第23話 レッドベア襲来
皆静かに、よし!とこぶしを握っている。
未だ森の中だ。ここで騒ぐ馬鹿はこの隊にはいない。
「しかし、凄まじい武器だな。何頭倒した?」と、カークさんが聞いてきた。
「22頭です」
「銃と言ったか。それがあると心強いな」
「いえ、元々、こちらの世界では、余程のことがなければ使うつもりがなかったんです。それに、発射した金属の弾は使い捨てで、こちらでは作れません。なので、今持ってる弾がなくなったら、ただのガラクタです」
「そうか。貴重なものだったんだな。そんなものを使わせてすまなかった」
「いえ、お役にたてて良かったです」
「いずれにしてもお前のおかげで助かった。ブラックウルフは、もっと深部の魔獣だ。1体1体が特別に強いわけではないが、動きが速く、何より集団での狩りが上手い。それにあの数だ。今回は、かなりの被害を覚悟したが、結果は全員ほとんど無傷だ。最高の結果だ」
「そうですね。皆さん無事で本当に良かったです」
「よし!全員この場から早急に離脱する。ユーキ、斥候を頼む」
激しい戦闘だった。他の魔獣が騒ぎを気にして現れるかもしれない。連戦は避けたい。
俺は、魔獣の気配を探りながら、安全と思われる方へ隊を誘導した。
しばらく行くと、少し開けた場所に行き着いた。
深い森の中で、木漏れ日が差し込んでいる。
俺はそこで立ち止まる。隊の全員も追いついてきた。
「ユーキ、周囲に気配は?」
「今のところありません」
俺の答えに、カーク隊長は、ここでの休憩を命じた。
実戦は体力だけでなく神経を削る。許されるなら一旦身体と心を鎮めることは必須だ。
この場の警戒はライルさんが担当し、俺はひとまず休憩だ。
皆、腰を下ろして、水を飲んだり、武器の手入れをしている。
剣は特に血糊を取らないと切れなくなる。
エドが俺の側に来て腰を下ろす。顔がまだ紅潮している。
「よお、エド、大丈夫だった?」
「うん、怪我はないよ。でもあの数のブラックウルフだろ。正直言って、生きた心地がしなかった。情けないけど恐ろしかったよ」
「いいんじゃない。恐れることは恥じゃない。恐れを忘れると、油断や慢心で命を落とす。恐怖心に飲まれて動けなくなるのは駄目だけどね」と言って、にこりと笑う。
「やっぱりユーキは実戦に慣れてるね」
「そうかもね」
確かに実戦は、拒否権もなく何度も経験させられた。
「それにしても、すごい武器だったね」
「ああ、隊長にも言ったけど、元々、よっぽどのことがない限り、こちらの世界で使う気はなかったんだけどね。こちらの世界にない武器だし」
「なんで使ったの?」
「俺はブラックウルフの強さを知らない。自分の力でどれくらい対応できるかの見積りができない。隊長や他の人たちの様子から、かなりやばそうだと感じた。俺は、自分もだけど、仲間が傷ついたり死んだりするのが嫌だ。でも、今回は俺の経験不足で、そのリスクの程度が判断できなかった。これを使わずに隠してて誰かが死んだりしたら、きっとめちゃくちゃ後悔する。だから、より安全な策として銃を使った」
「そうか。あまり見せたくなかったんだろ?権力者に献上しろとか、作れ、とか言われそうだしね。異世界から来たとばれるリスクもあるし」
「まあね。でも自分や仲間の命が危なかったら、これからも躊躇なく使うよ。面倒くさいことになったら逃げるし」と笑う。
「うん、そのときは俺も付き合うか」と、エドも笑う。
「やめといたら、俺、金ないぞ」
「街中業務の専門家なんだろ?」
「おう、1日銀貨10枚稼げるぞ」
「よし、ジェームス様に言って、少しお金もらっておこう」
「頼んだ相棒!」
他愛もない話しで気持ちが落ち着いていく。
「よし!休憩終了!ご苦労だがもう少し魔獣を間引いていくぞ。ピート、そこの木に目印の布を巻いておいてくれ」
カーク隊長の声がかかる。
さ、もう一仕事だ。
再び俺が斥候となり森を進む。
途中、フォレストボアやグリーンスネイクという蛇の魔獣、グレーウルフなどと遭遇した。いずれも単体もしくは少数の群なので、問題なく討伐した。
開けた場所があったので、そこで昼食休憩となった。
他の小隊と公平を期すため、昼食は携帯の保存食だ。
乾パンとジャーキーのような干し肉。
うん、固い。美味くないな。俺のストレージが喜ばれるわけだ。
歯が折れるんじゃないか?
元の世界の携帯食はよく工夫されていた。
その内改善できないかな。
固い保存食に辟易しているところに、カーク隊長がやってきた。
「ユーキ、どうだ初めての遠征討伐は?」
「はい、見たことのない魔獣ばかりなので、興味深いです」
「余裕だな。初めてのときは、大体緊張でぐったりなるもんなんだが」と言って笑う。
「魔獣の数は例年と比べてどうなんですか?」
「最初のブラックウルフの群には驚いたが、それ以外は例年よりやや多いくらいかな」
「ブラックウルフが出た原因は何か推測は?」
「まだわからん。他のエリアの様子も聞いて検討だな。ただ、奴らが群れていた場所に、餌にしたと思える動物の骨や死骸の残骸が結構あったのに気づいたか?」
「はい、ある程度の期間、あそこにいたみたいですね」
「そうだ。連中は、森のもっと深いところが生息エリアだ。それに群が大きすぎる。それがあそこで生活していたとなると」
「森の奥に餌が足りなくなったか、より強い魔獣に生活圏を奪われた」
「そうだな。餌が足りなくなった原因が、魔獣の増加なら、他の魔獣もやがて浅い所や森の外に出てくる」
そのとき、突然強い魔力が急速に近づく気配を感じた。
カーク隊長も何か気づいたようだ。
ライルさんの声が響く。
「2時の方向から強力な魔獣が接近!」
カーク隊長が大声で命じる。
「防御陣形!魔術部隊は防御魔術の用意!退避は間に合わん!」
魔術師を後衛に、半円状の防御陣形が敷かれる。
「来ますっ!」
ライルさんの声の直後、森の木をへし折りながら、俺たちの前にそいつが飛び出してきて咆哮をあげた!
