第31話 新しい身体
俺の魔力回路の修復治療は、それから10日間続いた。
激痛に慣れたとは言えないが、4日目からは気を失うことはなくなった。
それでも頭部の施術のときは、頭が爆発したのかと思うほどだった。
幸い、頭部の修復箇所は1箇所だけだったのでほっとした。
ケイトさんは、毎日ぐったりして部屋に戻る俺をひどく心配してくれた。
メイデン先生の治療だと言ってあるので、止められることはなかった。
そして今日、最後の1箇所、魔力の供給元と思われる心臓付近の太い回路が修復された。
その途端、全身に爆発的な圧力を感じ、俺はあっさりと気を失った。
目が覚める。
頭がかつてないほどすっきりしている。
目に映るものも、すべてがクリアに感じる。
「お、目ぇ覚めたか」
トーダが掛け布団の上で嬉しそうに俺の方を見ている。
「ああ、おはよう、トーダ。何日経った?」
「2日や。気持ち良さそうによう寝とったわ」
「そうなんだ」
やっぱりね。そんな気がしたよ。
「ユーキ、気分はどうや?」
「うん、すごくいいよ。なんだか、新しい身体になったみたいだ。トーダ、本当にありがとう」
俺は、ベッドから降りながらトーダに答える。
トーダが俺の頭に飛び乗ってきた。
「おっ、マナの出がメチャええわ」
どうやら俺のマナを吸ったみたいだ。
治療が上手くいったのかな。
「もうすぐイオンも来ると思うで」
「そうか、で、あのときどうなったの?」
「それやがな!ワイとイオンで、最後の太いマナのヒモみたいなんをくっつけたんや。ほったら急にブワッってなんか溢れて、ワイもユーキの中から吹き飛ばされてん。ビックリしたわぁ。ほんで、ユーキ見たら気ぃ失うとるし。イオンも吹き飛ばされとったで」
「イオンさんも?」
「せやで。ほんで、イオンがユーキ見て、マナが綺麗に流れとる言うてた。ワイも何となく見えるよになってん。ユーキのマナ、綺麗に回っとるで」
「そうなんだ。自分では見えないけどね」
そう言って二人で笑い合う。
「トーダ、本当にありがとうね。知り合ったばかりの俺のために」
「ええって、ええって。ユーキはもうワイの連れや。なんや、知り合うたばっかりな気がせえへん」
「それは嬉しいな。俺もトーダは大切な友達だ」
そのときノックの音がして、ケイトさんがメイデンの婆さんを連れて部屋に入ってきた。
「ユーキ様!気が付かれたんですね!」
ケイトさんが駆け寄ってきて俺の手を取る。
うわ、涙ぐんでる。
心配してくれたんだなぁ。ありがたい。
「うん、もう大丈夫。心配かけたみたいでごめんね」
「とんでもありません、本当に良かったです」
メイデンの婆さんがニヤニヤしながらこちらに来る。
「ほれ、乳繰り合うのは後にせい。気分はどうじゃ、ユーキ」
ケイトさんが真っ赤になって慌てて俺から離れた。
コーヒーを淹れてきます、とか言って駆けていった。
「はい、えらくすっきりしてます。なんというか、新品の身体みたいで、物の見え方もクリアなんです」
「そうか、ちょっと身体の中でマナ、じゃなくて魔力を循環させてみい。できそうか?」
「ちょっとやってみます」
俺は、ヨガで気を巡らすような感覚で、魔力を意識して身体の中を循環させてみる。
おお、ヨガとは比べ物にならないくらいはっきりと何かが身体を巡っていく。
これが魔力か。
「うん、スムーズに廻っとるの。スムーズすぎるくらいじゃ」
「ユーキ!綺麗に廻っとるで!」
「速く廻せるかや」
メイデンの婆さんのリクエスト。
俺は循環速度を上げてみる。
おっ、上がるぞ!
もっと速く。
いける!
高速循環だ!
「よし、もういいよ。こりゃ、予想以上だね」
どうやら合格みたいだ。
「メイデン先生、どうですか?治療は成功ですか?」
「ああ、大丈夫そうだね。魔力は順調に流れとる」
「そうですか!本当にありがとうございます」
俺はメイデンの婆さんに深々と頭を下げた。
嬉しい!
