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第62話 大金を掴んで身を持ち崩したい

 翌朝、髭を剃ったエドと二人で騎士団の訓練に参加した。ジェームス様も見学に来た。

 その結果は、騎士団全体をパニックに陥れた。

 無駄は省こうということで、最初から魔装を使っての訓練となったが、格闘でも剣でも、誰も俺たちのスピードとパワーについてこれなかった。訓練場には俺とエドに完膚なきまでにやられた騎士団員たちが転がっている。まさに死屍累々といった有様だ。対して俺たちはほとんど息も乱していない。

 今立っているのは俺たちと対戦していない者だけだった。

 もっともこの結果には俺たちも驚いている。俺たちこんなに強くなってんの?


「一体どうすれば短期間でここまで強く・・・」


 ジェームス様がつぶやく。

 騎士団長のフレッドさんは隣でずっと唸っている。


「エド、お前たちどんな訓練を」


 副団長の一人がエドに聞いた。


「ひたすらダンジョンで戦いました、ユーキと二人で30階まで。そして何十回も死にかけました。比喩ではなく本当に死にかけました」


 皆が信じられないものを見たような目で俺たちを見ている。

 おい、UMAじゃないぞ俺たち!


 この後、魔術訓練場に移動して魔術も披露した。

 魔術がまったく使えなかった俺と、魔術訓練に参加したこともなかったエドの魔術を見て、魔術部隊の面々は頭を抱えることになった。

 発動速度が圧倒的に違う。更に、それぞれの魔術のバリエーションと威力、魔弾や、魔刃の威力。見たこともない魔術。

 まだ範囲魔術とか、高威力の魔術もあるんだけど。

 あ、お勧めはパイルバンカーなんだけどね。

 え?もういい?そうですか。


 ジェームス様は、ここにきて初めて師匠がエドを評価した言葉の意味を理解したようだ。


 この日を境にランカスター騎士団の訓練メニューは見直され、更に最強の騎士団への道を歩むことになった。団員の血と涙と悲鳴を代償に。俺たち恨まれてないよね・・・。




 俺とエドは、今ランカスターギルドのギルドマスター室にいる。

 テーブルを挟んだ向かいには、不機嫌な表情を隠そうともしないギルマスの厳つい姿がある。

 テーブルの上には、20枚ほどの書類が置かれ、俺たちは神妙な顔でその前に座っている。

 おかしい。今日はダンジョンの獲物の買取金を貰いに来たはずなのに。

 これではまるでヤクザの事務所に連れ込まれて、ゴン詰される一般人ではないか。


「まったく、限度と言うものを知りやがれ!」

「はあ」

「何が、はあだ!かわい子ぶんじゃねえ!」


 親分さんは大変お怒りのようだ。


「では親分!ケジメはエドに指を詰めさせるってえことで」

「何わけわからんこと言ってやがる!さっさと査定を確認して納得したらサインしやがれ!」


 俺のノリについてきてくれない。異世界はハードルが高い。

 目の前の書類は、俺たちが買取りに出した獲物の査定書。

 しかし、金額がおかしい。


「ですが親分!この査定書、金額が間違ってやしませんかい?」

「何で俺が親分なんだ!」

「いや、どう見てもヤクザの親分にしか見えないもんで」

「だからヤクザの親分とはなんだ!?」

「ギャングのボス、痛ってぇ!」


 いきなり頭に拳骨をくらった!


「誰がギャングのボスだ!それに金額はそれで合っとる。俺が何回も確認した!」


 嘘だろう!

 この査定書だと、合計で金貨2,500枚超えてるんだけど。

 日本円の目安で言うと2億5,000万円超え・・・。


 エドと目を見合わせる。


「おいエド、冒険者ってこんなに儲かるのか?」

「・・・」

「俺この前ギルドの報酬銀貨10枚だったんだけど」

「・・・」

「おいエド!戻って来い!」

「うわっ、ああ悪い悪い、なんか起きたまま夢見てたよ」

「多分、夢じゃないよ」


 エドは、改めて書類の末尾の金額を見て今度は青くなった。


「おいお前ら。いい加減とっととサインしてくれんか?」


 ギルマスのドスの効いた声に、俺たちは、慌てて書類にサインをした。


「よし、それで相談だがな。お前ら金貨100枚ずつ渡すから、残りはギルドに預けろ」

「上納金ですかい、親分」


 ゴツッ!

 また殴られた。魔装で防御してもいいけど、余計ひどいことになりそうな気がする。


「何が上納金だ!人聞きの悪いこと言うな!」


「現金が足りないんですか?」

「金はあるが、一気に出すと足りなくなるおそれがある」

「ギルドに預けるメリットは?」

「登録のときに聞いてないのか?利息がつく」


 聞いたっけ?覚えてないな。


「利息は年利何パーセントですか?」

「お前若いのにしっかりしてんな。5パーセントだ」


 何と!現代日本の低金利では考えられない高金利!