体長3メートルくらい。赤い体毛に赤い目をぎらつかせた熊だ。
「レッドベアだ!」
誰かが叫ぶ。
「総員、魔装!」カーク隊長が叫ぶ!
やべ、俺だけできないし!
盾役の隊員が一歩まえに出て、盾を構えて剣で盾をガンガン叩く!
音に釣られて向かってこようとするレッドベアに向けて、魔術師が突風をぶつける!
レッドベアは一瞬押し戻されたが、風に負けずに前進を始めた。
「足元、落とし穴!」
カーク隊長の指示に土魔術師がレッドベアの進行方向の前に落とし穴を作る。
レッドベアが踏み出した足を落とし穴にとられて横転した。
その瞬間、風魔術が止み、左右から魔装した攻撃部隊が攻撃を加える!俺もわずかに遅れてククリ刀を振り下ろす。
硬い!
表面を傷つけただけか?
全員が一撃離脱だ。
正面から盾役の人が盾で殴りつける!
レッドベアがぐらついた!
そこにまた攻撃陣が攻撃を加え離脱する!
魔装の剣でも、あまりダメージが与えられない。
離脱が遅れた隊員が、レッドベアの振り回した腕に当たり吹き飛ばされた!
木に激突したが、大丈夫か?
おっ、右手を上げて合図をしている。命に別状はなさそうだが、立ち上がれそうにはない。
風魔術や土魔術でレッドベアの動きを制限しながら、攻撃を仕掛けるが中々決定打が与えられない。切り傷は増えているが、大きなダメージに繋がっているようには見えない。
俺も何度もククリ刀で叩き斬る!表面の皮も硬いが、それ以上に筋肉が硬い!鋼鉄の塊に斬り付けているよう!。
離脱する瞬間、目の前をレッドベアの爪が風切り音を残して通り過ぎる!
これ喰らったら頭吹き飛ぶ・・・。ゾッとする。
仲間の隊員たちにも負傷する者が増えている。まだ重傷を負った者はいないようだ。
レッドベアの突進を止めようとした盾役の隊員が吹き飛ばされた!
くそっ!何かダメージを与えられるものはないか・・・
どこだ、どこに攻撃を加える?
本当に魔獣の知識不足が悔やまれる!
「風!」
カーク隊長の声に、また風魔術が放たれて、レッドベアの動きが止まる。
俺は咄嗟にレッドベアの後方に回り込み、アキレス腱にククリ刀を叩きつけた!
グサッ、という感触!
よし!もう一方のアキレス腱も叩き切る!
レッドベアは激痛に叫び声を上げて立ち上がろうとして前に倒れる。
よし、ついでに両脚の膝裏の腱もククリ刀で断ち切る。
手応えあり!
「ユーキ!何をした!」
「アキレス腱を切りました!多分立てません!」
レッドベアは、両腕を前についた状態で、立ち上がれずにもがいている。
「よし!火炎!」
カーク隊長の声に、魔術師がレッドベアの顔に正面から火炎放射を浴びせる。
レッドベアが絶叫する。
「火が止まったら、腕だけ気をつけて総攻撃!」
10秒ほどで火炎放射が止んだ。
攻撃陣全員が殺到する!
今度はククリ刀の刃が通る。なぜだ?
レッドベアは攻撃に晒されて叫び続けている。
巨漢の隊員のハルバートの一撃がレッドベアの眉間を捉えた!
ガギッという音をたて、ハルバートの刃がレッドベアの眉間に楔を打つように刺さった!
レッドベアがガクッと崩れ落ちる。
やった!
急速に命の気配が失われる。
「怪我人に治癒!」
カーク隊長の指示がとぶ。
すぐさま吹き飛ばされた隊員の元に魔術師が駆け寄り、治癒魔術を施している。
助かったようだ。良かった。
他にもレッドベアの爪で切り傷を受けた隊員に治癒魔術が施されている。
全員へとへとだが、その間も皆が緊張を解かず周囲を警戒している。
本当によく鍛えられている部隊だ。
幸い俺は無傷だったが、よく見ると防具や戦闘服はあちこちに斬り傷がありぼろぼろだ。
エドは負傷したらしく、治療を受けていた。
「ユーキ、レッドベアはストレージに入るか?」
「大丈夫です」
「頼む」
カーク隊長の指示で、レッドベアをストレージに収納する。
「治療が終わり次第、すぐにこの場を離れ、帰還する!」
カーク隊長が帰還を命じた。
作戦継続はこれ以上は危険だ。
ピートさんが、ここにも目印の布を巻いていた。
帰りは俺が先頭に立ち、全員が一団で進行する。
吹き飛ばされた隊員は、まだ動けないようで、別の隊員に背負われている。
同じく吹き飛ばされた盾役の人は元気に歩いている。どんだけ頑丈なんだよ。




