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第24話 グロック17

 帰路は、大体の方向を教えてもらい、気配察知で極力魔獣と遭遇しないルートを選んで進んだ。今は弱い魔獣でも遭いたくない。

 多少の時間はかかったが、ようやく森を抜けた。

 全員がホッとした表情だ。


 ピートさんが、また目印の布を木に巻いていた。


「拠点まで油断するな!」と、副隊長のアルクさんから注意がとんだ。


 俺たちは、重い足を引きずりながら無言で歩き続け、ようやく拠点にたどり着いた。


 拠点の入り口で歩哨に立っていた隊員が、ぼろぼろで帰還した俺たちに驚いてる。


「カーク隊、緊急事態により早期帰還した!総隊長は?」

「天幕におられます!」

「報告に行く。ライル、ユーキ、同行しろ」

「はい」

「負傷者は、軽重にかかわらず医療班に連れて行け」


 総隊長の天幕に向かいながら、カークさんが話しかけてきた。


「ユーキ、あの武器のことは報告せざるを得ないがいいか?」

「当然です。軍事行動ですから報告の隠蔽や過誤は今後の作戦に支障をきたします」

「すまんな。やはりユーキは武官だな」


 カークさんがにっこり笑った。


 カーク隊長に同行して、総隊長の天幕に入る。

 総隊長は、フォックスさん。騎士団の副団長の一人で、スマートなタイプのイケメンだ。


「カーク、何があった?」


 ぼろぼろの俺たちを見て、しかし落ち着いた声でフォックスさんが聞いてきた。


「ブラックウルフ32頭に遭遇してこれを殲滅。次にレッドベア1頭に襲撃されこれを討伐。異常事態の連続発生と負傷者多数のため、早期帰還しました」


 フォックスさんの眉がぴくりと動く。


「死傷者は?」

「死亡者なし。重傷1名。軽傷多数です」


 フォックスさんはホッとした表情で頷いた。

 まず隊員の安否を尋ねる。いい指揮官だね。


「詳細を聞こう。三人とも座ってくれ。コーヒーでいいか?」

「はい」


 俺たちが大きな会議テーブルに座ると、総隊長付きの隊員さんが、コーヒーを持ってきてくれた。一口飲むと、ホッとする。やはり緊張していたようだ。


 カーク隊長が、森に入ってからの一部始終を要領よく説明する。

 その間、フォックスさんは、時折り驚いたような表情をしながらも、一切口を挟まずに聞いていた。

 報告が終わると、フォックスさんは、ふう、と大きく溜め息を漏らした。


「よく全員無事で帰還してくれた」


 フォックスさんがようやく笑みを見せる。


「今回はユーキに随分助けれました」


 カーク隊長が答えると、副隊長のライルさんも頷いている。


 フォックスさんがにこやかな顔で俺に話しかけてくる。


「ユーキ殿。今更だが、俺もユーキと呼んでいいか?すっかりカーク隊に馴染んでいるようだ」

「もちろんです。私もその方が気が楽です」

「私じゃなくて俺でいいぞ」ニヤリと笑う顔もイケメンだね。

「ありがとうございます。では、思わず言ったときはご容赦いただけるということで」


 俺もニッコリ笑い返しておく。15の少年の笑顔は可愛いに分類されるのか?


「少し話しを聞かせてくれ」

「はい」

「倒した魔獣は全部持ち帰ったんだな?」

「はい」

「では後で見せてくれ。それから、ブラックウルフを倒した武器だが、見せてもらえるか?」


 俺はストレージからグロック17を取り出してテーブルの上に差し出す。 


「銃、拳銃、ピストルなどと呼ばれています」


 フォックスさんは興味深そうに、

「触ってもいいか?」と聞いてきた。

「どうぞ。今は安全装置をかけていますので大丈夫です」


 フォックスさんがグロックを手に取って色々な角度から観察している。


「思ったよりも軽いな」


 プラスチック製だからね。ポリマー2という材質だ。 


「この穴から金属の塊が出るのか?」

「はい、これが出ます」


 俺はストレージから銃弾を一個取り出して渡す。


 フォックスさんは、銃弾を見ながら、質問を続ける。


「有効射程は?」

「50メートルです」

「魔装弓と同じくらいか。速度は?」

「魔装の弓より速いと思います」

「命中精度は?」

「止まっている的なら100%。動く的は難しいですが、動き方次第です。動く的には連射して当てる感じです」

「連射数は?」


 フォックスさんからグロック17を受け取ってマガジンをはずす。


「このケースの中に17発弾が入っています。なので連射は17発できます。17発撃ったら、新しいマガジンに取り替えます。一度使った弾は使い捨てなので二度と使えません」

