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第30話 式神

「じゃ、じゃあ君たちは、安倍晴明さんの仲間なんだ」

「そうよ、最初は式神だったけど、途中からは仲間ね」

「え?式神?メイデン先生って人間じゃないの?」

「私が人間なわけないじゃない。なんで人間が何百年も生きるのよ」

「いや、そういう種族とか・・・」

「違うわよ。そうね」


 と言ってメイデン先生?イオンさん?はにやりと笑った。そして、


「我が名は太陰!五行金神にて十二支酉、十干辛カノエの陰の質、白虎と共に西を守護するものなり!」


 と、大音声で名乗りをあげた。

 そうか、五行十干十二支、陰陽道か。だから、昨日トーダも。


「はあ、そうなんだね。いやびっくり!自分が異世界転移したときより驚いたよ」

「なに馬鹿なこと言ってるの!」

「いやホント。イオンさんていう呼び名はハルさんが?」

「そう、タイオンよりイオンの方が可愛いって。ハルも子供だったしね」

「ワイはトーダのままやで!」

「ははは、トーダは縮めようがないよね。しかしトーダも式神かぁ。そんなに小さい蜥蜴なのに」


 そう言うと、二人が吹き出した。


「ユーキ、式神は、こちらの世界で言う精霊みたいなもの。本当の実体はないの。見えてる身体は全部マナ、こちらの世界では魔素ね、それで構成されている。だから、色んな形に変化できるの」

「そうや、ワイのこの姿は仮の姿や。ワイの本質に近いんは龍や。戦いのときは大体龍の姿やで。でも、デカすぎるねん。せやから、普段は蜥蜴になっとれって、ハルに言われてん」

「すごい!龍なんだ!」

「まあ、そのうち見しちゃるけん!」

 トーダが自慢げに笑う。


「じゃあイオンさんも?」

「私の本質は人型。だから、大抵は人の姿よ。今の姿が私の本質」

「しゃあけど、前から男がうるさい言うて、よお婆さんの姿になっとったわ。おかげで婆さんの方がホンマの姿て思われとったな」

「別にいいのよ、その辺の男になんと思われようと。それよりも、今の私は困ったことになってて」

「なんや、どげんした?」

「こっちの世界で、ちょったした事情があって、色々戦ってたの。それで、どこで何の攻撃を受けたのかわからないけど、呪いみたいな感じで実体を持ってしまったの。だから、式神や精霊みたいに自由な姿も取れないし、力も制限されてる。精々、今みたいに年齢や姿を少し変えるくらいね。歳はとらないけど、今、この状態で殺されたら死ぬのかもしれない」

「なんやて!そら大変やないか!」

「まあ大丈夫よ。これでも魔獣程度なら負けないわ。でも、そのせいで、ユーキの変な身体の治療ができないのよ」

「え、どういうこと?」

「前に言ったわよね。身体の中に見えないけど魔力回路があって、それが乱れてるって」

「ああ、聞いた」

「それで、それを正常化するには、魔素や回路が見えて、触れる者が、あなたの身体の中に入るか、外から手を入れるかして、回路を直していくしかない。何かこの世界に、別の方法がないか探したけど見つからなかった。実体を持つ前の私なら可能だったけど、今は無理ね」

「そうか、それで解剖してとか言ってたのか」

「あれは冗談よ。解剖しても魔力回路は、内臓の中とかも通ってるから無理」


 そう言って、イオンさんは笑った。


「でも、ちょうどトーダがいるわ。トーダならあなたの身体の中に入れるし、魔力も触れる」

「え、え、え?ワイ、治療苦手やで。治療はイオンやないかい」


 トーダが慌てて抗弁する。

 おい、怖いな。


「大丈夫よ、私が見て、指示しながらやるから」

「ええ、ワイ自信ないで」

「うるさい!私が大丈夫って言ってるんだから大丈夫なの!」


 ひえー、俺の治療決定か。俺の意思はないのね・・・。

 でも、魔術が使えるかもしれないなら試す価値はある。

 それに晴明さんの式神が言ってるんだ。大丈夫だろう。晴明さん知らんけど。


「よし、治療は明日から。1日では終わらないと思うから、しばらく予定入れないように。今日はこれで帰りなさい。私はトーダとこれまでのこととか話したいから、今日はトーダはこっちね。明日は、そうね、午前9時から始めましょう」


 次々と決定されていく。

 素直に従おう。

 この美少女に逆らうなんてありえない!


