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第50話 獅子の咆哮

 メイデン師匠とエドが駆けつけてきた。


「キラーホークじゃな。ここ出るのは珍しいのう。それにしても油断しすぎじゃ!」


 師匠は厳しい。

 油断なのか?そうかもしれない。不完全なレベルのサーチに頼りすぎた。

 敵がいかにステルス能力に優れていても、五感を使った気配なら感じ取れたはずだ。

 サーチの便利さに甘えていた。

 今回は、トーダが助けてくれなかったら、死んでいたかもしれない。


「すみません、深く反省します!」

「ユーキ、怪我は大丈夫?」と、エドが心配そうに俺の顔を見てくる。

「ああ、治癒はしたから」

「顔、血だらけだよ」


 俺は慌ててストレージからタオルを出して、顔を水魔術で洗って拭いた。


「それにしても、襲われたのがユーキで良かったのう。他の冒険者じゃとやられとったわ。これまでも犠牲者がおるかもしれんのう。戻ったらギルドにも報告じゃな」

「キラーホークは普通はここにはいないんですか?」

 エドが師匠に聞く。

「そうじゃな、普通は20階以降の魔獣じゃな。地上でも、かなり奥地の山間部に住んどる」

「そんな魔獣が11階に・・・」

「稀にあることじゃ。その階に見合わん魔獣が出る。そういうときは、運良く高ランクの冒険者でもおらんと犠牲者が出る。ギルドからも討伐依頼が出る。今回はギルドでそんな話も聞かんかったから、出たばっかりだったかもしれん」


 そうか、そういうこともあるんだな。犠牲者が出てなければ良いが。


「キラーホークは速度がおそろしく速い上に、隠密性に優れとる。気がついたときには殺されておった、なんちゅうこともあるからのう。隠密性に優れた魔獣は他にもおる。アンタたちはもっと察知能力を高める必要がある」


 俺とエドは神妙に頷いた。

 おっしゃるとおり。しかし、褒め言葉はひとつもないな、この婆さん。

 俺は褒められて伸ばされたい!できればイオンさんに。


 キラーホークをストレージに収納すると、俺たちはまた探索を再開する。

 この世界に来て初めて命の危険にさらされた。

 あれが11階の住人じゃなくて良かったよ。マジで怖かったです。

 あんなのがここに普通にいるんだったら、この先、生きて進める自信がない。

 エドも、先ほどの俺のザマを見て、一層集中しているようだ。

 お互い早めに経験して良かったと考えよう!


 高ランクの冒険者たちは、キラーホークの攻撃にどう対処するのだろう。

 攻撃を剣や盾で受け止める?

 俺の体力だと跳ね飛ばされそうだ。魔装が上達すれば可能なのかな?

 避けられない魔術で倒す?

 魔弾が避けられた。見えないはずなのに感知された。

 火炎放射とか、もう少し範囲の広い攻撃を選択すべきだったか?


 この世界にだいぶ慣れてきたつもりだったが、まだまだ経験不足のようだ。

 魔術の使い方もまだまだ下手だ。

 なまじ選択肢が多いせいで適切な対処ができなくなるおそれもあるな。

 師匠がこのダンジョンに連れて来てくれた意味がわかったよ。感謝だね。


 それから2時間、遭遇する魔獣と戦いながらようやく森の入り口に着いた。

 魔術は試行錯誤の連続だ。

 グラスウルフの群に火炎放射を放ったら、草原に延焼して大慌てで消火した。

 火魔術は森でも危険だから使い所が難しい。

 再び現れたマッドラビットに、以前訓練中に開発した水弾を当てたら、マッドラビットが爆散した。威力は十分だが、素材がまったく残らなかったので師匠に怒られた。


「アンタは戦闘のセンスはともかく、頭は良さそうだと思っとったが、こりゃあ考え直さにゃならんかのう」


 うるせぇ!お試し中なんだよ!


 エドも魔素を直接操作する魔術に苦戦中だ。

 これじゃあ訓練にならないからと、魔術の練習は一旦中断して戦闘に戻された。

 できの悪い弟子たちでスミマセン・・・


 エドの魔装はかなりパワーがある。俺よりも体格が良いのもあるが、スマートなイケメンタイプのエドだ。その割には牛ほどの大きさのボアの首を一撃で落としていた。

 俺の魔装はスピードの伸びが良いように思える。

 11階で戦ううちに、自分でも感じるくらい速度が増している。

 魔装にも得手不得手があるようだ。

 俺も若返りなんてなければ、もっとパワーがあったんだけどね。

 体格の問題は時間が解決してくれる。今後成長することはわかっているのだから、当面の目標は圧倒的なスピードをつけることにしようと決めた。


 森に入ってしばらくすると、冒険者が集まっているエリアが検知された。

 森の中のセーフティエリアだろう。

 そろそろ腹も減ってきたので、休憩と昼食のためそこに向かうことにした。


 セーフティエリアに入ると何か様子がおかしい。

 殺伐とした空気が流れている。

 7、8人の柄の悪そうなグループと、十数人の冒険者たちが対峙している。

 なんだ?喧嘩か?

 柄の悪い連中の中心には、剥き出しの片手剣を肩に担いで下卑た笑いを浮かべている180センチくらいの厳つい髭面の男。

 剣に血がついている。ここで斬りやがったか!


