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第44話 ゴブリンパーティ(ダンジョン6-7階)

 6階への階段に到着したところで一旦休憩をとることになった。

 階段を降りると、中ほどに広いスペースがあり、何人かの冒険者たちが休んでいる。

 ここは魔獣の侵入もなく、安全に休息が取れるエリアだそうだ。

 また、階段を挟んで反対側のスペースには、魔石が埋め込まれた石の台座があった。

 そこに魔力を通しておくと、次にダンジョンに入るとき、入り口の台座の魔石に触れることで、直接ここに転送されてくるらしい。この転送装置は、今のところ5階毎に確認されている。

 仕組みは不明。どこのダンジョンにも似たような階層移動の仕組みがある。


 改めてダンジョンは不思議な場所だ。

 ダンジョン内では、基本的に魔獣同士は争わない。外の世界では、魔獣の縄張り争いもあることを考えれば不自然なことだ。食糧をどうしているのかもわからない。

 ダンジョンの魔獣は基本的には生殖行為により増えるのではなく、自然に発生しているという。

 そして、どんなに弱い魔獣でも、人間には逃げずに襲いかかってくる。

 その上に、このような休息エリア。

 階層移動システム。

 まるで、人間のために用意された訓練施設のようだ。

 お宝が出るのも、訓練の達成報酬なのか?

 魔獣が跋扈する世界で、人間に生きる力をつけさせるための施設、それがダンジョンなのだろうか?

 コーヒーを飲みながらそんなことを考えていたら、休憩終了の声が師匠からかかり、俺たちは6階に降りた。


 6階は再び洞穴のようなエリアだ。

 ただし、整備されたものではなく、通路も壁も天井もゴツゴツした岩肌でできたいる。

 壁や天井に光苔のような緑色の発光植物が生えており、それが洞穴を薄ぼんやりと照らしていた。

 気配察知と地形探知を起動する。

 広い!

 蟻の巣のように張り巡らされた迷路の終わりが見えず、次の階段の場所がわからない。


「師匠、ここは広すぎて次の階段がわかりません」

「そうかい、とすると、アンタの現状の探知範囲はおよそ1キロといったところかね」

「あと、今のところここには同じ種類の魔獣しかいません」

「ほう、何が出るんかのう。ほれ、さっさと進むよ!」


 知っているくせに教えるつもりはないようだ。

 俺は気配察知を駆使して、冒険者を探った。

 最も多くの冒険者が向かっている方向、それが次の階段への方向だと当たりをつけて、そちらの方へ進むことにした。


 前から2匹の魔獣の気配がゆっくりと近づいてくる。

 え?二足歩行?人間?

 身長130センチくらいの影が2体、こちらに気づくと「ギギッ」という声をあげ、棒を振りかざして走り寄って来た。

 褐色に近い肌色、髪はなくギョロ目、引き裂けた口には歪な牙、ガリガリに痩せていて、腰にボロ布を巻いただけ。おまけに臭い!

 これ魔獣?人間じゃないよね?


「ユーキ!多分ゴブリンだ!」と、言いながらエドが剣を構える。


 ゴブリン?ゴブリンて魔獣なの?ヨーロッパじゃ妖精の一種じゃなかったか?

 俺が見た映画だと、銀行員やってたぞ!


「師匠!倒していいんですか?」

「当たり前じゃろ」

「人間じゃないんですね?」

「ゴブリンは魔獣じゃ」


 それさえわかれば問題ない。

 俺とエドは一体ずつ首を刎ねた。


「ユーキ、何を躊躇ったんじゃ?」

「いや、元の世界の物語では、ゴブリンは銀行員をやってて、魔獣の類ではなかったもので」

「元の世界にゴブリンがおったか?」

「いえ、あくまでも物語の中、想像の生物です」

「そうかい、言うとくがゴブリンは立派な魔獣じゃ。次からは躊躇うんじゃないよ」

「わかりました」


 いやぁ、元の世界と認識が違うとやばいな。こっちではチワワが魔獣とかないよね。

 もっとこの世界に慣れなきゃ。

 ところで、このゴブリンの死体・・・。


「師匠、ゴブリンも持って帰りますか?」

「ゴブリンは使えるのは魔石だけじゃ。魔石だけ取り出すかい?」


 ゲッ、魔石は心臓辺りにある。ゴブリン捌くのいやだな・・・。


「さっきのナイフで血抜きすれば血は出んぞ」


 そうなんだけど、なんか嫌だ。

 俺は、ゴブリンの死体を放置していくことにした。

 エドも嫌らしい。

 放置しておけば、いつの間にかダンジョンに吸収される。


「しかし、ゴブリンなんているんですね」


 俺がつぶやくと、師匠が教えてくれた。


「最近では、地上では滅多に見かけんようじゃ。昔はあちこちにおって、村を襲ったりしておった。今じゃ絶滅したとも、森の奥地で生息しておるとも言われておるが、正確なところはわからんのう。ダンジョンではご覧のとおり健在じゃ」


