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第69話 天馬

 欠損の修復は俺から申し出てシェフィールド家でも行った。

 シェフィールド家で働く人たちにも、部位欠損で不自由している人たちがいた。

 ランカスターよりは少なく、全部で7人だった。

 お決まりのように泣いて感謝され、使用人の間では大道芸のできる聖人様、略して大道聖人と呼ばれているらしい。何する人かわからんのだが・・・。

 父上はエリカお姉様からランカスターでの支払いの話しを聞いて、同額を払おうとしたが、これは断固拒否した。


「ランカスターでは、使用人の治療をランカスター家が行うということで、費用をもらっています。今回もシェフィールド家が使用人の治療をするんです。そして私はもうシェフィールド家の人間ですよね。私がやることはシェフィールド家がやるということなので、費用は発生しません」


 こう言って、父上に支払いを断念させた。

 お母様は「いい子が来てくれたわね」とニコニコしていた。

 お母様の笑顔は本当に暖かいな。




 平和で穏やかな日々が続いている。

 もしかしたら、今回の長期滞在は俺に家族となる時間を作ってくれたのかもしれないな。

 だって、あのザックさんでさえ、まだいるんだから。

 今ザックさんは無精髭を伸ばしている。冒険者の沽券にかかわるとか訳のわからない理由で。


 そんなある日、トーダが妙なことを言い出した。


 (ユーキ、なんや精霊が騒いどる)

 (精霊が?)

 (ああ、なんやこれ?カス精霊ばっかやけん、なに言うとるかわかりにくい)

 (危険な感じ?)

 (ちゃうなぁ。なんやワイらに来て欲しいみたいやな)

 (どこに?)

 (知らんわ。ついて行けばわかるんちゃうか?)

 (トーダ行くの?)

 (いや、ユーキに来て欲しいみたいな感じや。なんや必死やな)

 (俺に?)


 今は午後5時。出かけるにはやや遅い時間だ。

 でも精霊が必死に願っている・・・。気になる。

 よし、行ってみよう!


 (行ってみるよ。トーダ付き合ってね)

 (おう、ええで。後でプリンな)


 ケイトさんにちょっと出かけてくる、帰りは何時になるかわからないから食事はいらないと言ったら、何か変な想像をされたようだ。

 慌てて、精霊が呼んでるみたいと言ったら、それは大事だと言って送り出してくれた。

 精霊効果すごいな。


 精霊の動きをトーダに教えてもらいながら歩いて行く。

 既に街の外だ。

 どこまで行くんだろ?


 (トーダ、走ろうか。その方が早いけど大丈夫かな)

 (せやな、精霊も急いどる感じやし)


 俺が魔装で走れば馬よりもはるかに速い。

 精霊がついて来れるか心配したが、どうやら一人?の精霊が案内しているのではなく、精霊の集まりが繋がって導いているらしい。よくわからん。


 誘導されるままに1時間以上走り続けた。

 街からは随分離れてしまった。

 今度は森に入る。

 サーチで確認するが、とりわけ危険な魔獣の気配はない。

 午後6時をとうに過ぎており、森の中は真っ暗だ。

 目に魔力を集めて暗視を有効にし、念のため小さなライトを魔術で浮かべる。

 どんどん森の奥に入って行く。

 一体何があるというのだろう。

 森に入ってからもう1時間以上が経った。


 (ユーキ、もうすぐかもしれんで。めちゃ精霊が集まっとる)

 (ああ、俺も何となく感じる)


 そう、これが精霊の気配なのか、何となく清浄な気配が集まっているのがわかった。


「ところでトーダ。俺たちだけだから声出してもよくない?」

「せやった!癖になってもうたわ」


 二人で笑い合う。慣れって怖いね。


「トーダ!あそこ!」


 前方に森の木々がやや歪んだように見える場所があった。


「あれ結界やな。結構強力や」

「結界?なにそれ」

「場所を分離するんや。神域と俗世を分けたり、邪悪なもんを排除したりな」

「入れないの?」

「いや入れるで。ただ普通の者にはあそこは見えんのや。ただ森があるように見えて、実は見えとらん。せやから素通りしてまうんよ」

「よくわかんないけど入れはするんだね。精霊が連れてきたのってあそこだよね」

「そうみたいやな」


 それこそ邪悪な気配は感じない。

 とにかく行ってみればわかるだろう。

 俺は思い切って結界中に足を踏み入れた。


「え!?」


 そこには小さな泉があり、その畔に真っ白な馬が横たわっていた。

 いや真っ白ではない。

 ところどころに斑らのように灰色の部分がある。

 そして苦しそうな呼吸だ。


「珍しい。天馬の子供やないか?」

「天馬?」

「空飛ぶ馬や」

「馬が空飛ぶのか?」

「馬が飛ぶかいな!飛ぶのは天馬や。それより精霊が騒いどったんはこれやな」


 俺は天馬とやらの側に行き、側にしゃがんで魔力を込めた目で様子を見る。

 天馬は俺に気づいたが、警戒する気力もないようで、荒い呼吸を繰り返していた。

 後ろ脚の腿辺りが一部噛みちぎられている。

 そして、この灰色の斑点はなんだ?

