表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/82

第55話 異変(ダンジョン28階)

 2週間が経った。

 俺たちは今28階に足を踏み入れたところだ。

 俺のサーチで、階段の場所は割と簡単に見つけることができた。

 しかし、師匠の方針で、俺たちの経験になりそうな魔獣を見つけては、それを倒すという訓練を優先したため、思いの外時間がかかっている。


 雪原フロアでは、オコジョのような可愛い魔獣がいたが、恐ろしいスピードで駆け回り鋭い爪で魔装も切り裂いてきた。攻撃中も顔が可愛いままなので、ギャップがひどい。魔弾機関銃も当たらない。俺の動体視力では動きが捉えられなかったが、危機察知能力が良い仕事をしてくれた。俺の喉笛を狙って飛び掛かってきたらしく、ゾワリとした感覚と同時に正面にマギシールドを張ったら、ぶつかってひっくり返ってくれた。すかさず斬り倒したが、最後まで可愛いままで、罪悪感が半端なかった。スピードの恐怖を痛感した。


 密林ではゴリラのような魔獣と戦った。

 腕の一振りで太い木をなぎ倒すパワー。

 師匠から、剣と魔装で戦ってみろと言われ、やむなくエドと二人で挑んだ。魔装は思い切り強化して。

 スピードは俺たちが上だ。そう思っても、接近すると恐怖心が勝り動きが鈍ってしまう。

 斬りつけても表面が硬い!レッドベアのときと同じだ。

 ダメージの少ない攻撃を繰り返しているうちに、ゴリラのリーチを見誤り、横薙ぎに払われて吹き飛ばされた。魔装を纏っていたのでダメージはなかったが、体重の軽さはいかんともし難く、何メートルか飛ばされて、木にぶつかり止まった。

 恥ずかしさと怒りから、魔装状態の縮地でゴリラの懐に飛び込むと、ゴリラの顎めがけてエビ蹴りを放った。当然届かないから、足の裏から魔力の杭が飛び出すイメージで。下から突き上げるパイルバンカーだ!これが見事に突き刺さり、魔力のパイルバンカーはゴリラの下顎から脳天を貫通した!

 スピードの次はパワーの恐ろしさを実感した。


 墓場や倒壊寸前の教会のフロアでは、ゾンビだかグールだかの集団に襲われた。

 人間の根源的な恐怖心から、思わず悲鳴をあげて逃げ出してしまい、師匠からこっぴどく殴られた。あの杖で。

 コイツらは、実際のところ動きも遅く戦闘力も高くない。

 ただし、腐りかけの身体で、うぅうぅと呻きながら近寄って来るので、無条件に怖い!おまけに

 強烈に臭い!剣で斬るのが躊躇われるほどに。

 よって魔術一択。

 火魔術で燃やしたら、ますます臭くなった。

 師匠に言われ、昇天してくれと願いを込めて光魔術を放ったら、あっという間にチリと消えてくれた。南無阿弥陀仏!外国だからアーメンか?

 光魔術が効くとわかって以降はこれの乱発だ。魔力量に物を言わせて、遠距離から昇天させまくってやった。昇天、昇天と口にしていたら、脳内で呑気な音楽が流れ始めた。違う!笑点じゃない!

 倒すのは簡単だが、臭いがきつい。そこで浄化を試したら、臭いと澱んだ空気が一気に綺麗になった。ただし、治癒のときと同様に、臭いや澱みを俺が吸収して濾過しているような感覚がある。俺は冷蔵庫の脱臭剤か?実際のところはわからないが、気分的には嫌だった。慣れかな?

