第42話 ダンジョン
3日後、俺とエドはメイデン師匠に率られて、ダンジョン訓練のためにレクシャールに向けて出発した。馬を走らせて、夕方には到着するらしい。
前日の晩餐は、まだここに滞在している伯爵夫妻を交えて、ジェームス様たちと共にした。
シルビアちゃん達子供組は、久しぶりのお祖父様、お祖母様と一緒で楽しそうにしていた。
俺がダンジョン訓練に行くことについては、サマンサ様でさえ止めなかった。
この国の貴族男子は、魔獣と戦えることが当然だからだ。
ただ、ダンジョンから帰ったら、ちゃんとシェフィールドに来るのよ、と再三言われた。
シルビアちゃんは、なぜサマンサ様が俺をしつこく誘うのか不思議そうにしていた。
途中何度か馬を休ませるために休息をとって、午後5時ころレクシャールの街に到着した。
この街は、ダンジョンによってできた街で、ダンジョン探索を行う冒険者と、ダンジョン資源を取り扱う商工業従事者が中心となっている。
活気に満ちているが、おしゃれな雰囲気は少ない。
領都レグルスの冒険者エリアをそのまま持ってきたような街だった。
この街には、ダンジョン氾濫に備えて、騎士団200名が常駐している。
俺たちは、レクシャールの代官屋敷で一泊し、翌朝からダンジョンに潜る。
馬はここで預かってもらう。
代官に、明日から30日程度ダンジョンに潜りっぱなしだと告げたら驚愕していた。
翌朝、レクシャールの冒険者ギルドに立ち寄り、本日から約30日の予定でダンジョンに潜ることを報告しておいた。冒険者は、移動先で活動する場合には、その場所のギルドに滞在報告をしておくことが義務づけられている。立ち去るときも同様だ。
長期間ダンジョンに潜り続ける冒険者は、結構いるらしい。特に、深層を攻略する高ランクのパーティは、かなりの長期間ダンジョン内に留まり続けるらしい。
ところで、ここで驚いたのは、メイデン師匠も冒険者登録をしていたことだ。しかもSランクだと!ザックさん達がびびったわけだ。
街を出て1キロほどのところにダンジョンはある。
ダンジョンへ続く道は、ちらほらと冒険者の姿が見える。皆6、7人の武装したパーティだ。
中には荷車を引いている者や、武装せずに大きなリュックを背負った者もいる。
エドに聞いたら、荷車は、ダンジョンで獲れた魔獣などの資材を持ち帰るためで、大量狙いの連中らしい。リュックを担いでいるのはポーターだそうだ。数日潜るパーティは、大体ポーターを雇うのが普通らしい。そう聞くとストレージの有り難みを改めて感じる。
ダンジョンが近づくと、そこは縁日のように屋台が並び、食い物や、武器、防具、ポーション、探索道具などが売られていた。ダンジョンで壊れた武器や防具を修理する鍛治の屋台もあるらしい。木造の木賃宿のような簡易宿泊所もある。広場でテントを張って泊まり込んでいる冒険者もいるとのこと。
ちょっとした村の様相だ。
いよいよダンジョンに入るかと思うとワクワクしてきた。命の危険がある場所なのに、気分としてはアミューズメント施設に来た感じだ。
だってダンジョンなんて元の世界では物語の産物だ。それが現実に存在ずるのだから興奮するのも仕方ないよね。
このダンジョンには『タイガーピット』、『虎の穴』という名前がついている。
中でプロレスラーを養成したりしてないよな?
名前の由来は不明だ。
ダンジョンの入り口は、そのまま洞窟だった。幅、高さ共に3メートルほどの大きな穴が丘陵の斜面にぽっかり空いている。これだけ大きな穴なのに何故か日の光がまったく差し込んでおらず、外から見ると真っ暗だ。なんとなく、入り口のところに魔素の揺らぎを感じる。拒絶される感じではないが、現実の世界とは仕切られているとでも言うのだろうか、とにかく別の領域を形成しているイメージだ。
入り口横に立つ衛兵にダンジョンの進入許可証を見せ、いよいよダンジョンの中に足を踏み入れた。
入り口を通過する瞬間、ブワリとした感覚が全身を覆った。
外から真っ暗に見えたダンジョンの中は、薄暮程度の明るさで、視界は十分だった。
うわぁ、ダンジョン入っちゃったよ!
