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第20話 ギルドのお仕事

 このあとエドの案内で、ギルドの中を見学した。

 エドは、ランカスター家の家令見習いとして、侯爵家からギルドへの依頼の取次ぎをしたり、領政において各ギルドとの調整を行う会議などにも参加していたらしく、ギルドの内情に詳しい。

 その上、学院生時代に、小遣い稼ぎ兼鍛錬目的で冒険者登録をして、長期休暇の際はランカスターギルドで冒険者活動もしていたので、この点でもギルドの中に詳しかった。

 ちなみにエドのランクはCだ。


 ランカスターギルドの1階は、入り口を入ってすぐ右手の壁に、大きな伝言掲示板がある。

 ギルドから連絡がある冒険者の名前が書いてあったり、冒険者同士の連絡用にも使える。

 先ほど行った受付エリアは、いくつかの窓口に分かれている。

 シェリーさんがいたのは総合窓口で、新規登録のほか、他の窓口で扱わない案件の担当だそうだ。定型業務以外が多いため、有能な職員が担当するらしい。

 他は、依頼の受注窓口、依頼完了確認窓口、報酬の支払い窓口などだ。


 受付エリア以外では、冒険者のためのフリースペースが広い面積を占めている。入って左手のテーブルが多数設置されていた場所だ。冒険者はここで待ち合わせたり、受注した依頼の方針などを話し合ったり、ただ時間つぶしにたむろしたりする。

 奥に厨房があり、軽い飲食もできるし、酒も飲める。値段は安いので、金のない冒険者はここで三食を済ませるらしい。


 正面左奥にあった掲示板は、依頼ボードと呼ばれていて、現在有効な依頼が掲示されている。

 護衛、採取、討伐、街中業務など、仕事別にボードが分かれており、さらに指定または推奨ランクごとに依頼票が張り出されていた。


 依頼がなくても、討伐した魔獣の素材や魔石、採取した薬草、果実などはいつでも買い取ってもらえる。依頼料がないだけだ。

 ボア系、牛系、豚系、兎系の肉は、ランカスターでも相当な消費量なので、需要が多い。

 家具や防具に使える魔獣の皮も需要が尽きない。

 そもそもランカスターだけで20,000人を超える冒険者が所属している。

 この人数をまかなえるだけの依頼が常時あるはずがない。

 多くの冒険者は、こうした買い取りの収入で生活しているそうだ。


 受付の奥には、その買い取りカウンターがあり、外で見た解体所、保管倉庫と繋がっている。

 買い取りカウンターで査定を受けたら、査定書をもらい、受付の中の支払い窓口で支払いを受ける。


 2階の半分は、冒険者向けの武器、防具、道具、ポーションなどの薬品類を販売する店、本屋、飲食店などが入ったテナントエリアだった。冒険者に必要な基本的装備は大体ここで揃うとのこと。便利だね。

 また、残りの半分は、図書室、資料室、閲覧室およびいくつかの小会議室だ。

 魔獣関連や、薬草などの薬品素材関連の図書は特に充実しているらしい。


 3階、4階は、ギルドの事務スペースで、会議室も大小いくつかある。

 随時行われる新人教育や個別テーマ教育などの座学もこの会議室を使う。

 Cランク以上の冒険者は、空きがあれ無料で会議室を借りることができる。秘密保持の必要がある依頼の打ち合わせはここで行うこともできる。

 ギルドマスターと呼ばれるギルド長やギルド幹部は、三階に個室があるそうだ。

 五階は、宿泊施設になっているそうだ。他のギルドからの出張者や、遠方からの依頼者など、割と需要は多いらしい。他のギルド所属のA、Bランク冒険者も宿泊可能だそうだ。


 トイレは各階にあるが、例によって魔石水洗だ。

 くそ、そのうち電気製品発明して、この世界に産業革命起こしたろか!


 屋外には訓練場の他、馬車の駐車場、厩舎、従魔舎もある。

 従魔!まだ見たことないけど憧れるね。

 保管倉庫では、朝と夕方にセリも行われているそうだ。


 冒険者ギルドは、まさに冒険者向けの総合庁舎だった。

 ただエドの言によれば、ここまでのギルドは他の領にはないとのこと。

 小さな町や村のギルドだと、数人の職員で運営しているらしい。

 ここが普通だと思うなよ、とエドに忠告された。


 冒険者ギルドの見学を終えた俺たちは、ぶらぶらと周辺のエリアを見て歩いた。

 本当に冒険者に特化したエリアだった。

 高級感はないが、雑駁さがなんだか楽しい。

 娼館を含めた風俗街もあった。

 この辺の娼館はお勧めしない、行きたいならもう少し高級なところを紹介するよ、とエドに言われた。

 ありがたいけど、俺、今のところ金ないよ。


「それで、ユーキ、冒険者の活動は本当にやるのか?」

「そうだな、しばらくは街中の雑用を中心にやってみる。それで、ランカスターの街にも暮らしにも詳しくなりそうだから」

「なるほどね。もし討伐に行くときは言ってくれ。俺も付き合うから」

「ありがとう。心強いよ」


 それから馬喰で馬を引き取り、商業地区のスイーツ店でケイトさんにお土産のケーキを買って帰った。帰宅がお城に入るというのは違和感がすごいよね。慣れるのか?