 そうなのか。

 二足歩行で道具使ってたら、なんとなく人種の異種族のような気がしないでもないが、先ほどの感じでは意思疎通が可能とも思えないな。

 よし、きちんと魔獣と認識しておこう。

 だってこの先出るのゴブリンだけだからね。しかもうじゃうじゃ。


 次の階段への予測をしながら進むこと15分ほどで、俺の地形探知にようやく階段の場所がヒットした。やはり、多くの冒険者たちが進む方向で間違っていなかった。

 俺とエドはときに前後を交代しながら、洞穴のような通路を歩き続けた。

 ゴブリンは前方、後方あるいは横道からしばしば現れたが、多くても同時に3体程度だったのでかすり傷一つ負うことなく倒していった。

 単調な道行きになったが、俺は元の世界で受けた訓練のおかげで油断することはなかった。

 残念ながらエドはすっかり気が緩んでいる。

 今後の成長のために黙っていよう。決して面白いからではないよ。


「うわぁ!」


 前を歩いていたエドが突然叫び声を上げる。

 天井から降ってきた5匹のムカデがエドの顔や身体にまとわりついていた。


「ユーキ!助けてくれ!」


 エドが必死でムカデを剥がしながら不思議な踊りを踊っている。

 俺は笑いをこらえながら、背中についた2匹のムカデをナイフで剥がして切り捨てた。

 エドは自分で剥がしたムカデを怒りを込めた剣で叩き斬っていた。


「ユーキ!気づいてたんだろう!教えてくれよな!」

「いや、君、油断しすぎ。今後のためにも一度は痛い目にあっといた方がいい」


 俺はそう言いながら、エドに治癒魔術をかけてやった。

 エドはありがとうと言いながら、なおもぶつぶつ文句を言っている。

 メイデン師匠はニヤニヤしながら俺たちのやりとりを見ていた。


「おい、エド。またゴブリンのお出ましだぞ。君が騒いだから大量に来たぞ」

「わかってるよ!くそっ、俺1人でやってやる!」


 そう言うとエドは背負っていたリュックを降ろすと、ゴブリンのやって来る方に駆け出し、次々とゴブリンを斬り伏せていった。

 こういうのはやけ斬りとでも言うのか?

 十数匹倒したところで周囲にゴブリンの気配はなくなった。


「くそっ、もう二度と油断しないぞ!」


 戻ってきたエドは、ぶつぶつ言いながら、水魔術で剣についた血糊を洗うと、腰につけたウサギの毛皮の切れ端で拭いていた。まあ、これでエドの油断もなくなるだろう。


 それからもゴブリンを倒しながら進むこと1時間ほどで、ようやく7階への階段に着いた。

 1フロアを踏破する時間が徐々に長くなってきた。


 階段を降りる途中には、やはり休憩スペースがあり、そこそこの数の冒険者たちが身体を休めていた。

 俺たちはこのまま進む。


 7階は6階と同じく洞穴のフロアだ。

 気配察知にかかるのは、またしてもゴブリンがほとんどだ。中に少し強そうな気配がある。

 しかし、単独の者はほとんどおらず、5、6匹、多い場合は10匹程度のグループで行動している。狭い通路で、動き回れるスペースがあまりない中での戦闘だ。相手の攻撃パターンがわからない。どちらに有利に働くかな?


「師匠、まだ魔装も魔術も使っちゃだめなんですね?」

「言うたじゃろ、10階までは素の力でやるんじゃ」


 へいへい、わかりましたよ。


 ここでも俺の地形探知では、次の階段の場所はわからない。

 6階と同じように、冒険者の動きから予想をつけて進み始めた。

 先ほどまでのゴブリンたちの武器は、木の棒だった。しかし、このダンジョンは、階層が進む毎に敵の強さが増している。

 同じゴブリンが強くなるとしたら、数の増加と武器の強化か?

 念のため俺はストレージから丸盾を二つ出して、エドとそれぞれ装備した。

 俺だけなら、ストレージから一瞬で装備できるけどね。


 しばらく歩いたところで、最初のゴブリンパーティに遭遇した。

 5人?いや5匹というべきか?

