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第47話 A5和牛を越えてくる

「あっ、メイデンのおばあちゃん!」

「おや、メルかい?大きくなったね」

「おばあちゃん久しぶりだね!お父さん呼んでくる!」


 そう言うと、メルと呼ばれた女の子は、カウンターの奥へ走って行き、「お父さん!メイデンのおばあちゃんが来たよー!」と叫んだ。

 すると、ドタバタと音がして、身長2メートルはありそうな小山のようなゴツいおっさんが、エプロンをつけて現れた。あれ?右足を引きずってるな。怪我してるのか?

 それにしても、お父さんだと?遺伝子が仕事してないぞ。


「これはメイデン様!お久しぶりです!」

「ダン、元気にやってるようだね」

「はい!おかげさまで家族皆んな元気に過ごしております」

「そりゃ何よりだ。ところで部屋はあるかい?」

「はい、いつもの部屋は空いております。後ろのお二人も?」

「ああ、3人じゃ。こっちは知っておろう。アダムのところのエドじゃ」


 師匠がエドを示すと、エドが嬉しそうに挨拶をした。


「ダンさん、お久しぶりです。こんなところにおられたんですね」

「エド!エドか!大きくなったなぁ!いくつになった」

「19歳です。もう成人してますよ」

「そうかぁ、エドももう成人か。訓練場で泣いてばかりいたやつがなぁ」

「いつの話しをしてるんですか!」


 エドが笑顔で文句を言う。二人は随分以前からの知り合いみたいだ。ダンさんも騎士団にいたのかな。


「それでこっちがユーキという。今ランカスターで預かっておる」

「はじめまして、ユーキです。よろしくお願いします」

「ユーキか。俺はダンだ。以前はランカスター騎士団にいたんだが、今はここで宿屋の主人とコックだ」


 厳つい男の気持ちの良い笑顔だ。俺も笑顔で握手をした。


「メイデン様。今日は騎士団の仕事じゃないんですか?」

「いや、今回はこの二人の特訓じゃ。おぬしも聞いておろう。外で魔獣の動きがおかしい。いつ何があっても不思議じゃない。ちょいと戦力強化をしておこうと思ってのう」

「ほう、この二人を」

「そういうことじゃ。おぬしも仕事があろう、そろそろ部屋に行くかのう。食事は部屋に持ってきてくれんか。それから、時間が空いたら部屋に来てくれんか?」

「承知しました。それでは後ほど伺います」


 メイデン師匠は、さっさと奥の階段に向かって歩き出した。あれ、部屋は?鍵とかないの?

 3階まで上がると、その先の階段には『立ち入り禁止』の看板が立てられている。

 師匠はそれを無視して4階に上がる。

 俺とエドは顔を見合わせて、後に続いた。関係者専用の部屋があるのかな?


 4階にはドアが1つだけ。

 どうやら、馬鹿でかい部屋があるようだ。

 師匠はストレージから鍵を出すと、その鍵でドアを開けて部屋に入って行った。

 鍵持っとるんかい!


 中に入ると、冒険者向けの宿屋とは思えない、豪華なリビングだった。

 師匠はリビングを通って奥への廊下を進む。途中にいくつかドアがある。


「アンタたちはその辺の好きな部屋を使いな」


 師匠はそう言って、一番奥の部屋に入って行った。

 俺は、近くの部屋のドアを開いて中に入ってみる。

 簡素だが小綺麗なシングルの部屋だった。

 別の部屋を片っ端から覗いていたエドが戻ってきた。


「シングル部屋と、2段ベッドが四つの8人部屋があるよ。空いてるみたいだからシングルでいいよな」

「いいんじゃないかな。師匠も好きな部屋使えって言ってたし」


 それぞれ自分の部屋を決めてから、俺とエドはリビングに行った。

 ストレージからコーヒーを出して二人で飲んでいると、師匠もやって来た。


「アタシにもコーヒー」


 はい、喜んで!と、師匠にコーヒーを差し出す。


「どうだい、驚いたかい?」


 ニヤリと笑う師匠。


「はい、びっくりしました。ここはフロア全体がセーフティエリアなんですか?」

「そうじゃ。広大なセーフティエリアじゃ。と言っても、精々10キロ四方くらいかの。ここは冒険者街じゃが、畑や果樹園もあるぞい。ダンジョンの中は植物がよう育つみたいでな」

「侯爵家で管理してるんですか?」

「ああ、農業も昔アタシが始めた実験からじゃよ」

「この宿屋は?」

「侯爵家が作った宿屋じゃよ。騎士団の訓練や視察でダンジョンに入るときに利用するためじゃ」

「他にもこんなフロアがあるんですか?」


 もし20階とかも同じ作りならありがたい。


「いや、今のところ見つかっとるのはここだけじゃ」


 ないのか。残念!


