第51話 オッパイ聖人
縛り上げた冒険者たちは、一つのパーティが至急10階に戻って、転移装置を使ってギルド職員を連れて来ることになった。10階にもどる道は何度も来ているからすぐだそうだ。
俺たちは散々彷徨ったのに・・・。
獅子の咆哮だか膀胱だかには、もう一人、獣人のポーターがいた。いつも奴隷のように扱われていたらしい。さもありなん。
俺たちがテーブルと椅子を出して昼食を食べていると、女の子のパーティがお礼を言いにきた。
腕を斬り落とされた女の子も意識を取り戻したらしい。
獣人3人、人間3人、全員女性のパーティだった。
獣人と言っても、現代では混血が進んで、耳と尻尾に名残があるだけで、ほとんど人間と変わらない。日本のコスプレに近い、その手の趣味の人にとっては理想的な獣人だ。ただ、身体能力はかなり高いらしい。
「先ほどはありがとうございました」
6人が丁寧に頭を下げる。
よく見ると全員可愛い。二十歳前後かな。
「私たち『妖精の棲家』というBランクパーティです。私はリーダーのリンです」
おお、リーダーっぽい知的な可愛い系美人さん。
「ローズです」ちょっと色っぽいキョニューさん。
「ティアです」黒髪清楚系のおとなしそうな美人さん。
「ポーチです」バクニューの獣人さん。さっき抱きついてくれた子だ。犬系?ポチ?
「レミィです」ちょっと猫っぽい可愛い獣人さん。
「ニーナです!腕を治療していただきありがとうございました!」
この子が腕を斬られた獣人さん。アイドルにいそうな可愛いさ。アイドルが犬耳つけてるようにしか見えん!
自己紹介されたからにはこちらもしないわけにはいかないか。
「Cランクのエドです。よろしく」
「Dランクのユーキです」
こうやって口に出すと、俺たちランク低いね。
俺たちが名乗ると女の子たちが大騒ぎになった。
「やっぱりエド様だ!」
キャー!と、ここでもエドはモテまくりだ。
「それに街の便利屋さん!」
「ユーキだよっ!!」
何やらどこぞの芸人さんのツッコミのようになってしまった。
もうエドとだけ勝手にやっててくれ。俺は飯を食う!
「便利屋さんって治癒もできるのね。ホントに便利ね!」
うるせぇ!あっち行け!
師匠が横で必死に笑いを堪えている。なぜか傷ついた・・・
エドが彼女たちに椅子とお茶を、なんて紳士ヅラしてやがる。
追っ払えよ!と心で毒づきながらも、にこやかに椅子とコーヒーにお菓子までつけて出してしまう気の弱い俺・・・。
すると、いつの間にか他の男の冒険者たちも集まりだして、CとDであれかよ、とか便利屋はザックさんとやってるの見たけどかなり強いぞ、とか、ニーナちゃん天使、リン様に踏まれたいとか口々に騒ぎだした。
ここはギルドの酒場か!
面倒くさいいので大皿に肉串を山盛りにして出してやる。
お前らそれでも食ってろ!
うおー!便利屋は便利!
ユーキだよっ!!
冒険者が騒ぎ出すと止まらない。
どうせギルド職員が来るまでここを動けない。
とうとう酒を出して飲み出した。こいつらダンジョンに酒持ってきてんのか?
なんで師匠までそっちに混ざってんの!
メイデンさま〜!とか言われてご機嫌で飲んでやがる!
「便利屋さーん、お酒はないよね?」
「あるよ!」
ワインとエールを樽で出す。
俺は何をやっているんだろう?
(トーダ、人生は虚しいな)
(そうかぁ?ワイもなんか食いとうなった。肉くれ!)
