第60話 家族
侯爵家に帰還すると、どういうわけか第二城門で騎士団の一部が整列して迎えてくれた。
騎士団長のフレッドさんまでいる。一体どういうことだ?
「メイデン様!無事のご帰還お喜び申し上げます!」
フレッド団長が敬礼すると、整列した騎士団全員がそれに倣う。
ああ、師匠のお迎えか。そう言えば騎士団の顧問かなんかだったな。
「エドとユーキも随分と男前になったじゃないか!いっそのこと、そのままでいたらどうだ?」
俺たちの伸び放題の髭とぼろぼろの身なりを見てフレッド団長が笑いながら言った。
28歳ならそれでもいいけど、15歳の見かけだと子供が背伸びしてるようにしか見えないんだよな。苦労のアピールだけできたら、すぐに髭剃ろう。
「明日の朝の訓練は出れるか?どのくらい伸びたか見せてくれ」
「わかりました。皆さん覚悟しといて下さいね!」
俺はニヤリと笑いながら答えておく。実際、騎士団だとどのくらいなんだろうね。
「言うじゃないかユーキ!明日はぼろぼろにしてやるから、その格好で来た方がいいぞ!」
他の騎士団員からも笑顔で声がかかる。
何だかいいね。帰るべき場所に帰ってきたという感じだ。
ほんの数カ月なのに、こうして受け入れてくれるこの場所が暖かい。
「ユーキ様!」
声をかけられて振り向くと、そこには右腕の欠損を修復したピーターさんと、失明を治した、あれ?名前なんだっけ?とにかく二人が騎士団の制服を着て立っていた。
「お二人共騎士団に復帰されたんですか?」
「はい、おかげさまでこうして復帰できました。だいぶ鈍ってるんで鍛え直している最中です」
「それはよかった。復帰おめでとうございます」
「これもすべてユーキ様のおかげです」
「そのユーキ様って言うのはやめて下さい。皆んなユーキと呼んでますから」
「いえ!我々にとってユーキ様は神に等しい方。これだけは譲れません!」
「じゃあ神の命令です。様付けだけはやめて下さい」
こんなやり取りで、やっと様付けをやめてもらった。
でも二人とも騎士団に復帰できて本当に良かったよ。
こうしてみると、やっぱり俺の治癒の力は誰かのために使ってこその力だよな。
なぜこんな力を得たのかは知らないが、コソコソ隠すより役立てるべきだよね。
居宅の方に入ると、今度はケイトさんとエドのところのメイドさん、それになぜかシルビアちゃんとトーマス君、エミリアちゃんの双子ちゃんまでが待っていた。なんで?
「ユーキお兄様!ダンジョンでの訓練お疲れ様でした。無事にご帰還され嬉しく思います!」
「ユーキお兄様!お帰りなさい!」
シルビアちゃんと双子ちゃんからのお迎えの言葉は嬉しいけど、ユーキお兄様?
いつからそんな呼び方になったんだ?
エドの方を見ると、エドも驚いたような顔をしていたが、途中でなるほどとつぶやいていた。
「わざわざお出迎えありがとうございます。こんなお見苦しい格好で失礼いたします」
「厳しい訓練の結果ですもの、見苦しくなどありません。それよりお父様が、食事が済まれましたらお部屋にきて欲しいとのことです」
「それを伝えるために。ありがとうございます。後ほど伺うとお伝え下さい」
「はい!」
俺はエドと別れてケイトさんと自分の部屋に戻った。
「ユーキ様、随分とたくましいお姿で」と、ケイトさんが笑いながら言う。
「そうでしょう?見苦しいと思うけど、苦労した証拠を皆んなに見せて同情引こうと思ったんだけどね」
「まあ!でも長期遠征の後は皆様大体そんな感じですから見慣れてますよ」
どうやら俺の目論見は大した効果はなかったようだ。
そう言えば、この世界はこんなことが日常なんだな。
食事の前にお風呂に入る。
久しぶりにケイトさんの介護付きだ。
いかん!久しぶりだと反応しそうになる!素数かぞえよう。
ついでにケイトさんに髭も剃ってもらう。
よろしいんですか?と聞かれたが、子供の背伸びみたいでしょと言ったら、ウフフと笑って剃ってくれた。やっぱりそう見えるよね。
侯爵家の食事も久しぶりだ。やっぱりここのご飯は美味しいね。
そうだ、ランペイジブルとかの食材も渡さなきゃ。
食事の後、コーヒーを飲んでいる間に、これから伺っていいかジェームス様に聞いてくるようケイトさんにお願いした。
ケイトさんがいなくなったところでトーダに声をかける。
「トーダ、起きてるか?」
「うにゃ?おう、起きとるで」
嘘だ。寝てたな。
トーダはほとんどの時間黙って寝ている。
精霊なんてそんなもんだろう。特に何かをするでもなく、そこにあるだけ。
式神も本質は精霊のようなものだろう。
「ダンジョン付き合ってくれてありがとうな。トーダがいると思うだけで随分気が楽だったよ」
