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第27話 最強と最弱

 疲れた身体で部屋に戻ると、ケイトさんが、

「お帰りなさいませ。ご無事でなによりです」と、笑顔で出迎えてくれた。

 なんだかほっとする。こういうのもいいもんだな。


 部屋に戻って誰かが出迎えてくれるなんて、『研修所』以来か。

 あの頃は、辛かったけど、いつも仲間がいたな。

 寮に帰ると真っ先に出迎えてくれるのは、いつも柴犬のシャトルだったな。

 ドアを開けるといきなり飛びかかってきて、顔中を舐められた。

 皆んなのことが大好きで、皆んなも君が大好きだった。

 大切な、大切な仲間。

 ちょっと感傷的になる・・・。


 ケイトさんがお風呂の準備をしてくれた。

 相変わらずケイトさんの手伝いがいるのは辛いが、久しぶりの部屋のお風呂は落ち着くね。


 風呂上がりの夕食前、貴族服に着替えさせようとするケイトさんに拝み倒して、とにかく疲れてるからリラックスしたいという理由で、スウェットの着用の許可をもらった。

 はあ・・・この貴族服だけなんとかならないかな。俺貴族じゃないし。


 ケイトさんに淹れてもらったコーヒーを飲みながらソファでくつろいでいると、エドがやってきた。エドはちゃんとした服装だ。まあ、君は貴族だしね。


「よお、エド、お疲れ!」

「ああ、ユーキもお疲れ様。リラックスした服装だね」

「いいだろう、これ」

「まあ、楽そうではあるね。ところで、夕食、俺もここで一緒にいいかな?」

「俺がこの格好で食べるの許してくれるんならいいよ」

「もちろんいいよ」


 言葉とは裏腹にエドは苦笑している。

 まあ、許せ!俺は庶民だ!


 ケイトさんが、エドの夕食をこちらに運ぶように伝言に行ってくれた。


「どうしたエド。何か話しがあるの?」


 少し元気のないエドに尋ねる。


「まあそうだね。でも食事の後でいいや。飯が不味くなる」

「おっ、飯が不味くなるのか。じゃあ後だな」


 冗談で返しても、エドは弱々しく笑うだけだ。結構悩んでるな。


 他愛もない話しをしながら夕食を待つ。

 夕食が運ばれて、二人で食べるが、会話は少なく、徐々に空気が重くなってきた。


 夕食を終えたところで、コーヒーを淹れてくれたケイトさんに、今日はもういいよと言って下がってもらった。


「さあ、エド君。こんだけ空気重くしたんだ。さっさと話せ」


 少しおどけて、エドに話しを促す。


「そうだね。でも、改めて話そうとすると、大した話じゃないような感じもするよ。・・・、まあ、一言で言うと自信喪失かな。俺はなにやってもだめだなって」と、エドは自虐的に笑顔を見せる。

 やはりそういうことか。今回の任務の途中からずっと元気なかったもんな。


「大した話しだよ。とても大事な問題だと思うよ」


 俺も何度も経験したからね。


「ユーキ、君はすごいよね。魔術もない、魔獣もいない世界から無理矢理こちらの世界に連れてこられたのに、一言も不満を言わない。そして、武術も強い、学問もあっと言う間にマスターしてしまう。初めての討伐任務で、ブラックウルフの群れを殲滅するし、レッドベアにも討伐の決定打を与える。昨日の任務でも、君の貢献が大きかったって聞いた。それに比べて、俺は、この世界で生まれて育ったのに、今回の任務でも魔獣にやられて治療してもらうだけ。同年代の隊員と比べても、明らかに役立たずだった・・・」


 なるほど。俺のせいもだいぶありそうだ。


「エド、ちょっと聞くけど、君の目標は俺なのか?」

「え?いや、君が目標というわけでは・・・」

「じゃあ、同年代の騎士団の隊員が目標なのか?」

「いや、違うけど」

「なら、なんで俺や隊員と比べて落ち込んでるんだ?」

「え?」


 もう少し突っ込もう。俺も救ってもらった口だ。


「エド、俺は決してすごくない。君は俺の良いところだけを挙げてくれた。そこは礼を言う。でも、俺は魔術が使えない。弓も使えない。魔装も使えない。だから、ブラックウルフのとき、多分俺は他の誰よりも弱かった。だけど、元の世界で使っていた武器が使えた。だから貢献できた」


