第54話 ゴブリンの大群(ダンジョン28階)
俺とエドは引き攣った顔を見合わせた。
拒否権はなさそうだな。
そうと決まれば一刻も早く動く!
俺は即座に28階の入り口を塞ぐように半径10メートルくらいの半円の石壁を土魔術で築いた。高さ10メートル、厚さ5メートル。
そして壁の上に飛び乗り前方を見渡す。
真っ黒な波が押し寄せて来る。
本当に何匹いるんだよ!
(ユーキ!楽しそうやな!ワイも手伝おか?)
(うん、やれるだけやってみるよ。もしものときは助けてくれ)
(おう、いつでも言うてや)
いざとなればトーダが助けてくれると思うだけでも心強い。
師匠とエドも上がってきた。
「ひゃー、すごい数だね」
「まったく。じゃあ、大掃除を始めますか!」
そう言うと、俺は初撃として、向かって来るゴブリンの大群に圧縮した直径1メートルの火球をぶち込んだ!
ズガーン!!
爆音がして、ゴブリンたちがまとめて消し飛んだ。これでどのくらいいけるんだろう?
エドも同じ火球を打ち込む!俺のよりは少し小さいが十分な威力だ!
「エド!まずは前の方を片付けるぞ!」
「了解!」
俺とエドは、二人でゴブリンの前方集団に火球を撃ち続けた。
しかし埒があかない。
黒いゴブリンの波は絶え間なく押し寄せてくる!褐色の肌も集まると黒く見えるね。
波でどうかな・・・
俺は魔力量に物を言わせて、幅100メートルほどの大水流を作ってゴブリンの群れに放った。
おお、ゴブリンどもが押し流されて、その跡がベルトのようにぽっかり空いている。
おもしろ!
俺は、残ったゴブリンの群の方向にも同じ水流を放った。
ゴブリンの大群がだいぶ遠くまで押し流された。
「エド、魔力は大丈夫?」
「一気に使ったからだいぶ減ったけど、まだ大丈夫!それに今の君の魔術で少し余裕ができたから、しばらく回復させてくれ」
「了解、少し休んでてくれ」
今のでどのくらい死んだんだろう。
まだまだ全滅には程遠い。
こういうことがあるから、師匠は範囲魔術や大規模魔術を習得しろと言ってたのか。
一撃で数万を倒せる魔術・・・。
思考が核爆弾に行くが、それはまずい。ダンジョン内で核爆発など自殺行為だし、被害の予想もつかない。そもそもダンジョンでなくとも核はダメだ!
押し寄せる敵に魔術を放つ。こちらの戦力は取り敢えず二人。うん、効率が悪いな。
何か持続的に攻撃できる手段はないか?
考える。
流されたゴブリンはまだ戻って来ない。
ちょっと実験してみるか。
俺は風魔術で小さな竜巻を作る。そして、その竜巻に混ざるように意思を込めて火魔術を放つ。目の前で小さな火の竜巻が渦巻いていた。
よし、行けそうだ!
俺は実験用の竜巻を消して、ゴブリンたちが戻るのを待った。
30分くらい経ってから、中々戻って来なかったゴブリンたちが再び遠くに見え始めた。
随分遠くまで流されたものだ。しかもサーチで確認すると、かなり数が減っている。
雑魚ゴブリンとはいえ、水流の威力は相当なものだった。
しかし、まだ数千から一万くらいはいそうだ。
俺は、エドにちょっと行ってくる、と言って、石壁から飛び降りた。
そして、向かって来ている群れの右端に向かって走る。
1キロほど離れていたが、魔装の足で走ればあっという間だ。
俺はゴブリンの群れに近づくと、火炎竜巻を放った。
今度は直径5メートル、高さは・・・?わからん。
自動追尾機能付きだ!
火炎竜巻は、ゴブリンの群れに突っ込み、ゴブリンたちを巻き上げ、焼き尽くしていく!
