第34話 七曜の魔術と光と闇と
この世界の魔法学における属性の分類は概ね七曜に対応している。
日月火水木金土。それに大精霊がいるとされる風。
これらは主に自然に由来する魔術だ。よって、詠唱も精霊に呼びかける。
これらとは別の系統として、治癒魔術がある。
治癒魔術は、神に由来するとされているため、詠唱は神に呼びかける。
俺は、メイデン師匠の検査では、治癒が一番適性が高かった。
もちろん俺は神に呼びかけるつもりはない。
もう一つよく知られる別系統は、召喚魔術とテイムだ。
召喚魔術は、召喚の魔法陣を使えば、使い魔と呼ばれる小型の幻獣程度は割と簡単に呼び出せるらしい。幻獣がどこから来るのかは不明。
俺が巻き込まれたのは、シルビアちゃんが召喚魔術の練習をしていたから、ということになっているが、俺としては、シルビアちゃんの方が巻き込まれたような気がしている。
聖女や勇者の召喚魔術は、簡単にできるものではないが、召喚魔術としては同じ系統なのか?
テイムは、現存する魔獣や動物を使役する魔術だ。適性は、やってみるしかないとのこと。魔獣相手にそんな危険な真似はそうそうしないだろうが、適性のある者は、何となくできそうだと感じるらしい。
知られていない系統の魔術は、エルフの使う精霊魔術。
今では使える者がいないとされている。
しかし、大精霊とかより、メイデン師匠やトーダの方が、もしかしたら強いのでは?
さて、本日の基礎魔術の習得だ。
火魔術は、火球を作り飛ばす。ファイアボールだ。
土魔術は、土塊を作り飛ばす。効くのかこれ?嫌がらせ?
また、地面の土を利用して、防御壁を作る。落とし穴を作る。これは、遠征で見たことがある。存在する土を利用すると、魔術行使は楽だった。水や火でもそうらしい。
建築や土木でも活用される魔術で、石材の加工もこの魔術で行う。
金魔術は、鉄塊を作り飛ばす。アイアンボール。しかし、これができる人は少ないらしい。
存在する金属を変形、加工する魔術としての利用が中心とのこと。錬金術師や魔道具師には金魔術持ちが多い。
木魔術は、植物魔術とも言われ、植物の育成促進ができたり、高位の魔術師になると、植物を操り攻撃や防御に使うらしい。木工職人などは、木の加工にこの魔術を使う。
この日は木の加工をやらされたが、面白いように木材を変形させられた。曲げわっぱでも作ってみようか。
この世界では、魔術は本当に生活に密着し、科学の代替となっている。
日と月は、それぞれ光魔術、闇魔術と呼ばれている。
光魔術は、ライトなど、単純に光源を作る魔術の他に、若干の治癒効果と、どうやらアンデッド(いるのか!)を消滅させる効果があるため、聖なる魔術などと称して、神殿、教会関係で重宝されている。
レーザー光線などの概念はないようだ。レーザーは自然由来ではないので、この世界では認識されていない。メイデン師匠や、トーダも知らない。
この日は、七色の光の玉を作って遊んだら、トーダが喜んだ。意外と子供っぽい?
