第43話 吸血ナイフ(ダンジョン4-5階)
師匠、この階に変な場所があるんですが」
「変な場所?」
「はい。通路と繋がってない正方形の部屋のようなものがあります」
「隠し部屋かな?しかし、こんな浅い階で?ちょっと待ってな」
そう言って師匠は地形の探知を始めた。
「なるほど、これは確かに隠し部屋かもしれんな。行ってみるか」
エドも一生懸命に探知しようとするが、まだできないようだ。
「なあ、エド。試しに薄く魔力を飛ばすような感じでやってみたらどうだ?」
俺は思いついたことをエドに言ってみた。
「魔力を飛ばす?」
「そう、ほんの少しでいいんだけど、魔力を飛ばしてぶつかったら行き止まり。それで空いてる方に魔力を飛ばす。それを拡げていって全体を把握するんだ」
「ユーキはそうやっているのか?」
「いや、わからん。俺は気配察知の延長で何となくできたんだけど、今エドを見ながら自分のこと考えてたら、なんか、薄っすら魔力を飛ばしてる気がしたんだ」
「ちょっとやってみる」
そう言ってエドは集中しだした。
「あっ、何となくわかった!まだ近い範囲だけど、通路の形が見えた気がする!」
「それは良かった!じゃあ、そのやり方を続けながら、とりあえず進もう」
すると、師匠から、そういうことは自分で気づかせるんだよ、とぶつぶつ文句を言われた。
正解だったのか・・・
少し進むと、3匹の魔獣が走ってくる気配があった。
襲ってきたのは、黒っぽい狼だった。
ブラックウルフを思い出して一瞬緊張するが、魔力も弱いし動きも遅い。
落ち着いて3頭の首を切りつけて、簡単に始末した。
「ブラックウルフに似てるけど、ケイブウルフだよ。洞窟を棲家にしてる」
師匠が教えてくれた。
ダンジョンに入ると、新しい魔獣を相当覚えられそうだ。
相変わらずネズミやムカデも出てくるけど。
隠し部屋と思しき方へ進んでいると、急に通路が暗くなってきた。
「目に魔力を込めな。暗視の練習だ。エドは大丈夫かい?」
「はい、なんとか。近場なら地形もだいぶわかってきました」
俺は暗視カメラをイメージして目に魔力を込めてみる。
おお、本当に暗視カメラのように見える!
魔力ってすごいな!
おっと、天井に数匹の小さい魔獣がいるぞ。
こちらに向かって飛んできた。
コウモリか!5匹!
俺は数歩走ってジャンプしてククリ刀を振るう。
3匹を仕留めた。
俺の横を抜けていった2匹はエドが仕留めていた。
エドは、ダンジョン入ってやっと魔獣仕留めたよ、と笑っていた。
「吸血コウモリだね。噛まれなさんなよ、血を吸われるよ」と、師匠から注意がとぶ。
この吸血コウモリのエリアは数百メートル続き、連続して襲われたが、魔装を使わずとも余裕で対処できた。素の力もかなり向上した気がする。筋力はまだまだだ。元の世界のときの力には全然及ばない。まあこればかりは仕方ない。
このエリアの突き当たりの右手に隠し部屋らしき場所があった。
しかし、目の前にあるのは岩壁だ。
どうやって入るんだ?
岩壁をじっくりと調べると、一か所小さな魔力が固まった場所があった。
そこを手で触ると、目の前の壁が、ゴゴゴと音を立てて横に開いた。
本当に隠し部屋だった!ゲームかよ!
部屋の中は明るく、中央に石の台座があり、そこに1本のナイフが載っている。
俺たちは慎重に部屋に入って、台座の上のナイフを眺めた。
何の装飾もない刃渡り20センチくらいのサバイバルナイフのようなゴツいナイフだ。
ただ明らかに魔力を纏っており、強い存在感を示している。
「師匠、手に取っても大丈夫でしょうか?」
「ああ、隠し部屋の宝物だね。こりゃあ魔剣だね。しかし、こんな浅い階で魔剣とはね」
「吸血コウモリの巣の突き当たりなんで、誰も気づかなかったんでしょうね」
俺は台座のナイフを手に取ってみた。ずしりと重い。
そっと魔力を流してみる。これで切れ味が上がったのかな?
