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第58話 クラン『双翼』(ダンジョン30階)

 風呂から出たエドと師匠の三人で朝食をとる。

 結局、昨日は倒れ込んだまま、朝まで寝ていたことになる。

 油断と言えば油断だが、トーダと師匠がいることで安心していた。

 俺とエドは、朝食とは思えないほどの量をがっついて食べた。

 この3日、まともに食事できなかったからな。


 食後のコーヒーでまったりしていたら、冒険者たちが集まってきた。


「よう、お前ら大変だったみたいだな」

「はあ、何度も死にかけました」

「本当に二人で30階まできたのか?メイデン様は?」

「二人だけです。師匠は、一回だけお手本を見せてくれたかな。まったく参考になりませんでしたけど」

「いや、すげぇな。俺たちでも二人じゃむりだぞ。自殺するみたいなもんだ」


 聞けば、この人たちは全員がAランクの上位で、最前線を攻略中のクラン『双翼』のメンバーだそうだ。

 クランとは、パーティの集合体で、この人たちのクランは200人以上の冒険者が参加しているらしい。ランカスター最大のクランだ。

 前線攻略のための訓練と、収入確保を兼ねて、30階や35階を拠点に活動しているとのこと。ストレージ持ちもメンバーにいる。


 ところで師匠!やっぱり二人で30階は無謀だったんじゃないすか!

 その後、俺たちの話を聞いて、驚いたり呆れたりしながら、結論としてはメイデン師匠に逆らってはいけない、という意味不明なところで落ち着いた。

 ランカスターでメイデン師匠に意見してくれる人はいないらしい。

 その上、お前ら風呂入ってたな、俺たちも3日入ってないんだ、と問い詰められ、風呂まで準備させられた。

 お湯は端っこに捨てとけだってよ。


 鬼の師匠も、今日一日は休息に充てると言ってくれた。

 最初は大喜びだったが、冒険者たちが活動に出て行った後は、二人でぼんやりしてやることがない。暇だ・・・。

 結局、二人で魔装や魔弾、魔刃の強化をせっせと繰り返して過ごすことになった。


 午後5時ころ、活動に出ていた冒険者たちがバタバタと帰ってきた。

 皆かなり焦っている。


「何かあったんですか?」

「マイクがやられた!かなりヤバい!」


 見ると血の気を失った顔の男がぐったりとした状態で背負われている。


「俺が診ます!ここに寝かせて下さい!」

「頼む!」


 どうやら俺が治癒魔術を使えることは聞いているらしい。

 マイクさんがうつ伏せに寝かせられる。

 破れてボロボロになった服を指先に出した魔刃で切り裂いて上半身を裸にする。

 背中にはざっくりと抉られた3本の爪痕。

 そして右肩は抉り取られ、肉と骨が見えていた。

 出血は止まっているが悲惨な状況だ。


「虎ですか?」

「ああ、アサシンタイガーに後ろからやられた。咄嗟に避けて肩で済んだが、出血も酷くて。うちの治癒だとこれが限界だ」


 あいつアサシンタイガーって言うのか。確かに気配消すの上手かったな。


「わかりました」と答えて傷の状態を確認する。

 止血されて、表面的に傷を塞いだだけだ。余分な治療がないからむしろやりやすいかな。

 まず除菌をする。相変わらず嫌な感覚だ。中々慣れない。

 血液をかなり失ったようだが、まだ大丈夫そうだ。

 肩からやろう。

 治癒魔術を施すと、淡い光に包まれて、数秒で肩の骨と筋肉が修復された。

 周りで息を飲む気配がする。

 次に背中。こちらも筋肉が抉られていたので修復治療になった。


「す、すごい!治った!」

「まだです」


 最後に造血。

 自分たちで経験しといて良かった。

 血液は骨髄内の造血細胞から造られる。

 それをイメージして、適正量まで造血されるよう意思を込める。

 マイクさんの顔色が徐々に戻ってきた。

 このくらいかな?

 ある程度顔色が戻ったところで治癒を終える。


「終わりました。多分大丈夫だと思います」


 ウォーッと大歓声が湧き上がった。うるさい!

 興奮した仲間がバンバン俺の背中を叩く!痛い!

 別の仲間が抱きついてくる!臭い!

 今日からお前もクランメンバーだと叫ぶ!入らん!


 ようやく騒ぎがおさまったところで、ついでに他の怪我人の治療も行った。


「ユーキ、ありがとう。本当に感謝する。この礼は必ずクランからする」


 ジャッキーと名乗ったリーダー格の人だ。クランの幹部の一人らしい。


「いやお礼は結構です」

「そうはいかん。戻ったら団長にも報告するが、必ず報酬を払うと思うぞ」

「噂は聞いた。妖精の棲家の子の怪我も謝礼なしで治したそうだな。素晴らしいことだとは思うが、いつまでもそういうわけにはいかんだろう」と、別の人からも言われる。


 確かにそうなんだよね。無料治療の依頼が殺到したら、他に何もできなくなる。

 ジェームス様たちと考えた問題だ。


「そうですね。そのうち何か考えます。今日のところは、30階で一緒になった仲間として、というところでどうでしょう?それと、俺たちが困ったときは助けて下さい」

「まったくお前は。わかった。今日のところはこれで引き下がろう。それよりお前、いつまでもそんな馬鹿丁寧な喋り方してんじゃねえよ。冒険者同士だ。タメ口でこい。エドもだぞ。なあ皆んな!」


 おう!お前らはランカスターの仲間だ!クラン入るなら歓迎するぞ!などの声が上がる。

 ランカスターの冒険者はノリがいい。

 こうなったらまた飯でも出すか。


「わかったよジャッキーさん。これからもよろしく!」


 そう言いながら、ストレージから次々と料理を出す。

 ダンジョン訓練もあと少しで終わる。ならあれも出すかな。

 そう思い、ランペイジブルの煮込みも出した。


「さあジャッキーさん、飯にしよう!」


 再び大歓声!

