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第68話 ルーカス兄上

 シェフィールド領では、夏に小麦の収穫を終え、秋の種蒔きまでの間はのんびりくつろぐ期間となる。その期間中に、領をあげて収穫祭が行われる。


 今年の収穫祭は、俺たちの滞在中に行われた。

 収穫祭は領内のすべての街や村で行われ、領主であるシェフィールド家は肉や酒を振る舞う。


 俺は、収穫祭の開始の挨拶の際に、シェフィールド家として壇上に並ばされて、新しい家族として領民に披露された。


 久しぶりに登場したエリカお姉様の人気は絶大だった。やっぱりお姫様なんだな。


 同じく久しぶりに登場したザックさんには、貸した金返せ!とか、壊したテーブル弁償しろ!などの野次が飛んでいた。おお、人気あるじゃん。俺がニヤついてたら殴られた。


 俺が紹介されると、十代前半くらいの女の子たちに、キャー可愛い、とか言われてしまった。

 自分の見た目を再認識させられた・・・。


 ただ、ここは領民にアピールするチャンスだと思い、ストレージからランペイジブルを取り出して寄付すると宣言したら、あにはからんや、若い女性たちが悲鳴をあげて逃げ出した。


 一般人に魔獣丸ごとは刺激が強すぎたらしい。ザックさんが笑いを堪えていたので、思いきり足を踏んでおいた。

 その後解体されたランペイジブルは大人気だった。逃げたヤツ食わせんからな!


 収穫祭は、たくさんの出店が通りを彩り、大道芸人が芸を見せ、あちこちの広場で楽器がかき鳴らされて、踊りたい人が踊る。飲んで食べて騒ぐ。


 また、街の何ヶ所かにステージが設けられており、お好きな人が勝手に上がって自分の芸を披露する。なんか博多のどんたくみたいだな。


 俺とエドは、ケイトさん、アニカさんの他、シルビアちゃん、トム君、エミーちゃんも連れて街中を周った。今回の滞在で、トム君、エミーちゃんには随分懐かれた。歳の近いお兄さんができた感じだね。


 ある舞台で素人芸を見ていたら、酔っ払いの一人に無理矢理舞台に上げられて、お前もなんかやれと言われた。俺を見た観衆は、シェフィールド家の新しい家族だ!とか、さっき魔獣出したヤツだ!とか、ザック2世だとかで盛り上がっている。最後のは許せん!


 しかしどうしよう・・・。ここで何もやらなかったら白けるよな。

 ええい、ままよ!

 俺は両手を広げると、まず右手から細い水を出す。

 さっと手を振り、水を左手に移動。

 両手同時に水を出す。

 細い水の糸をどんどん増やす。

 昔テレビで見た伝統芸能の水芸だ。

 細い水を出すのは俺のトイレ魔術ハッピーシャワーでお手のもの。


「はっ」とか「よっ」とか掛け声をかけながら水芸をやったら、大喝采になった!

 なんか乗ってきた!


 次は水でウサギのようなものを作り、跳ね回らせる。

 そして火魔術で、輪っかを作って水のウサギに跳ねながらくぐらせる。

 火の輪潜りだ!

 空中により大きな火の輪を作り、水の鳥もどきを飛ばせてぐるぐる火の輪を潜らせる。

 おお、大喝采!


 よっしゃ!

 右手を高く掲げる。

 ためを作り、花火をイメージして火球を発射!

 空中で弾けると見事な火の花が咲いた。上手く行った!

 連続して色を変えた火球を打ち上げる!

 大歓声だ!

 最後!

 馬鹿でかい花火を打ち上げた!

 うおー、という歓声と共に、ステージにどんどん硬貨が投げ込まれる。

 おひねりきたよ。銀貨も混じってる。

 生活困ったらこれで食っていこう。


 ステージを降りるとシルビアちゃんと双子ちゃんが大はしゃぎだった。

 ケイトさんとアニカさんも大いに喜んでくれた。

 エドは「変な才能あるんだね」とか言っていた。


 その後酔っ払いどもにあちこちのステージに連れて行かれ、同じことを何度もやらされた。

 翌日、領民の間では、シェフィールド家の新しい息子は大道芸人らしいという噂が流れていたらしい・・・。


 収穫祭のフィナーレは、メインステージで行われる精霊の舞。

 シェフィールド領は民間に精霊信仰が根付いている。

 精霊のおかげで農作物の収穫が安定していると言われている。

 トーダも精霊が多いと言っていたし、パトリックさんに聞いたところ、連作障害もないらしい。本当に精霊が土地を豊かにしてくれているのかもしれない。

 ストレージでは5人の少女が、神話時代を思わせるような純白の衣装で、手に麦の穂や葡萄の木の枝などを持ち、笛の音をバックにゆっくりと舞う。


 しかし・・・。

 あの白い面は・・・。

 ダンジョンで会った男の仮面に似ている。

 だが、こちらの面は清浄な雰囲気だ。

 仮面の男の面はもっと不気味な感じがした。

 明らかに違う。

 でもなぜだろう、似ているという思いがつきまとう。


 (ユーキ、めちゃ精霊が集まってきよるで)

 (そうなんだ、俺にはわからないな)

 (目にマナ集めて見てみい)


 言われたように目マナを集めてみる。


 (あ、なんかキラキラしたホコリみたいなのが集まってるね)

 (それが精霊や。な、見えたやろ?)