「預金はどこでも引き出せるんですか?」

「ああ、冒険者ギルドだけじゃなく、商業ギルドでも、他のギルドでも共通の通帳だ。ただ田舎の小さいギルドだと現金がないこともある」


 どうしよう。エドはまたトリップ中なのか、ぼんやり俺たちの話しを聞いている、のかな?


「大体お前ら、こんな大量の現金、手元に置いとくのは不便だろうが」

「いや俺ストレージあるんで」

「不便だよな!」

「いえ、その・・・」

「不便なんだよ!」

「はい!不便です!」

「ギルドに預ける!いいな!」

「はい!」


 この後警察行った方がいいかな?


「分け方は?」

「二等分でお願いします」

「よし、じゃあちょっと待ってろ」


 そう言うと、ギルマスは、事務のおじさんを呼んで指示をしている。

 ここお茶も出ないな。

 仕方ないのでストレージからコーヒーを出して、俺とエドの分を淹れた。


「エド、コーヒー」

「あ、ありがとう」

「買取金、ギルドに預けるようにしたけど良かったか?」

「あ、うん、大丈夫。いきなり大金だったから驚いちゃって」

「そうだね。ちょっと想定外だったかな。でも、これで俺たちもちょっとした金持ちだね」


 これで俺もお小遣い生活から脱却だ。

 ギルドに預けることに異存はない。むしろこの世界にしっかりした金融システムがあることに驚いた。でも考えてみれば、中世ヨーロッパでも銀行はあったし、江戸時代の日本にも両替商がいたから、不思議ではないな。


「おうお前ら、いいもん飲んでるじゃねえか。俺にも出せ」


 今度はカツアゲが来た!

 俺は喜んでギルマスにコーヒーを差し出した。


「若え奴が大金持つと大概身を持ち崩す」

「ギャンブルと女」

「そうだ、わかってるじゃねえか。お前らも気をつけろよ」

「はい」

「ま、大丈夫そうだな。それでユーキ、お前の事情はあらかたジェームス様とメイデン様に聞いた。大変な目にあったな。こっちの世界で困ったことがあったらギルドも頼れ。冒険者である限り、俺たちも手を貸してやる」

「ありがとうございます」

「ギルドは国から独立した国際的な自治組織だ。貴族の横槍なんぞ跳ね除けてやる」


 おお、頼もしい。

 色々味方が増えていく。ありがたいことだ。


「それと、お前の治癒だがな、冒険者向けには少し安くやって欲しい」

「それはもちろん。ただし、俺が都合のいいときしかできませんが」

「それでいい。悪いな。今報酬は検討中だ。大々的に公表するつもりはないが、すぐに評判になるだろう」

「できる限りはやらせてもらいます」

「すまん。冒険者はどうしても怪我が付き物だ。腕のいい治癒師は喉から手が出るほど欲しい。それで、欠損の修復の話しなんだが」

「はい」

「魔獣にやられて手足を無くして冒険者を引退した者が結構いる」

「そうでしょうね」

「そいつらにも声をかけていいか?わかるだけで何十人かはいる」

「そのくらいなら大丈夫です」

「それで、一人金貨3枚でやってもらえないか?」


 30万円くらいか。そんなにいらないんだけど。


「高くないですか?」

「いや、格安すぎるくらいだ」

「払えますかね?」

「希望者にはギルドから無利息で貸し付ける」

「俺、恨まれませんか?」

「感謝されるよ」


 そうなのかな?まあ、一生の不自由が解消されると考えれば安いのか?


「ユーキ、欠損の修復が金貨3枚なんてありえないくらい安いと思うよ。骨折の治癒とかでもすぐ金貨を取られるんだから」

「そんなに高いのか!」


 エドの言葉に驚く。でも、日本の医療費が安いのは保険制度のおかげだ。自由診療になるとべらぼうに高いもんな。


「そういうことで、まだ少し先の話しになると思うが頭に入れておいてくれ」

「わかりました」


 そのとき、ギルマス指示をしていた事務の男性が現金と通帳を持って戻ってきた。

 俺たちは、金貨100枚入りの皮袋と、通帳ギルマスからそれぞれ受け取った。

 通帳に自分のサインをする。通帳にもギルド証と同じく小さな魔石が埋め込まれていた。

 この通帳とギルド証を提示してお金を引き出すらしい。

 そう言えばシェリーさんからそんなこと言われたような気も。ギルドにお金を預けることになるなんて思ってなかったから、聞き流してた。

 端数分の皮袋は、魔獣を倒した数は俺の方が多いのに均等割りにしたことが心苦しいと言ってエドが受け取らないので、俺がもらうことになった。


「お前ら、一編に大量の獲物を持ち込むのは今回で最後にしろ!今うちの解体と査定の連中は、徹夜作業でダウンしてるんだぞ!それに、あれだけの素材、全部売るのにどんだけかかると思ってやがる!わかったな!」


 お金持ちの俺たちは、ギルマスに怒られながらギルドを後にした。


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