第39話 空歩、エアウォーク
俺の養子話しの話し合いから、約1か月が経過した。
俺は、あの後すぐにジェームス様に養子の話しを了承する旨伝えた。
ジェームス様が、適切な家をすぐに探してくれるとのことであった。
エリカ様には、マナーの勉強をさぼらないように注意された。どうやら本当に必要になりそうなので、週に1度は参加するようにした。なぜかシルビアちゃんが喜んでくれた。
ジェームス様には、城内で欠損がある人については全員治療したいと申し出た。
とても喜ばれたが、実施は、俺の身分が固まってからにしようということになった。
メイデン師匠の訓練にはエドも参加することになった。
エドも俺と一緒に徹底的に魔力循環と魔力の移動の訓練をやらされた。
エドは、師匠の訓練がこんな基礎的なことをやっていると知って驚いていたが、実際にやってみると、まったくできないことを認識してショックを受けていた。
なにしろ、まだ魔装の前段階の魔力制御の段階だからね。
師匠の前に立たされて1日中怒鳴られている男が二人になった。
2週間ほど経ったところで、ようやく魔力制御は一応終了ということになった。
師匠からするとまだ不満らしいが、何やら俺たちの修行を少し急ぎたいらしい。
実際の魔装の訓練に入ると、想像以上に簡単にできた。
全身に魔力を巡らせて、更に身体の表面に魔力の鎧を纏う意識をすると、自分の身体が一瞬で薄い緑の膜に覆われた。
身体が驚くほど軽く、少し動かしてみても通常とは段違いの速度が出る。これで、パワーも増しているらしい。
トーダが、綺麗な『纏』やで、と言ってくれた。魔装のことを『纏』と呼ぶそうだ。
エドも、以前と違ってスムーズにムラなく魔装ができたことに驚いていた。使う魔力もはるかに少ないらしい。基礎をたった2週間やるだけでこんなに違ったのかとうなだれていたが、師匠のあの訓練を2週間続けるのは結構難しいよ。
魔装を纏うようになってからは、魔装状態での基礎訓練になった。
師匠が木剣で打ち込む箇所を瞬時に強化したり、武器への魔装、魔装した武器での素振り。
そして、魔装した状態での運動能力向上のために、俺と師匠の二人で、訓練場の端のエリアを拡張して、フィールドアスレチックのコースを作った。俺の現代知識を動員して、全長約1キロのコースだ。でこぼこの坂道のダッシュから始まり、岩山登り、崖のジャンプ、湿地走、ボルダリング、鉄棒の懸垂、運てい、ロープ渡りなど、かなりバランスよく訓練できる。
騎士団長のフレッドさんがこれを見て大いに気に入り、騎士団の通常訓練にも取り入れることになった。なので、同じコースで、魔装なしのルートも設定した。
ただのランニングや筋トレよりも変化があって面白いので、団員の間でも評判がいい。
ここ数日は、魔装の応用で、魔力の斬撃、つまりスラッシュを、素手と剣から出す練習や、マギシールドと呼ばれる魔力の盾を作る練習をしている。
スラッシュは、瞬間的に小さな魔力の刃を出す技なので、魔力量もさほど必要としない。なので、ほとんどの団員が習得している。ただし、込める魔力量によって、より強化されたスラッシュを射つことができるが、これは個人差がでる。
一方マギシールドは、実用に耐えるレベルの盾となると、大きさ、硬さ、持続性という点で、相当の魔力量を持っていないと発動できない。
簡単な盾程度は皆が練習しているみたいだが、対魔獣で耐え得るマギシールドとなると、騎士団の魔術部隊レベルでないと使えないらしい。それでも、レッドベアなど、パワー系の魔獣を防ぐとなると、土や水、風などの防御魔術の方がコストパフォーマンスがいいらしい。
ここで驚いたのは、エドがかなり保有魔力量が多く、魔術部隊でも上位レベルだったことだ。
エド自身、これまでは文官になることを当然と考えていたため、武術も魔術もそれなりにしかやってこなかったらしい。それでも学院ではトップクラスで、ここでもそこそこできていたため、それ以上の努力をしてこなかった。
今初めて自分の潜在能力に気づいて驚いていた。もしかしてこいつ天才系か?
師匠も、こりゃあ二つ目の拾い物かね、と言っていた。もしかして、一つ目は俺か?
ところで、このマギシールド、足の裏から出せるか試したら簡単にできた。
そこで、小さな足場になるマギシールドを連続して空中に出せば、空中を歩けるのではないかと思い試してみたら、おお、できたよ!
空中に留まりたいときは、持続性のあるマギシールドを出せばよい。
これ、走れるかな?
おっ、結構いけるな!訓練すれば戦闘でも使えそうだ。
途中で空中にマギシールドを張れば、そこを蹴って方向転換もできる。三角飛びだ。
俺が、調子に乗って遊んでいたら、師匠や、訓練中の団員たちが集まってきた。
「ユーキ、アンタそれなにやってんだい?」
「あのぉ、マギシールドを連続して出せば空中歩けるかなと思ってやってみたら、結構できました」
師匠が驚いている。
式神なんて自由に空中移動できそうだから、こんなの必要なかったかもね。
師匠が試してみると、さすが師匠、簡単に空中を動き回っている。
騎士団長のフレッドさんも驚きながら聞いてきた。
「ユーキ、その技は魔力は食うのか?」
「いえ、訓練次第だとは思いますが、瞬間的に足場になる部分だけマギシールドを張るだけですし、強度も自分の体重を支えられればいいので、さほどではありません」
「なるほど。こんな使い方があるのか」
すると、団員の1人が、冒険者で空中を走って戦う奴がいるらしいと聞いたことがあると言い出した。他にもその噂を聞いた者が数人いた。
やはり思いつくやつはいるよね。
空中戦闘が可能になれば戦闘方法や作戦の幅がかなり広がるということで、騎士団でもこの訓練を行うことになった。これなら魔術部隊でなくともできそうだ。
ちなみにエドもやってみたら、ゆっくりだができていたし、数人の団員もできていた。速く激しく動くには訓練が必要だな。
この技には、フレッドさんが、空歩、エアウォークと命名した。
なお、トーダは、そないなことせんでも飛んだらいいやん、とかほざいて飛びまわっていた。
トーダ、俺は一応人間だ!
え?晴明さんは飛べたの?マジか!