 教会では、ぼろぼろの司祭服を着た腐りかけのオッサンが、怒り狂ったような様子で俺たちに魔術を行使してきた。が、光魔術だったらしく、少し元気になった。ますます怒り出したが、うるさそうなのでさっさと昇天させた。

 後にはアミュレットと杖が残されていた。

 魔力は感じるので、何か魔法的効果があるのだろうが、腐りかけのオッサンの物だと思うと、使う気がしない。師匠とエドに、いるかと聞いたら断られた。オッサンが不憫だ。


 さて、その他にも色々とあり、またもや死にそうな目にも遭ったが、今、28階で目の前に広がる光景ほど理不尽なものは初めてだ。俺たちは、その光景を前に呆然と立ち尽くしていた。


「し、師匠・・・、これは・・・」

「・・・さてのう・・・。アタシも初めて見るよ・・・」

「え、えーと、腹も減ったし、そろそろ帰りませんか?」

「そうじゃのう、腹も減ったし・・・、って馬鹿言ってんじゃないよ!こりゃあダンジョンの異変だね。この階はこんなところじゃなかったはずじゃ」


 この戸惑いの原因。

 俺たちの100メートルほど前方に、なんと武器を手にしたゴブリンの大群が、ギャアギャア騒ぎながら立錐の余地もないほど集まっていた!

 大群ははるか先まで続いている。一体何匹いるんだ?

 数千、いや数万?

 中には馬鹿でかいゴブリンもちらほら混じっている。

 ゴブリンは闘志満々のようだが、なぜか向かってこずに、こちらを威嚇するだけだ。

 ここまでくると恐怖よりも戸惑いが先にたつ。


 そのとき一人の人間がゴブリンの群の中央からゆっくりと現れ、こちらに向かって歩き出した。

 人間?気配が魔獣ではない。だが、人間とも少し違うような・・・。

 そいつは紫のフード付きのローブを纏い、顔には真っ白な能面のような仮面をつけている。

 無表情な糸のように細い目、小さな唇だけ真紅だ。身長は俺と同じくらいか。


 そいつは俺たちから10メートルほどのところで止まると、ゆっくりと俺たち3人を見渡した。そして男性の声で俺に向かってこう言った。


「君が聖女か?」

「はぁ?」


 コイツ何を言い出すんだ?


「お前、目は大丈夫か?何のつもりか知らんがよく見ろ!俺は男だ!これのどこが聖女だ!薬必要か?医者紹介するぞ!」


 仮面の男は俺たちをじっと見る。表情はまったくわからない。


「うーん、そっちの二人は明らかに違うし、男っぽい聖女かと思ったが違ったか・・・」


 仮面は首を捻っている。


「それで一体何の用だ?ゴブリンの親玉君」


 俺の問いに対して、仮面の男はとんでもないことを言った。


「いや、新しい聖女が召喚されたって噂を聞いてね。本当だったら早めに殺しとこうと思ってさ。それっぽい気配を辿ってきたんだけど、どうやら違ったようだね」

「聖女を殺す?」

「ああ、気にしないで。君には関係ないから。それよりさあ」


 仮面の男が一瞬で俺に向かって迫ってきて右のストレートを打ってきた。

 おれは瞬時に強化魔装で両手を交差させたクロスガードで防ぐ。


 ドン!!


 衝撃音が響く。

 俺は重力魔術で自身の重量を数倍に増やしていたが、それでも1メートルほど後退させられた。なんて重いパンチなんだ!俺と体格変わらんぞ!


「へぇ、中々やるねぇ。君、別の世界から来た人だろ?わざわざこんな世界にまで来て大変だね。元気でやっていけるといいね。まあ、今日でお終いかもしれないけど」


 仮面の男はそう言うと宙に浮いた。

 エアウォークではない。本当に宙に浮いている。


「聖女がいないんなら用はないや。ゴブリンは置いていくから、君たち遊んでやってくれるかな?じゃあね!」


 そう言うと仮面の男はあっという間に空を飛んでいなくなった。

 おい!ゴブリン連れて帰れよ!


 仮面の男がいなくなった途端、ゴブリンどもはこちら向かって一斉に進み始めた。


「師匠、どうしましょう?」

「コイツらダンジョン産のゴブリンじゃないね。どこから連れてきたのやら。しかし不味いね。ダンジョン産の魔獣は、基本的には生まれた階に縛られる。階層を移動することは滅多にない。じゃが、コイツらは階層に縛られん。ダンジョンの中で暴れられるのも困るが、外にでも出てきたら大事じゃ」

「外に出るって・・・」

「何万匹おるかわからんが、レクシャールの街は大惨事じゃな。その後は領内に散らばってあちこちがやられる。キングや上位種まで混じっておるのう」

「ということは・・・」

「ちょうどいい練習じゃ。二人でやってみぃ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