第29話 安倍晴明の仲間!?
トーダは、どうやら俺といるときは、俺の頭の上を居場所にすることにしたらしい。
朝、鏡を見て愕然とした。
俺は今日から頭に蜥蜴を乗せた黒髪の15歳の少年だ。
本当にこれ他人には見えないんだろうな?見えてたら泣くぞ!
ケイトさんの反応を見る限り、何も気付いていなかったので見えていないのだろう。
そもそもルミナスの泉から領都レグルスに帰ってくるまで、ずっと頭の上にいたらしい。
まったく気付かなかった。
餌はいらないそうだ。
マナを吸収すれば維持できるとのこと。
そう言った端から、俺の朝食のベーコンに齧り付いていた。
そう言えばシャトルも俺たちの食事を食べたがってハルに怒られてたな。人間の食べ物は、犬には塩分が多すぎるって。
トーダに聞いたら「ワイには毒は効かん!」とか威張ってた。
午前中は、騎士団の訓練に参加した。
遠征に行って、強くなる必要を感じた。訓練にも力が入る。
今の俺にできることは、よりスピードを増すことと、パワーをつけること。
俺は魔装が使えない。だから素の力を魔装に近づける。
エドも吹っ切れたように訓練に没頭していた。
他の地域での魔獣の間引き遠征は、別の部隊が交代で行うそうだ。
他の地域での状況確認を待って、今後の対策を検討するそうだが、グリーンベルト近隣の街や村には、兵士の増員が暫定的になされた。
俺は、今回の遠征で、魔獣に関する知識や魔獣討伐経験の不足を痛感したので、当面は、冒険者として魔獣討伐をしようと考えている。
訓練が終わったとき、メイデンの婆さんの使いの人から、レッドベアとギガントマンティス、それとブラックウルフのリーダーの死体を持ってきて欲しいと言われた。
団長のフレッドさんに確認したら、メイデンの婆さんの指揮で、解剖と研究をすることになったらしい。
死体を渡すだけだし、部屋に戻って着替えるのも面倒なので、俺は、このまま婆さんの別館に行くことにした。
「なあユーキ。メイデンて誰や?」
トーダが聞いてきた。
「なんか侯爵家の医師、薬師、魔術指導とかやってる婆さん。俺のマナが出ない身体のことも調べてくれてる」
「なんや、婆さんかいな」
「婆さんだけど、多分若いころは相当美人だぞ」
「なんやそれ。ワイは、現役の美人が好みやねん」
「それより、その婆さん、動きが異常なんだ。俺、一度も婆さんの動きが見切れないんだよ」
「ユーキがトロいだけちゃうんか?」
「うーん、そうなのかなぁ?」
メイデンの婆さんの別館に着き、使用人に来訪を告げると、婆さんの部屋に案内された。
女性一人の部屋に入っていいのか?
元女性だからいいのか、などと失礼なことを考えながらノックする。
「ユーキです。魔獣の死体を持ってきました」
「入りな!」
婆さんの返事を受け、部屋に入ると、そこは普通の執務室だった。
もっと魔女の実験室みたいな部屋を想像してたよ。
婆さんは執務机で何か書き物をしている。
「そこに座ってちょっと待ってな」
そう言われて、豪華なソファに座る。
頭の上でトーダが「え?」とか言っている。
しばらくすると、メイデンの婆さんが、「待たせたね」と言いながら、ソファに座ってきた。
そして、ギョッとしたように俺を凝視した。
いや、正確には俺の頭の上を・・・。
あれ?この婆さん、もしかして見えてる?
おい、トーダ、誰にも見えないんじゃなかったのかよ!
頭に蜥蜴乗せてんの見られたぞ!
「ユーキ・・・、あんた何を連れてきた・・・」
婆さんが驚いた表情のまま、絞り出すような声で問いかけてきた。
「あっ、これには深い事情が」と言いかけたところで、頭の上から声がした。
「オマン、イオンかい?」
トーダの声も震えている。
え?なんだ?
どういうことだ?
イオン?何のことだ?
「やっぱりトーダなの?」
え?今しゃべったの誰だ?
目の前の婆さんから、聞いたことのない澄んだ声が!しかも日本語?
「イオンかい!」
トーダが、婆さんに飛びついた。
現役の美人が好みじゃなかったのかよ。
じゃなくて、え?この二人知り合いだったの?
ん?一人と一匹か?
「何でオマンがこっちにおるん!?」
「あなたこそ何で!」
「ワイは、ハルが死んだ後、つまらんようになって、あちこちウロウロしよってん。ほんで、鎌倉おったとき、地揺れが起きよってな。そん後マナが急にどっかに吸い込まれよったから、調べたろ思うてそっちの方に行っとったら、知らんうちにこっちに飛ばされてん。わけわからん」
「鎌倉の地揺れ・・・。それが原因だったのかしら・・・」
「ほんでイオンはなんでここおるん?」
「私も同じようなものよ。私は、ハルが死んであなたたちがいなくなった後も、都に残ってた。いつだったか、マナが薄くなっていることに気づいたの。注意してみると、マナが全部東の方に流れて行ってたわ。それで、原因を調べようと東に向かった。そうしたら、箱根の辺りで、急に身体が引っ張られて、どこかに吸い込まれた気がするんだけど、気がついたらこっちの世界に来ていたわ」
「イオンもかい・・・。ほったら、他の連中もおるんかな?」
「どうかしら、私もこちらに来て随分長いけど、仲間に会ったのはあなたが初めてよ」
「そうかぁ、せやな、ワイも仲間に会うたんイオンが初めてやし。でもイオンに会えて嬉しいわぁ」
トーダが泣き出した。
一体どういうことだ?
