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第37話 厄介な力は素晴らしい力

 その夜、夕食後にジェームス様に呼び出された。

 予想どおりだ。


 メイドさんの案内で応接室に入ると、ジェームス様の他に、エリカ様、長男のチャールズ様、家令のアダムさんがいた。これも予想どおりだ。

 予想外が一人。

 メイデン師匠、なんでいるの?


「ユーキ、今日は重症者の治療、本当にありがとう。彼らはランカスターを守る貴重な戦力だ。しかし、それと同時に私たちの大事な家族なんだ。無茶な願いだとはわかっているが、誰一人死んでほしくないし、怪我も負ってほしくない。全員が全快したと聞いた。重ねて言う。本当にありがとう」


 ジェームス様が頭を下げる。

 エリカ様、チャールズ様、アダムさんも頭を下げている。

 本当に良い領主なんだな。

 家臣や領民に慕われ、尊敬されている訳がよくわかる。


「頭をお上げ下さい。私が治療できたのは偶々のことです。私がいなくても、メイデン師匠がいらっしゃいました。師匠なら同じことができます。それに、私がなぜこんな力を持っているのかわかりませんが、その力を使えるようにして下さったのも、治療魔術を指導して下さったのも師匠です。今回の件はすべて師匠のおかげで、私がお礼を言われるようなことではありません」


 (ワイもユーキの治療したったんやで!)

 (わかってるよ、トーダ。トーダには心から感謝してるって)

 (そうか、そうか!)


 トーダが嬉しそうだね。トーダもいいやつだ。


「ユーキさん、あなたが何と言おうと、あなたの治療魔術で多くの団員が助かったのは事実よ。彼らは運が悪かったら、再起できなかったかもしれないの。皆んなあなたに感謝してるわ」

「そうだよ、ユーキ。こういうときの感謝は素直に受けてくれると嬉しいな」


 エリカ様とチャールズ様も優しい言葉をくれる。


「わかりました。謙遜ではなく、本当に私が感謝される筋ではないと思うのですが、皆様のお言葉、ありがたく頂戴いたします」


 皆が微笑んで頷いてくれる。


「ユーキ、一つ言っておくがの、欠損部位の修復、あれはアタシでも難しいぞ」


 シショー!ここでそんなのぶち込まないでよ!やればできるよ、きっと!


「そう、ユーキ、そのことなんだが。欠損した身体を元に戻す治癒魔術は、聖女様の治癒として有名なんだ」


 ジェームス様がそんなことを言い出した。

 なんですと!


「聖女様以外にできる人はいないんですか?」

「正確にはわからない。過去に大神官で治癒に優れた方ができたというような話しもあるが、本当かどうか不明だ。だが、聖女様については記録として残っている。他に、エリクサーという、死んでさえいなければ何でも治せるポーションの話しもあるが、眉唾物だ」

「そうなんですね。となると、かなり厄介な力ですね」

「そうだね。厄介な力だ。だが同時に素晴らしい力でもある」


 エリカ様が俺に微笑みかける。


「ユーキさん、厄介なのはあなたの持つ力じゃないわ。あなたの力を利用したがる連中よ。そこを間違えちゃ駄目よ」


 優しい人たちだ。ちゃんと俺を気遣ってくれる。


「それで、あなたは今の話しを聞いて、今後その力を使うつもりはある?」

「そうですね。思いがけず聖女様の話しが出てきたので、少し考える必要がありそうですね。ただ、私の力が本当にすべての欠損を治せるようなものなのか、正直わかりません。今日は、肩の筋肉の欠損という小さい部位の修復ができただけです。例えば、失った手足が生えてくるとか、そんなことが自分にできるとは到底思えないのです。ですから、まずは私の力がどのくらいのものか、きちんと検証する必要があると思います」

「さすがユーキさんね。まったく浮かれずに冷静だわ」


 エリカ様が満足そうに頷く。


「ユーキ、君の言うとおりだ。まずは君の力の正確な検証が必要だ。それで、君には事前に承諾もなく申し訳ないんだが、今日、二人、欠損のある者を呼んでいる。もし君さえ良ければ、治癒魔術を試してほしいんだが」


 さすがジェームス様。ちゃんと検証の準備も万端ですか。

 この検証は、できるだけ早くやった方が良いだろうし、俺も知りたい。


「私は問題ありません。ただし、結果が上手くいかなかった場合、そのお二人にはがっかりさせてしまうことになりますが」

「そこは心配しないでくれ。二人とも元優秀な騎士団員で、魔獣討伐の際に一人は片腕を失った。もう一人は両目を爪で引き裂かれ失明した。今は、騎士団を退団して、屋内仕事をやってもらっている。今日も、先ほど声をかけて、新しい治療の実験に付き合ってくれと言ってある。欠損の修復治療とは思っていない」

「そうですか。わかりました、やってみましょう」


 アダムさんが部屋を出て行き、すぐに一人の人を連れて帰ってきた。

 がっしりした体格だが、右腕が肘の上からない。

 明るそうな人だ。


「ユーキ、彼はピーターという。元は小隊の隊長までやっていた。ピーター、こちらがユーキ・カムラ殿だ。君の腕の状態を見てくれる」


 ジェームス様が紹介してくれる。


「ピーターと申します。カムラ様のお名前は、団員たちから聞いております。よろしくお願いします」

「ユーキ・カムラです。こちらこそよろしくお願いします。では、こちらに座って、右腕を見せていただけますか?」


 ピーターさんが上着を脱いで、器用に左手でシャツの袖を捲り、失った右腕を見せてくれる。

 傷跡は完全に癒着している。

 この場合どうなるのだろう?

