第40話 ダンジョン訓練決定
暦が7月に入り、俺とエドの基礎訓練が終わった。
ランカスター領周辺の森の異変は確認されているが、今のところ森から強力な魔獣が頻繁に出てくるといった事態には至っていない。そのため、森近隣の街や村の警戒を強める程度で様子見をしている。しかし、メイデン師匠は、これまで確認された異変に強い懸念を持っており、騎士団に対して一層の警戒と戦力強化を指示していた。師匠は、相当権力を持っていたみたいだ。
そして、俺とエドは、師匠からダンジョンでの訓練を言い渡された。
ランカスター領には未攻略の大型ダンジョンが一つある。
地下に階層が続くタイプのダンジョンで、現在は地下37階まで確認されている。
1週間後に出発し、1ヶ月間ダンジョンに潜り続けて、地下30階までの踏破を命じられた。
師匠も同行するらしいが、基本的に手は出さず、俺とエドの指導役に徹する。
俺はぴんとこなかったが、エドは二人で30階までと言われ青くなっていた。
エドは過去に訓練目的で、5階まで行ったことがあるらしいが、20階を越えるとA、Bランクの冒険者の大型パーティが挑む領域らしい。二人で30階は自殺に等しいという感覚らしい。
エドが恐る恐るそのことを師匠に言うと、師匠はフンと鼻を鳴らしながら冷たい視線を俺たちに向けた。
「アンタたちの今の実力のままじゃ、20階辺りで死亡かね。だから潜りながら強くなるんだ。今回は促成栽培なんだよ。アンタたちには一刻も早く力をつけてもらわなきゃならない。1ヶ月でAランク冒険者より強くなるんだ。かなりの無茶はしてもらうよ!」
エドはますます顔が引き攣っていた。
俺は、特に動揺はない。無茶な訓練は元の世界でも何度もやらされた。魔術もストレージもなかった地球で、アマゾンのジャングルでサバイバル訓練もやらされた。それに比べれば、食糧や所持品に不安がないだけ、今回の方が気が楽だ。もちろん戦う魔獣は地球よりもはるかに強いのだろう。甘くみるつもりはない。しかし、飢える心配はない。泥水をすすらなくて良い。これだけで俺にとっては恵まれた訓練なんだ。
覚悟を決めたエドと二人で街に出て、ダンジョン訓練用の食糧や、備品を大量に購入した。食糧は、ダンジョン内で料理をすると魔獣を呼び寄せかねないので、すべて調理済みの物にした。万が一はぐれた場合を想定して、エド用に数日分の保存食も調達してある。
冒険者ギルドには、ダンジョンの入場許可証をもらいに行った。
現地のギルド支所でも許可証はもらえるが、顔見知りの方がいい。
グリーンベルト遠征以降、ギルドに顔を出してなかったので、受付のシェリーさんに心配された。それに、街中の依頼で、俺に頼みたいという話しがいくつかきていたらしい。時間があればまたやりたいんだけどな。
ギルドは相変わらず活気に溢れていた。ただ、グリーンベルトや北部の森の異変は当然ギルドでも情報共有されており、これら辺境の森での討伐についてはランク制限がかけられていた。
ギルドを出ようとしたとき、ちょうど依頼を終えて帰ってきたザックさんのパーティと出会った。
「ユーキ久しぶりだな。どこか遠出してたのか?」
「お久しぶりです、ザックさん。騎士団に同行させてもらって少し遠征に行ったり、魔術訓練なんかで暇なしでした」
ザックさんの目がきらりと光る。
「遠征はどこだ?」
「南部のグリーンベルトです」
「お前、この後時間あるか?少し話しを聞かせてくれないか?」
俺がエドの方を見ると、エドは頷いてくれた。
「わかりました」
「すまん、じゃあ急いで達成処理してくるから、向こうの空いてるテーブルで待っててくれ。食い物は好きな物を頼んどいていいぞ」
ザックさんはそう言って、飲食エリアを手で示した。
今は昼間なので、割と空いている。
エドとコーヒーを飲みながら待っていると、しばらくしてザックさんたちがやってきた。
ザックさんのパーティは5人組みで、斥候、盾職、治癒もできる魔術師、槍使いの戦闘職、それに盾役も戦闘もできるザックさんという、バランスの良い編成のAランクパーティだった。
それぞれ自己紹介した後、グリーンベルトでの様子を詳しく聞かれた。
秘密情報はない。むしろ冒険者にも周知しておくべきことなので、できるだけ正確に説明した。
ザックさんたちは難しい顔をして聞いていた。
俺は知りたかったことをザックさんに聞いてみた。
「ザックさんたちのパーティなら、レッドベアレベルの魔獣は平気なんですか?」
ザックさんたちは顔を見合わせる。
「そうだなぁ、レッドベア1頭なら、少々時間をかければなんとかなるかな。無傷とは行かんかもしれんが」
そうか、やはりAランクパーティの実力は相当なものなんだな。
「騎士団の小隊が苦戦したみたいだが、騎士団が弱いわけじゃないぞ。武器の相性もある」
「武器の相性ですか?」
するとザックさんは自分の大剣を俺に見せてくれた。
「レッドベアは特に防御力が強い。普通の武器ではほとんど攻撃が通らない。俺の剣は魔剣なんだ。魔力を通すと切断力が桁違いに上昇する。これがあるから俺たちは硬い相手でも対処できるんだ」
「俺たちにとっては、ブラックウルフ30何頭の方が厄介かもな」
斥候職の人がそう付け加えた。
なるほど、相手によって相性があるんだな。
「お前らも武器や防具に金を惜しむなよ」と、ザックさんが忠告する。
「わかりました。心掛けます。その魔剣はいくらぐらいするんですか?」
「ああ、これは買ったんじゃない。ダンジョンで手に入れたやつだ」
ダンジョンではそんな物も手に入るのか!思わず期待してしまうが、そうそう上手くは行かないか。
「そうだったんですね。俺たちも近々ダンジョンに行く予定なんです」
「どこのダンジョンだ?」
「レクシャールです」と、エドが答える。
俺たちが行くダンジョンは、ランカスター領西部の街、レクシャールにある。
「レクシャールか。ユーキはダンジョン初めてだろう。下層はかなりきついから気をつけろよ。パーティ編成は?」
「えっと・・・、エドと俺の二人です」
「おい、本気か!いくらなんでもそれは無謀だろう!」
ザックさんたちが声を揃えて注意してくれる。
「いや、そうなんですが、師匠の指示なんで」
「誰なんだ、そんな無茶な指示する師匠は!俺が一言言ってやる!」
思わずエドと顔を見合わせる。
「ええっと、侯爵家のメイデン先生です」
俺が恐る恐る答えた。すると、しばし沈黙が支配する。
え?どうしたの?
ザックさんが、さっきまでの態度を一変した。
「そ、そうか・・・。まあ、頑張れ」
と、小声で言うと、俺から目を逸らしやがった!
「え?ザックさん、師匠に一言言ってくれるんじゃあ?」
「お前何恐ろしいこと言ってんだ!メイデン先生が行けと言うんなら行け!行くんだよ!あっ、俺たち用を思い出したから。じゃあな、頑張れよ!」
なんと、ザックさんたちはそそくさと立ち去ってしまった。
「なあエド、これどういうこと?」
「いやわかんない。メイデン先生って、冒険者にも有名なんだな・・・」
有名って言うより、怖がられてんだろ!
まったく何やったんだよ、師匠!




