプリンはいつの間にかなくなっていた。
トーダ、君じゃないよね?
朝、日の出とともに出発する。
森の中は薄暗いが、魔獣の気配もなく穏やかだ。
ルクスはすっかり元気になった。
俺の言葉を理解しているようで、楽しそうについてくる。
今まで辛かったよね。これからは一緒に楽しもうな。
1時間ほどで森を抜ける。
朝の光に包まれたルクスは神秘的な美しさだった。
「ルクス、乗せてくれるか?」
野生の天馬だ。人を乗せたことはないし、見たこともないだろうから心配したが、大丈夫そうだ。なぜだか、ルクスの考えがよくわかる。
俺は鬣をつかんでひらりとルクスに乗る。
裸馬の騎乗訓練はやっているので問題ないが、お尻が痛くなるんだよね。
そうだ、もしかしたらと思い、魔力で柔らかい鞍を作ってみる。おお、いい感じ。
ルクスは俺を乗せてすごく嬉しそうだ。
初めて人を乗せたんだ。
練習がてらゆっくり帰ろう。
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