第49話 魔弾
「さあ、ここからが本当の訓練だよ。自分の力を最大限に伸ばすことを考えて、工夫の限りを尽くすんじゃ。魔術に限界はないと思っときな」
「はい!」
「じゃあ行くよ!」
メイデン師匠の檄を受けて、11階に足を踏み入れる。
相変わらず、新しいフロアに入るときには、目に見えない膜でも通ったかのような微妙な感触がある。
9階と似たようなフロアで、まずは草原が広がっている。
冒険者は少ないが、魔獣はたっぷりいるようだ。
早速、20頭くらいのグラスウルフの群が歓迎にやって来る。
「エド、まず俺が試していいかい?」
「一人で全部やるのか?」
「ああ」
「わかった」
そう言ってエドは少し後ろに下がった。
グラスウルフの群が散会して俺たちを囲むように展開しながら走ってきた。
距離100メートルを切った。
俺は右手を伸ばして、人差し指を先頭のグラスウルフに向ける。
『魔弾』
指先から圧縮された魔素の銃弾が発射される。
次の瞬間、グラスウルフの頭が弾け飛んだ!
よし、成功だ!
俺はサーチと視認で、次々とグラスウルフに魔弾を連射した。
数秒でグラスウルフの群は全滅した。
「すごい!ユーキ、今のは何なの?」
エドが興奮して駆けてきた。
「俺が持ってる銃って、前に見せただろう。あれを魔力で似たようなものにしたんだ」
「俺にもできるかな?」
「多分できるよ。スラッシュは魔力で刃を飛ばして斬る感じだけど、これは魔力を圧縮した小さな塊を飛ばして貫通させる感じ」
そう言って、俺はイメージしやすいようにグロック17の9ミリ弾を取り出して見せた。
「これが高速回転しながら飛んで行く。肝心なのは圧縮かな。大きな塊を潰して小さく固めていくか、小さな塊に詰め込めるだけ魔力を詰め込むか、どっちでもイメージしやすい方でいいと思うよ。年中やってたら、イメージだけで作れるようになるよ」
「土魔術のストーンボールみたいな感じかな?」
「そうだね、あれをもっと小さく固めた感じ。土でもできるけど、土に変換する必要がないから、こっちの方が発動が一瞬早いし、見えないから避けられ難いと思うよ」
こちらの世界には銃がない。だから銃弾のような物はイメージしづらいのか、魔弾のようなものは見たことがなかった。それに、パターン化された詠唱の弊害なのか、皆が同じような魔術を使う。地球の知識と師匠に教わった詠唱なしの魔術は、俺のアドバンテージだろう。
ただ、新しく開発した魔術に名前をつけるのだけは恥ずかしい。が、ファンタジーっぽい世界に来たんだ。割り切ろう!
倒したグラスウルフをストレージに入れて周る。
メイデン師匠から、まだ11階なのでしばらく一人で対処するように言われた。
どうやら俺が教わった魔術の使い方をエドに教えるようだ。
エドの魔術適性は、火、水、土に風。4属性持ちは中々希少だ。
エドも御多分に洩れず、家庭教師や学院で詠唱を習っていた。常識を変えるのは大変かもね。
ただ、あれだけ徹底して魔力制御の訓練をやらされたのだから、魔力の扱いはかなり上手くなっているだろう。
あっ、エドが杖で殴られた!見ない振りしとこう。
サーチを使いながら先に進んでいると、割と大きめの魔獣がいた。
視認できるところまで来て驚いた。
あれ、ウサギであってるか?
見かけは白いウサギだ。
しかし、牛よりでかいぞ!
しかも、額には太い角、口からは2本の鋭い牙、目だけがつぶらで可愛いというアンバランス。
耳がピクリと動く。こちらに気づいたようだ。
「師匠、あの可愛いいようで可愛くない奴、ウサギですか?」
「ああ、マッドラビットじゃな。肉が美味いから狩ってくれ」
マッドの部分が気になるがウサギらしい。
うわぁ、跳ねた!
ウサギだから跳ねるかみしれんが、一跳びで10メートル以上いったぞ!