 驚いたことに2ー2−1の鶴翼の陣形を取ってきやがった。しかも、1列目の2匹と3列目の1匹は剣を、2列目の2匹は弓を構えている。

 ゴブリンってこんなに知恵があるの?本当に人種じゃないんだよね?


 早速ゴブリンから弓が放たれる。幸い質の悪い弓らしく威力は弱い。

 ククリ刀で矢を叩き落とす。

 俺とエドは目配せをして、ゴブリンが2射目を構えたところで、クロスしながら前列の両端のゴブリンに駆け寄る。弓を構えていたゴブリンは、自分が狙っていた相手が交差しながら反対方向に走ったため、狙いがずれて発射が遅れる。

 その一瞬で、俺とエドは両側のゴブリンを斬り伏せ、そのまま弓を持ったゴブリンも斬り倒した。流れのまま俺は最後の指揮官らしきゴブリンを叩き斬った。


「あ、俺がやろうと思ってたのに!」

「早い者勝ちだよ」

 と、俺は笑って答えた。俺の方が一瞬早かった。次は頑張れ!


 ゴブリンは放置するが、持っていた武器は一応回収しておく。

 剣は鉄製だが質が悪い。切り結んだら折れそうだ。


 それにしても、武器を使い、陣形も工夫するほどの知恵がある。

 言葉は通じないようだが、ホモ・サピエンスとネアンデルタールみたいに、人科の別種というんじゃないの?でも魔石持ちなんだよな。魔石があると魔獣かぁ。

 魔石は、鉱山でも採掘される。

 濃い魔素が長年圧縮されて魔石鉱山になると言われている。

 ではなぜ生物が魔石を持っているんだろう。わからん!

 しかし魔石を持つのは魔獣、魔獣は人を襲う。討伐するしかない。

 とにかくゴブリンは魔獣!

 ここで和平交渉ができるわけじゃない。倒して進もう。


 少し先にまた5匹パーティのゴブリンがいる。

 まだこちらに気付いていない。


「エド、今度は一人でやらせてくてるか?」


 そう言って俺はゴブリンに向かって走りだした。

 俺に気付いたゴブリンは素早く陣形を整えて、弓を構える。

 あと10メートル。

 矢が飛んでくるのを右に飛んで避けると、そのまま右の壁に飛び上がり、壁を蹴って方向転換。

 三角跳びだ。

 思わぬ方向から飛び掛かる俺に慌てるゴブリンたち。

 俺はそのまま5匹のゴブリンを斬り捨てた。


「へえ、カッコいい技だな。じゃあ次は俺だね」


 エドは次のゴブリンのパーティを見つけると、正面から走って行った。

 放たれた矢を剣で叩き落とすと、そのまま真っ直ぐ突っ込んで、ゴブリンたちの上を宙返りしながら飛び越した。背後を取ったら、たちどころに5匹を斬り捨てた。


 おお、すごい!エドもかなり強くなっている。

 今の年齢で言えば、19歳のエドの方が俺よりも筋力は勝っている。

 元々の才能に加えて、ここ最近はかなり激しい訓練をやっていた。

 うかうかしてたらやられるな。

 エドがドヤ顔でこちらを見ている。ウザい!


 張り合っていたら、メイデン師匠から連携の練習をしろと怒られた。

 この先一人で倒すのが難しい敵が出て来るということか。

 別に本気で張り合いたいわけだはないから、その後俺たちは色々なパターンを試しながら進んで行った。

 お互いに盾役の練習もした。魔術を使わなければ、盾役としてはパワーのあるエドの方が向いているようだ。


 しばらく行くと、気配察知で異常を発見した。

 500メートルくらい先に広場があり、そこでおそらくは冒険者5人が数十匹のゴブリンに囲まれていた。

 これ大丈夫かな?

 広場からは4方向に通路が伸びている。各通路から来たゴブリンに囲まれてしまったようだ。


 冒険者は基本的に不干渉だ。もちろん助けを求められれば助け合うのだが、余計なお節介は報酬などのトラブルを招く。また、わざと魔獣を集めている場合だってある。


 エドと師匠に状況を告げ、様子を見ながら近づくことにした。


 少し速足で進みながら様子を伺うが、ゴブリンは一向に減らないばかりか、冒険者の方は怪我でもしたのか、まったく動かなくなった者もいる。

 ちょっとヤバいかもね。師匠とエドも気がついている。


 俺たちは全力で走り出した。

 広場に着くと、冒険者たちは防戦一方でかなり危険な状況だ。

 ここから起死回生の一発とかないよね?


「冒険者です!助けは入りますか!?」

 と、俺は大声で問いかける!


 おお、ゴブリンも一斉にこちらを見た!何匹いるんだ?


「た、助けて下さい!!」



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