これで俺も魔術の訓練ができる。
「構わないよ。良かったね。そうだ、ちょっとこのランプに魔力を流してごらん」
おお、初めて魔道具が使える!
俺は、消灯してあるランプの魔石に、喜び勇んで魔力を流した!
ランプはピカっと光り、魔石がパリンと割れた。
「・・・」
しばしの静寂。
「バカもん!流しすぎじゃ!」
メイデンの婆さんに怒られた。
それにしても魔石が割れるとは、とか言いながらメイデンの婆さんは割れた魔石を調べている。
「あんた、まずは魔力を制御する練習だね!」
俺の魔術はまだ先らしい・・・。
俺はメイデンの婆さんの別館に連れて行かれ、まず座学からやらされた。
根本的な勘違いとして、俺はランプの魔道具に、光らせるための魔力を注ぎ込むと思い込んでいた。しかし、ランプを光らせるのは元々魔石が保有している魔力を使っているそうだ。魔石を触れる行為は、魔石に刻まれているスイッチのような魔法陣を起動させるだけ。消えているときに触れればランプがつき、ついているときに触れれば消える。ONとOFFをさせるために、魔法陣に微弱な魔力が流れればよいだけらしい。
この世界の人は、魔術云々を考えなくとも、自然の行為として子供の頃から身についている。魔道具の魔石に触れれば、無意識のうちに微量の魔力が流れる。
しかし俺は、魔術や魔道具のない世界からやってきて、突然大きな魔力を持ってしまった。
たちの悪い赤子だ。
ということで、メイデンの婆さんには、魔力を放出しながら徐々に放出量を絞っていく練習をやらされた。最初は中々上手くいかなかったが、俺は不器用な方ではない。しばらくすると、なんとなく魔力量の調整ができるようになった。
この調整の練習は、使う魔術に込める量で、魔術の威力なども調整するための基礎になるとのこと。ガラス棒のような物を持たされ、魔力をだす量を増減させて、メイデンの婆さんの指示する位置まで、光を伸び縮みさせることを延々と繰り返した。
魔道具のスイッチなんかは、特に魔力を出すことを意識しなくても、触れるだけで起動することがわかった。何だよ、これ。最初から言ってくれ。
トーダから借りて勉強した魔法学の教科書にも、当たり前すぎて記載されていなかった。
生活としての成長を経験せずに、知識だけ頭に入れたことの弊害だな。
トーだは、「ワイもこんなん知らんでぇ」と言いながら、ガラス棒で俺の真似をして遊んでいた。
なんかトーダ上手いな。
メイデンの婆さんから、俺の訓練メニューを考えておくと言われて、ガラス棒を持たされて部屋に戻った。
ケイトさんが、ガラス棒を見て、「わあ、懐かしい!子供の頃よくやってました。光が伸び縮みするから楽しかったんですよね」と言われた。どうやら幼児の玩具だったようだ・・・。
そして遂に!
俺は早速トイレに駆け込んだ!
別にもよおしていたわけではない。
水洗の起動テストだ。
震える手で、魔石に触れる。
ジャーと水が流れた!
やったぜ!
これで長かった水瓶生活とはおさらばだ。
ケイトさんがパチパチと拍手をしてくれた。
ありがとう!グスッ・・・。
この水洗の魔石は、一回触れると一定量の水を流す仕様らしく、停止のために触れる必要はなかった。
トイレの次はお風呂だ!
ケイトさんを伴ってお風呂場に行く。
蛇口の魔石に触れる。
ジャーと、お湯が出た!
よし!これで1人でお風呂に入れる!
「ケイトさん、これまで嫌なことやってもらってありがとうね。今日からはお風呂は一人で大丈夫だから」
俺が朗らかに言うと、ケイトさんが俯いていた顔を上げる。
え、涙ぐんでる?
「私はお風呂のお世話は嫌ではありません!できればこれからもお世話させて下さい!お願いです!」
エーッ!?
「えっと、でも、もう自分でお湯出せるし」
「では背中をお流しします!」
ケイトさんの涙の説得に負け、今後もお風呂のお世話は続くことになった。
なぜか背中を流すことまで追加されて。
俺の傷跡だらけの背中なんて、見ても面白いもんじゃないのに。
なんか、前より状況悪化してないか?