しかし、入ると同時にワクワク感は吹き飛んだ。ここは明らかに別世界だ。
カケラも油断するな!
幅3メートルくらいだった道は、中に入ると5メートルくらいに拡がって前方に続いている。
坑道よりも大きく天井も整備された通路だ。
「さあ、止まっとらんでさっさと進むよ」
メイデン師匠に声をかけられて我に返った。
「しばらくは雑魚ばかりじゃが、訓練じゃ。二人とも気配察知を怠るんじゃないよ。それに、今回は地図は買ってない。マッピングもするんじゃないよ。気配察知を磨いて、地形の把握もできるようになるんじゃ」
マッピングとは、進行しながら地図を作ることだが、これをすべて頭の中でやらなければならない。
「アタシが許可するまで魔装も魔術もなしだ。まずはユーキが前を歩きな」
俺は気配察知を全開にしてこの階の状況を探る。
さほど広くない。途中で何度か分岐しているが、2階への通路はすぐに見つかった。
途中に小型の魔獣や冒険者の気配も感じられる。
「師匠、2階に行く道はわかったんですが、まっすぐそっちに行ってもいいですか?」
「ほう、探知範囲はかなりのもんだね。いいよ、まっすぐ行きな」
師匠の許可を得て、俺は進み出した。
エドは、魔獣の気配はわかるけど、地形はわからない、と言って嘆いている。
そうか?原っぱや森よりも、通路になっているからかなりわかりやすいぞ。
エドは師匠から、魔獣の気配がするところを繋いでいって、通路があるようなイメージを持つことから始めろと言われている。どうやらエドはしばらくは気配察知や地形探知の訓練だな。
もうすぐダンジョンに入って最初の魔獣に遭遇する。気配は随分と小さい。何の魔獣なんだ?
しばらく進むと、30センチくらいのネズミが飛びかかってきた。
既に察知済みなので、手にしたククリ刀で簡単に切り捨てた。
「師匠、回収するんですか?」
「好きにしな。でも、時間はかけるんじゃないよ」
せっかくなので回収しておこう。
俺はネズミの死体に手をかざしてストレージに回収した。
多分、魔力制御の訓練を続けたことで、俺の気配察知の範囲はかなり拡がったし、ストレージは数メートルの距離にある物を、手を触れずに収納できるようになっていた。原理はよくわからない。
30分もしないうちに2階に降りる階段に到着した。
途中、ネズミが10数匹出たが、一瞬でストレージに入ってもらった。
今のところ早歩きの散歩だ。
エドはまだ地形把握に苦労している。
「このままどんどん進むよ。今日のうちに10階くらいまでは行っておきたいからね。しばらくはユーキが先頭を続けな」
階段を降りて、2階の地形を探知してみる。
ここも大した広さではない。1階と似たような通路で、分岐は増えているが3階への階段までは同じくらいの距離かな。
ネズミの気配は覚えた。ここにもネズミはいるが、先ほどよりは少し大きいようだ。
知らない魔獣の気配もあるがどれも弱い。なので、まっすぐ階段へ進むことにする。
そもそも今回は訓練なので、魔獣との戦闘は基本的に回避しない方針だ。
トーダは俺の頭の上でずっと寝ている。俺と師匠以外の人がいるときは寝ていることが多い。
退屈じゃないのか聞いたら、俺の頭の上で寝ていると自然に俺のマナがトーダに染み込んできて気持ちが良いらしい。ならまあいいか。
おっ、尻尾の長い茶色の魔獣が、ジグザグに走りながら突っ込んできた。
一刀両断。何だこれは?イタチか?少し可愛いが、牙があるな。
次に現れたのは、壁を這っているムカデ。
投擲の練習で、投げナイフをムカデの頭に投げた。
頭を貫通したナイフは壁に跳ね返されてキンと音を立てて地面に落ちる。
ムカデも落下してグネグネ動いていたが、すぐに動かなくなった。
ストレージに入れるのが気持ち悪いが、何の役に立つかわからないので一応回収しておいた。
この階で出るネズミは50センチくらいと、少し大きくなっていた。
2階も、30分程度で終了。
エドはまだコツが掴めずに唸っている。
3階に降りて地形を探知する。
階段までの距離はこれまでよりは遠いが、まだ俺の探知が届く範囲だ。
全体にやや複雑になり、迷路のようだ。
あれ?これは何だ?