 (本当だ。綺麗だね)


 精霊と共に舞う少女たちは神秘的な美しさだった。

 それはいいけど、なんかこっちにも精霊が寄ってきてないか?




 この世界では高速交通網が発達していないため、旅行は気軽な娯楽ではない。

 なので、一旦旅行に出ると、割と長期間滞在するようだ。

 今回のシェフィールド行も、1か月ほどの滞在を予定している。

 長期滞在のおかげで、シェフィールド家の人々とも色々交流ができた。


 お母様は、俺のピアノをすごく気に入ってくれて、ときどきお茶の時間にリクエストされて弾いている。もちろん元の世界の曲だ。エリカお姉様は、クラシックよりもJポップの方に興味を示していた。


 父上とパトリック兄上には、領政の概要を教えてもらった。

 その際、元の世界のデータの整理の仕方や各種グラフの利用、データ分析の方法などを説明したら大層感心された。また複式簿記はなかったらしく、理解までには時間がかかったが、理解してからは家令の人を呼んで勉強会になってしまった。領政に取り入れるよう検討するらしい。

 俺に、このまま残ってパトリック兄上を手伝ってくれと言われたが、もちろん拒否だ。

 それでも、初めて会話が通じる兄弟ができたと喜んでいた。わかる。


 シルビアちゃんや双子ちゃんたちとも仲良くしている。

 ピアノを弾いたり、歌を歌ったり、絵を描いたり、ダンスをしたり。

 収穫祭以降危うく大道芸人のお兄様になりかけたが、貴族らしい遊びで挽回中だ。

 トム君は武術の家庭教師もついて訓練していたので、ときどき相手をしてあげて尊敬を勝ち取った。


 そして何よりルーカス兄上。

 錬金術面白すぎる!


「君の世界の錬金術教えて・・・」と、目を合わせずに言われたのが始まりだった。

 ルーカス兄上の研究室と称する別室に連れて行かれ、中に入って驚いた。

 奇妙な大きな釜がある以外は、まるで科学の実験室のようで、見事に整理整頓されていた。


「錬金術危険。整理は重要。ザックには無理」


 完全同意。


 そこで元の世界の電気製品、通信システム、自動車、飛行機、電車、インターネットなど様々な説明をした。スマホとタブレットも見せて、写真も撮って見せた。

 ルーカス兄上は大興奮だった。

 電気や化石燃料の話しにも興味津々だったが、俺の方が上手く説明できない。

 この世界でも蒸気は当たり前のように知られているが、魔術があるせいか、蒸気を活用しようという方向の発達は遂げていない。石炭や石油も見ないな。そのせいか空気が綺麗だ。


 一方で、ルーカス兄上から教えてもらった錬金術は、俺を興奮させた。

 以前の魔術の練習で、金属や木材の変形をしたり、金属を作り出したりしたが、錬金釜を使うと、なんと魔術属性がなくても物質変換ができるのだ!

 例えば銅が金に変わったり、極端なはなしだと木が金属に変わる。

 嘘だろ!と驚愕した。

 ただし、変換比率の問題があり、価値の低い物から価値の高い物を作り出すには、かなりの材料が必要になる。また、釜を操作する魔力量も要求される。

 また、素材の変形だけであれば魔法陣を使うことで可能となり、魔術属性はいらない。

 錬金台と呼ばれる魔法陣が組み込まれた台の上で、自由に加工ができる。

 めちゃ便利!


 魔石と魔法陣の組み合わせで、様々な魔道具が作られている。

 身近な例で言えば、照明や冷暖房、冷蔵庫、オーブンやコンロなどの調理器具、お風呂やトイレ、洗面所などの水回りなど。生活インフラの多くが魔道具で賄われている。

 まだよくわからないが、魔石に色々な属性を持たせて、魔法陣で発動させるということかな。


 ルーカス兄上は、現在通信の魔道具を研究しているらしく、俺の電話の話しは彼を大いに刺激した。

 俺は孤児院育ちのせいで、プラモや工作キットなど、興味があっても手にすることはできなかった。その思いが、錬金術を目にして蘇ってきた。俺も色々作ってみたい!

 錬金術という言葉で誤解していたが、魔道具を作ったり、新たな魔法陣を考えたりするのも、広義の錬金術に入るらしい。

 俺がルーカス兄上からもらった材料を、錬金台を使わずに変形して遊んでいたら、

「ユーキ有能。ここで一緒に研究しよ」

 と誘われた。

 ちょっと心惹かれる。


 この日から、俺はしばしばルーカス兄上の研究室を訪ねるようになり、お母様とエリカお姉様を大いに喜ばせた。ルーカス兄上がこんなに他人と仲良くするのは初めてだそうだ。

 子供のころから、ルーカス兄上の個性は今のままだったせいで、友人が全然できなかったとか。

 偏見って多いよね。付き合えばすごく良い人なのに。

 見かけで無能扱いしたり、自分の主観で決めつけたり、うんざりだ。

 そして、孤立を恐れて自分を曲げて媚びるのはもっとうんざりだ。

 いつ俺がお前たちに迷惑をかけた!

 昔を思い出す。

 弱い自分。

 自分を捨てて周りに媚びようとした俺をハルが引き戻してくれた。

 なんでアイツはあんなに強かったんだろうな。

 ルーカス兄上も立派だ。

 自分を曲げていない。

 意思が強いとかではなく、これが彼にとっての自然なのかもしれない。わからんけど。

 俺は好きだな。

 ということで、ランカスターに戻っても錬金術を勉強しようと心に決めた俺だった。



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