第46話 セーフティエリア(ダンジョン8-10階)
「エド、ここは?」
「いや、俺も知らない」
冒険者たちの様子から、ここはどうやら安全地帯のようだ。
魔獣の気配もまったくない。
ならば俺たちもここで昼飯を食べようとしていると、後ろから声がかかった。
「やあ、ユーキ君じゃないか。君もダンジョンに来たのかい」
振り向くと、ランカスターのギルドで色々と親切にしてくれたハンスさんという30歳くらいの冒険者だった。
エドも知り合いのようで、挨拶をしている。
「ハンスさんもダンジョンでしたか」
「うん、採取依頼でね」
「ハンスさん、ここはどういう場所なんですか?」
「え?そんなことも知らないでダンジョンに入ったの?だめだよ、ちゃんと事前に調査しないと。それに、地図にも書いてあるでしょう」
「すみません、ちょっと事情がありまして」
「パーティメンバーは?」
「エドと二人です」
「エド君と二人?何危ないことしてんの!」
「ごめんなさい。それでここは?」
「ここは8階のセーフティエリア。今までの階でもあったでしょ?」
「え?」
「君たち、これまでセーフティエリアに寄ってないの?」
「はあ、階段途中のところなら寄りましたけど」
「そこじゃなくて、フィールド内にあるやつだよ」
「いや、初めてです」
「まったく、何無謀なことやってんの!」
「すみません、俺たち訓練でダンジョンに入ってるんで」
「訓練って何の訓練してんの!訓練でも安全は大事だよ!」
そこにメイデン師匠が現れた。
「アタシがやらせてる訓練じゃよ」
「わっ、メイデン様!」
ハンスさんがひっくり返りそうになった。
「アンタ、確かハンスだったね。ありがとうよ、若い冒険者に指導してくれて。ただ、この二人はちょいと事情があってね。手早く成長させなきゃいけないんで、事前調査も地図も禁止なんだよ」
「メイデン様が俺をご存知とは。いえ、すみません、メイデン様のご指導とは知らずに。そうか、じゃあ、ユーキ君もエド君も頑張らないとね」
「はい、ありがとうございます」
「君たちはいつからダンジョンに入ってるの?」
「今朝です」
「え?1階から?」
「はい」
「すごい速さだな・・・。ちなみにどこまで潜るの?」
「一応30日目安で30階までです」
「・・・」
「あの、ハンスさん?」
「いや、ちょっと驚いただけだよ。まあメイデン様が一緒なら大丈夫か・・・」
ハンスさんは、頑張ってねと言って、虚な顔をして去って行った。
そうか、やっぱり相当厳しいんだな、30階までは。
時間はすでに午後2時になっていた。
今日中に10階まで行く予定だ。
下層に行くほど、階は広くなっている。少し急がねば。
俺たちは早々に昼食を終えて、再び8階を進み始めた。
8階には珍しい果実や貴重な薬草などもありそうだ。
しかし今回の目的は俺たちが強くなること。
ひたすら魔獣と戦いながら先を目指す。
セーフティエリアを出てしばらくすると、また猿が集まってくる気配を察知した。
エドの方を見ると、彼も気づいているようだ。
今回は10数匹は集まりそうだ。結構多いな。
どうしよう。
銃が使えれば簡単なんだけどこれは訓練の意図に反するし、猿程度で無駄撃ちはしたくない。
いざとなったら、やはり脳筋で倒しまくるしかないか。
おう、囲まれたな。
気配から15匹いる。
背後の1匹が飛びかかってきたが、エドが難なく始末する。
どうやら、1匹が特攻して、こちらの戦力を確認するのが常套手段のようだ。
先ほどと同じように、猿どもは四方八方から歯を剥き出しにして威嚇してくる。
一斉にかかってこられると厄介だ。人間やゴブリンよりはるかに動きが速い。
ふと、猿は蛇が苦手だったことを思い出した。こちらの世界ではどうなのだろう。猿と言っても魔獣だしな。
とりあえず、面白そうなので、ストレージから3メートルくらいの討伐した蛇を取り出して、正面の猿たちの方に投げてみた。
ギャァー、という叫び声をあげて、すべての猿たちが一目散に逃げて行った・・・。
マジか・・・。
猿問題はあっさり解決したのだった。
いいのかな?