「なるほど。これは、我々でも作れると思うか?」

「こちらの工業技術を良く知りませんが、難しいかと」

「ということは、ユーキが持っているものを使い終わるとお終いか」

「はい」

「わかった。銃の管理は十分気をつけてくれ。我々が作るかどうかはともかく、他国が研究するのは面白くない」

「承知しました」

「そう言えばレッドベアには使わなかったのか?」

「剣で一撃した感覚で、通用しないと思いました」

「そうか、万能というわけじゃないんだな。あいつは硬いからな」

 とフォックスさんが笑う。


 銃を作る、どうなんだろう?時間をかければこの世界でもできるだろう。

 しかし、火縄銃から徐々に積み重ねた技術だ。いきなり高水準の銃は無理だろう。

 それにこの世界には魔術がある。魔術が十分銃の代わりになりそうだ。

 俺は魔術が使えないから、今回銃を使った。

 ということは、魔術の使えない俺は、何か飛び道具を考えた方がいいのか?


「次にレッドベアの件だが、ユーキが後ろから足を斬ったら歩けなくなったということだが、どこを斬ったんだ?よく刃が通ったな」

「アキレス腱と、膝裏の腱です」

「アキレス腱?」

「はい、踵の上、ここら辺に誰でもつまめる部分がありますよね」と言って、靴を脱いで示して見せる。

 皆も靴を脱いで確認している。


「これがアキレス腱というやつか?」

「はい、これは骨と筋肉を繋ぐ役割をしているもので、これが切れると上手く立ったり動いたりできなくなります。膝裏にも2本ありますよね」


 皆が自分の膝裏を触って確認する。


「これは靭帯と言って、筋肉と筋肉を繋いでいます。ここを切っても、動きが不自由になります。レッドベアの筋肉は硬くて私の剣はまったく通りませんでした。ただ、このアキレス腱や靭帯のブラック部分には筋肉がありません。なので、もしかしたらと思って攻撃してみたら運よく通じたということです」


 そう言えば、とライル副隊長が何か思い出したように話し出した。


「過去に訓練中に踵の上辺りを痛めて歩けなくなる者が何人かいました。ただ、治癒魔術で回復してしまうので、原因までは調べていません」

「多分それはアキレス腱か靭帯の故障だと思います。踵の上にはアキレス腱と靭帯の両方があります。それが、全部切れてしまう場合と、部分的に切れてしまう場合があります」


 皆が感心したように聞いている。


「ユーキの世界では、こういうことが詳しくわかっているのか?」

「私がいた世界には魔術はありませんでした。当然治癒魔術もありません。そのため、怪我や病気については、原因を究明し、治療法を見つける必要があります。人体についても、その構造は隅々まで研究されています。治癒魔術ほど便利ではありませんが、多くの病気や怪我に対処しています。私はこの世界の治癒魔術の限界を知りませんので、どちらが優れているかはわかりません。ただ、一長一短のような気はします」

「なるほどね。しかし、今回のことは魔獣の弱点や攻略法を考える上で有益な情報だ。レッドベアも、レグルスに帰ったら、ユーキの斬った部分を調べよう。これまでは、魔獣討伐では現地で解体して、素材や肉だけ持ち帰っていたが、魔獣の身体を調べることで色々わかることがあるかもしれん」


 フォックスさんの言葉にカーク隊長も応じる。


「確かに魔獣に関する知識は、経験則やギルド情報に頼りすぎていたかもしれません。ランカスターとして、独自の研究をやってみるのも面白いですね。問題は、魔獣の持ち帰りです。今回はユーキがいたので持ち帰れましたが」