 反対に目をやると、後ろの方で数人の冒険者が輪になってしゃがみ込んで、必死に何かしている。

 俺は急いでその輪に駆けつけた。

 真ん中には、左腕を切り落とされて涙を流して苦悶している獣人の女の子。

 その子を抱えて、周りの冒険者は斬られた腕にポーションを振りかけ、止血しようとしていた。


「治癒魔術師です!俺に任せて!」


 俺は強引に輪の中に入り込みんだ。

 即座に斬られた腕をとって状態を診る。

 まずは除菌と止血。

 次に切り落とされた腕を取り上げて、こちらにも除菌を施す。

 それから、その腕を慎重に斬られた腕の部分に当てがう。


「この腕を持っててください!」


 俺の声に、呆然としていた冒険者が、慌てて斬り落とされた腕を持つ。


「動かさないように!」


 そう言って俺は腕が接合するよう治癒魔術をかける。

 いつものように一瞬の淡い光の後、そこには元通りになった腕があった。


 うおー、と上がる歓声。

「腕が繋がった!」と、大騒ぎだ。

 柄の悪いグループと対峙していた連中も集まって喜んでいる。

 斬られた女の子の仲間らしい別の獣人の女の子が俺に抱きついて大泣きしながらお礼を言ってくる。役得かも。

 斬られた女の子は、ホッとしたのか意識を失ったようだ。


 そのときドスの効いた大声がした。


「てめぇ何勝手なことしてやがる!」


 片手剣を肩に担いでいた髭面だ。

 事情はわからんが、こっちが悪者でいいよね。

 エドが庇うように俺の前に立つ。キャー、エド様カッコいいー!


「何があったんですか?」


 俺は、俺に抱きついている女の子に聞いた。


「あの人たちが私たちに仲間に入れてやるからお酒を飲もうって言ってきて。それで断ったら、無理矢理私が引っ張られの!それをニーナが助けようとしたらいきなり斬られたの!」


 なるほど、この世界にも当然のように不良はいるのね。

 俺は、髭面の方を見ながら言った。


「今のお話しを聞くと立派な犯罪のようですが?」

「何言ってやがる。躾けのなってねえ犬っころにチョイとお仕置きしただけだ」


 髭面が薄笑いを浮かべて答える。


「それより小僧、誰の許しを得て犬っころの治療なんぞしやがった!勝手なまねすんじゃねえ!」

「黒髪のガキが聖女様気取りか?」

「テメェも痛い目にあわせてやろうか、ガキぃ!」


 別の仲間も囃し立てる。

 いやぁ、子供の頃のイジメを思い出すね。段々腹が立ってきた。


「ランカスターにもこんな馬鹿がいるんだね」


 俺がつぶやくと、近くにいた男の冒険者が否定する。


「いや、あいつらランカスターじゃねえ。ギルドで一度も見たことがない」


 すると髭面が片手剣で肩をトントンやりながら一歩前に出てきた。

 これカッコつけてるで合ってる?


「俺たちゃぁスタンリーのAランク『獅子の咆哮』だ!ランカスターなんぞの田舎者と一緒にすんじゃねえ!」


 スタンリー・・・公爵領か。馬鹿王子の母親の実家だったな。

 それを聞くと益々腹が立ってきた。

 俺はエドの横を抜けて前に出ると、髭面の目を見据えて薄笑いを返す。


「獅子のボウコウだと。小便でも我慢してんのか?」


 ピキッと音がしたかのように、髭面と仲間たちの表情が引き攣る。


「黒髪のガキ、テメェ死んだぞ」

「そうか?しっかり生きてるみたいだが」


 そう言って、髭面に向かって右手をプラプラさせてやる。

 エドが気を利かせて、周りの冒険者を下がらせた。そして自分は俺の横に立った。

 おう、エドも相当怒ってるみたいだね。


 髭面が片手剣を構えた。


「死んで後悔しやがれ!」

「後悔は生きてるうちにするもんだぞ、てめぇらがな!」


 髭面が斬りかかってきた。

 遅いな、これで本当にAランクかよ。

 俺は魔装を纏った上で縮地を使い、髭面の懐に潜り込むとエビ蹴りで顎を蹴り上げた。

 騎士団の訓練初日に使った技だ。

 魔装の威力は凄まじく、髭面はなんと10メートルほど吹き飛んで失神した。

 ありゃ、顎が砕けたな。


 一瞬しんとした後、不良仲間6人が我に返った。


「て、てめぇ!」


 一斉に剣を抜く。

 俺は剣を持った手首に次々と魔弾をぶち込んだ!

 喧嘩にいちいち叫んだり、間を空けたりすんなよ。黙ってかかってこい!

 6人は、ギャア、とかヒーとか、汚い叫び声をあげて、剣を落とし、血の吹き出す手首を押さえている。


 俺は周りの冒険者に連中を縛り上げるように頼んだ。

 冒険者たちは一斉に不良冒険者に殺到し、あっという間に全員を縛り上げた。

 髭面は失神したままだ。うわぁ、顎がぐしゃぐしゃだ。痛そう。

 エドが笑いながら話しかけてくる。


「俺の出番なかったじゃないか。せっかく前に出たのにかっこ悪いだろう。ちょっとは気を使ってくれよ」

「ごめん、でもあいつら弱すぎだから。腹減ったから飯にしようよ」

「そうだね。元々飯を食べに来たんだった」


 師匠からもお咎めなしだった。



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