 エドは驚いたような顔で聞いている。


「それからレッドベアのときもそうだ。皆んなの武器が少しずつでも傷をつけていたのに、俺は、魔装が使えないせいで、まったく傷つけられなかった。それに、風魔術も使えない。土魔術も使えない。火魔術も使えない。ハルバートで致命傷を与えることもできない。もちろん隊の指揮も取れない。俺ができたことは、元の世界で得た知識を試しただけだ。それがたまたま上手くいった」


 エドは、黙って聞いている。

 そう、自信を失うと他人の良いところしか見えなくなる。


「エドは強くなりたいのか?」

「・・・、強くはなりたいかな」

「学院では強かったんだろう?」

「でもそれじゃあ、今回通用しなかった・・・」

「じゃあどのくらい強くなりたいんだ?」

「え?」

「質問を変えよう。騎士団で最強は誰だ?」

「騎士団長かな」

「騎士団長は弓は最強か?」

「いや、弓は・・・」

「じゃあ盾は最強?」

「いや、盾も・・・」

「なら、槍は?魔術は?」

「わからない、でも剣は一番強いと思う」

「そうか、で、エドは何の分野でどのくらい強くなりたいの?」

「・・・具体的に考えたことなかったな・・・」


 そうなんだよ。俺もそうだった。


「次の質問だ。今、一番強いって話ししたけど、一番強くない人は騎士団にいちゃいけないの?」

「いや、そんなことはない!」

「じゃあ一番弱い人はいちゃいけないの?」

「そんなことは言ってない!」


 ちょっと詭弁ぽいかな。まあ、続けよう。


「そうだよね。集団ができれば序列をつけたがる。人間はね。武力の分野でも、学問の分野でも、何の分野でも。そして、少しでも自分が上だと思って自慢するやつもいれば、自分で卑下して落ち込むやつもいる」


 ニヤリと笑ってエドを見てやる。

 エドめ、目をそらしやがった。


「最強かもしれない騎士団長だって、王国全体、世界全体からすれば最強じゃないかもしれない。でも、多分騎士団長は、そんなこと気にもしてないと思うよ。気にしてるとするなら、ランカスター領や領民を守るために少しでも強くなること、今より強くなるために努力を続けることじゃないかな」

「今より強くなるために努力する・・・」

「元々、絶対的な強さなんてないんだよ。どんなに強大な魔獣が来ても、どんな大群のスタンピードが起きても、どんな軍勢の敵国が攻めてきても、全部一人で倒してしまう人なんていない。そんな強さはない。そんな強さを求めても手に入らない」

「・・・」

「君はそんなことは考えていないというかもしれない。でも、今の考え方だと、結局そうなる。俺と比べて役に立てなかった、他の隊員より弱かった。でも、今より強くなって、別の場面でより強い人たちを見たら、また同じことを思う。きりがない。まあ、実際のところ、そこまではいかないと思うけど、今の君の思考はそういうことなんだ」


 エドは黙って考え込んでいる。


「強さを漠然と語るな!目標があるならそれに向かって努力しろ!目標がないなら今やれることに全力を尽くせ!ウジウジ悩むな!悩んでる時間がもったいない!」


 俺は突然大声を出す。

 エドはびっくりして俺を見ている。


 俺はエドに微笑みかけて言った。


「俺が言われたこと」

「え?」

「俺がいつもウジウジ悩んでたから、幼馴染にどやしつけられたこと」

「君が悩んでた?君はこんなに・・・」

「だから言ったろう、俺は強くない。やれることも少ない。でも、今やれることを迷わずやってるから強く見えるだけだ」


 俺はさらに続ける。


「俺、子供の頃、ずっといじめられっ子だったんだよね」

「君が?」

「俺が孤児院出身なの知ってるよね」

「え?嘘だろ?」

「ジェームス様は言ってなかったのか。うん、俺孤児院出身なんだよ」

「そうなのか・・・」

「それで、小さい頃からいつもいじめられてた。親なし、とか、着ている服がぼろだとか、皆んなが持ってるオモチャを持ってないとか。いつも泣かされてたよ」

「・・・」

「そのたびに幼馴染が助けてくれた」

「そうか」

「その子も孤児院の子で、同い年。ハルっていう子なんだ」

「その子も孤児院・・・」

「俺がいじめれてると飛んできてね。親なしって言われたら、親がいたらえらいのか、親がいなくても生きてるボクたちの方がエライ!とか。服がボロだとからかわれたら、お前たちは服が綺麗でも中身がボロだ、服を寄付してくれた人に謝れ!とか。オモチャを自慢されたら、オモチャがなくてもたくさん遊びは知ってる!ってね。それで、最後はいつも殴ってやっつけるから、孤児院によく苦情がきてた」