目が狂気に染まったように変貌し、グギャー、と吠えている。
可愛い要素が皆無になった。
着地のたびにズシンと響く。
500メートルは離れていたのに、あっという間に近づいてきた。
うわぁ、どうしよう。毛皮も綺麗そうだからあまりぼろぼろにしたくない。
もう100メートルを切った。
俺はウサギの着地のタイミングに合わせて、地面から3メートルくらいのストーンスパイクを出した。
ウサギが落下しながらサクッとストーンスパイクに刺さってくれた。
根元を太くしているので、簡単には折れない。
苦悶の声をあげて暴れるウサギの背中に、俺は魔装して飛び乗った。
そして、吸血ナイフを取り出すと、ウサギの首に思い切り突き立てた。
恐ろしい勢いで血が吸われていき、ウサギはすぐに動かなくなった。
ナイフの喜びの感情がなんとなく伝わってくる。喜びの基準で気が合いそうにないな。
しかし、魔術使えないときにこんなのに遭わなくて良かった。
ウサギをストレージに収納する。
「ユーキ!今のは何をやったんだ?」
「え?ストーンスパイクだけど」
「いや、その後。マッドラビットに飛び乗っただろう?」
「ああ、あれは昨日拾った吸血ナイフを試してみたんだ」
「なるほど、それであっという間に死んだのか。魔獣に乗るのが趣味なのかと思ったよ」
そんな趣味はありません・・・。
君は黙って魔術の練習をやりたまえ。
それにしてもどちらに進めばいいのか。
大草原で目印がない。
察知できる冒険者は、ここでは狩りをしているのか共通した移動方向も見られない。
仕方ないので、遠くに微かに見えるいくつかの森の一つを目指してみることにした。
20分ほど進んだとき、猛烈なスピードで近づいてくる魔獣の気配を察知した。
待て!何だこの速度は!
とても生物が出せるスピードとは思えない。
魔獣がどんどん近づいてくる。
俺はその方向に目を凝らすが、視認できるはずの距離になっても何も見えない。
「魔装!」
エドにも魔装を纏うよう指示する。
もうすぐ近くにいるはず。なのに見えない!
冷や汗が出てきた。気配察知に違和感がある。
もう50メートルもない!
(ユーキ!上!)
トーダの声で俺は咄嗟に全力で横っ跳びに転がって、何者かの攻撃を必死で避ける!
「イツッ!」
俺の魔装を切り裂き、刃物のようなものが俺の頭をかすった!
斜め上空から急襲してきた飛行生物は、風切音を残して急上昇していく!
頭から血が吹き出す。ダンジョンに入って初めて攻撃を受けた!
飛び去った魔獣は、もう点のように小さくなっている。
くそっ!サーチに頼りすぎた!
俺のサーチは、中々三次元を上手く把握できない。わかっていたことだ。一旦空中を意識すれば、それ以降は把握できるが、それまでは二次元的に認識してしまう。
(トーダ、ありがとう。助かった!)
(気いつけい、また来るで)
(大丈夫、もうやられん!)
「ユーキ!大丈夫か!」
「来るな!離れてろ!」
エドが駆け寄ろうとするが、俺はそれを止めた。
あいつの狙いは俺だ。
なら、一人の方が対処しやすい。
俺は急いで自分の頭に治癒魔術をかける。
(トーダ、あれは何だ?)
(鷹やな)
鷹か!それであのスピードか!
地球の鷹でも時速240キロで飛ぶと聞いたことがある。
さっきの奴はもっと速かったし、でかかった。
一旦飛び去った鷹は、旋回してまた俺を狙ってきた。
俺は魔力を注ぎ込んで魔装を強化する。
そして、接近してきた鷹に魔弾を連射した。
避けられた!
また横っ跳びで転がりながら鷹の攻撃を避ける!
体長2メートルはある鷹だった!
敵も俺が視認したことを認識したのか、今度は100メートルほど上空で旋回し、再び襲ってきやがった。
来る!!
俺は接近した鷹の正面に、かなり強化したマギシールドを一瞬で展開した。
ドゴン!
大きな衝突音がして鷹がぶつかった!
鷹まで10メートル。
俺は即座にエアウォークで駆け上がり、魔装したククリ刀を鷹の首元に叩きつけた!
血飛沫をあげながら鷹が落下する。
俺も距離をとって地上に降りた。
様子を伺う。
どうやら絶命したようだ。
よし!
俺はホッと息を吐き出した。
呼吸も荒くなっている。
イヤァ、久々にビビったわ。
(トーダ、ありがとうな。何とか倒せたよ)
(おう、まあ良かったんやけど、ユーキ弱すぎやん。速さで負けとるし)
(そう言うなよ、自分でも思ってるんだから。これから強くなる予定!)
(そうか?ま、早よ強うなりいや。強い魔獣のおるとこ遊び行けんからな)




