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第59話 帰還

 奥の転移装置の魔石に魔力を登録してから、いよいよ帰還だ。

 初めて転移装置を使う。

 一度に10人は転移できるらしい。

 先にジャッキーさんたちが転移する。

 足元が光ったかと思うと、光に包まれてジャッキーさんたちが消えた。

 俺がこの世界に来たときと似ている。


 次は俺たちだ。

 足元を凝視する。

 やはり複雑な紋様が浮かんでいる。

 光に包まれて、次の瞬間には1階のダンジョンの入口近くにいた。

 すごい!この世界に来たときのような引きずられるような感覚はなかった。

 これが解明できれば転移魔術とか使えるんだろうか。


 ダンジョンを出たところで、ジャッキーさんたちが待っていてくれた。

 クランで箱馬車を用意しているから、レクシャールまで乗せて行ってくれるとのこと。

 それにしても久しぶりの外の世界。約2か月弱。

 長かったような短かったような。

 しかし、確実に俺たちの力を上げてくれた。

 俺とエドは師匠にお礼を言った。


「師匠、ありがとうございました!」

「よく頑張ったよ。じゃが、まだまだ未熟じゃということを忘れるでないぞ」

「はい!」


 横で、双翼のメンバーたちが、あれで未熟らしいぞ、とヒソヒソ話していた。

 師匠のお手本を見たらよくわかると思うよ。


 レクシャールに着くと、すぐにギルドに向かう。

 ジャッキーさんたちも一応ギルドに顔を出すとのこと。帰還報告だ。

 討伐した魔獣は、一度クランに戻って、クランで使うものと買取りに出すものを分別するそうだ。ランカスターにクラン本部が、レクシャールに支部がある。結構しっかりした組織なんだね。


 ギルドに着いてジャッキーさんたちとは別れた。

 俺たちは、師匠に連れられて、レクシャールのギルド長にゴブリンの報告だ。

 ギルド長からは、最初に、妖精の棲家のメンバーを助けたことと、獅子の膀胱、もとい咆哮を捕縛したことを感謝された。以前からときどき現れては、不良行為を働いていたらしい。

 その後の師匠の報告に、ギルド長は目が飛び出るのではないかと思うほど驚愕していた。そりゃあそうだろう。数万のゴブリンの大群なんて普通に考えて信じられるわけがない。それに聖女を狙う仮面の正体不明の人物。師匠の話しでなければ、病院を紹介されただろう。

 さらに、数万のゴブリンを俺とエドが二人で倒したと聞いたギルド長は、化け物を見るような目で俺たちを見ていた。言っときますが、本当の化け物は隣の婆さんだからね。

 この話しは、当面秘密とし、ランカスターのギルド長とジェームス様を交えて協議することになった。

 この後、買取りをお願いするのだが、30階までの獲物が大量にあると聞いたギルド長も、興味本位で着いてきた。

 買取り倉庫に連れて行かれて、買取班の人たちの前でストレージから獲物を取り出して行く。

 10階までのものが終わったところでストップがかかる。

 あとどのくらいあるかと聞かれるが、そんなこと知らんよ。夢中で倒してただけだから。


 ギルド長から先に30階辺りの獲物を見せてくれないかと言われたので、アサシンタイガーやオランウータン、ついでに空飛ぶカメレオンや、モスコブラなんかをどさどさ出していたら、またストップがかかった。

 ギルド長や買取班の人たち、騒ぎを聞きつけてやって来た解体班の人たちが呆然と立ち尽くしていた。

 結局、深部の素材はランカスターでも需要が高まっており、買取金額の問題もあるから、全部ランカスターに持ち込んでくれということになった。

 なんだよ、やっとまとまった稼ぎになると期待してたのに。

 相変わらずのお小遣い生活だ。


 この日はレクシャールの代官屋敷に一泊し、翌日領都のレグルスに戻ることにした。

 ギルドを出るとき、ヒソヒソ声でオッパイ聖人?とか言っているのが聞こえたが、絶対俺のことじゃない!きっとオッパイ好きのオッサン冒険者でもいるのだろう!きっとだ!


 代官屋敷では帰還したことをとても喜ばれた。久しぶりにしっかりした風呂に入り、テーブルでゆっくり食事をし、ベッドで熟睡した。睡眠前の基礎訓練はやるけどね。習慣だ。

 無精髭は、二人とも侯爵家に戻るまで剃らないことにした。

 代官からはぼろぼろの服も心配されたが、このまま帰る!

 苦労を見える形でアピールしたい年頃なのだ!



 翌日は早朝に出発し、午後4時ころには領都レグルスに到着した。

 レグルスでは、まず冒険者ギルドに向かった。

 受付にシェリーさんがいたので、シェリーさんに帰還報告を行ったが、俺たちのぼろぼろの身なりと、伸び放題の髪や無精髭の姿を見て、涙を滲ませて大変でしたねと言ってくれた。いい子だ。そして作戦成功だ。

 ちなみにギルドに入ってくるとき、またもオッパイ星人という単語が聞こえた。ここにもオッパイ好きのオッサンがいるようだ。そうに違いない!

 それと、ワイルドエド君素敵という女性冒険者の声も。エド、爆発しろ!


