第45話 モテ男エド様(ダンジョン7-8階)
女性の悲痛な叫び声!
俺とエドは、ダッシュで左右に分かれ、片っ端からゴブリンを斬り捨てる。
接近戦になり弓は使えない。
突然の乱入者にゴブリンは大混乱に陥った。
襲われていた冒険者から引き離す策もあるが、所詮はゴブリン。
ククリ刀の一閃で1匹が倒せる。
さっさと片付けてしまおう。
俺は駆け抜けながら次々とゴブリンを斬り伏せた。
ほんの1、2分で、俺の前から生きているゴブリンはいなくなった。
気配察知でわかっていたが、振り返って見ると、エドの方もすべてのゴブリンを倒していた。
襲われていた冒険者たちは、ほっとしたのか全員がその場に座り込んだ。
俺とエドは座り込んだ冒険者たちの元に進む。
エドが、「大丈夫ですか?」と声をかける。
「あ、ありがとうございます!」
「もうダメかと思いました」
「ありがとうございます!」
冒険者たちが一斉に礼を言った。て言うか、全員女の子?
そういえば怪我してた子がいたな。
「怪我があったら治しますよ」
と、俺も声をかける。
「あの、一人矢で刺された上に、かなりひどく斬られてしまって。ポーションは持ってるんですけど、中級のやつで治せないかもしれません」
「わかりました。ちょっと見せて下さい」
俺は、倒れて寝かされている冒険者のところに行き、跪いて状態を確認した。
矢は右の二の腕を貫通して折れている。また、左鎖骨から胸にかけて深く斬られており、革鎧も裂けていた。
「治癒魔術を使います!」
俺はそう宣言すると、まず折れた矢を引き抜く。
うっ、という呻き声。
ゴブリンの汚い武器でやられたんだ。雑菌が入っているに違いない。
最初に消毒の魔術をかける。よし、大丈夫だ。雑菌を吸収した感覚がある。
次に負傷部分に治癒魔術をかける。
淡い光が収まると、傷は綺麗に治っていた。
「す、すごい!無詠唱でこんなに一瞬で傷が!」
「他に怪我をした方はいませんか?」
「あ、でもポーションで治せると思いますので大丈夫です」
「いや、連中の武器、かなり汚いですからね。ちゃんと消毒もしないと危ないですよ」
「でも・・・、全員の治癒魔術代だと・・・」
え?治癒魔術って高いの?
「いや、別に代金をもらうつもりはありませんから大丈夫ですよ」
「そうそう、早くやってもらった方がいいよ」
エドもそう付け加える。
ようやく冒険者たちは、おずおずと自分の負傷箇所を告げ始めた。
俺は、傷の深い順に全員の治療を行った。うん、全員無事だ。良かったよ。
皆が口々にお礼を言ってくる。最初の深傷を負った子は今寝ているようだ。
それにしても皆若いな。全員10代かな?
メイデン師匠は、黙って様子を見ている。このようなケースの対処も訓練のうちなのかな。
元の世界では、作戦遂行が第一義だった。このため、助けたいと思っても、必死で堪えて無視をしたことも何度かあった。こうやって自分の意思で助けられる自由は心が軽くなる。
「あの、ランカスター騎士団の方たちですか?」
そう言えば今日は騎士団の防具を着けていたんだった。
「いえ、正規の騎士団員ではありませんが、ランカスターの者ではあります。でも、今日はただの冒険者です」
エドが答える。
すると、別の女の子が俺を見て言った。
「あ!もしかして街の何でも屋さん!」
おお、俺の二つ名か!って、要らんわ、そんな二つ名!
本当だ、本当だ、と他の子たちも騒ぎ出す。
俺、そんなに有名なの?
「何でも屋さんて、こんなに強かったんですね」と、感心された。
今度はリーダーっぽい女の子がエドに向かって言った。
「失礼ですが、もしかしてエドワード様では?」
他の三人も一斉にエドを見る。
「はい、そうです」とエドが答えると、キャーと嬌声が上がる。
なんだよエド、めちゃモテじゃないか!
まあ、若い貴族の御曹司で、このイケメンだもんな。ギルドにもよく出入りしていたから隠れファンが多そうだね。
俺は多分お子様年齢にしか見えないから、対象外だな。別にいいけど。
まだ、エド様に助けられちゃった、とか言って顔を赤らめてるぞ。
しょうがないなぁ。俺は、女の子たちが必要とするかもしれないので、倒したゴブリンを片っ端からストレージに入れていった。
この様子を見た女の子たちは、びっくりしている。
「とりあえず、ここは早く移動しましょう。このままいると、またゴブリンが集まってきます」
エドの言葉で俺たちは移動を開始した。
実は地形探知によれば、次の階段まではそう遠くない。
俺が先頭、エドと師匠が殿を務め、間に女の子たちを挟んで進む。
怪我でまだ動けない子は、リーダー格の女の子が少し魔装を使えるということだったので、その子に背負ってもらうことにした。
事情が変わったので、俺はできるだけゴブリンの少ない道を選びながら、遭遇したゴブリンは瞬殺して、30分ほどで8階への階段に辿り着いた。
女の子たちを階段途中の休憩エリアに連れて行った後、俺たちはすぐに8階に降りることにした。女の子たちは色々と話したかったようだが、こちらは訓練中だ。今日中に10階まで到達しなければならない。無駄な時間はないのだ。
まだ自己紹介もしてないのにぃ、とか言われても知らん!
