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第33話 水魔術

「はい!まず水魔術をお願いします!」

「なんで水なんじゃ?」

「水さえ出せれば、いつでも生き延びれますし、先ほどの師匠の水魔術を見て感銘を受けたからです」

「何ちゅう見え透いた嘘を。まあ良い。悪さを考えとるわけでもなさそうじゃし」


 メイデン師匠がもう一度水球を作って見せてくれる。

 真剣に凝視する。

 不思議だ。

 メイデン師匠から魔力が出たのは見える。

 そのあとがわからない。

 いきなり魔力の先が水球になる。

 魔素が見えないのだ。


 俺も真似をしてやってみた。

 魔力を手から出しながら水になれと念じる。

 ・・・。何の変化も起きない。

 何度やってもできない。

 なぜだ?


 もう一度メイデン師匠に見せてもらうが、よくわからない。


 時間だけが過ぎていく。

 メイデン師匠が、俺のやっていることを見て何か気づいたようだ。


「ユーキ、あんたは、自分が出した魔力を水に変えようとしてるね。そうじゃなくて、大気中の魔素を水に変えるんじゃ」


 言われてみればそうかもしれない。

 でも、大気中の魔素が見えないため、イメージしづらい。


「身体の中の魔力と、大気中の魔素は違うんですか?」

「体内の魔力も魔素を元にしているという意味では似とるの。じゃが、体内の魔力は、外の魔素を吸収して、体内で作り出した魔素みたいなものが混じって魔力になっとると思う。一緒くたに体内の魔力をマナと言うこともあるが、厳密には違うもんじゃ。自分の魔力を別のもんに変えるのは、上級者の術じゃ。魔力には、魔素を支配して、形を変えさせる、事象変換させる力がある。その力使うんじゃ」

「その支配対象の魔素が見えません」

「魔素はアタシにも見えないよ。そうか、なまじ魔力が見えるからイメージしづらいのか。こりゃ盲点だったね。いいかい、見えはしないけど、魔素はその辺にうじゃうじゃある。それを信じるんじゃ」


 くそ、予想外に苦戦する。

 魔力が使えたら、簡単な魔術ならすぐできると思っていた。


 俺の魔力を変化させるのではなく、魔力で魔素を支配・・・。

 魔素は何にでも形を変えられる・・・。

 水・・・H2O・・・

 大気中の水素や酸素を集めるのではない。

 水素や酸素から作り出す・・・

 魔素は量子のようなものか。


 目を閉じる。

 原子構造図を思い描く。

 分子構造モデルをイメージする。

 魔素が結合して水になることを想像する。

 どんな構造かはわからない、が、ともかく微細な粒子が集まって水になるシーンを。


 そのとき、俺の魔力が何かをキャッチした感覚がした。

 何かが生み出される実感。


「止めなさい!」


 メイデン師匠の大声が!

 はっとして魔力の流れを止めると、目を開けると、目の前で大量の水の塊が落下して、バシャーンと水しぶきをあげた。


「できた!」


 俺は歓喜の声を上げた。

 その瞬間頭をはたかれた。


「できたじゃないわ!この加減知らずが!」


 メイデン師匠に怒られた。

 トーダは、スゲェスゲェと喜んでいる。


 まったくこの子は、と言いながらメイデン師匠は俺を見た。


「どうだい、何か掴めたかい。今度は、水の量、形、動きをイメージするんじゃ」

「はい!」


 今度は目を開けたまま、ゴルフボールくらいの水球を飛ばすイメージをする。


 俺の右手の先で、水球が生まれて飛んで行った。水球は50メートルほど先で落下した。

 生み出されたあとは、物理法則に従うのか?


「よし、いいよ。水の形を変えてみな」


 今度はホースから放水するようなイメージをする。

 よし!できる。

 水流をどんどん細くする。

 勢いを抑えて、柔らかい水流にする。

 イメージ通りに、柔らかい水流が放物線を描いて流れている。

 これだ!

 俺の求めていた水魔術!


「うん、できるようだね。今日はこの辺にしとくよ。意外と時間がかかったからね」


 メイデン師匠に言われて気がつく。

 もう午後4時近い。

 昼食も食べずに熱中していたらしい。


「今日の感覚を忘れんように!明日も9時から始めるよ」


 そう言うと、メイデン師匠はさっさと帰って行った。


「ユーキ、できるようになったやんけ!」

「ありがとう、トーダ!」


 トーダの祝福が嬉しい。


 俺は部屋に戻ると真っ先にトイレに駆け込んだ。

 そして、用はたしていないが、ズボンを下ろして便器に座ると、お尻付近に右手を当てがった。

 そして、水魔術!


 細く柔らかな水流が、俺のお尻に優しく当たる。


 成功だ!

 俺の初めての魔術の実践。そして念願の魔術。

 俺はこの魔術にハッピーシャワーと命名した!


 魔術訓練2日目。

 水魔術の熟練度の向上に努めた。

 魔素を水に変換する感覚は十分に掴めた。

 次は攻撃として通用する水魔術の開発だ。


 グリーンベルト遠征の際、水魔術の攻撃性の低さが気になった。

 魔術師部隊で想定された水魔術は、大量の水流をぶつけるか、ウォーターボールのようなものだった。


 まず、バスケットボールほどの水球を作り、それを圧縮できるか試してみる。

 本来なら水は分子の結合間隔が極めて短いため、容易に圧縮できない。

 子供の頃の理科の実験。空気は縮むのに、水は縮まない。

 だが、魔術なら可能なのでは?

 よし、圧縮できる!

 もっと小さく、もっと小さく。

 パチンコ玉くらいの大きさにまで圧縮できた。

 この水球は極めて不安定な状態に感じる。ならば、強い衝撃が加われば・・・。

 水球を、魔術訓練場の岩でできた的に向けて高速で発射する。

 当たった瞬間岩が爆散した!

 本来圧縮困難な水を、ありえない小ささまで圧縮したのだ。その圧力は想像もつかない。

 それが一気に解放された。攻撃力としては十分だ。


「ユーキ、あんた今何をした?」


 メイデン師匠が驚いた顔で聞いてきた。


「水を圧縮して飛ばしました」

「それであんな威力になるのかい?」

「成功するかどうかはわかりませんでしたが、上手く行ったみたいです」

「はあ、あきれたね。今のは再現性はあるのかい?」

「やってみます」


 俺は、今度は最初からパチンコ玉くらいの圧縮された水球をイメージする。

 できた!

 これを別の岩の的に飛ばすと、同じく爆散した。

 よし、この魔術を、ウォーターバレット、水弾と命名しよう!


「師匠!できるみたいです」

「そのようだね。あんた、他にも新しい魔術を考えてるかい?」

「色々やってみたいことはあります。新しいかどうかわかりませんが」

「そうか・・・」


 メイデン師匠が腕組みして考え込んでいる。


「ユーキ、まずは魔装の訓練をする。魔術の訓練は、主な属性の基礎魔術だけやって、それ以上の魔術訓練は場所を変えるよ」

「わかりました。でも、なぜですか?」

「人の目につきすぎる。それに訓練場が破壊されたら敵わん」


 人をデストロイヤー扱いするなや!

 しかし、魔装の訓練はこちらも歓迎だ。

 魔術による戦闘は、勝手がわからない。

 しかし、魔装による戦闘なら、これまでの延長線だ。

 早く力をつけたい俺としては、願ったり叶ったりだ。


 結局この日は、他の属性の基礎魔術の指導を受けた。

 水魔術で魔素を変換するコツは掴んだ。なので、他の属性の基礎魔術の習得にはさして時間はかからなかった。


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