第22話 魔獣討伐
こうして訓練の日々は過ぎ、魔獣討伐出発の日になった。
討伐遠征は数回に分けて行われる。
第一回の今回は、南東方面にある森林地帯が対象で、最長10日の予定だ。
ランカスター領の東側はかつてアルタイル王国への侵略を試みた隣国と接しており、約10キロメートルにわたる防壁が築かれている。
防壁の北部に、国境警護部隊約3,000人が常駐する砦があり、そこには隣国への出入国門と割と大きな街がある。
隣国とは現在は国交も回復しているため、その街は隣国との通称拠点の街としても栄えている。
今回俺たちが行くのはその街ではなく、防壁南端から隣国を跨いで広がる森林地帯だ。
その森林地帯はグリーンベルトと呼ばれており、どのくらいの広がりを持っているのかわかっていない。グリーンベルトは、防壁から南下してベルガ川という大河にぶつかるまで数十キロ続いている天然の防壁だ。
俺のストレージには、討伐部隊200人の14日分の食料と拠点に設置する天幕、予備の武器、飲料水の樽、予備の衣類、そして浴槽5基など、今回の遠征の兵站のほとんどが入っている。
遠征は10日の予定だが、食料は余分に用意されている。
このストレージが効果を発揮し、例年荷馬車5台を連ねて2泊3日かかった拠点予定地まで、全員が馬で駆け抜けて1日で到着した。
総隊長始め皆が、これは早いなと驚いていた。
早速拠点設営にかかる。
土魔術師が、周囲に簡易の柵を作る。前にも見たがすごい。
天幕は、5人用のモンゴルのゲルに似た円筒形。柱を3本立て、周りに網状に織られた壁を設置する。天井に傘の骨のような放射状のものを載せて、後は動物の皮で作られてシートを被せていく。各小隊ごとに作業し、あっという間に拠点村が完成した。馬が200頭いるので、ちょっとした放牧場にも見える。
土魔術師が作った兵站用の土の蔵に、俺は預かっていたものを出した。
食料は、全部作りおきの物でもよかったが、今回は色々お試しなので、作りおきの物は今日だけだ。
暗くなってきたので、魔道具のランプがあちこちにセットされて、全員で食事をとった。
到着直後に飯を作らなくて良いのは楽だと喜ばれた。
一般的に、荷馬車なしでの遠征の際は、食事はほとんど保存食になるが、多人数の長期遠征の際は、食材を持って行き現地で調理するらしい。
総隊長と副隊長の天幕は二人用で、食事の後、小隊長が集められ作戦会議が行われた。
グリーンベルトの地図に討伐作戦の対象範囲を書き込み、ブロック分けして各小隊の担当エリアを決めて行く。
カークさんが集合をかけ、俺たちの明日からの作戦行動が伝達された。
小隊1個は、拠点に残り拠点の警備をする。朝食、夕食の炊事当番も兼ねる。
伝達が終わったらお風呂だ。
男だけの討伐隊なので、剥き出しの浴槽に順番に入った。
やはりお風呂は評判がいいね。
さすがにランカスター騎士団、明るく笑い声もあるが、はしゃいだり、弛んだ雰囲気はかけらもなく、軽い緊張感が維持されている。
なんとなく懐かしい気分になる。
エドは訓練生として何度か魔獣討伐に参加したことがあるらしいが、長期遠征は初めてだと言っていた。
明日の拠点警備担当の小隊が、夜間警備を担当する。
俺たちは、早々に自分の天幕に引き上げ、明日の準備をして就寝した。
いつでもどこでも眠れる訓練はできている。かつての経験が意外と役に立っているね。
翌朝、午前4時に起床し、天幕から出て少し身体を動かす。
真っ暗だ。まだ月が残っている。
空気が澄んでいるせいか、星空が鮮やかだ。星の数も多い。
ところで、やっぱりあれは北斗七星だよな・・・
月もそっくりだ・・・