メイデン師匠は苦笑し、エドは驚いている。
「猿が蛇を怖がるのを知っておったか」
「元の世界のことですけどね。試してみたら予想以上の効果でした」
「まあよかろう。先に進むぞい。急がんと今日中に10階に到着できんようになる」
その後は猿が出れば蛇を見せて追い払いつつ、ボアやウルフ、虫などを倒しながら進むこと1時間、ようやく9階への階段を見つけた。
つまり、あと1キロメートルくらいということだ。
俺たちは、真っ直ぐに階段に向かって進んだ。
9階に至る階段に着いたのは午後4時ころ。
俺もエドも体力的にはまったく問題ない。最初の訓練のときへばっていたエドが懐かしい。
師匠は疲労を感じることはあるのかな?
階段途中のエリアでコーヒーを飲んで少しだけ休息をとった。
トーダは俺の頭の上で寝たまま全く起きる気配がない。よく落ちないな。
今日中に10階。あと8時間で、2階層を踏破できるんだろうか?
考えても仕方ない。さあ、行こう!
9階に降りると、目の前には大草原が、そして先の方には森が見える。
混合エリアか。
草原には、牛や馬、羊などがのんびり草を食べている。
これ魔獣なのか?
「師匠、あれも全部魔獣なんですか?」
「そうじゃ、おとなしそうじゃが、人間を見つけると襲ってくるぞい」
「馬を捕まえたら乗れませんか?」
「さあのう。外でテイムはあるが、ダンジョンの魔獣をテイムするとは聞いたことがないのう」
試してみるか。
俺は師匠とエドに告げて、気配を殺しながら一番近くにいる馬の元に忍び寄る。
手には、ストレージから出したロープで作った投げ縄。
馬はまだ気づかずに、草を食べている。
なるほど、地球の馬より一回りはでかい。
逃がさんぞ!
俺は慎重に投げ縄を投げた。
よし!上手くいった。絶対に逃がさない!
投げ縄をかけられたことに気づいた馬は驚いたように振り向くと、必死で逃げようと・・・、あれ、逃げないの?
馬は俺を睨むと、ブフーと鼻息を鳴らして、牙を剥き出しにして襲いかかってきた!
そうだった!こいつ魔獣だから、逃げずに襲ってくるんだった!
俺は襲ってきた馬をかわすと、横っ面に拳を叩き込む。
うわっ、全然効いてないみたい。
何度か繰り返すが、あまりダメージが入った様子はない。
俺は、隙を見てロープを掴み、馬に飛び乗った。
馬は俺を振り落とそうと暴れまわる。ロデオだ!
暴れ馬に跨りながら、大人しくしろ!と魔力を乗せたつもりの思念を馬に送るが、馬は暴れるのをやめない。
くそっ、やっぱり無理か?
すると、それまで寝ていたトーダから心話がきた。
(ユーキ、何遊んどるん?)
(遊んでるんじゃない!この馬に言うこと聞かせたいんだよ!)
(なんや、そないなことかい。ワイがやったろか?)
(トーダできるの?)
(こないな弱い魔獣、簡単や)
そう言うと、トーダから一瞬威圧が放たれた。
馬はビクッとした後、微かに震えながら動きを止めた。
うおー、すごい!
てか、これテイムじゃなくて、ビビって動けないんだよね。
それにしても、さすが式神。すごい威圧だ。
(なあトーダ、それ俺にもできるかな?)
(今のユーキの強さやったら無理ちゃうか。もっと圧倒的に強うならんと)
やっぱりまだ無理か。
(ところでこいつ動けるの?)
(どこ行きたいん)
(とりあえずイオンさんたちのところ)
(任せんかい)
しかし、馬はその場から一歩も動かない。ではなくて、恐怖で動けないんだ。
よく見ると、こいつ震えながら涙流してやがる。
(トーダ、ダメじゃん)
(何で動かんのや、こら!動かんかい!)