どうせエドが目当てだしね。そのエドも興味なさそうだ。こいつ相当モテ慣れてやがる!
こちとら、モテるどころか、女性関係といえばハニトラの訓練くらいだ。
そもそも訓練と任務に終始したこれまでの生活で、同世代の女の子との接触が圧倒的に少ない。これ、教育メニューの欠陥じゃないか?今度教官に言っておこう。機会があるかわからんが。
8階に降りるとそこは森林エリアだった。
本当にダンジョンは不思議なところだ。
目の前には、森林を通る道がある。まだ親切設計のようだ。
地形探知によれば、この道がさっきまでの洞穴のように、迷路状に続いている。
早速気配察知と地形探知を行う。範囲は簡単には広がらないようだ。多分、メイデン師匠との魔力制御のおかげで広がったと思われる半径1キロ程度が今の俺の限界のようだ。もちろん、これでも相当広範囲だ。
使い続けたおかげでやりやすくなったのは、意識しなくとも気配察知と地形探知が同時にできるようになったこと。今後はサーチとでも呼ぶかな。
さて、ここも当然のように次の階段の場所はわからない。
魔獣の気配は知っているものもある。フォレストウルフやフォレストボア。
森の定番魔獣だ。
初見の気配もいくつかある。
飛び跳ねるようにこちらに近づく複数の気配は・・・、これは木から木へ飛び移っている?
猿かな?
もう少し3D的にサーチできる訓練も必要かもしれない。
俺たちの進行方向の左手から5匹の魔獣がやって来る。
明らかに木の上だ。
見えた!黒褐色の体毛に覆われた猿だ!
4、5メートル上から、歯を剥き出しにしてこちらを威嚇している。
チンパンジーくらいの大きさだ。
1匹が長い両腕を振りかざしながら、俺に飛びかかってきた。
右腕が振り下ろされる。うわー、尖った爪が太くて長い!
だけど空中に逃げ場はないよ。
俺は猿の攻撃をかわしながら、ククリ刀で腹部を叩き斬った。
一撃で絶命。
他の4匹が警戒しながら威嚇してくる。
今度はどうするつもりだ?
魔術が使えないので、遠距離攻撃の手段は・・・。
俺はストレージから、集めておいた石を、4匹に向けて次々と投げつけた。2匹に命中して落下してくる。その2匹にはエドが素早く駆け寄り、あっという間に斬り捨てた。
外れた2匹は、慌てて木の上に登りこちらを伺っている。
仲間を呼ばれると厄介だ。ここで早めに倒しておきたい。どうしよう。
「ユーキ、弓をくれ。そして、あの2匹を引きつけておいてくれ」
「わかった」
俺はエドに弓を渡すと、2匹の猿に向かって石を投げつける。
魔装なしでは石は届かないが、猿どもはギャァギャァと俺に向かって喚いている。
そのとき、2匹の猿の頭にいきなり矢が生えて、猿たちは落下してきた。
すごい、エドは弓もいけたのか!
「エド、弓もいけたのか?」
「いや、前の遠征で反省して練習中。今のは止まってる的だったからね」
「助かったよ。仲間呼ばれる前になんとかしたかったから」
「そうだよね。次に来たらどうしよう」
「襲いかかってくれば楽なんだけど」
「あの猿、この後も出そうだよね」
「うん、たっぷりいるね」
二人とも有効な手段が思いつかない。
魔装が使えれば、石を投げても倒せそうなんだけど。
じっとしてても仕方がないので、俺たちは先に進むことにした。
襲われても倒せるだろうから、また猿が来たら逃げるフリをして襲ってきたところを倒そう。
結局脳筋戦法だ。
フォレストウルフやフォレストボア、その他体長3メートルほどの蛇や、50センチくらいのカブトムシ?のような昆虫などを倒しながら、俺たちは2時間近く進み続けた。
この階は、かなり広いようで、一向に次の階段が見つからない。
サーチで見ると、冒険者が多数集まっている広いエリアがあるので、一旦そこに行ってみることにした。
そこは、森の中にぽっかりと空いた広場になっており、冒険者たちが思い思いに休息していた。テントもいくつか張られている。




