第56話 大蛇(ダンジョン29階)
ともかく俺たちは急いで29階への階段に向かった。
初めは文字通り無人の荒野を行くという様相だったが、次第に魔獣たちが現れ出した。
どうやら、この階から魔獣がいなくなっていたわけではなく、ゴブリンの数万という大群に押しやられていただけだったようだ。
現れた魔獣は巨大な蠍やガラガラ蛇といった類だった。
蠍と蛇には重力魔術を試してみた。強引に動けば動けるようだが、ほとんど止まっているに等しい。続いてエドが風魔術の竜巻を試してみたが、規模も威力も足りずに通用しなかった。
俺が試したら、見事に巻き上げられた。落下で死ぬことはなかったが、目が回ったのかほとんど動けず簡単に討伐できた。
このレベルの魔獣であれば、まだ俺の現状の魔術でも通用するようだ。
エドは精進してくれ。
次の階への階段で、今日の訓練は終了となった。
今日のは訓練か?
今日の出来事は早目にギルドに報告したいところだが、帰還のための転移装置があるのは5階毎だ。このまま30階に進むか、25階に戻るかの選択だ。
師匠は30階に進むと言った。
今日の仮面の男の様子では、あくまで聖女様が目的で、ダンジョン自体が目的ではなかったし、当面は、また現れる意思もなさそうだった。なので、急いでも同じ。30階までの訓練は継続する、ということだった。
29階。荒野エリア。
師匠に言わせれば、こんな程度は散歩気分で通過できるようになれ、と言うことだ。
誰を基準にしてんだよ。俺たちは人間だぞ。
なにしろ今俺は絶賛飛びトカゲとやらに攫われ中だ。
飛びトカゲは、プテラノドンのような細い身体、嘴ではない。
イグアナを体長5メートルくらいにして無理矢理翼をつけたような奴だ。
こいつ、29階を進んでいると、正面から四つ足でのっそりと近付いてきた。
てっきりただのトカゲの類かと思ったら、いきなり翼を広げて飛び上がりやがった。
俺は魔装を強化して後ろに跳んだところ、こいつの舌が伸びて、一瞬で巻き取られた。
「ユーキ、そいつは飛びトカゲじゃな。飛ぶぞい」
師匠ののんびりした声が聞こえた。
この身体で本当に飛ぶのかよ!
物理無視だな。結構重そうだぞ!
と思っていると、本当に飛びやがった。
俺は、飲み込まれるのを阻止するため、飛びトカゲの開けた口に、マギシールドを拡げてつっかえ棒代わりにした。
結果、こいつは俺を舌で巻き付けたまま、大口を開けた状態で空中を飛ぶという間抜けっぷりである。
なんか涙目になってないか?
さて俺は、脱出しようと思えばいつでもできる。
舌を斬ってもいいし、口の中にパイルバンカーを叩き込んでもいい。重力魔術で落下させることも可能だ。
しかし、そうはせずに俺は飛びトカゲをじっくり観察していた。
そう、どうやって飛んでいるのかに興味があったからだ。
仮面の男は飛んでいた。
つまり魔術で飛べる可能性がある。
この飛びトカゲとやらもそうだ。こいつの翼で、この身体を浮かせる浮力は出せない。
翼は飛行中の制御にしか使われておらず、浮力や推進力は魔力を使っているはずだ。
じっと観察する。
全身に魔力が流動しているのはわかるが、それ以上はまったくわからない。
魔獣は、人間のように魔法体系を構築して魔術を使っているわけではない。
本能で、備わった身体機能の発現として魔力行使しているだけだ。
元の世界では、様々な動物の動きや機能を解析して、技術や運動能力を発達させてきた。
なので、俺もと思ったわけだが、そう簡単にはいかない。
あっ、目が合った。ホントに涙目やん。
もういいか。
飽きてきたので、俺は魔刃を生成して舌を切断すると同時に、重力魔術で飛びトカゲを落下させ、エアウォークで地上に降りた。
再び飛びトカゲと目が合う。
そんな目をしてもダメだ!
情が湧く前に、脳天からパイルバンカーで串刺しにしてトドメを刺した。
師匠たちとだいぶ離れてしまったな。まあいい。方向はわかる。
飛びトカゲをストレージに収納して、飛行魔術について考える。
反重力はさすがに無理か?
俺の文系脳では、空想すらできない。
まずは浮力を得る方法かな。
よし、ゆっくり考えよう。
エアウォークがある現在、今すぐ必要な技術というわけではない。
人間が自力で空を飛ぶということに憧れただけだ。
ひとまず師匠たちと合流しよう。
そう思った矢先、後ろからまた飛びトカゲの気配がした!