 癒着部分を開いた方が良いのだろうか?

 わからない。とりあえず試してみよう。


「ピーターさん、もしかしたら少し痛みがあるかもしれません。そのときはごめんなさい」

「多少の痛みなんか大丈夫ですよ。騎士団時代に散々味わっています」


 ピーターさんが笑って答える。

 よし、覚悟を決めてやってみるか!


 俺は両手でピーターさんの右腕の切断部分を握り、彼の持つ形状記憶の魔素に呼びかける。そして、欠損の修復をイメージし、魔力を流す。

 おっ、かなり魔力が持っていかれる。昼間の欠損治療よりも多い。

 ピーターさんの右腕の周辺と、その先に魔素が集まってきた。

 ぐっと魔力が吸い取られる感覚と同時に、ピーターさんの右腕周辺で白いモヤのようなものが光った。

 光が収まると、そこにはピーターさんの失ったはずの右腕が存在した。

 よし、成功かな。


 全員が呆然と見ている。声もない。

 ピーターさんも信じられないような目で、自分の右腕を凝視している。


「ピーターさん、腕を動かしてみて下さい」

「え?え、ええ・・・」


 ピーターさんは、恐る恐る右腕を曲げ、そして手の平でグーパーを繰り返す。

 そして何度も腕を曲げ伸ばしして、涙を流した。


「う、動きます!右腕が動きます!私の右腕が!」


 ピーターさん、大泣きだ。良かった。これまで辛かったんだろうね。


「ユーキ様!ありがとうございます!ありがとうございます!」


 ピーターさんがいきなり跪いて俺の手を握りしめる。


「立って下さい。腕が治って良かったですね」


 その後も、ピーターさんは、泣きながらお礼を言い続けた。

 しばらくして、ようやくピーターさんが落ち着いた。


「申し訳ありません、カムラ様。嬉しさのあまりお名前を呼んでしまいました。団員たちがユーキ様と呼んでいたのでつい」

「全然構いません。今後もユーキと呼んで下さい」


 ジェームス様がピーターさんに、許可があるまで俺のことは秘密にするように厳命した。

 腕が生えたのだから、治療したことまでは秘密にできない。

 なので、治療したのが俺だということだけが秘密とされる。

 ジェームス様が探してきた治癒師のおかげということだ。

 ピーターさんは何度もお礼を言いながら帰って行った。


 ピーターさんが部屋を出た後、皆が興奮状態だったが、もう一人、失明した人を待たせているので、ひとまずその人の治療を先にしようということになった。

 結果は無事成功。

 ピーターさんと同じ修羅場が繰り返された。

 特に、目が見えない生活から解放された喜びは大きく、お礼はいくらでもするというのを必死で断り、ようやく帰ってもらった。

 泣きながら何度も頭を下げていた。

 本当に良かったと思う。

 突然暗闇の世界に突き落とされた不安や絶望はどれほどだっただろう。

 よく諦めずに生きていてくれた。今日はそのご褒美だね。


 ちなみに頭の上では、トーダがずっと、ユーキ、スゲェ!と飛び跳ねながら騒いでいた。

 式神でも驚くほどの力なんだな。

「ユーキ、素晴らしい力だ!目の前で見ても信じられないくらいだ!」


 落ち着いたところでジェームス様が話しを再開する。


「私も信じられない思いです。こんなことができるんですね。でも、お二人とも成功して本当に良かったです」

「そうだね、本当に良かった。しかし、君はあまり驚いていないようだな」

「いえ、十分驚いています。ただ、自分がやったという実感がないというか・・・」

「さてと、検証結果はこうなったわけだが、どうするか」


 その前に、と、メイデン師匠が俺に問いかけてきた。


「ユーキ、魔力の減り具合はどうなんじゃ?身体がだるいとかないのかい?」

「治癒のときには、かなり魔力を使う感じがあります。ただ、しばらくすると元に戻る感じですね」

「そうかい。この魔力の回復力はユーキの強みじゃな」


 ジェームス様が師匠に話しかける。


「1日に何人も治療できるということですか、先生?」

「そうじゃな、普通では考えられんが」


 師匠は何となく浮かない顔だ。

 この先俺がトラブルに巻き込まれることを心配してくれているのだろう。


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