 思い出しながら苦笑する。


「孤児院の小さい子たちがいじめれてるのもいつも助けてた。相手が年上で複数でも、木の棒を持って突っ込んで行ってたよ。卑怯だ、とか言われても、卑怯はそっちだ、卑怯者相手に遠慮はしない、とか叫んで、追いかけ回してた」

「本当にすごい子だね・・・」

「うん、強くて、優しくて、仲間思いで、とてもいい子だった。でも、今だからわかる。いつも俺たちを護ってばかりだったから、自分が辛いときや泣きたいときも、ずっと一人で我慢してたんだと思う」


 そう、ハルはいつも仲間のためばかりだった。


「俺たちは、12歳のとき、二人とも国に選ばれてある施設に入れられた。国中の孤児院から五人が選ばれて、そのうちの二人が俺とハル。そこで全員が寮に入って、学校にも行かずに、その施設で、徹底的に教育を受け、戦闘訓練も受けた。一日中監視され、スケジュールも決められて、朝から晩まで勉強と訓練の毎日。自由な時間はほとんどなくて、逃げ出したいくらい徹底的にね」


 エドは呆然としている。

 あ、不幸自慢じゃないからね。


「俺たちは、皆んな親も家族もいないから逃げられない。逃げても行くところがない。俺は、親がいないことを恨んだよ。親がいないからこんな目にあうんだって。でも、ハルに怒られた」


 ハルの言葉が甦る。


「ボクたちは生まれる環境は選べない。だけどそれを恨むのか受け入れるのかは選べる。恨んで立ち止まっても何も手に入らない。受け入れて前に進めば何か手に入る。ボクたちは親も家族も何も持ってない。だからこれからは手に入れ放題だ。もう、既に仲間を手に入れた。ユーキも、恨んでばかりいないで、前に進もう。無理矢理やらされるより、進んでやった方が手に入るものもきっと良いものだ、って言われたよ」

「・・・」


「ハルはその施設でも皆んなのリーダーだったけど、俺は、相変わらずの弱虫だった。戦闘訓練ではいつもビリ。集団実戦訓練でも役立たず。自信がなくて一人でめそめそ泣いていた。役立たずの俺を、仲間は誰も非難しなかった。俺はそれも同情だと思ってた」


 ハルの顔が浮かぶ。


「そうやっていじけてるときに、ハルに本気で怒られた。俺のことを、誰も役立たずなんて思ってない。同情なんてしてない。皆んな今の自分ができることを必死にやって、そこから一歩進もうとしている。ユーキが一番弱いといっても、それはここの中だけの話し。外に出たら、ボクたち全員が弱いんだ。そして、俺が君に言った言葉。同じことを、俺はハルに言われたんだ。ボクたちは、強い集団に行けば弱い、弱い集団に行けば強い。強さなんてそんなもの。最強なんて幻想だ。だから強さを漠然と語るな、目標があるならそれに向かって努力しろ、目標がないなら今やれることに全力をつくせ、ウジウジ悩むな、悩んでる時間がもったいない、ってね。まあ、実際のところ、俺がウジウジ悩んでたら、集団訓練で仲間を危険に晒しかねなかったからね」

「それからユーキは・・・」

「目が覚めた。目標なんてないから目の前の課題に必死でくらいついた。こなせるようになったら、今度は仲間が目標だな。そして、次は教官が目標。そうやって、見える目標を目指して頑張った。おかげで、最後のころは、無様にやられることはなくなったよ。ビリは変わらなかったけど。だから俺は文官なんだ」


 最後まで俺は最弱だったな、思わず笑いが出る。


「さあ、俺の昔話は終わりだ。あとは自分で考えてくれ」


 そう言って、俺はソファを立った。


「ユーキありがとう。君と友達になれて本当に良かったよ」

「臭いセリフ言うなよ。風呂も一緒に入ってくれない薄情者が!」


 エドが爆笑しながら部屋を出て行った。

 うん、大丈夫かな。

 ハルでもこうしたよね。いや、ハルだったらもっと上手くやったかな。


 ハルと仲間たちが浮かぶ。俺たちの愛犬で仲間のシャトルもいる。


 ハル。君のおかげで俺は異世界でもなんとかやってるよ。ありがとうな!

 その夜、俺は、任務の疲れと、エドとの会話で久しぶりに振り返ったハルたちとの記憶で、穏やかに眠りについた。そう、安らかな夜のはずだった。


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