第3話 見た目は子供
「気が付かれたばかりなのに長々と申し訳ありませんでした。体調はいかがですか?」
そういえば身体の痛みもだいぶ引いてる。
「はい。大丈夫です」
「食事は取れそうですか?」
「はい。大丈夫そうですね」
「三日間寝たきりだったのだ。急に普通の食事も身体に悪いでしょう。味気ないかもしれないが消化に良い物を用意させましょう。入浴はされますか?」
お風呂があるのか。ありがたい。
「ぜひお願いします」
「今日のところはゆっくり風呂に入り、食事が済んだら休まれるがいいでしょう。メイドを呼びます」
侯爵がテーブルの呼び鈴を鳴らした。
これで聞こえるの?
「ところで貴殿はおいくつになられるのでしょう?このような事態にもかかわらず随分と冷静で落ち着いておられるが」
「28歳になります」
「えっ?」
侯爵、執事さん、軍服さんが揃って驚いた目でこちらを見ている。なんで?
「えっと、何か?」
「いや、もっとお若いのかと思っておりました・・・」
「え?何歳くらいに見えました?」
「いや、失礼。せいぜい15、6歳かと」
「まさか、ははは・・・」
ちょっと不安になってきた。先程から感じる微妙な違和感。見慣れているはずの腕が細くて、手がやや小さい。拳だこも小さい。肌の質感もなんとなく違う。見知らぬ部屋だし、侯爵たちがでかいだけだと思っていたが、視界の高さにも違和感がある。
まさかね。
嫌な予感がするが放置もできない。
腹を決めて侯爵に聞いてみる。
「あのう、鏡はありますか?」
丁度入ってきたメイドさんに、侯爵が鏡を持ってくるように指示してくれた。
メイドさんから渡された手鏡を恐る恐る覗き込んで絶句した。なんで?
「・・・」
「カムラ殿、いかがされました?」
「・・・」
嫌な静寂が続く。
まあ、なったものはしょうがない。割り切ろう。
「失礼しました。鏡を見ました。これは確かに15、6歳ですね」
「え?どういう・・・」
「いや、どういう訳かわかりませんが、若返っているようです」
「・・・」
侯爵たちも絶句する。
俺のせいじゃないよ。
「本当ですか?」
知るか!こっちが聞きたいわ!
「ああ、そう言えば、私の荷物はありますか?中にパスポートとか身分証明書がありますから。その写真を見てもらえば私の本来の年齢と見た目がわかると思います」
「それがカムラ殿が召喚されたとき、荷物はおろか衣服もまとわず血塗れだったのです」
「えっ、それって、全裸ということですか?一糸纏わず?」
「そうです」
「もしかして全裸で色々お世話していただいたとか・・・」
恐る恐るメイドさんの方を伺う。
おい、何顔を赤らめてんだ!
「いや、それよりも若返ったという件が」と、侯爵があきれる。
なんだか、色々どうでも良くなってきた。
異世界召喚だもんな。
クソッ、俺の荷物どこにいった!
パスポートはリュックの中だよな。他にもお土産とか着替えとか、それに重要な物をスーツケースに詰め込んでたし。
えーい、リュック出て来いよ!
ボン!
リュックが出てきた・・・。
「・・・」
「・・・カムラ殿は、収納スキルをお持ちでしたか」
「えっと、収納スキルとは?」
「魔術の一種と言われていますが、正確にはわかっていません。体質と言う者もいます。何もない空間に物を収納したり、取り出したりする技です。あまり多くはありませんが、たまに収納スキルを持っている者がいます。そう言えば聖女様もかなり容量の大きい収納スキルをお持ちだったとか」
「そんなスキルを持っている覚えはないのですが。そもそも私のいた世界では魔術もありませんでしたし」
「魔術がない?とすると、これも召喚の影響なのか?」
「まあリュックが突然現れたので、何かの能力はありそうですが。ちなみに収納スキルというのはどのように使うのでしょうか」
「私が使えるわけではないので正しいかどうかは分かりませんが、何でも収納スキルを意識して収納したいと思えば勝手に収納できるし、取り出したいと思えば出てくるそうです。ストレージとも呼ばれております」
なんと都合のいい!これもアニメとかラノベでは常識なのか?
異世界召喚関係はあまり詳しくない。一度くらいちゃんと見ておけばよかったかな。
とりあえず言われたように空間に物が入っていると意識してみる。
あれ?なんだかスーツケースや俺が着ていた服、靴がぼんやりイメージできる。
試しにスーツケースを取り出すことを意識してみる。
ボン!
おお、スーツケースが出やがった!おもしろ!
服の取り出しをイメージ。
ボン!
うわー、ズタズタになった服が出てきた。
今度は服の収納をイメージ。おお、消えた!
スーツケースは?これも消えた!
これは面白い!調子に乗って出し入れしていたら侯爵から声がかかった。
「カムラ殿!」
「あ、申し訳ありません。あまりにも不思議で」
「どうやら収納スキルで間違いないようですね」
「そうですね。あ、少々お待ち下さい」
俺はリュックからパスポートと運転免許証を取り出して、その写真を侯爵たちに見せる。
「これが本来の私の顔です」
「これは肖像画ですか?随分と精密な!」
この世界に写真はないのか。
「まあ、肖像画のようなものです」
「確かにカムラ殿のようだ。これなら28歳と言われても納得です。ということは、本当に若返ったということですか」
「そうみたいですね。念のためですが、こちらで助けていただいたときから今の見かけでしょうか?」
「そうですね。最初から今のお姿でした」
そうか。まあ、そのうち戻るかもしれんし。小学生1年生じゃなくて良かったと思おう。見た目は子供、頭脳は大人は辛い。
「少々驚くこともありましたが、カムラ殿もまだ万全ではないでしょう。今日のところはこれまでとし、我々は引上げましょう。カムラ殿には入浴と食事の世話を。それではまた明日声をかけさせていただきます。ゆっくりお休み下さい」
そう言うと、侯爵一行は部屋を出て行った。
「それではカムラ様。入浴の準備が整いましたらお声がけいたします」
メイドさん二人も綺麗なお辞儀をして去って行った。
はあ、異世界転生じゃなく召喚だったか。もっとも巻き込まれたオマケみたいだけど。