 翌日から、俺は朝からギルドに行き、街中でやれる雑務を片っ端から受けてまわった。


 街のあちこちにある公園の清掃、石畳の道路や運河にかかる橋の補修、外壁の補修など、公共工事関係がそこそこある。日本では、市区町村などが下請けに外注している業務だが、ここではその一部を冒険者が担っているということか。


 手紙や小口の品物の配送もよくある仕事だった。小口の郵便や宅急便事業はまだないようだ。

 運送ギルドに入っている運送業者は、国内の遠距離輸送や、領内の大口の定期輸送、また伐採された木材や採掘された石材、鉱物の運搬など、ある程度規模のある運送を行っている。


 商会関係では商品の蔵出しや庫入れの手伝いもあった。

 商会では通常業務に必要な人員だけを正規雇用し、繁忙期や臨時で人手がいる場合は、冒険者ギルドを利用していた。ピーク時を基準に雇用すると、固定費がかさむからだ。


 個人からの依頼も意外にある。

 富裕層の家で倉庫整理をしたり、老夫婦の家で庭の草取りや手入れなどもした。

 個人の依頼の際は、休憩時間にお茶とお菓子が出ることもある。

 迷子になったペットの猫探しもした。

 俺の上達した気配察知で行けると思っていたら甘かった。猫の行動範囲と想定されるエリアを歩き回ったが、全然見つからない。初の依頼失敗かとがっかりして、依頼者の家に報告に行こうとしたら、その家の屋根から猫が出てきた。始めから家にいたのかもと思い、依頼者にもその旨報告したが、ちゃんと依頼達成にしてもらえた。ホッとすると同時に、二度とペット捜索は受けないと決意した。


 猫は街中に結構いる。ネズミ駆除の役に立っているので、住民も可愛がっている。


 農作業の手伝いの依頼も多い。乳牛の乳搾りもやった。お土産にチーズをもらった。


 こうして一か月もすると、領都レグルスの街にも相当詳しくなったし、領の経済の回り方もよくわかってきた。美味い店や屋台、朝市の場所も覚えたし、顔見知りも増えた。

 そして、冒険者ギルドが、冒険者という言葉のニュアンスに反して、街の経済や生活に密接に関わっており、むしろ欠かせない存在だということがわかった。


 ギルドでも、毎日、俺が街中業務をやっていても馬鹿にされることはほとんどなかった。まあ、一部の馬鹿はどこにでもいるが。

 戦闘に自信がない人や高齢者、あるいは新人、見習い冒険者たちは街中業務を受けているので、知り合いも増えた。

 ギルドランクもDに上がり、ギルド証の表記を変更してもらった。

 俺の仕事は丁寧で完璧だということで感謝もされた。


 さてこの間の稼ぎはというと、平均して1日銀貨10枚。


 この国の通貨は、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨があり、日本円でいうとそれぞれ10円、100円、1,000円、金貨は価値が上がり100,000円という感覚だ。

 間を埋めるのに大銅貨500円、大銀貨10,000円、大金貨500,000円がある。

 白金貨もあるらしいが、ほとんど目にすることなく、価値も良くわからない。

 金貨、銀貨、銅貨の価値は、含有量やグラム数が分からないので不正確だが、日本よりはやや安い気がする。


 問題は俺の稼ぎだった。

 1日銀貨10枚なので、大体10,000円というところ。

 安宿に泊まって贅沢しなければ十分食べていけるかな。老後は心配だけど。


 もっとも、俺の目的は街中業務で食べていくことではない。ランカスターを知ることだ。 

 そして、ランカスターの街のことは大体わかった。

 次は外の世界だ。


 今後は討伐や護衛をやるつもりなんだ、とケイトさんに話したら、

「ユーキ様は本気で冒険者になるおつもりなんですか?」

 と悲しい顔をされた。

 あれ、ダメだった?今のところ俺は単なる居候だし。

 ケイトさんは俺に何期待してんだ?


 そんな葛藤する俺に、騎士団長のフレッドさんから渡りに船の話しが舞い込んだ。

 騎士団では、毎年夏になる前に一か月ほどかけて、領内の各地に出向いて魔獣の間引きをやるので、俺も参加しないかとのことだった。


 はい、喜んで!


 ちなみに、この一か月、マナー学習に一度も参加せず、ピアノも弾きに行かず、絵も提出しなかったので、各教師に怒られた。

 またしばらくやりません。すみません。 



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