「そうだな。長距離移動だと死体の腐敗もある。この点でもストレージ持ちは貴重だな」

「氷魔術で凍らせますか」

「それも含めて帰ったら検討しよう」

「はい」


 カーク隊としての報告はこれで終了した。

 あとは、他のエリアに赴いた隊の報告を待って、全体状況の確認と作戦の変更を検討することになった。


 フォックスさんの天幕を出たところで、俺はカークさんに声をかけた。


「カーク隊長、少し教えていただきたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」

「いいぞ、じゃあ俺たちの天幕に行こう。何しろ疲れた」


 カークさんとライルさんは同じ天幕だ。

 天幕に入ると三人の隊員がぐったりと横になっていた。

 皆んな命懸けがったからね。俺も横になりたい。


「椅子がないから床に座って話そう」と、カークさんが腰を下ろした。

「お疲れのところ申し訳ありません。ただ、早めに疑問を解消しておきたいので」

「疲れているのはお前も同じだ。構わん。で、聞きたいこととはなんだ?」

「まず単純な質問です。レッドベアというのは、この世界でどのレベルの魔獣なんですか?」

「ああ、ギルドで魔獣のランクをつけているのは知ってるな。そのランクで言うとBの上の方だったと思う。普通はもっと森の奥にいるやつだ」

「あれでBなんですか?」

「冒険者のランクとは対応してないぞ。冒険者ランクがBだからって、ソロでBランクの魔獣に挑んだらあっという間にサヨナラだ。あくまでも相対評価だな。魔獣の中でのB、冒険者の中でのBというわけだ。魔獣の方が全体のレベルが上だと思った方がいい」


 そういうことか。Bランク冒険者があんなに強いのかと思ってしまった。


「次は、魔術攻撃の方法です。火魔術で、ファイヤボールやファイヤボムを使わなかったのはなぜですか?」

「ああ、まずファイヤボールは、レッドベア相手だと、当たっても大したダメージにならない。ファイヤボムの方は、多少は効くかもしれんが、レッドベアは魔術耐性が高い。集中砲火でもない限り、大きなダメージは期待できん。反対に、避けられたら森の中だ。木に燃え移ったら森林火災になる」

「火炎の魔術は、射程距離ですか?」

「そうだ。射程距離は魔術師の力量次第だが、今日みたいに動けなくして顔を狙えれば効果的だが、身体だと多分あの赤毛の体毛に防がれる」

「なるほど。水魔術を使わなかったのは?」

「大量の水で動きを抑えることはできる。ただ、その後が大変だ。足場が悪くなる。レッドベアに対して、我々の優位性はスピードだ。それが足場が悪くなると失われる」


 ここまである程度予想通りだ。


「色々な魔獣と魔術の相性は正確にわかっているんですか?」

「これは経験則だな。正確かと言われるとわからん」

「経験則で構わないんですが、まとまった資料はありますか?」

「どうなんだろう?ライル、知ってるか?」

「いえ、私は大体先輩から教えられたかと。ギルドにはあるかもしれませんが」

「俺も先輩から教えてもらった口だな。すまん、もしかしたら騎士団にそんな資料があるかもしれんが、俺もライルも資料を読むより身体を動かす質でな」


 カークさんが苦笑いする。


「いえ、ありがとうございます。ぞれで、最後にもう一つ。レッドベアに対して、最初は俺の剣はまったく斬れなかったんですが、火炎放射の後の攻撃では斬れました。あれはどういうことでしょうか?」

「これも推測になる。ランクが上の魔獣にはよくあることだが、魔獣の体力がある内は、中々武器の攻撃が通らない。多分魔獣も魔装のようなものを使っているのではないかと言われている。それでダメージが蓄積されてくると、魔装が解けて攻撃が通りだすんじゃないかと思っている」

「俺は人間の魔装は緑色の膜のような感じで見えるんですが、レッドベアには何も見えませんでした」

「そうか。お前は魔装が見えるんだったな。しかし、そうするとどういうことだ?」

「もしかすると、魔力を外に纏うんじゃなくて体内で魔装のようなことをやってるんですかね?」

「ううん、わからんな。改めて考えると、魔獣については研究不足だな」

「そうですか。わかりました、お疲れのところありがとうございました」


 俺は礼を言って天幕を出た。


 改めて思う。魔獣や魔術について知識が足りない。知識を増やさなければ。

 魔術については自分が使えないこともあり、少し蔑ろにしたきらいがある。

 しかし、魔術と相対することがあるかもしれない。戦う仲間が使えるかもしれない。

 知らずに済ますことはできない。


 元の世界で無理矢理やらされた勉強の日々を思い出す。何のための知識かわからないまま、色々な分野の知識を詰め込まれた。それが案外役に立ったこともあったな、くやしいけど。

 ちょっと苦笑する。

 現状日本に帰れる当てはない。だとすればこの世界での生存が第一目標。

 そのためには何より情報収集だ。

 よし、今度は目的がはっきりしたお勉強だね。


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