第21話 迷彩服の聖女?
魔獣討伐は5日後に出発する。
俺はこのところ街の便利屋さんをやっていたので、こちらに着いてから騎士団の訓練には参加していなかった。今日からは訓練再開だ。
ランカスター侯爵家騎士団は、総数約150,000人の常備軍。領内各地に分散配置されている。
ランカスター家はアルタイル王国建国をともになした、建国当初からの貴族だ。
さらに、隣国国境の防衛、王国東部周辺の魔獣生息域の警備を担うため、常備軍の保有と独自の軍事行動権を有している。過去にも、隣国からの侵略行為の撃退や、魔獣スタンピードの鎮圧などの実績がある。これが、『ロード・プロテクター』と称される所以だ。
騎士団の他に領内の治安維持を担う衛兵部隊がある。警察だね。騎士団とは別系統の組織であるが、有事には騎士団の指揮下に組み込まれ、ともに防衛などに当たる。コーバンにいるのは衛兵さんだ。
なお、騎士団と称しているが、全員が騎士ではない。騎士の称号は、侯爵から叙される名誉称号で、たとえば騎士団長のフレッドさんは子爵という貴族だが、ランカスター騎士の称号を持っている。騎士団150,000人のうち、騎士の称号を持つものは約200人。それ以外は兵士である。
貴族でない者が騎士の称号を得た場合は、貴族と同等の扱いを受ける。
馬に騎乗するか否かとも関係ない。元々、対人戦での高さの優位性は、サイズの大きな魔獣相手では発揮されない。
中世ヨーロッパの騎士とはかなり異なる。
また、ヨーロッパでは、騎士制度は廃れていったが、この世界では常に魔獣の脅威があるため、武力尊重のシステムは依然健在である。
王国では、国や他の領でも同様の騎士システムがあるが、ランカスター騎士の称号は、他に比較しても高い尊敬を受けているそうだ。
午前8時にエドの案内で城の裏側にあるという訓練場に行く。
城を出て訓練場に行く途中に兵舎があるのだが、これもう団地だね。
騎士や既婚の兵士は、城門をくぐったところの居住エリアに住んでいるそうだ。
そうか、日本で地方の城下町に行くと、よく堀に囲まれて広大なエリアがある。現在では、そこに県庁や学校、図書館、病院、博物館、体育館などの公共施設に、住宅地があったりする。このエリアがかつての城内、つまり藩主の城のエリアだ。今ここで見る広大なエリアは、現役の『城内』なんだな。
団地、もとい兵舎群を抜けると、これまた広大な敷地に出る。
これが訓練場、というより練兵場だな。
考えてみれば、数千人から万の訓練を行うのならこれくらいの敷地は当然必要になる。
見方を変えれば、自衛隊や軍の基地の中に城主のお城があると思えば、規模感が納得しやすくなるかな。
一般兵士の訓練は、部隊ごとに練兵場のあちこちで始まっていた。
今回遠征する魔獣討伐部隊は、領周辺と森の浅いエリアの魔獣の間引きなので、総員200名。
これが20人ずつの小隊10個に編成されている。
俺とエドは、第一小隊におまけとして参加だ。
第一小隊長は、カークさんだった。
カークさんの小隊は、帰領途中でスレイプニルの餌狩に同行させてもらったことがあるので、何人かは気心が知れており気が楽だ。
総隊長は、俺が初めてみる騎士の人だった。
各小隊ごとに分かれて、午前は一般訓練、午後は魔獣を想定した連携訓練を行う。
第一小隊で集合すると、カークさんが声をかけてきた。
「ユーキ、久しぶりだな。冒険者やってたんだって?」
「お久しぶりです。カーク隊長。冒険者と言っても、やってたのは街中だけです」
「討伐は行かなかったのか?」
「そろそろ討伐をと思ってたら、ちょうど今回の話しをいただいたので」
「そうか。まあ、お前らなら心配ない。頼りにしてるぞ」
「ご迷惑をかけないよう頑張ります」
お互い笑顔で握手する。
「それと、後で総隊長から話しがあると思うが、今回は遠征でのストレージ活用の実験をする」
「これまでストレージは利用していないんですか?」
「元々騎士団にストレージ持ちは少ないし、いても容量が自分の持ち物くらいなんだ。それに、ストレージ持ちがやられた場合、持たせておいた物資がおじゃんになる危険がある」
「確かにその危険はありますね」
「しかし、この前の帰領の際の団員たちの喜び具合に団長が興味を持ってな。風呂は入れる、食事は楽だ、結果疲労が少なく士気も維持できる。なので、今回はユーキに兵站をほとんど預けて、現地拠点でそれを出してもらう。結果がよければ領内外からストレージ持ちを探して、兵站専門部隊にする。その部隊は前線には出さない後方部隊だ」
「なるほど。人数がいれば、容量の問題もクリアできるかもしれませんね」
「まあ、実験結果を上がどう見るか次第だ。俺たちは、ありがたさを実感済みだがな」
「わかりました。お役に立てるよう頑張ります」
この世界で大きいストレージ持ちは、商会や運送屋に高給で雇われると聞く。ギルドでも、ストレージ持ちだと知ると、食いっぱぐれがないな、とからかわれた。
ストレージ持ちが戦闘能力を持っているとは限らないから、大体の人は安全な仕事を選ぶんだろう。その結果、騎士団にストレージ持ちは少なく、実戦での有用性の検討も蔑ろにされていた。兵站だけでなく、軍事物資の輸送にも有用なことは容易に想像できそうなんだけどな。そう言えば、ジェームス様もあまり詳しくなさそうだったな。結構珍しい能力なのか?