後ろを振り向くと、そこには何もいない。
が、サーチでは明らかに飛びトカゲの気配がある。
空中でも地下でもない。一体どうなってる?
攻撃が来る!
俺は見えない攻撃をかわし、ククリ刀を一閃する!
ドサリと音がして、切り取られた舌が現れた。
気配のする辺りを目に魔力を込めて見ると、揺らぎが感じられる。
光学迷彩か!イグアナじゃなくてカメレオンだったらしい。
種がわかれば簡単だ。
気配の頭上からパイルバンカーを落として戦闘終了となった。
飛びトカゲをストレージに仕舞い、師匠たちの方向を確認する。
あれ?エドが何かと戦っているようだ。
俺はゆっくりとそちらに向かって歩き出した。
気配を探知しながら歩くいていたが、エドの方は中々決着がつかないようだ。
強敵か?
俺は全速力でエドのところに向かった。
戦闘現場が近づいてきた。
急に細長いものが屹立した。何だあれは?
消えた!
嫌な予感がする。急ごう!
現場に着くとエドが汗だくの真っ青な顔で、全長20メートルはあろうかという大蛇と戦っていた。
大蛇が屹立する。頭部の左右が団扇のように拡がった。
キングコブラ、いやフードコブラか!
鋭い牙を剥き出しにした大蛇の顔が急降下でエドを狙う!
俺は咄嗟に大蛇の横っ面にパイルバンカーを叩きつけた。
大蛇の顔は撥ね飛ばされたが、パイルバンカーは刺さらなかった。表皮がかなり硬いようだ。
俺はエドの元に駆け寄りすぐに治癒魔術をかける。
「毒か」
「スマン、しくじった。尻尾の先がかすっただけでこの有様だ」
「尻尾にも毒か」
「ああ、気をつけろ。よし、治った!ありがとう、助かった!」
エドの顔色が元に戻った。
大蛇は新たに現れた俺を見定めるように、鎌首をもたげた冷たい目で俺を見ている。
「あいつかなり硬い。俺の剣も魔弾も通らない」
「そうか、試してみるか」
俺は魔弾機関銃を大蛇に向けて撃ったが、すべて跳ね返された。
パイルバンカーも通らなかったんだから当然か。
大蛇が屹立し、シャーという音と共にその頭部が俺とエドに突っ込んでくる。
俺たちは左右に跳んで攻撃を避けた。
よし、エドの動きは戻っているな。
こいつも爬虫類だな。
氷魔術をお見舞いしてやる!
大蛇の身体が細かい氷でみるみる覆われていく。
よし!と思った刹那、パンッ!と音がしてすべての氷が弾き飛ばされた!
何だ!?
迷う暇はない。ならばと、重力魔術をかける。
しかしまたパンッ!という音がして、大蛇は普通に動いている。
魔術が弾かれている?
火炎放射!
これもまたパンッという音と共に、大蛇の目の前で火が消し飛ばされた!
魔術が通用しない、剣が通らない、こりゃ強敵だ!
動きはこちらの方が速い。油断しなければ攻撃は避けられそうだ。
だが、どうやって倒す?
身体の柔らかい部分がないか探すが、全身硬そうだ。
こいつは屹立して身体の前面を晒すから、腹や喉などの表皮も硬い!
考えている最中も、大蛇の攻撃は俺とエドに降り注ぐ。
クソッ!尻尾も厄介だ。思わぬ方向から鞭のように飛んでくる!
マギシールドはなんとか保っているが、一歩間違えば破られそうだ!
また鎌首をもたげた威嚇してくる。
大きく開かれた口から見える牙が凶悪だ。
ん?口の中?
ここならいけるか?
口を大きく開けるタイミング・・・。
こちらの攻撃の後は必ず威嚇してくるな。
よし!
「エド!何でもいいから強力な魔術をアイツの顔に向かって連続して浴びせてくれ!」
「了解!」
こういうとき、エドは余計なことは絶対聞いてこない。
俺に考えがあると察してるからだ。
無駄なやりとりがない。優秀な相棒だ。
エドが、連続して強力な火球を放つ。
パンッ!と音がして火球が弾かれる。
俺が手で攻撃停止を合図すると、エドが魔獣を放つのをやめる。
案の定大蛇は鎌首をもたげて威嚇の態勢に入った!
大蛇が口を開く!
今!
俺は大蛇の口めがけて、最高速のパイルバンカーを放つ!
口内から脳天に向かってパイルバンカーが串刺しに刺さった!
大蛇はのけぞるようにして後方に吹き飛ばされた。
しばらくはのたうち回るように動いていたが、やがて動きは遅くなり、すっかり止まってしまった。
終わった!