トーダが更に威圧を強めると、馬は気を失って倒れてしまった。
師匠のところに戻ると、師匠は意地悪そうな笑いを浮かべて、
「時間の無駄じゃったのう」と言っていた。
トーダは、馬が弱すぎるんが悪いんや!と言って、また寝てしまった。
時間を無駄にしたことをエドに謝って、俺たちは草原を進み始めた。
襲って来るのはもっぱら馬や牛に羊、どれも需要が多そうな魔獣ばかりだ。
そのせいか、このフロアでは、荷車を引いて素材を運んでいるパーティがしばしば見受けられた。結構稼げる場所なのかもしれない。
その中で、素材を満載にして森に向かっているパーティに目を付けて、後を追った。多分下の階の階段方向に向かうものと推測。
2時間ほどかかって森に到着した。
サーチで見たときは、この森には8階の森と違って道がなかった。
ところが、森に着いてみると、なんと、10階の方向を示す立看板が立てられており、森の中には冒険者たちが通った跡が獣道のように続いていた。なんと親切な!
森の中を探索するなら別だが、今の目的は早く次の階に進むこと。
喜んでこの親切環境に甘んじようではないか!
時間はすでに午後6時を過ぎている。
サーチで確認すると、多くの冒険者たちがこの道の先を進んでいる。皆、帰還の時間帯かな。
前を行く冒険者たちが魔獣を倒しているせいか、俺たちのところにはほとんど魔獣が現れなかった。たまに横合いからフォレストボアが突っ込んでくる程度だ。
9階なのに、今までで一番楽な行程になっている。
1時間ほど進んだところで、次の階段が探知できた。
前を行く冒険者の気配が次々に消えていく。
サーチでは、階段の中や下の階は探知できない。
サーチの能力が上下に及ばないわけではない。
なんと言うのだろう、空間が別のものになる感覚?とにかく、そこでぷっつり切れてしまうのだ。ダンジョンは、フロア毎に別の次元になっているような気がする。
それから10分くらいで階段に着いた。
午後7時半。
休憩エリアで晩飯を食べたら、いよいよ10階だ!
階段を降りると、あれ?誰もいない。
休憩エリアはあるのだが、人っ子一人いない。
さっき、結構な数の冒険者たちが階段を降りて行ったはずだ。
どこに行ったんだ?
まさか、そのまま10階を攻めるのか?
師匠を見るとニヤニヤしている。
すると、後ろから来たパーティの一人から怒られた。
「おい、何そんなとこで立ち止まってんだよ!さっさと進んでくれ!」
え?師匠が何も言わずに進み出した。俺とエドも慌てて後を追う。
階段を降りて、10階に足を踏み入れると、そこには驚愕の光景が広がっていた。
「なんでここに街が・・・」
そこにあったのは、大通りを中心に、大勢の冒険者たちが行き交う繁華街だった。
「ほれ、まずは転送の魔石に魔力を通しとくんじゃ。済んだらさっさと宿を探しに行くぞい」
師匠に促されて、俺とエドは訳がわからないまま後に従う。
魔導灯で明るく照らされて道の両側には、様々な飲食店、酒場、宿屋のほか、衣料品や武器、防具、道具屋などが建ち並んでいる。
うおっ、エロいお姉さんたちが客引きしてる!後で行ってみるか!
「あら、可愛い坊やね。もう少し大きくなったら遊びに来てね」
エロいお姉さんに、期待と違う声をかけられた・・・。
エドが必死で笑いを堪えている。
ファイヤボールかますぞ!
師匠が一番良さそうな宿屋に入って行った。
俺たちも後に続く。
考えてみると、この世界で宿に泊まるのは初めてだ。
中に入ると、広いフロアで大勢の冒険者たちが、大騒ぎしながら飲み食いしている。
どうやら食堂を兼ねているらしい。
それを横目で見ながら奥に進むと受付カウンターがあり、15、6歳くらいの控えめの胸をした小柄の可愛い女の子が立っていた。