これは本音だ。いざとなればトーダが助けてくれる。この保険がどれほど心強かったことか。
「全然かまへんて。本気でユーキ危ないときはワイが必ず助けたる」
「そのときは頼むよ。頼りにしてるよ相棒!」
「相棒かぁ。それええな!」
「トーダも何か希望があったら言ってね」
「せやったら、あの美味そうな肉の煮込み食わしたってくれんか?」
「ああ、ランペイジブルの煮込みかな?わかった、今度作ってもらうよ」
「絶対やで」
そのときケイトさんが戻ってきて、今から応接室にと伝えてきた。
ケイトさんに軽く髪を整えられて、久しぶりの貴族服でケイトさんと応接室に向かった。
応接室の前でちょうどエドと一緒になった。エドも呼ばれていたらしい。
「何だよユーキ、髭剃ったのかよ」
「俺は似合わないからね。君は似合ってるからいいんじゃないか」
「君が皆んなに見せるって言うから剃らなかったんだぞ!俺も剃ってくれば良かった」
部屋に入ると、ジェームス様、エリカ様、師匠、家令のアダムさん、騎士団長のフレッドさんと、侯爵家重鎮が勢揃いだった。なぜかシルビアちゃんもいるけど。
「ユーキ、エド、よく無事で戻った。二人ともかけてくれ」
「ありがとうございます」
俺たちが腰を下ろすとエリカ様がクスクス笑いながら言う。
「エド、素敵なお髭ね。こうして見るとあなたも逞しいわね。ユーキさんもお髭を伸ばしてると聞いてたのに剃っちゃったのね。残念だわ、見たかったのに」
エドが顔を真っ赤にしてうつむいている。
こら、俺を睨むなよ。俺が嵌めたみたいじゃないか。
「ダンジョンでのことはちょっとだけ先生から聞いた。少々厄介なこともあったようだが、それはともかく、随分成長したようだね。うちとしても、君たちの成長は心強いよ」
「いえ、まだまだです」
俺たちは同時に答えた。
そう、師匠の力を見せられたら、自分が強いとは到底言えない。
それに仮面の男。明らかに俺たちより強かった。
それにしてもダンジョンの反応薄いな?大した事件でもないのか?
「ダンジョンの話しはまた別の機会にするとして、今日は別件だ。ユーキ、君の養子縁組が正式に承認された」
ああ、その話しがあったな。貴族の養子縁組は国の承認が必要ということで、申請していたんだった。そうか、承認されたのか。
「これで君は正式にシェフィールド伯爵家の一員になった。君はユーキ・カムラ・シェフィールドになる」
「お手数をおかけしました。ありがとうございます」
そう言われても実感がない。まあ、書類上のことだしな。シェフィールド家に迷惑はかけないように気をつけなきゃ。それにカムラは残るのか。
「ユーキさん、これであなたは私の弟よ。さあ、約束どおりこれからはお姉様と呼ぶのよ」
またエリカ様は何を言い出すんだ!そんな約束したっけ?あれ?そんな話しがあったようななかったような・・・。
「エリカ、急にはユーキも難しいだろう」
ジェームス様がとりなしてくれるが、エリカ様は許してくれない。
「ユーキさん、もしかしたらあなたは、養子なんて書類だけのことと思ってるかもしれないけど、それは違うわ。シェフィールド家はあなたを本当の家族として迎え入れる。父も母もそのつもりよ。あなたがそれを受け入れてくれないと、父も母もどれほど悲しむか」
エリカ様がひどく悲しそうな顔をする。
超絶美人のその表情は悪質な反則ではなかろうか。
えらい罪悪感だ。
しかし、以前も伯爵夫妻に会ったときに感じた貴族の矜持。
俺を養子に迎え入れるということの意味。
この人たちは本気で俺を家族にしてくれる・・・。
一度も持ったことのない家族。
いつからか家族も親戚もいないことを当たり前と信じていた。信じ込ませていた。
俺もハルたちも。
だから俺たちの絆は仲間だけだった。
本当は欲しかったんだろうか?家族と呼べる存在が。
本当は欲しかったんだろうか?帰れる場所が。
わからない・・・。
今更・・・、異世界に飛ばされて今更家族とは・・・
この歳になって家族・・・
いつの間にか俺の目に涙が滲んでいる。
「お、俺は親も兄弟も、親戚すら知りません。本当に天涯孤独です。そんな俺が・・・。俺なんかが本当にいいんでしょうか・・・」
エリカ様がこちらに来てそっと抱きしめてくれる。
「俺なんかじゃないわ。あなたがいいのよ。私たちはあなただから家族にするのよ。あなたは元の世界では28歳って言ってたけど、この世界ではまだ15歳。きっとあなたの心も15歳の子供に戻ってるわ。だから家族に甘えていいの。我儘を言ってもいいの。いいわね、あなたはしっかり私たちの家族になりなさい、ユーキ」
エリカ様の言葉が沁みる。いいのかな?俺に家族ができても・・・。