「わかった。明日からよろしく」

「ああ、それから、人のいるところではメイデン先生だからね」

「わかってるよ。じゃあトーダ、また明日」

「おお、また明日な。ああ、ワイ自信ないわぁ・・・。ユーキ殺してしまわんかな・・・」


 なんか怖いこと言ってるけど、聞こえないことにしよう。

 俺は、メイデン先生の部屋を後にした。


 しかし、ここに来て安倍晴明の式神!

 仰天もいいところだ。

 なんで異世界に来て、日本の式神と知り合うんだよ。

 なんでもアリだな、異世界。


 こうして俺は魔術の道に一歩近づいた。

 治療が成功すればだけど・・・。




 その夜、俺の頭はぐるぐると無駄なループを繰り返した。

 日本に式神がいた。しかも、安倍晴明の。

 トーダ、タイオン、晴明。

 せめてインターネットがあれば調べられるのに。

 タブレットはあっても、調べることすらできない。

 いや、晴明の式神の名前なんて、普通に生活していてもわかるわけがない。

 晴明を主人公にした映画は見たが、式神なんて家にいた女の子くらいしか覚えていないし、名前もわからない。


 それに、日本でも昔は魔術が使えたのだろうか?

 物語ではでてきても、フィクションとしか考えたことはなかった。

 しかし、式神が実在したとなると、魔術も・・・。

 二人は、マナが減っていたと言っていたか。

 鎌倉の地震。

 災害の歴史は勉強させられた。

 確か鎌倉でも大地震があったはず。鎌倉時代に数度。

 それが原因で、次元か時空かに裂け目が生じて、地球にあったマナが消失した?

 だから地球から魔術がなくなった?

 それとも、俺が知らないだけで、地球にも魔術はあるとか?


 考えても答えの出ない思考。

 欲しいデータさえ集められない環境。

 こういうときは諦めるしかないのだが、勝手に思考がループする。

 そしていつの間にか俺は眠っていた。



 翌日、午前9時に、俺は治療であることを考え、スウェット着用でイオンさんの元を訪れた。

 そう、俺はイオンさんのところに来たのだ!

 しかし、現れたのはメイデンの婆さんだった。


「何をがっかりした顔をしておる!ほれ行くぞ、ついて来い」


 そう言ってさっさとメイデンの婆さんは、別館の奥へと歩き出した。

 トーダがいつの間にか俺の頭の上に乗っている。


「おはようさん、ユーキ。イオンからやり方は教わった。まあ、今日はワイに任しとき」

「おはよう、トーダ。覚悟はできてるよ。よろしく頼む」


 ジタバタしても避けられないことはジタバタしない!

 覚悟を決めたら失敗は考えない。

 これで不安は消える。

 これもハルから学んだこと。


 メイデンの婆さんに連れられて、廊下の突き当たりの部屋に入る。

 治療室なのか、実用的なベッドがあるだけの部屋だ。


「ほれ、すぐに始めるから、そのベッドに仰向けに寝なされ」

「あのう、メイデン先生よりイオンさんの方が・・・」


 リクエストを出すと、ジロリと睨まれたが、意外なことにイオンさんの姿になってくれた。


「そうね、本来の姿の方が上手くいくかもね」


 やはりすさまじいほどの美しさだ。式神ハンパねぇ。


 俺がベッドで仰向けになると、イオンさんが俺に向けて手をかざした。

 すると、ベッドサイドから皮のベルトが現れ、四カ所で俺を拘束した。


「イオンさん、これは?」

「治療中暴れないようにね。やったことないからわからないけど、もしかしたら相当痛みがあるかもしれないわ」

「なるほど、やはりそうなんだ」

「あら、落ち着いてるのね」

「まあ、こちらの世界にきて目覚めたとき、かなり身体の中が痛かったからね。今回も覚悟はしてるよ」

「痛みの原因が何だったのかはわからない。転移のときに魔力回路を埋め込まれた痛みなのか、それが中途半端だったからなのか」

「麻酔はしないの?」

「それも考えたんだけど。もし正解の魔力回路の設計図みたいなものがあれば、麻酔をして、その間に治療するわ。でも、今回は正解がわからない。今回の治療のために、色んな人の魔力回路を見てみたの。でも、全部違ってた。人によって魔力回路は違ってるみたい。だから、あなたが目覚めている状態で、魔力が流れたがっている方向を一つ一つ観察しながら、回路を整えていくつもりよ」

「わかった。なら、痛みは我慢するか」

「じゃあ始めるわよ」

「お願いします!」

「トーダ、ユーキの中に」

「おう、任せんね!」


 トーダが俺の胸に乗ると、ふっと消えた。

 え?俺の中に入ったの?

