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第53話 力のあるもの(ダンジョン21階)

 このランカスターのダンジョン『タイガーピット』は、高難易度のダンジョンだ。

 20階辺りまで来るには通常Aランク冒険者を中心に、10人前後のパーティで挑むレベルらしい。それはそうだろう。ここはゲームではないのだ。死んだらおしまい。大怪我をしても冒険者引退だ。安全マージンを取りながら、ある程度稼げる。そんなバランスを考えての人数だ。

 もちろん、冒険者としての名誉を求めて、あるいは一攫千金を夢見てダンジョンの深層に挑む者もいる。だがそれは一部の高ランクの冒険者たちだ。

 訓練のみを目的として、たった二人で下層に挑もうとする俺たちは特殊なのだ。

 ただ、なんとなく、このダンジョンというものは、人間が挑むべきものとして用意されているような気がしてならない。人間がこの世界で生き延びるために、ここで経験し、成長するために誰かが用意したもの、なぜかそんな考えが俺の頭から離れなかった。


 21階への階段の休憩エリアで、俺たちはゆっくり休んだ。

 他に誰もいなかったので、久しぶりにのんびり風呂に入り、10階の宿屋でダンさんに作ってもらったランペイジブルの煮込みを腹いっぱい食べた。リフレッシュ完了!


 今日から21階以降の攻略だ。

 この先は、活動中の冒険者の数もかなり減ってくる。このため、冒険者の動きから次の階に至る道を推測するのは困難だ。

 30日で30階まで到達するという目標の達成は絶望的だった。

 なにせ11階から20階までで20日かかったのだから。

 俺のサーチの範囲も限界に達したのか、まったく広がる兆候はない。

 さすがにこのままではまずいと考えたのか、メイデン師匠から珍しく方針変更が告げられた。


「アンタらの鈍臭さだといつまでたっても下に行けないからね、ここからは地図を解禁するよ」


 渡されたのは21階の地図。

 ここはエリア全体が丘陵地帯で、22階の階段は右斜めに20キロほど進んだところにある。

 こんなの、ウロウロ歩き回るだけでは、階段発見まで何日かかるかわかったもんじゃない。

 最初に攻略した人は偉いよね。


 試しに地図で確認できる階段方向にだけサーチをかけてみた。すると、これまで約1キロメートル程度しか探知できなかったのが、方向を絞ることで探知距離が格段に延びた。階段の場所も発見できた。階段の場所は、次元の狭間とでもいうのか、独特の気配を持っており、すぐに識別できる。

 そうか、360度にサーチをかけると探知範囲は狭いが、方向を絞って直線的にサーチをかければ相当距離は延ばせるんだ。今でどのくらいだろう?

 レーダーの探知距離で言えば、確かイージス艦で約500キロ、空自の早期警戒機E767で約320キロだったか。

 俺のサーチも工夫によってはもっと距離を延ばせるかもしれない。

 俺はすぐに今の結果を師匠に報告した。

 それを聞いた師匠は、当然のように俺たちから地図を没収した。

 余計な報告をしてしまった・・・。


 ともかく、目指す場所がわかっているというだけで気分は上々だ。

 意気揚々と進む俺たちに、21階最初の敵が現れた。知っている気配。懐かしいな、というほど前でもないか。グリーンベルトで遭遇したブラックウルフの群れだ。


「エド、ブラックウルフだ」

「了解。どうする?」

「素材は駄目になると思うけど、試したいことがある」

「俺はいいよ。何やるの?」

「魔弾の進化形」


 しばらくしてブラックウルフ15頭と遭遇した。

 駆け引きも溜めもいらない。

 俺は即座に両手を前に突き出し、ブラックウルフの群れに向かって左から右に魔弾機関銃バージョンをお見舞いする。

 1分間約1,000発のイメージで掃射した。


 ガガガガッ、と魔弾が地面に当たる音と共に、ブラックウルフがバタバタと倒れていった。

 今のは9ミリ弾のイメージだが、重機関銃もできそうだ。しかも弾切れの心配なく無限に発射できる。うん、魔術はすごい!


 かつて苦労したブラックウルフも、数秒で全滅だ。


「情緒のない魔術じゃのう」


 師匠の身も蓋もない感想が聞こえた。

 いいんだよ、効率重視で。俺は厨二病じゃない。それにこれならコイツにも通用する!


 俺は、上空に向かって魔弾機関銃バージョンを放つ!