 そして今俺たちは師匠に率られ、ギルド長の部屋で大人しく座っている。

 ギルド長は正式にはギルドマスター、通称ギルマスというらしい。

 バッカスさんという名前の2メートルはあろうかという巨漢の中年だ。


「聖女様を狙う仮面の男に数万のゴブリンですか・・・」


 バッカスさんがジロリと俺とエドを見る。


「そしてこの二人が数万のゴブリンを全滅させたと・・・。メイデン様の話しじゃなきゃ笑い飛ばすところだ」


 メイデン師匠は黙っている。


「仮面の男の正体もだが、数万のゴブリンをどうやってダンジョンに連れてきたのか」

「そうじゃな。ゴブリンなんぞ、最近ではダンジョン以外じゃ滅多に見かけなくなっとった。通常28階にゴブリンは出ない。ダンジョンの魔獣は階層の移動はせん。そうなると、あの大量のゴブリンがどこからやってきたのやら。その上、ゴブリンどもは、仮面の男に従っておった」

「仮面の男は宙を飛んで消えたんですね?」

「そうじゃ。アタシの探知でも追えんかった」

「ふぅ、厄介事になりそうですな」

「国にはジェームスから話しを入れさせる。ギルドの方は任せるぞい」

「承知しました」


 バッカスさんは椅子に大きくもたれて、再びこちらを見る。


「おいエド。お前ランクいくつだった?」

「Cです」

「そうか、いつの間に腕を上げたんだ?」

「ここのところかなり訓練を頑張ってたんですが、今回のダンジョンで何回も死にかけましたから、それでだいぶ経験を積んだと思います」

「メイデン様の特訓か・・・。うらやましいな」


 このオッサン何言ってるんだ?師匠の特訓がうらやましいだと?


「それとユーキだったか。お前ランクは?」

「Dです」

「歳は?」

「15歳です」建前上は。

「15か。お前には妖精の連中や双翼も世話になったみたいだな。ありがとうな」

「いえ、たまたま居合わせただけですから」


 バッカスさんが、今度は師匠に向かう。


「メイデン様、こいつの治癒能力は」

「お前さんには正確なところを言っておこう。ユーキは欠損の修復ができる。無くした手足も生えてくるよ」

「なんと!そこまで!」

「どうせそのうち評判になる。ギルドでも守ってやんな」

「隠さないんですか?」

「本人にその気がないからね。困ってる者がおったら助けたいそうじゃ」

「しかし、国や貴族、それに神殿も・・・」

「そっちはジェームスたちが何とかするよ。冒険者たちはあんたが抑えておくれ」

「こりゃまた、大変なルーキーが現れたな・・・。腕もたつんですね?」

「二人ともAの上の方くらいまでには仕込んできたよ」

「魔術の方は?」

「アタシが直接教えたんじゃよ、魔術師としてもいけるよ。特にユーキは、範囲魔術や大規模魔術ならこの国でも上位じゃ。弱味は経験が少ないことくらいじゃな」


 ちょっと待て!俺たちそんなレベルになってんの?聞いてないぞ!

 エドも驚いてるじゃないか!俺たちそんな自覚ないよな・・・。

 バッカスさんなんて絶句してるし。


「お前ら、ダンジョンの獲物持ってきてるんだったな。この後見せてくれ」


 立ち直ったバッカスさんが、俺たちに言う。実力確認かな。


 この後俺の治癒の話しに戻り、治癒を希望する冒険者がいたら依頼としてギルドを通すことになった。報酬は不要と言ったが、それだと治癒師や街の病院と軋轢を生むということで、相場の報酬を取ることになった。でも、普通の怪我なら俺じゃなくてもいいだろう。俺にしかできないのは欠損修復だよな。相場なんてあるの?


 バッカスさんへの報告が終わり、俺たちは解体所に移動した。

 相当な数があるということで、査定担当数人と解体作業員数人、それにシェリーさんも立ち会っている。ギルマス含めてゾロゾロいるものだから、野次馬まで集まってきた。

 解体担当の人が指定した場所に、ストレージから次々と魔獣の死体を出していく。

 30階分だから大変だよ。

 どさどさと積み上がる魔獣の山。

 言葉をなくすギルド職員と野次馬たち。

 知ったことじゃない。今日は何としても引き取ってもらうんだ。


「ちょ、ちょっと待て!お前一体どんだけあるんだ!」

「数えてないんでわかりません。でもまだ10階分くらいなんで、この何倍かありますよ。それに、大物はまだ全然出してないんで」

「この馬鹿たれが!一度にこんな量持ち込みやがって!双翼の連中でももっとまともだぞ!」


 バッカスさんに怒られた。


「おい!解体と査定全員集めろ!手の空いてる者もだ!それから、獲物は片っ端からリストを作って冷凍保管庫に移動させろ!貴重なやつも出てくるぞ!」


 バッカスさんの怒声で、この場が一斉に動き出す。


 そこからは戦争だった。

 俺がストレージから出す獲物を、ギルド総動員で回収し、リスト化していった。

 途中で、師匠が必要とする素材と、侯爵家にお土産にするランペイジブルなど、いくつかを除いて、全部の引き渡しが終わったのは2時間後だった。


 バッカスさんからギルドカードを出せとドスの効いた声で言われ、俺とエドが渡すと、シェリーさんがそれを持ってどこかに消えて行った。

 しばらくしてシェリーさんが戻り、ギルドカードをマックスさんに渡した。

 バッカスさんはそれを確認して、俺たちに渡してきた。

 俺に渡すとき、なぜか強烈なゲンコツを俺の頭に落としてきた。痛ってぇ!

 おい!エドは!

 戻ってきたギルドカードにはAの文字が浮かんでいた。

 ギルドの依頼全然やってないけどいいのかな?


 査定は到底今日中にはできないということで、2日後にまたギルドにくることになった。

 シェリーさんは俺たちの昇格をとても喜んでくれた。

 ちなみに俺のAランク昇格は史上最速ではない。現役の騎士団員や騎士団OBなど、既によく知られた信用のある人の場合、登録段階でAランクになることがある。

 一方、15歳でのAランクは史上初かもしれないとのこと。どうでもいい。本当は28歳だし。



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