メイデンの婆さんがイオン?
話の流れからして、どうやら婆さんも日本からの転移者らしい。そんなこと一言も。
そして、婆さんとトーダは昔の仲間。
都?京都のことか?
この二人いつの時代の・・・。
なにより、婆さんの口から、涼やかで若々しい声が聞こえる違和感に耐えられん!
そして・・・「ハル」って誰だ?少なくとも俺の幼馴染みのハルでないことは確かだろうけど・・・。
「ほんでイオン、その格好なんやねん?」
泣きながらトーダが問いかける。
「ああ、この姿?人間は歳を取らないと気味悪がられるからよ。戻すわね」
・・・絶世の美少女が現れた!長く艶やかなストレートの黒髪、神秘的な輝きをたたえた黒い瞳。
「うん、やっぱイオンはその姿や!」
これが本物なのかよ!
嘘だろ!
俺は声もなく、呆然と目の前の神々しい美少女に見惚れていた。
「なんじゃユーキ。あたしに惚れたか?クエッ、ケ、ケ」
「その顔で婆さんの声出すなぁ!」
美少女が、ふふふ、と笑う。
もう、可愛いすぎだろう。
心臓に悪いからやめて欲しい。
「そう言えば、なんでトーダがユーキと一緒にいるの?」
「それは、俺、じゃなくて、私が」
「ふふっ、俺、でいいわよ。話し方も普通でいいわ」
「助かる。それで、俺がルミナスの泉に水の採取に行ったときに、泉で会ったんだ。そしたらトーダがついてきちゃって」
なんか、この美少女は、メイデンの婆さんとは別人と思った方が話しやすい。
「トーダ、あの泉にいたの?」
「せやで、あの泉みつけたんは最近やけど」
「そうだったのね。ユーキについてきたのはなぜ?」
「こいつ見るからに日本人やろ。それに、マナがハルに似とってん」
「・・・。やっぱりあなたもそう感じるのね」
「イオンもか?やっぱハルに似とるよな」
ハルってあれか?
「なあ、ハルって、トーダの番の蜥蜴か?俺に似てるの?」
すると二人が呆れたように言ってきた。
「なに勘違いしてるの?ハルは蜥蜴じゃないわよ」
「せやで、ハルは人間や」
え?そうなの?
「だって、トーダが死んだ連れって・・・。人間だったんだ・・・」
「そうよ、ハルは子供の頃から、私たちが一緒に遊んで、一緒に戦って、ハルが死んだ日まで一緒に過ごした大切な仲間」
「人間はすぐ死によるねん。もっと一緒に遊びたかったわ」
またトーダが泣いている。
案外泣き虫だ。
いいやつだな。
「そうだったんだね。勘違いしてごめん。」
でも、一体いつ頃の話しなんだろう。
「そのハルさんて人はいつ頃の時代の人なの?」
「いつ?どない説明したらいいん」
「たとえば元号とか」
「元号てなんやねん?」
「私たちはあまり気にしないわね。それにハルと一緒にいたころは、物怪とかも多くて、帝もしょっ中変わってたわ」
天皇がころころ代わった時代・・・。
いつだ?何か特定できるものは・・・。
「帝の名前って覚えてる?」
「帝の名前ねぇ。あまり覚えてないわね。帝なんてどうでもよかったし。ああ、そう言えば、ハルが助けたのがいたわね。私も手伝って。何だったかしら・・・。えっと、・・・。そう、確か一条だったかしら」
「一条天皇!」
確か平安時代だったか?
「そうだ、その頃の権力者とかは?」
「権力者、そうね藤原が生意気だったわね。ハルに頼ってばかりのくせに威張ってたわ」
「藤原道長とか?」
「そう、思い出した。確か左大臣よ」
確定だ。平安時代。
道長が摂政になる前のころか。
しかし、この二人、そんな時代から来てたのか・・・。
それにしても、帝や藤原道長に頼られる人・・・。
ハル?
名前なんだよな?聞いたことないな。
「ねえ、ハルさんて何やってた人?」
「ハルは陰陽師やで」
「天文博士もやってたわよ」
え?陰陽師?陰陽師だとー?
一条天皇や藤原道長を助けた陰陽師。
どこかで読んだことがあるような。
「ハルさんの苗字は?」
「安倍よ」
やはり安倍家。安倍晴明の血縁か。
「安倍晴明さんと関係ある人?」
「セーメイ?ハルアキのこと?」
「あ、当時はそういうのか。うん、多分そのハルアキさん」
「ハルはハルアキのことよ。子供の頃の名前。私たちは彼が子供の頃から一緒だから、ずっとハルって呼んでたけど」
「せやぞ!ハルはハルや!」
!!!
こ、こいつら安倍晴明の仲間だとー!