俺はその様子を確認すると、その場を離れて、200メートルほど間隔を開けて次の火炎竜巻を放つ。
これを10箇所で繰り返して石壁に戻った。
石壁の上から眺めるゴブリンの群れは、まさに阿鼻叫喚の光景だった。
襲いかかる火炎竜巻。竜巻に巻き上げられる者、火炎で焼かれる者、逃げようとすると反対からも火炎竜巻が襲って来る。
「な、中々えげつない魔術だね・・・」
「まあ、やられる方にはなりたくないね」
「あれは風魔術と火魔術の混合かい?」
「そうだよ、多分エドもできる」
「そうか、使う機会がないことを願うよ」
エドが若干引き気味だ。だけどやらないとこちらがやられるんだからね。
俺も、人がやったのを見る立場だったら引いているかもしれない。しかし、それは自分が安全な立場にいるからだ。自分が生き死にの瀬戸際にいたら、そんな悠長なことは言っていられない。武力行使を批判するのは、いつも安全地帯にいる連中だ。
火炎竜巻は、俺が込めた魔力が尽きるまで続く。
10本の火柱が渦巻いている光景は圧巻だった。
しかし、そろそろ阿鼻叫喚地獄を抜け出して、こちらに向かって来る強者が現れ出した。
「エド、そろそろ生き延びた強いのがこっちに来るぞ」
「そうみたいだね。でも、数百匹か。それにかなり弱ってる」
確かに、図体はデカいが、身体の一部が焼け爛れたり、よろめいている奴もいる。
「ユーキ、だいぶ魔力も回復したから、任せてくれる?」
そう言うと、今度はエドが石壁を飛び降りて、剣を片手に走り出した。
すごいスピードだ。
あっという間にゴブリンに駆け寄ると一撃で斬り伏せた。
エドは走り続けながら、こちらに向かうゴブリンを次々と倒して行く。
まさに鎧袖一触!
見惚れるような強さだ。
これは女の子には見せられないな!
30分経過。
何とエドは残りのゴブリン数百匹を一人で倒してしまった。
(なんやユーキ!ワイの出番なしかいな)
(ごめんごめん、思いの外ゴブリンが弱かったから。まあ、今回は上手く行ったけど、ヤバいときは助けてもらうから)
トーダと話していると、エドが戻って来た。少し息が荒いくらいで平然としている。
これが、数か月前、騎士団の訓練で死にそうになっていた男と同じ人物か!
「どうだった?」
「いや、すごかった!魔術なしだと相手にしたくないレベル」
「それは言い過ぎだと思うけど、俺も結構強くなったよね」
「間違いないね」
火炎竜巻に襲われていたゴブリンもほぼ全滅したようだ。
俺は、すべての火炎竜巻を消滅させた。
サーチで360度確認するが、ゴブリンの残党は見当たらない。
「師匠、探知できる範囲にはゴブリンはもういません」
「二人ともようやった。しかし、あの炎の竜巻は使う場所を選ぶのう」
「そうですね、森の近くでは使えません。そのときは、竜巻の規模と威力を小さくします」
「そうじゃのう。それでも威力は十分じゃ」
「それで、逃げたゴブリンはいますかね?」
「おっても、所詮はゴブリンじゃ。数がおらんと何もできん。このダンジョンの魔獣にやられるじゃろう。心配いらん」
「あのゴブリンたちは、この階の魔獣ではないんですよね。そうすると、元々いた魔獣はどうなったんでしょうか?」
「わからん。元々の魔獣も、あのゴブリンの大群をどこからどうやって連れてきたのかも」
「あの仮面の男は何者でしょうか?」
「・・・わからん」
「人間のようで、少し違うような・・・」
「そうじゃな、どこか妙な気配じゃったな」
このとき俺は、師匠が仮面の男の正体を知っているような気がした。
しかし、人がしゃべりたくないことを無理に聞くつもりはない。
師匠が俺に話すべきと考えたら、教えてくれるだろう。