夜空を見ると、ここが異世界であることが信じられなくなる。
地球ならここは北半球か。
そしてあれが北極星。
見える高さからすると、日本より緯度が高そうだ。
ドイツあたりかな?そういえば、直近の任務はドイツだったな。
そんなことを考えていると、ぱらぱらとあちこちの天幕から隊員たちが起き出してきた。
朝食を終え日が登ると作戦開始だ。拠点帰着予定時間は午後5時。
それまでに各小隊は、自分たちの担当エリアの魔獣を間引きする。
持ち物点検をして、俺たちの小隊も出発する。
今日の俺たちの担当は、拠点から一番近くの場所なので、探索エリアが広い。
全員が無言でカークさんに従って早足で歩く。
15分ほどで巨大に広がる森に着いた。
「全員整列!」カークさんが号令をかける。
「ピート、そこの木に布を巻け」
「はっ」
俺たちが入った箇所の目印に、白い布を木に巻きつけた。
「これよりグリーンベルトに入り、魔獣討伐を開始する。斥候はユーキ!隊形は標準!」
「はっ」と、全員が一斉に返事をした。
俺が斥候なのは、察知範囲が一番広いためだ。
俺から10メートルほど離れて2列縦隊で進行する。
魔術師は後衛、カークさんは中団に位置し、殿は副隊長だ。
エドはカークさんのすぐ後ろにいる。
俺は先行して森に侵入し、気配察知を発動する。発動でいいのかな?
察知範囲を慎重に広げて行くと、何これ!魔獣らしき気配がうじゃうじゃいるぞ!
俺はすぐ引き返しカークさんに報告する。
「100メートル先くらいから魔獣の気配がうじゃうじゃあります!どうしますか?」
「そんなにいるのか?」
「はい、結構狭い範囲で数十匹はいます」
「何かの群れかな?よし、ユーキもこっちに先頭ではいれ。全員で行く!」
俺たちは、気配を殺しながら森を進む。
こりゃあやばい。前に入った森とは比較にならないほど危険な匂いがする。
30メートルくらい進んだところで、ライルさんが低い声で言った。
「いますね、多分ブラックウルフの群れだと思います」
ライルさんは、ベテランの斥候だ。
「ブラックウルフだと!こんなに浅いところに?」
「はい、間違いないかと」
「やばいな、しかし放置もできんか・・・。ユーキ、数は?」
気配察知で数を探る。
「察知範囲で32です」
ライルさんも頷く。
「アルク、聞いてのとおりだ。群れがでかい。どう思う?」
カークさんが、副隊長のアルクさんに意見を聞いた。
「確かにでかい群れですね。通常、10頭前後ですが。しかし、森を出て街や村を襲われると、被害が甚大です。殲滅するしかありませんね」
「そうだな。問題は方法だが、数が多い。こちらがばらけると、狩られる側になりかねん」
「それに近づきすぎると察知されます」
「森の中だ。一ヶ所にまとめさせることもできん」
「あちらさんは、二、三頭ずつで組んできますね」
「そうなるとまず遠距離から数を減らして、向こうの数の優位性を削る必要があるが・・・」
くそ、魔獣の知識がないのが悔やまれる。
わからないことは聞くしかない。
「すみません。ブラックウルフの気配察知距離はどのくらいでしょうか?」
「多分、30から40メートルくらいだと思う。安全を見て、近づけるのは50メートルくらいまでだ」
「わかりました。弓の有効射程は?」
射手のレントさんに尋ねる。
「魔装を使って50メートル。ただし、連射はできん。1射ずつだ」
今部隊に射手は二人。
「魔術の有効射程は?」
「魔術は短い。スラッシュが一番長くて20メートルくらいだ」
やはり俺がやるしかないか。