闇魔術は、日本人の感覚からすると怪しげな雰囲気を感じるが、そのような捉え方はないようだ。敵の視野を塞ぐ魔術や、一定エリアを闇に包む魔術、また重力魔術もここに分類されている。魅了や精神操作のような魔術もあるようだ。
重力魔術を使ってみたが、元の世界の知識でイメージしやすく、簡単にできた。これは、対魔獣で使えそうだ。
なお、闇魔術の適性者も極めて少ないらしい。
本日の訓練は以上。
メイデン師匠からは、この体系にとらわれるな、と強く言われた。魔素は、魔力と支配力次第で、この世界に存在し、あるいは存在し得る何にでも変換できるはずだと。しかし、例えば人間を作り出す、ドラゴンを作り出す、あるいはもっと譲歩して、何かの生物を作り出すなどは、多分神ほどの魔力ないし別の力がなければ無理だろうと言われた。
うん、俺も同感だ。それは、人の領域ではない。
さあ、明日からは、魔装の訓練だ。
翌日から魔装の訓練が始まった。
メイデン師匠の指示に従い、まず、魔力を身体中に循環させ、その循環速度を上げ下げする。
次に、指示された身体の部位に魔力を集中させる。
「遅い!一瞬でやるんじゃ!」
メイデン師匠の叱責が飛ぶ。
日本で、瞑想をやりながら気を身体に巡らせる訓練はやっていたので、簡単だと考えていたが、全然要領が違った。甘かった。
魔装は、全身に纏うだけでなく、部分的に纏うこともあるらしい。
魔力を節約し、長時間の戦闘を可能とするためだ。
足に魔装して瞬間移動し、攻撃の瞬間に腕や武器に魔装する。
防御のために瞬時に攻撃される部位に魔装する。
全身魔装中に、さらに部位強化することもある。
込める魔力量によって、速度、攻撃力、防御力などにも変化をつけることができる。
かなり緻密な魔力制御が要求される。
なるほど、上位の魔装使いは少ないと言われるわけだ。
エドなんか、5分くらいで魔装が解けてたな。
メイデン師匠の怒声と、トーダの応援を受けながら、3時間休みなしでこの練習が続いた。
師匠の要求水準にはまったく到達しなかった。
トーダが、こうやるんや、と言って手本を見せてくれたが、蜥蜴じゃ小さすぎてわからんわ!
気持ちだけ受け取っておこう。
昼食をはさみ、午後も同じ訓練が午後5時まで続いた。
延々と同じことの繰り返し。
ほとんど進歩が感じられない単調な訓練。
だが、俺の心は折れない。
昔からそうだった。
幼馴染のハルが次々とクリアしていく課題を、俺は何周遅れかで必死でついて行く。
仲間たちは誰も俺を見捨てなかった。
だから、俺はできないことに慣れている。
才能がないことに慣れている。
そして、できるまで諦めないことに慣れている!
「今日はここまで!」
メイデン師匠の終了の声がかかった。
「師匠すみません、進歩が遅くて」
と、俺が言うと、メイデン師匠はフンと鼻を鳴らして言った。
「習得速度など人それぞれじゃ。早かろうが遅かろうが、できてしまえば同じこと。できるまで諦めんやつが強くなる。必ずできるということを疑うな!」
どうやら俺は良い師匠に巡り合ったようだ。
俺は師匠に向かって静かに頭を下げた。
「まあ、ハルはすぐできたがのう、クェッ、ケ、ケッ」
と、笑いながら師匠は去って行った。
安倍晴明と俺を比べんなや!
この訓練は、もう1週間続いている。
5日目で、ようやく師匠の指示直後に魔力を移動できるようになったので、昨日からは、師匠が木の棒で俺を軽く叩き、叩かれる前にその部位に魔力を移動させる訓練に変わった。
これが中々やっかいで、かなり手加減をしてもらわないと、師匠の動きがまったく見えない。師匠は魔装を使ってないのにだ。式神恐るべし!
ところでこの1週間、俺は周りからどう見えていたんだろう?
側から見れば、最初は一日中立ちっぱなしで怒られているだけ、昨日からは、立ちっぱなしで、身体中を叩かれているだけ。
変人認定されそうだ。いいけどね。
そう言えば一度ジェームス様とエリカ様に呼び出された。
俺が魔術を使えるようになったことをメイデン師匠から聞いたらしい。
俺から状況を聞いたあと、これはいよいよ対策を考えねばと二人で話していた。
そうなのかな?
このあたりは、個人の人権が尊重される現代日本と、封建社会では異なってくる場面だろうから、ひとまずお二人に任せておこう。