 ちょうどそのときノックがされ、ワゴンに載せた夕食が運ばれてきた。

 運んできたのは、男の従業員だった。


「まずは食事をしようかね」


 師匠の言葉で食事を始める。

 メインは何の肉かわからないが、ビーフシチューのような煮込み料理。

 こりゃ美味い!脂のない柔らかいホロホロの角切りの肉がゴロゴロ入っている。

 A5の和牛より美味いぞ!

 エドも、美味い美味いを連発しながら夢中で食べている。


「師匠、これ何の肉なんですか?めちゃくちゃ美味いです!」

「多分ランペイジブルかね」


 ランペイジブル?暴れ牛か?


「下層で会うかもしれないよ。土産にしたら喜ばれそうじゃ。頑張って手に入れとくれ。クェッ、ケ、ケ!」


 お、この笑いが出るということは、結構難易度が高そうだ。

 しかしこの肉は美味い!ステーキでも食べてみたい。絶対手に入れよう!


 食事はあっという間に終わった。量もかなり大盛りだったので十分だった。

 食後のコーヒーを飲みながら、話しの続きだ。


「師匠、ダンさんという方はどういう」

「ダンは騎士団で小隊長をやっとった。ブラックウルフ討伐任務で部下を庇うて右足の足首の裏、アンタが言うとったアキレス腱かい、そこからふくらはぎ辺りをごっそり持って行かれてね、満足に動けんようになってしもうた。まあ、それで腐るようなやつじゃなかったんじゃが、事務仕事じゃ役に立たんから団を辞めると言いおったんで、ちょうどそのころ、ダンジョンの中に騎士団が泊まれる宿屋を作ろうと計画しとったでな。ダンにやってもらうことにしたんじゃ。ダンジョンの宿屋にダンじゃからぴったりじゃろ、クェッ、ケ、ケ」


 オヤジギャグかよ!


「ああ、それで後で部屋に来るようにと」

「そうじゃ、治してやってくれるかい?」

「もちろんです」


 エドは会話の意味がわからずポカンとしている。

 まあ、後で見て驚け!


「エドもダンさんとは昔馴染みなんだね」

「うん、俺が10歳のころ養子に入った話しはしただろう?そのころ、俺は魔獣が憎くて、強くなりたかったんだ。それで騎士団の訓練に参加させてもらったんだけど、毎日ぼろぼろにされてた。そのとき鍛えてくれたり、慰めてくれたり、とにかく世話になったのがダン隊長だったんだ」

「そうなんだね」

「すごくいい人でね。足をやられて団を辞めると聞いたときはショックだったけど、今日は元気な顔を見れて嬉しかった」


 メイデン師匠が話しを変える。


「さて、明日からのことじゃ。二人とも気づいておろうが、ダンジョンは下に降りるほど魔獣が強うなる。今の程度じゃ二人では20階辺りは攻略できん。まあ、元々もっと人数かけて行く場所じゃからな、クエッ、ケ、ケ!」


 いや、この人Sっ気あるんじゃないか?イオンさんと代わってほしい。イオンさんのSなら受け入れられる!


「それでじゃ、明日からは魔装も魔術も解禁じゃ。思う存分使うて、浅い階のうちに新しい魔術とか魔装の使い方を工夫せい。通用する技、通用せん技、魔獣の弱点の見つけ方、連携の仕方、なんでも試しながらやってみるんじゃ。アタシはギリギリまで手は出さん。怪我も負うじゃろうが二人でやれるところまでやるんじゃ!」

「はい!」


 師匠の目は真剣だ。かなりの危険が伴うのだろう。


「ちなみに20階辺りって、どのくらいのランクの冒険者が挑んでるんですか?」と、エドが聞いた。


「20階辺りまで行くとBランクないと厳しいかの。まあ、Bと言っても、6、7人のパーティじゃがな」

「え?」

「二人じゃとAでもきついぞい。じゃから死に物狂いで強うなるんじゃ」

「・・・」

「心配するでない。Aでも上の奴なら平気じゃ」


 慰めになってないような気がするんだが、気のせいか?


 そのときノックの音がしてダンさんの声が聞こえた。


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