「ユーキ、考えていることはわかった。弓で隠れて減らせるのはせいぜい5、6匹だろう。それでも数は向こうが多い。しかし、他に方法がない。全員がかたまると囲まれる。4マンセルでいく。射手は二手に分かれて50メートルまで近づき、木の上からできる限り数を減らしてくれ。方向を気取られたくないので、二人はある程度離れろ。初っ端から危険な戦いになるが、全員気合い入れていけ!」
カーク隊長が命令するが、ちょっと待ってね。
「隊長、よろしいでしょうか」
「なんだユーキ」
「俺も射手をやります」
「ユーキは弓は使えたか?それに魔装はできんだろう」
「いえ、弓ではなくこれを使います」
俺はストレージからグロック17を取り出した。
「それはなんだ?初めて見るが」
「これは銃という俺のいた世界の遠距離武器です。この先から金属の弾が飛び出します。速さはスラッシュよりはるかに速く、殺傷能力は、魔装の弓より高いと思います。有効射程は50メートルで、17発連射できます。一人で5、6匹以上はいけると思います」
「なんだと?命中精度は?」
「結構上手かったですよ」と、にやりと笑う。
「そうか、見たことがないのは不安だがユーキのことだ。信じよう」
カークさんもにやりと笑う。
「ただ、この武器は割と大きな音がします。なので先に弓で攻撃してください。そして慌て出したころに、俺が攻撃します。そのあとは、多分こちらに引きつけられると思いますので、側面攻撃をお願いします。俺は引きつけた連中を正面から攻撃します」
「よし、それで行こう!」
それから、全員で配置を決めて、更にブラックウルフの群れまで60メートルのところまで近づき、俺と射手の二人は、部隊を離れ、自身の判断で有効射程に入り木に登った。俺たちが離れて5分後に攻撃開始だ。
俺も木に登り、ブラックウルフの群れを観察する。ここから狙えるのは十数匹か。結構木が邪魔になっている。
久しぶりのグロック17を構えながら気配察知で探ると、レントさんが1射目を放った。命中した。絶命したかはわからないが、動きは格段に落ちるはず。
もう一人の射手も続く。命中。さすがだね。
二人の射手は、続けて矢を放つ!
ブラックウルフの群れは異常事態に気づき、慌てて周囲を探っている。
よし、今だ!
俺は両手で持ったグロック17の引き金を引く。ダーン!と音がして眉間に命中!
ブラックウルフはドサリと倒れる。
続けて、恐慌状態に陥ったブラックウルフがウロウロしている所を立て続けに狙い撃ち、7匹を仕留める。
レントさんたちも、数匹倒した。
俺に気づいたブラックウルフたちがこちらに殺到し始める。
正面から向かってくる的を撃つのは容易い。
木々の陰から見え隠れする的を、連続して倒して行く。
たちどころに9匹倒したところで、素早くマガジンを交換。残弾は常に把握できている。
残りのブラックウルフたちがこちらに向かうのを躊躇し始めたところに、側面から魔術攻撃が襲った。スラッシュが連続して襲いかかる!
最早ブラックウルフはパニックだ!
俺も続けてグロック17をお見舞いする!
5匹倒したところで、隊員たちが接近戦に入ったので、俺は撃つのをやめた。
パニックに陥ったブラックウルフは敵ではない。集団で狩をする強みを忘れ、闇雲に暴れるブラックウルフを、隊員たちは落ち着いて倒していった。
殲滅完了!
俺は木から飛び降り皆の所へ行く。
カーク隊長が俺に気づいて声をかけてきた。
「すごいなユーキ!」
「はい、まずは生き残りがいないか確認しましょう」
「そうだな、全員行くぞ!」
俺が先頭に立ち、気配を探りながら、殲滅の跡を辿って行く。
息のあるものにはとどめを刺し、32頭の全滅を確認した。
死体はすべてストレージだ。
「よし!皆んなご苦労!殲滅は完了だ!」
カークさんが宣言する。