「師匠、この魔剣の能力はわかりますか?」
「いや、わからないね。色々試して能力を調べるしかない」
とりあえずここを出ようということで、俺たちは隠し部屋を出て来た道を戻った。
先ほど倒したせいか、戻りは吸血コウモリはまったく出なかった。
ダンジョンの中では、魔獣は倒しても一定時間経つと再度出てくるらしい。リポップと呼ばれている。今回は、倒したばかりだったので、まだリポップしていなかった。
吸血コウモリのエリアを抜けて、今度はまっすぐに4階への階段を目指す。
途中、ケイブウルフやネズミ、イタチなどが襲ってきたが、問題なく階段に到着した。
4階に降りて、俺は目を疑った。
そこには、真昼間の明るさで、大草原が広がっていた。マジか!
「どうじゃユーキ。ダンジョンは不思議なところじゃろう」
メイデン師匠が楽しそうに言う。
「そうですね、驚きました」
「まだまだ驚く場所が沢山あるから楽しみにしておくがよい」
「この階は、結構冒険者がいるみたいですね」
「そうじゃの、この辺りまで来れば多少は稼げるからのう」
エドも、以前来たときは、4階、5階辺りで小遣い稼ぎをしたらしい。
地形探知をしてみると、外縁がわからない。なぜかぼやけた感じがして、端があるようでない。どうなってるんだ?
あっ、階段見つけた!
とりあえず階段に向かって進もう。
少し先に、緑色っぽい毛のイノシシがいる。体長2メートルくらいか。
「師匠、さっきのナイフ、試してみてもいいですか?」
「いいぞい」
イノシシはこちらに気づいていない。
俺は魔剣らしきナイフに魔力を注ぎ込んで、イノシシに向かって走った。
イノシシがこちらに気づいたが、俺は一瞬でイノシシの首元に飛び込み、ナイフを一閃した。
スパッとイノシシの首が切れ、直後真っ赤な血が吹き出した。
いい切れ味だ。
しかし、ナイフが不満を訴えているような感じがする。
なんだ?使い方が違うのか?
こちらに来た師匠にその旨を告げると、師匠は少し考え込んでから、絶命して横たわっているイノシシに、ナイフを突き立ててみるよう言った。
俺は言われたとおりにナイフを突き立てた。
すると、ナイフから歓喜の感情が伝わってきた。え?刺す武器なのか?
ナイフが淡く光り出す。
そして、・・・なんだこれは?血を吸っている?
わっ、本当に血を吸ってるよ!
イノシシの首からドクドクと流れていた血も止まった。
「こりゃ吸血ナイフ、ヴァンパイアナイフじゃな」
「吸血ナイフですか」
「ああ、前に似たような物を見たことがある。中々凶悪な武器じゃぞ。まあ、血抜きにも便利じゃがな」
うわぁ、これで血を吸って倒すのか。えげつない武器だけど、結構使えるかもしれないな。
問題は動き回られると刺し続けるのが難しいところだ。
投げたり、刺したあと手を離したらどうなんだろう。
持ってないと血を吸わなかったら、戦闘にはむかないかな。どこかで試してみよう。
今倒したイノシシは、グラスボアという種類で、肉が美味しいらしく需要は多いとのこと。
毛皮も何かしらに使える。
この階には他にファングラビットという体長1メートルほどの鋭い牙を持った大型のウサギや、草原で活動するグラスウルフという狼、体長2メートルほどの縞模様のストライプスネークという蛇などがいた。
いずれも食用に適しているため、ランクの低い冒険者たちの良い稼ぎになる狩場となっていた。
俺たちは稼ぎに来たわけではないので、出会う魔獣は俺とエドでさっさと倒しながら5階に進んだ。
5階の作りは4階とほぼ同じだった。出てくる魔獣も似ているが、5階には中型のグラスディアという鹿がおり、この肉が大変美味しいらしい。しかし一方でアサシンスネークという50センチくらいの猛毒を持った小さな蛇がいる。このため、気配察知に優れたパーティや、毒対策が十分な冒険者でないと危険が大きいということで、4階よりも冒険者は少なかった。