 おぞましい気配を発する気の塊が身体を侵食しようとしている感じだ。

 物理的な物ではない。魔素と同じような、しかし良くない性質を感じる気というのだろうか。


「これ邪気に侵されとるで。早う処置せな死んでまうで!」

「邪気?」

「こっちでは瘴気言うたかな?どうでもええ、早う治したり!」


 そうだ、でもどうやればいいんだ?

 瘴気なら浄化かな?聖女様が瘴気の浄化とか言ってたよな。


 俺はまず脚の治療からかかる。

 ここを何かに咬まれて瘴気が入ったのか?

 いつものように除菌をする。

 うわ、何だ?普通の除菌と違って、物凄く不快なものが俺の中に入ってきた!

 大丈夫なのか、俺?

 オエッ!

 あ、止まった。

 よし、修復だ!

 こりゃまた随分魔力を持っていかれる!修復部位のサイズから予想しなかった魔力量だ。

 これで大丈夫かな?

 天馬がちらりと俺の方を見た。

 呼吸は荒いままだ。

 ちょっと待ってろ、今治してやるから。


 今度は瘴気に侵されてる部分の浄化だ。

 て言うか、斑点一つずつやるのも面倒だ。一気に行くぞ!

 俺は天馬に両手をかざし、思いきり浄化をかけた。


 オエ〜ッ!

 ヤバい、ゲロ出そう!

 必死で堪えて浄化を続ける。

 本当に大丈夫かな、俺。

 オエ〜ッ!

 気持ち悪いよぉ、涙出てきた。

 まだか?

 この繰り返しを1時間ほど続けると、ようやく気持ち悪さが弱まってきた!

 もう一息だ。思いきり浄化する。

 あ、ちょっときた。オエッ。


 はあ、終わったかな?

 天馬を見ると呼吸は穏やかになり、目を閉じて眠っているようだった。

 もう一度身体を確認する。

 なんか魔力の塊みたいな身体だけど、先ほどの瘴気はもう感じられなかった。

 オエッ!思い出したらまたゲロ出そうになった・・・。


「トーダ、大丈夫そうか?」

「おう、すっかり邪気がのうなったな。もう大丈夫やろ」

「邪気と瘴気って同じものなの?」

「よう知らんわ。日本におったときは、これ邪気言うとった。ハルがよう邪気祓いやりよったわ」

「へえ、清明さんも。トーダはやらないの?」

「ワイらはできんのや。イオンもできんかった。邪気持った鬼とかとはよう戦うたけど、祓うんはハルの役目やった」

「そうなのか。でもこれメッチャ気持ち悪いんだけど」

「慣れたらええんちゃうか?」

「・・・これ慣れるかなぁ」


 とても慣れる気がしない。

 アレが身体に入ってくる感触は何とも形容しがたい不快感だ。


「精霊は落ち着いた?」

「ああ、喜んどるみたいや」

「そうか、じゃあそろそろ帰るか」

「帰ったらプリンやで」

「わかってるよ」


 そう言って俺が立ち上がろうとしたら、俺の服が引っ張られた。

 見ると天馬が俺の服を咥えてこちらを見ていた。

 つぶらな瞳で可愛い。


「気がついたか?もう大丈夫だよ」


 そう言ってそっと天馬の顔を撫でてやる。

 天馬は気持ち良さげに目を細めた。


「俺たちそろそろ帰るから離してくれない?」


 そう言っても天馬はじっと俺を見つめているだけで離してくれない。

 うーん、何か食べ物でもあげてみるか。


「トーダ、天馬って何食べるの?」

「何でも食べるんちゃうか?マナやってもええと思うで」

「マナを?」

「日本におったときは、天馬も式神の仲間みたいなもんやったから、多分マナやったら喜ぶ思うで」


 やってみるか。

 俺は撫でている手から天馬にそっと魔力を注ぎ込んだ。

 すると、天馬の身体が光に包まれた!

 今度は何だ?


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