第67話 ザックさん
馬を進めながらエドと話す。
「なあエド、ザックさんって・・・」
「わからん、でもなあ・・・」
「はっきり聞いた方が良かったかな?」
「俺に聞かないでくれよ、ユーキの問題だろ?」
「だってさあ、俺も気が動転して」
「あ、俺も」
「まだそうだと決まったわけじゃないし」
「そうか?かなり確率高いぞ」
「・・・。そうかな?そうかもね・・・」
俺たちは会話が弾まないまま城に戻った。
シェフィールドの身分証は昨日もらった。今度のは貴族証だ。
門番に貴族証を見せる。俺まだ顔売れてないからね。
でも門番はもう知っているみたいで、敬礼で通してくれた。
さすが伯爵家。
部屋に戻る途中でエリカ様に会った。
「あら、街に出かけたんじゃなかったの?」
「はい、ちょっと事情があって戻りました」
「あらそう。もう、弟がまだ来ないのよ、まったくどこをさまよってるんだか!」
エリカ様お怒りである。
もしかしたらですけど、お探しの人は冒険者ギルドに、なんて言えない。
そそくさと部屋に戻った。
その日の夕方。
玄関が騒がしい。
ドアを開けて聞き耳を立てる。
ケイトさんからお行儀が悪いですよ、と怒られた。
エリカ様が怒っている声だ。
なんでさっさと戻らないの、今までどこにいたの、連絡くらいよこしなさい、などかなりお怒りのようだ。反論の声はまった聞こえない。
気配を殺して階段を降りる。
お、2階からエドも出てきた。
二人で息を潜めて階段を降り、踊り場から玄関を窺う。
やはり・・・、ザックさんが項垂れてエリカ様に怒られていた!
そのとき、ザックさんが顔を上げこちらを見た!
Aランク冒険者の気配察知!
目が合ってしまった。
驚いたザックさんの顔。
観念して階段を降り、二人のところへ行く。
「お前らなんでうちにいるんだ?姉貴のお供か?」
「いやまあ、なんと言いますか・・・」
「あなたたち知り合いなの?」
と、エリカ様が不思議そうに聞いてきた。
「知り合いも何も、さっきまでギルドで一緒に飲んでたんだが・・・」
「まあ、そうですね」
「それでなんでいるんだ?」
「あなた何言ってるの!ユーキがうちの養子になったんでしょ!」
一瞬ザックさんがポカンとなる。
「はあ!?お前がうちの養子?」
「まあ、なんかそんな感じで」
「俺は聞いてねえぞ!」
「あなたが連絡よこさないからでしょ!」
ザックさんが俺を睨む。
「おいユーキ!テメェなんでさっき言わなかった!」
「いや、まさかザックさんがシェフィールド家の人だなんて思いもしなかったんで」
「エド!テメェは!?」
「いや俺もまさかザックさんが貴族だなんて」
「いや違う!お前ら俺が貴族だって言ったら気づいてただろう!だからそそくさと帰りやがって!」
図星だ。さすがAランクって、誰でもわかるか。
「おいユーキ!何とか言いやがれ!」
「えーと、・・・おにいさま?」
ゴツッ!
頭殴られた!
バシッ!
今度はザックさんがエリカ様にはたかれた!
「ユーキになんてことするの!」
「いや、コイツはこのくらいじゃ・・・」
「黙りなさい!あなたはユーキが養子になるのに反対なの?」
「いや、別に反対じゃねえけど」
「じゃあ何が不満なの?」
「別に不満があるわけじゃ」
エリカ様がこちらを見る。
「ユーキ、こんな馬鹿が家族でごめんなさいね」
「いえ、とっても素敵なお兄様で」
ザックさんに睨まれた・・・。
この後とりあえず着替えてから、1時間後に応接室に集まることになった。
早目に行って応接室で待っていると、次々と家族が集合してきた。ザックさんを除き。
「ザックめ、ようやく戻ってきたか」
「ザックが帰ってくるの何年ぶりかしら」
「ユーキはザックと知り合いだったんだって?」
「ザック脳筋・・・」
などと、とりとめのない会話が続く。最後はルーカス兄上だ。
そして、10分ほど遅れてザックさんが頭をかきながら渋々といった表情でやって来た。
その姿を見た瞬間、俺はあらゆる自制心をもってしても、笑い出す自分を押さえられなかった。
「ブフッ!」
「ユーキテメェ!笑うんじゃねえ!」
「いや、だって」
そこには貴族服を身にまとい、金髪を綺麗に整えられ、無精髭を丁寧に剃り上げられたザックさんがいた。
「だから帰ってくるのがイヤなんだよ・・・」
「ザックは脳筋」
ルーカス兄上、追い討ちやめて!
その後は和やかに、またときに大笑いしながら家族全員の顔合わせが終わった。
ザックさんという規格外を俺に合わせることに若干の不安があったらしいが、元々知り合いだったということで杞憂に終わった。
俺とザックさんも本来良好な関係だ。ただ、想定もしてなかったことだったのでお互い動転した。家族になることにお互い何の問題もない。むしろ大歓迎だ。ただ、お兄様なんて呼びやがったらぶちのめすと脅された。絶対言ってやる!