 以前魔弾を避けたキラーホークが、全身に魔弾を浴びて墜落してきた。

 まあ、素材としては使い物にならないが。


「ユーキ、それすごいな!魔弾を高速で連射してるのか?」

「そうそう、一発の正確性より数で勝負」

「いいね、俺も練習しよう!」


 攻撃魔術の場合、属性魔術よりも魔弾や魔刃など、魔素を直接操作するものの方が発動が早い。秒以下の違いだが、それが勝負をわける場合もある。属性魔術には、その性質に応じた良さがあるが、魔弾や魔刃はかなり使い勝手が良いし、まだまだ応用もできそうだ。

 それに、元の世界での戦闘の中心が銃器だったせいもあり、ついつい魔弾を多用してしまう。そうなると、当然熟練度も上がってくるもので、魔素の圧縮密度や発射速度もアップし、今ではグロック17よりも威力は上になっている。

 しかし、師匠からは属性魔術をもっとレベルアップするようきつく言われている。

 特に大規模な範囲魔術と、高威力の魔術をいくつか習得しておけとのこと。

 師匠は何を想定しているんだろう。



 その後約8時間くらいで次の階段に到着した。

 途中、何度も魔獣との戦闘を行ったが、俺もエドもさして苦戦するようなことはなかった。

 階段途中の休憩エリアで昼食を食べながら、俺たちもだいぶ強くなったな、とエドと話していたら、師匠から注意された。


「アンタたち勘違いするんじゃないよ。たった20日や1か月程度で急に強くなれるもんかね。アンタたちの基礎戦闘力はほんのちょっと伸びたくらいじゃ。今回やってるのは、アンタたちが元々持っておった力を引き出しとるだけじゃ。これまでは、力を持っておってもまったく使えておらんかった。魔術にしても、能力はあっても訓練不足で宝の持ち腐れじゃ。死にそうな目に遭うてようよう使えるようになったのう。まったく世話のかかることじゃ」


 俺たちは目を見合わせてしゅんとなった。

 すると、師匠はニヤリと笑いながら言った。


「まあ、それでもここまではようやった。戦闘の幅が拡がったのは、ある意味強うなったと言うてもいいじゃろう。ただアンタたちはまだ若い。筋力も魔力量もまだまだ伸びる余地がある。基礎能力が上がれば、更に戦い方の幅は拡がる。鍛錬を怠らんことじゃ」

「はい!」

「強うなることだけが人の目的ではなかろう。じゃがの、この先、強うないと何も護れんときがくるような気がしてのう・・・。義務があるわけじゃない。強制するつもりもない。ただ、誰かがやらんといかんなら、力のあるもんにやって欲しい。アタシの勝手でアンタたち二人を選んでしもうた。すまんかったと思うとるよ」


 師匠の顔はなぜか悲しげだった。


「謝られるようなことはありません。俺は自分の意思で戦える力が欲しいと思ってるだけですから」

「俺も同じです。俺は魔獣に家族を殺されました。俺の力でそんな不幸を少しでも減らす、それが今の俺の望みです!」


 俺とエドの言葉に師匠が嬉しそうに微笑んだ。

 おっ、微笑むとイオンさんの名残が少し。


 元の世界の俺は、無理矢理訓練をやらされ、命令で国を護る任務についていた。別に嫌々やっていたというわけでもないが、自分の意思で選んだ道でもなかった。

 今の俺は自分の意思で力をつけようとしている。きっかけはこの世界で生き延びるため、自分の命を守るため。だが、思わぬ治癒能力のおかげで、純粋に人を助けることに意義を感じている。俺の力はどこか特殊な気がする。だから、その力が誰かの役に立つのならそれもいいのではないか、そんな意識が俺に芽生え始めていた。

 エドは貴族だ。貴族として生まれ、貴族として教育を受けている。だから、人々を護るという点において、迷いはなさそうだった。

 師匠は?師匠は俺と同様、日本からこの世界に来た人だ。


「師匠はなぜこの世界を護ろうとされているのですか?」

「・・・。アタシの友人が命がけで護った世界だからじゃよ。だから、この世界を壊させとうない!」


 師匠の目に一瞬強い光が宿る。


「さあ、休憩は終わりじゃ!先に進むよ!」


 どうやらこれ以上話すつもりはないらしい。

 手早く後片付けをして、俺たちは22階へと乗り出した。


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