俺は黙って肉串を頭の上のトーダに差し出す。
トーダが持つと肉串は見えなくなる。
この世界でも俺は孤独だ。
そのとき後ろから俺を抱きしめる柔らかい感触。後頭部にムニュとしたものが押し付けられた。
「ユーキ君、ホントにありがとうね」
えい、離れんか!と思って振り向くと、涙を溜めたポーチちゃんとニーナちゃんがいた。
「ユーキさん、ホントにホントにありがとうございます。このまま腕が無くなってたらと思うと・・・」
涙を流して胸の前で祈るように手を組むアイドルのような姿に、やさぐれていた俺の心が癒されていく。
「ああ、気にしないでください。それより、腕の調子はどうですか?具合の悪いところはないですか?」
「だ、大丈夫です!絶好調です!なんなら斬られる前より絶好調です!」
「良かったです。ニーナさんも本当に災難でしたね」
「あ、はい!でもユーキさんに治してもらえたんで。それで、その・・・」
「はい?」
「その・・・、治療費のことなんですが、すぐにはお支払いできないのですが、一生かかってもお支払いしますので!」
「私も一緒に払うから!だから少し待って欲しいの!」
ポーチちゃんまで何言ってんだ?
「治療費はいらないですよ。たまたま居合わせただけですから」
二人は目を丸くして驚いている。いや、いらないよ。
「ダメです!そんな!」
「そうよ、こんな高度な治癒魔術!」
他のパーティメンバーも集まってきた。
「パーティ全員で支払うつもりですから、治療費はちゃんと受け取ってください」
リンさんの言葉にメンバーたちが頷く。
ニーナちゃんは手で顔を覆って泣いている。
うん、いいパーティだね。
しかしいつもこうなるな。どうすればいいんだろう?
治癒の力なんて宝くじに当たったみたいな感じで偶然手に入った能力だ。
これでお金を稼ぐ気には到底なれん。
ともかくこの場は治めよう。
「まあ、今回はランカスターの仲間が、よその不良冒険者に傷つけられたのを、仲間同士で助けただけ。可愛い子に腕がないのは俺も悲しいから。腕のあるニーナちゃんを見たかったから、俺が勝手に治したんだよ。ほら、治してくれってニーナちゃんから頼まれてないよね。俺が自分の都合で勝手にやったことだから、治療費もなし!はい、おしまい!」
今度はニーナちゃんが泣きながら抱きついてきた。
ポーチちゃんも後ろから抱きついてくる。
ついに俺にモテ期が来たらしい。
妖精の棲家のメンバーも泣いている。
周りの男どもは大騒ぎだ。
うおー!って、いちいち吠えなきゃならん病気なのか?
ーまるで聖女様だ!
ー男だから聖人様だ!
ーオッパイに挟まれてうらやましいぞ!
ー便利屋の聖人様だ!
ー便利聖人!
ーオッパイに挟まれた便利聖人だ!
ーそうだ、便利聖人!オッパイ聖人!便利聖人!オッパイ聖人!
おい!どっかの宇宙人みたいになってんぞ!
冒険者はノリだけで生きてるらしく、便利聖人とオッパイ聖人コールがやまない。
もう頭きた!
「うるせぇ!テメェらいい加減名前で呼びやがれ!!」
後にダンジョンを出てギルドに行ったとき、俺はなぜかオッパイ聖人と呼ばれていた。
オッパイ聖人で統一されたらしい。字、これで合ってるよね?
結局、謎の宴会は、午後7時ころギルド職員が来るまで続いた。
なぜ俺がお前らの食事の面倒を見なきゃならん!
ギルド職員は、事件と聞いて駆けつけたところ、宴会が行われており面食らっていた。
ダンジョンが夜に入っていたため、不良冒険者どもの連行は翌日となった。
妖精の棲家のメンバーも事情聴取等のため、翌日ギルド職員と共に帰還する。
俺たちは師匠の一言で帰還を免れ、翌日からもダンジョン訓練を継続する。
妖精ちゃんたちから、ランカスターに戻ったら食事でもと誘われた。主にエドが・・・
でもニーナちゃんとポーチちゃんは俺の味方だ!
二人は同じ孤児院の幼馴染だそうだ。
ついハルのことを思い出してしまう。
二人にはこれからもずっと元気にやっていってほしい。