ザックさんは父上の足が修復されているのを見て驚愕していた。そして、俺に泣きながら感謝してくれた。どうやら父上の足の欠損は、ザックさんが関係していたらしい。
それから、俺が別の世界から転移してきたことや、俺の聖女様並みの能力の話しなど、すべての事情が話された。主にお姉様によって。
ザックさんはまったく初めて聞いた話しに驚きながら、なるほど、だからウチの養子か、と納得していた。
「ユーキ安心しろ。ウチはちょっとやそっとじゃ揺るがねえ。どこが来ようと跳ね退けてやる!それに形だけじゃねえ。お前は家族だ!血は繋がってなくても俺の本当の弟だ!忘れんじゃねえぞ!」
「ありがとうございます、お兄様!」
「テメェ!ぶちのめすぞ!」
お母様は、あらあら仲良いのね、なんて微笑んでいる。
エリカ様も、久しぶりにザックさんに会えて嬉しそうだ。
パトリック兄上は、なんかユーキ手に入れてウチが得したんじゃない、と言っている。
ルーカス兄上は、異世界の錬金術・・・、と呟いている。すまん、ないんだ。
そして父上は、皆んなの様子を見て満足そうに頷いていた。
いいかもしれない。
まだぎこちないけど、俺も早く心から自然に家族と言えるようになりたいと、そう思った。
翌日の朝の訓練で、久しぶりにザックさんと模擬戦を行うことになった。
俺が魔装を使えるようになってからは初めてだ。
評価試験のときは、最後に魔弾のような魔力の塊を飛ばされて、必死に避けるのが精一杯だったな。さて、どのくらいザックさんに近づけただろうか。
「ユーキ、魔装使えるようになったんだろう?」
「はい、おかげさまで」
「じゃあ最初から魔装で行くぞ。最初はゆっくりな」
「了解です」
ザックさんと対峙する。やはりこの人は強い。
と思ったらいきなり高速の魔弾を撃ってきやがった!
模擬剣で叩き落す!
「へえ、逃げるだけじゃなくなったか」
「最初ゆっくりじゃなかったんですか?」
「蝿が止まるくらいゆっくりだっただろう?」
この野郎!
魔弾機関銃をくらいやがれ!
ダダダダダッ!
「待てこら!やめろ!」
そこには必死に逃げるクマがいた。
あ、ジャンプした。そこ逃げ場ないよ。
俺はジャンプしたザックさんに左手を向け、魔弾機関銃を放つ。
バシバシ当たる。
「こら、やめろ!痛えだろうが!」
誰が止めるか。面白いから両手で掃射してやろう。クヒヒヒ!
「やめろっつってんだろうが!!」
ひえっ!いきなり巨大な斬撃が飛んできた!
間一髪でかわす。
危なっ!当たったら怪我じゃすまないぞ。
「危ないじゃないですか!殺す気ですか!」
「テメェが鬱陶しい攻撃してくるからだろうが!」
「そっちが先にやってきたんじゃないか!」
「手加減してやっただろうが!」
「俺も赤ん坊相手くらい手加減したわ!」
「なんだとこのチビ!」
「うるせぇ脳筋ゴリラ!」
そこからは無茶苦茶だった。
高速でぶつかり合い、魔弾が飛び交う大乱戦。
危険を察知した騎士団員たちは巻き添えをくわないために一斉に退避した。
お互いに息が切れて一旦距離をとったとき、訓練場の地面は抉れまくりで、災害現場のような有様だった。
「馬鹿モン!」
通りがかった父上に怒鳴られて二人とも拳骨をくらい、グラウンド整備を命じられた。
一緒にいたお母様は、また「あらあら仲良いのね」と言っていた。お母様の目が節穴だということが判明した。
ザックさんは、俺は土魔術は苦手だからお前やっとけと言って、さっさと帰ってしまった。
あの脳筋ゴリラとは二度と訓練せん!
ただグラウンド整備をしてもつまらないので、エドに手伝ってもらって、ランカスターと同じようなフィールドアスレチックコースを作っていたら、他の土魔術使いの人も手伝ってくれて、結構立派なコースが完成した。
ランカスターでも訓練に取り入れていることを聞いたシェフィールド騎士団でも、フィールドアスレチックコース巡回を訓練メニューに取り入れることになった。
ただ基礎トレやるより面白いよね。
「なあユーキ、君、ザックさんと互角にやれてたよね」
エドの言葉で初めて気づいた。そう言えば、結構まともにぶつかってたな。
「ザックさん手加減してたのかもね」
「横で見る限り、まあまあ本気だったよ」
「そう?それなら嬉しいけどね」
「俺たち、今どのくらいのレベルなんだろうな?」
「師匠に瞬殺されるレベル?」
「比べるな!」
俺たちもある程度強くなった。
しかし気になるのはダンジョンで会った仮面の男。
あいつが敵だとしたら今の自分では勝てる気がしない。
師匠は別格としても、世界にはまだまだ強者がいる。魔獣もそうだ。
フレッド団長にも勝てないだろうし、ザックさんもまだ本気は見えない。
所詮俺たちは促成栽培だ。
師匠の懸念が何かはわからないが、より強くなっておかなければならない、そんな気がする。
せっかくできた家族だって護りたいしね!