討伐訓練時の装備は実戦を想定したものだ。
フルプレートアーマーは着用しない。重量があるため、魔獣相手の場合動きが遅すぎて、防御力があっても素早い相手に攻撃しづらい。また、打撃力のある魔獣の場合、フルプレートアーマーごと潰されてしまい、身動きが取れなくなるらしい。
俺たちが支給されたのは、まずレッドスパイダーの糸で編んだ戦闘服。防刃性能に優れている。
鎧は亜竜の皮を使った革鎧、ガントレット、ショートブーツおよびヘルムと呼ばれる帽子。これらも防刃性能が高く、耐火性もあるとのこと。これらは黒に染められており、整列すると中々かっこいい。
それはともかく驚いたのは戦闘服が迷彩柄だったこと。
聞けばなんと聖女様が迷彩柄の戦闘服で戦っていたことから、この世界でも流行したとのこと。
ちょっと待ってほしい。
聖女様は、純白の聖女服や、純白のローブなどを纏い、聖なる杖を持って、聖なる魔術で魔獣を殲滅する儚げな美人じゃないんかい!
それが迷彩服で討伐だと?イメージ違いすぎるんですが。
俺の夢を返してほしい・・・。
この前も思ったけど、200年前の聖女様、絶対現代人だよね。
江戸時代の人じゃないわ。もう確定!
しかし、迷彩柄持ち込むなんて何者だよ。
こうして討伐訓練は始まったのだった。
午前中は通常通りの訓練メニューをこなし、午後から小隊ごとに連携訓練になった。
今回は各小隊に魔術部隊から魔術師が3人ずつ配属されている。
目の前で戦闘魔術を見るのは、考えてみると初めてだった。
基本的に魔術師は後衛で、後方から魔術を打ち込む。
したがって、戦闘中に味方に誤射すること、いわゆるフレンドリーファイヤーが魔術師との連携では最も問題となる。ブルーオンブルーとも言う。軍事演習で味方を青、敵を赤で表示することからきた用語だ。
混戦状態になると、魔術を打ち込むタイミングがなく、魔術師はただの傍観者になりかねない。そこで、魔術師は、魔術を打つ準備ができたら、打つまでの秒数を含めて大声を出す。
訓練では味方同士が複数で打ち合い混戦状況を作る。そこに、声がかかる。
「ファイヤボール3秒!3、2、1!」
俺たちはぎりぎりのタイミングでぱっと散会する。そこに複数の火の玉が着弾する。
爆発系の魔術の場合、後方に飛び退るとともに転がって爆発による飛翔物を避ける。
怖ぇよ。混戦地帯に手榴弾投げ込むようなもんだ!
このような訓練を繰り返し行い、各自の癖やタイミングのずれを修正していった。
防御陣形の訓練も行う。
大盾を持った隊員が声をかけると、すかさずその隊員の後方に全員が下がり、大楯で相手が止まった瞬間、攻撃担当が左右から攻撃する。
魔獣役の隊員が盾に向かって突進し、止まった瞬間、隊員の声で攻撃する。
攻撃役は、そのときそのときの位置取りで決まる。これを決めておかないと、全員が殺到して味方同士がぶつかったり、いわゆるお見合いをして誰も攻撃しないなどの事態が起きる。
現代型戦闘に慣れ、接近戦は個人戦を想定して訓練してきた俺には新鮮な訓練だった。
魔術による防御もある。
土魔術による土の壁が瞬時に出るとびっくりする。
高位の土魔術師になると、石の壁を出すとか。
また、風魔術で暴風を出し魔獣の進行を止める。試させてもらったら動けないどころか、飛ばされそうだった。
ウインドカッターを見せてほしいと頼んだら、なんだそれはと言われた。
風の刃を飛ばすと言ったら、どうやって風を刃にするんだ?と聞かれた。
どうやるんだ?なかったっけ、ウインドカッター。真空?カマイタチ?
俺が首を捻っていると、一人の魔術師が声をかけてきた。
「ユーキが言ってるのって、こんなイメージ?」
見えない何かが飛んで地面にザクっと切り傷が入る。
「おお、それそれ!」
「これ、風じゃなくて魔力を飛ばしてるんだよ。魔装の斬撃と一緒。スラッシュって言うやつ。剣を使うやつはソードスラッシュ」
なるほど、そうなのか。魔術師と呼ばれる魔術上級者は、剣を振らなくても斬撃を飛ばせるらしい。
土魔術で地面からいきなり尖った石が出てきたのも驚いた。ストーンスパイクと言うらしい。
レベルが低いと、石ではなく土になって、威力が落ちる。
数は少ないが金属の属性があれば、地面から鉄のスパイクが出せるそうだ。
魔獣も大抵は腹の方が防御力が弱いので、四足歩行の魔獣には有効な魔術らしい。
おっ、俺確か全属性に適性あるよ。魔力身体から出ないけど・・・
しかし、これから色々な魔術を見ておかないと、対人戦では地球の常識が邪魔して、不意をつかれかねない。今後は魔術部隊の訓練も見せてもらおう。