 皆が食器を持ち寄り、思い思いに料理に手を出す。


「この煮込みうめぇ!」

「あ、それ10階のダンさんの宿屋のやつだよ」

「おお、ダンの店か!今度食いに行こう!」

「そうだな、最近前線ばかりだからな。久しぶりにダンの顔見に行くか!」

「メルちゃん美人になったかな?」

「やめろ!ダンに殺されるぞ!」


 皆んな楽しそうだ。

 元の世界で大勢で屈託なく盛り上がる経験などなかった。

 思えば俺は随分偏った育ちなんだな。

 こういうのもいいなと思えるのは、成長なのか矯正なのか。苦笑してしまう。


 師匠は例によって、ジャッキーさんが出した酒を片手に、ゴツいおっさん3人を従えて威張っている。エドもすっかり冒険者に馴染んでるな。見かけもボサボサ頭に無精髭でワイルドだ。


「ユーキ!さすがに酒はないよな?」

「あるよ」


 ここでも同じだった・・・。




 翌朝、怪我をしたマイクさんはすっかり回復しており、泣きながら礼を言われた。

 このところ泣いて感謝されることが多い。だが、それは棚ぼたで手に入った力のおかげだ。慢心しないように気をつけよう。


 この日、ジャッキーさんたちも一度地上に戻るということで、一緒に次の階段まで向かうことになった。

 師匠は拒否するかと思ったが、概ね予定していた訓練はできたこと、そして想定外に時間がかかったことから、ジャッキーさんたちとの同行を許してくれた。訓練の達成度は80パーセントくらいらしい。厳しい・・・。


 師匠の指示で、魔獣との戦闘はできるだけ俺とエドがやらせてもらうことになった。

 ジャッキーさんたちは少し心配だったようだが、事実二人で30階まで到達しているということから、任せてもらえることになった。

 一晩しっかり睡眠をとり、一日休養したので、俺たちの体調は万全に戻っていた。

 そして確実に強くなっていた。

 一昨日までの苦戦が嘘のように魔獣に対処できる。

 アサシンタイガーも出たが、二人で無傷で倒した。


 ジャッキーさんたちは全員が夢でも見てるかのような表情だ。


「ウソだろ、おい・・・」

「マジか・・・」


 そんな声のする中、ジャッキーさんが問いかけてきた。


「ユーキ、お前ランクは?」

「Dになったところ」

「エドは?」

「ずっとCのまま」

「・・・」


 そうだね。多分今の実力とランクは見合ってないかもね。

 でも、ギルドの依頼する暇がないからな。ランクはこのままだろう。


「そんなDとCがいてたまるか!」

「ランク詐欺だ!」

「そうだ!ランク詐欺だ!」

「間違ってケンカ売るヤツがいたらやばいぞ」


 わいわいうるさい。ケンカは売らんでくれ。買わないよ。


「まあ、実力と乖離がありすぎるな。俺からもギルドに言っとくよ」


 ジャッキーさんがまとめてくれた。

 俺は他の冒険者の戦い方をほとんど見たことがなかったので、ジャッキーさんたちに、戦闘を見せて欲しいとお願いした。なぜか、皆にはすごく嫌そうな顔をされた。


 ジャッキーさんたちの戦い方は実に堅実なものだった。

 二人の盾役が常に敵を惹きつけて、周囲から剣や魔術で着実にダメージを与えていく。

 そして、確実にとどめをさせるまでは無理をしない。

 最後にジャッキーさんの指示でとどめを刺す。

 騎士団の戦い方に似ているが、個々の実力的にはジャッキーさんたちの方が上だ。そう言えば、Aランクの上位と言っていたな。


「どうだ?思ってたより地味だろう」

「いえ、正しい戦い方だと思います。死んだらお終いの戦いです。少しでも安全に対処すべきです。見ていて安心感がありました。大変参考になりました!ありがとうございます!」


 俺の答えにジャッキーさんは嬉しそうに笑った。


「おい、また敬語に戻ってるぞ。それはともかくわかってくれて嬉しいよ。若い奴はどうしても強烈な一撃とか、派手な戦い方に憧れる。だが、俺たちは、戦いを見せる商売じゃない。絶対に死なないこと、仲間を死なせないことが大事なんだ。だから堅実に戦う。安全に戦う。勝てないと思ったら逃げる!」

「はい、まったく同感です。師匠からも勝てなければ逃げろと言われています」


 他のメンバーもホッとしている。どうやら堅実な戦いを見た俺たちが、がっかりするんじゃないかと思っていたらしい。

 とんでもない。元の世界でも常に最も安全な戦いを選んできた。死んだらお終いの生活では、安全策ほど最良策だ。


 その後は、さらにメンバーとも打ち解けて、ジャッキーさんたちのパーティに参加させてもらい、連携の訓練も行った。

 盾役がいると戦いがかなり楽になることを実感した。


 こうして5時間ほどで、次の階段に到着した。

 休憩エリアにはジャッキーさんたちのクラン『双翼』の別のパーティが来ており、交代で活動するらしい。俺たちも紹介されて挨拶した。


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