 まったくわからない。

 イオンさんが真剣な目で俺を観察している。


「トーダ、思考と感覚を共有するわよ」


 え、式神ってそんなことできるの?

 と思った瞬間、右腕に激痛が走った。


 イツッ!

 かろうじて声を上げるのを我慢する。

 やばい!歯を食いしばれ!

 うっかりすると舌を噛むぞ!


 イオンさんがそれに気づいたのか、ストレージから手拭いのようなものを出して、おしぼりにして俺の口元によこした。


「やっぱりかなり痛そうね。これを噛んでなさい」


 俺は言葉も出せずにイオンさんに従う。


 イオンさんがまた集中モードに入った。

 グッ!

 また右腕に激痛だ!

 全身から脂汗が出る。


「繋いだところは魔力が流れるわ!この調子で行くから我慢してね!」


 イオンさんの声が遠くから聞こえる。


 立て続けに激痛が俺を襲う。

 体内をペンチで挟まれているような痛みだ。

 くそっ、耐えろ!

 『研修所』でも、随分痛い目には遭った。

 激痛を伴う怪我も何度か経験した。

 だが、一応俺たちは未来を嘱望された未成年だったので、拷問訓練はなかった。

 やっておけばよかったかな。でも、あの歳でやったら壊れてたな。

 過激派とか特殊機関の拷問って、こんな感じなんだろうか?


 イオンさんが、次の治療箇所を探している間は、新たな痛みは襲ってこない。

 これは一体何が痛みを訴えているのだろう?肉体的な損傷はないはずだから、神経の痛みではないはずだ。

 疼くような痛みが継続する中、そんなことを考えていると、


「次行くわよ」と、イオンさんの声がかかる。


 グオッ!

 また激痛が走った。

 まだ右腕かよ。

 これ、全身終わるのいつになるんだ?

 それまで生きてられるのか?


 それからどのくらいの時間が経ったのだろう。

 俺は右腕が終わり、左腕の施術中に、気を失ったらしい。


 目が覚めると、イオンさんがベッドの横に座って、コーヒーを飲んでいた。

 トーダもテーブルの上にいる。俺の中から出たのか。


「気がついた?左腕まで終わったわ。痛みはどう?」


 俺は両腕を色々動かしてみる。


「あれ?腕の痛みはまったくないな。肩の辺が少し引き攣った感じかな」

「そう、良かった。順調にいってるみたいね」

「俺、気を失ったのか・・・」

「そうね。よく耐えたわ。でも、やっぱりあなたの意識がないときは、魔力がどこに流れようとしているかわからないの。左腕は、右と似たような感じだから終わらせたけど、他は駄目ね」

「そうか、部分麻酔とかはできないかな?」

「多分無理ね」

「そうか、残念」


 俺は笑って見せる。


「今日はここまでにしましょう。どう?明日からも耐えられそう?」

「耐えるよ。この世界、魔術なしでは限界がある。何としても魔術が使える身体を手にする!」

「わかったわ。今日はどうする?ここに泊まってもいいわよ」


 俺はベッドから降りて少し歩いてみる。


「いや、大丈夫。動けそうだから、部屋に戻るよ」

「そう。じゃあ明日も同じ時間に始めるわよ。部屋に戻ったら、おとなしく寝てなさい。思った以上に消耗してるから。それから、全部が終わるまで、絶対に魔力は使っちゃだめよ。何が起きるかわからないから」

「ユーキ、よう頑張ったな!もうしばらくの辛抱や。ワイがちゃんとやったるからな」

「トーダもありがとう。明日もよろしく頼むよ」


 イオンさんもトーダも疲れているように見える。

 やはり相当神経を使うのだろう。

 何の関係もない俺のために、本当にありがたいことだ。

 俺が折れるわけにはいかない。


 その日、部屋に戻った俺は、死んだように眠ってしまった。


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